第2号 パートナー証明にもなる任意後見契約 〜「もしも」に備える 同性カップル編②

前回はこれからいろんなところで出てくる「公正証書」についてご説明しました。今回は本題の「任意後見契約」についてお話してみましょう。

同性婚特集⑤のまいみさん&みほさんカップルは、この契約書を作っているということでした。私は同性カップル間でこの契約をおたがいに交わすことは、同性婚制度がない現状で、大切かつ有効ではないかと思っています。

ざっくり言うと、後見契約というのは、本人が認知症などで判断能力が低下したとき(そんな超高齢でなくても、事故や重病で植物状態、っていう場合もあります)などに備えるものです。

同時に、たとえそんな状態にならなくても、この契約はお二人のパートナー関係を法的・公的に証明する(養子縁組を除いて現在、唯一の)方法という面もあるのではないか、ということです。

●レディーメイドの法定後見、オーダーメイドの任意後見

はじめにちょっとお固い話。

現代社会では、成人には「行為能力」というものがある、ということになっています。行為能力とは、法律行為(契約などがその典型)を行なうことができるという能力です。行為能力者が行なった法律行為は、相手に非があるなどの事情がないかぎり、勝手に取り消したりできないのが鉄則。勝手にポンポン取り消されては、社会の根幹である「取引の安全」が維持できないからです。

わかります? まあ、社会のフィールド上ではみんなプレイヤーとしておなじ権利をもっていて、勝手なことはできませんよ、というルールです。

しかし、認知症などで判断能力が低下したなど特別の事情がある人はどうしましょう? そのときはだれかキーパーソンがついて、その人をサポートして金銭管理や契約を代理してあげたり、本人がわからないでしたこと(不要なフトンや浄水器買ったり、不要なシロアリ駆除を契約したり。苦笑)も、相手にはガマンしてもらってキーパーソンがかわりに解約できる、という特別扱いルールをつくることにしました。

では、こうした特別扱いルールの適用は、だれが判断するのか?

家庭裁判所に申し立ててその事情を認定してもらい、同時に法律的な権利のあるキーパーソンを指定してもらうのです。この制度を成年後見制度といい、キーパーソンのことを成年後見人というわけです。

*ちなみに未成年は、はじめからこの特別扱いルールが適用され、親権者(未成年後見人)がそのキーパーソンとなります。はじめに「成人には」と書いたのはその意味です。

この制度は、本人の判断能力が低下したあと、事後的に申し立てを行ない、後見人を決めてもらう制度で、後見人は裁判所が職権で決めますし(候補は出せますが)、後見人ができることも法律であらかじめ決まっています。つまり、裁判所の判断によっては、本当は本人が望んでいない人が後見人になったり、後見人の権限も本人の今後をサポートするには内容が不十分または余分すぎて、本人をうまく守れないかも、という場合もあるわけです。

それで、自分が認知症になったりするまえに、あらかじめ自分で自分の代理人を指定し、その代理権の中身も自分で決めておける制度も作りました。それが「任意後見」です。いわばオーダーメイドの制度ですね(これに対し、あらかじめ法律で決まっているレディーメイドの制度を「法定後見」といいます)。

この任意後見を、カップル同士でおたがいに委任者/受任者になってやりましょう、というわけなのです。

●万一時、自分の財産管理を任せる人との契約、そして登記

任意後見は、本人の判断能力があるうちに、自分が後見人になってほしいと思う人と契約します。もちろん、パートナーと契約してかまいません。

契約のさいに、自分の判断能力が低下したときにどんな代理権を与えるのか、代理でやってもらう場合、報酬は払うのか、払うならいくらか、などを取り決めます。パートナー間なので、無報酬でかまいません。

代理権の中身は、おもに財産や契約にかんすること。自分名義の預金口座の管理や解約、不動産等の処分権、あるいはボケちゃった自分のかわりに医療機関や介護施設への入所、介護サービスの契約をする、などなどです。

ちなみに、こうした財産に関することは夫婦や親子であっても、いまは「夫婦だから」「家族だから」では勝手にやれません。銀行の窓口などでもかならず「本人確認を」と言われます。本人はいま認知症で……となれば、「法律的に権限のある後見人を(裁判所に申し立てて)つけてもらってください」と言われます。いまはそういう時代です(親の介護で起こりそう)。

任意後見は、それを自分であらかじめ指定しておこうというわけです。

この契約はあくまで「将来の万一に備えて」のもので、契約をしただけでは有効ではありません。

本人の判断能力が実際に低下し、いよいよこの契約を使わなければならないとなったときに、家庭裁判所に任意後見人を監督する人(任意後見監督人)の選任を申立て、それが選任されたときから有効になります(任意後見監督人は裁判所が指名し、弁護士などがなるようです。お目付役というより、基本的にシロウトである後見人にとってのプロの相談役と思えばよいでしょう)。

ですからこの契約は、最終的に使わないですめばそのほうがよかったね、という契約でもあります。

任意後見契約は公正証書ですることに法律で決まっており(任意後見契約に関する法律3条)、契約をしたことは登記といって、東京法務局に登録され、二人のあいだに任意後見契約があることを、登記事項証明書で証明することができます(日本中どこで行なった任意後見契約でも、すべて東京法務局へ登記されます)。

任意後見契約にかかる費用は、公正証書の作成料が11,000円と謄本の紙代、そして東京法務局への登記手数料などをあわせて約2万円です(行政書士などの専門家に相談・媒介してもらった場合には、べつに報酬が必要です)。

さあ、これでカップルお二人のうち、どちらかが認知症などになっても、パートナーが相手の正式な代理人として財産管理などを行なうことができます。

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公正証書でパートナーに与えられた財産管理等の代理権の一覧。こうしてきちんと任意後見契約を作っておくことで、万一時も安心できる対応がとれます。

●二人のパートナーシップを、登記で公的に証明する

しかし、万一に備えてとはいえ、なぜ使うかどうかもわからない契約を、手間とお金をかけて作成しておくのでしょうか。しかも認知症なんて、70代とか80代からでいいのでは……。

それは現在、日本では同性パートナーシップを法的に証明する方法がないなか、この任意後見契約は有力なツールとなると思われるからです。

つまり、この契約が発効するまえでも(くり返しますが、発効しないですむほうがいい)、本人と任意後見人になる予定の人(パートナー)とのあいだには、こうした法律にもとづく関係があることを、登記証明書などを使って第三者にも示すことができるからです。

私の事務所で任意後見契約を作成したゲイカップルさんがいます。証書を作成後、これはホント偶然なのですが(でも、「万一」ってそういうこと)、おひとりが急な発病で入院・手術することになりました。あとでつぎのようなご報告をくださいました。

 「急きょ、手術&入院ということになりましたが、手術に関する同意書は自分とパートナーのサインで対応ができました。

その後、入院に関する一連の確認事項に一人で答えましたが、彼がパートナーであり同時に後見人でもあることを伝えました。病院には、「万が一の判断はご親族が望ましい」とも言われましたが、後見人契約もしていることを伝え納得してもらいました。

術後の夕方、彼が面会に来て医師から直接二人で説明をうけました。「このかたは?」と聞かれたときも、「パートナーです」と答え、普通に二人で説明を受けました。

任意後見契約を結んでいたことで、不安もなく対応することができ、大変心強かったです。入院も手術も生まれて初めての経験でしたが、今後も何とかなりそうな自信がつきました。」

われわれセクマイは、たとえ財産や社会的な地位があっても、親族や社会に秘密にせざるをえなかったり、法的裏付けのない不安を抱えて生活しています。それはこの社会が変わっていかなければならないことであって、ご本人、われわれセクマイ自身には、なんの責任もないことです。

そして、そんな社会にあっても過渡期の悲しさ、現に困ることが生じます。しかし、こうして書面を作ることで「今後も何とかなりそうな自信がつきました」と、このゲイの人は言ってくださった。私は書面の作成にかかわったものとして、こんな嬉しいことはありませんでした。

書面は、なにもなければ使わないで終わるものですが(そのほうが望ましい)、こうしてマイノリティに社会的な自信を与えることもできるのだ、と法律家としても実感した経験でした。

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任意後見契約の登記事項証明書。パートナーどうしがおたがい万一時の後見人になることが、証明書によって示されています。

※本文中に言う「ゲイ」は男性同性愛者に限定せず、性的マイノリティ全体を意図して用います。マイノリティ内部の差異を無化する点でご批判はあえて甘受しますが、あらかじめ読者のご寛恕をお願い申し上げます。それぞれのアイデンティティや情況に応じて、適宜ご参考になさってください。

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