第25回 総勢50名のホモがすっぱ抜かれた。これが、芸能界男色相姦図!『週刊大衆』(ただし、1975年版)

人間とは、元来、品性卑しい生き物である。誰しも、ひとを貶めたり、蔑みたいという欲望を持ち合わせているものだ。目くそ鼻くその違いをあげつらって、悦にいる。悲しいかな、それが人間の本性である。そうした大衆の「安心して差別したい」という欲望を吸収する役割を担わされていたのが、芸能人(界)だったりしたわけだ。おかげで、芸能人(界)はいつもスキャンダルを演出し続けなくてはならないのである。スキャンダルはその落差が大きければ大きいほど、大衆は熱狂する。輝ければ、その名の通りのスター。けれど、墜ちれば泥。ハイリスク・ハイリターンの商売である。

かくいう私も下品な人間なので、スキャンダルや噂話の類が大好物である。口さがないオカマが集まる楽屋での化粧中の無駄話与太話は、たいがいが噂話である。やれ、誰それと誰それのカップルが別れそうだの。ゴーゴーの何某に新しいパトロンができたの……。この程度の話題は、可愛いもんである。◎◎の筋肉はステロイド製だ、とか。△△はウリをやって生活している、とか。おしゃべり好きのオカマが、尾ひれ背びれをてんこ盛りにつけて話すものだから、真偽のほどは定かではなくなってくる。挙げ句、××は手癖が悪い、だの。■■は“心の旅”に出ている、だの。□□は“修学旅行中”、だの。もはや、その噂が事実かどうかよりも、どれだけ面白い話かどうかが重要になってくる。私がこれまでに聞いた噂話でもっとも傑作なのは、とあるイベントの楽屋で老女装が気に入らない若手女装にハイヒールを投げつけた、というもの……って、その老女装って、アタシじゃん!! この話、15年も昔のことなのにいまだに噂話となって語り継がれているのが驚きである。このままいけば、神話になるかもしれないな(笑)。

 

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さて、今回、紹介するのは、1958年に創刊され、いまだに刊行を続けている雑誌東郷健が参議院議員選挙に出馬するなど、ホモの可視化が急激に進んだ。それを受けて、ホモは話題のイシューとなった。そこに目をつけた編集企画だったのだろう。

次に驚くのが、タイトルの「芸能界男色相姦図」である。「男色」である。ホモでも、ゲイでもない。ましてやLGBTなんぞでもない。「男色」なのだ。いま「男色」といえば、江戸時代の風俗風習をイメージする。せいぜい明治〜大正時代までだ。「男色」は、戦前の言葉という認識があろう。しかし、わずか40年前、1975年までは普通に、当たり前に使われていた呼称であったのだ。日本における同性愛(者)の呼称の歴史と変遷について、きちんと研究したものがあるだろうか。これは、その貴重な資料となるかもしれない。

 

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ページをめくれば、見開き2ページにまたがってデカデカと、「アッと驚くおホモだち総勢50人! これが〈1975年現在〉芸能界男色相姦図のすべてだ!!」。これが正式なタイトルのようだ。さらに「重点取材」「特別企画①」の文字が躍る。編集部がどれほど力を入れていたかが伝わってくる。

噂には聞く有名人の“優雅”なホモ人脈が、ついに出来上がった! 総勢五十人がくりひろげる文明国の象徴(?)はかくのごとしだが、あえて差しさわりがあるご仁もいるのではないかとイニシアルにした。ご不満なムキは名のり出てくれれば、さらにその事実をうかがいますわァ。(リード文より)

ということで、本文ではイニシアル化されているが、歌謡界、映画・演劇界、テレビ界のホモ人脈が暴露されている。面白いのは、「ホモ御三家」と「ホモ五摂家」としてキーとなる人物を挙げ、彼らを中心に相姦図を描いているところである。そもそもホモ御三家とホモ五摂家はどう違うのか?とツッコミたいところだが、先に進めれば、その「ホモ御三家」とは……

 T氏は無名時代、野たれ死んだ元ドラマーのSに面倒をみてもらっていた。Sは某グラマー女優と別れた男で、坊ちゃん育ちの浪費家であった。
そんな男に仕込まれて、T氏はいまや押しも押されもしない“ホモ御三家”の一人。
“ホモ御三家”のほかの二人は、音楽界でその人ありと知られたK氏で、この人については昔からもう半ば公然の秘密。
もう一人は日本の工学界の大物。研究室のお弟子さんをつぎからつぎと食べちまったというから、「その人の業績と下半身はべつ」であるらしい。

私でさえ解らないことばかりなのに、いまの若い人にはほとんど暗号だ(笑)。とはいえ、わかりやすいところでは、「音楽界でその人ありと知られたK氏」はフランク永井か? とすれば、Iは、藤山一郎で、「天下の美女」は木下恵介梅宮辰夫だろう。一方、「バンドリーダー U」とは誰か? 小坂一也だろう。とすれば、原因不明の離婚の相手とは、鶴田浩二がYだ。イニシアルもK・Tである。

彼の師匠筋にあたる“永遠の二枚目”のXは、高田美和だから、本文も間違ってはいない。もちろん彼もイニシアル、K・Tだ。

さて、最後のZは誰か? これは、いまの若い人もかならずや知っている大御所俳優。ホモ疑惑がついてまわる彼こそは、江利チエミとなる。

 

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「故・S」と書かれているのが、「野たれ死んだ元ドラマーのS」。「デザイナー I」は、石津謙介か?

古賀政男、木下恵介、高倉健……と、いわずもがなの面々ばかりで面白みもないが、この記事にはところどころ興味深いところがある。「青山、六本木などのマンションの一室に、電話一本ひいて“お客”からの連絡を待っている“マスラオ派出夫会”である」といった記述である。出張ウリ専か、いまで云うデリヘルか。ちなみに「お手合わせ料は一人一回一万円から」とのことだ。

イニシアルにはなっていないが、「別れる女房から『あんたホモやったんやないの』と公表されながら、社会的にも失脚せず、選挙にもうって出られた」とは、栗原玲児のことか。今は、カリスマ料理研究家の中曽根元首相を想像したが、この雑誌が出た時点ではまだ総理大臣に就任していないので、別の元首相の誰かだ。月額十万とか、六人とか、妙に具体的な数字がリアリティを感じさせる(笑)。こんな記述もあった。

Sも無名時代は、男性ファッションの草分けI氏のお稚児さんだった。月二回で十五万円のお手当だったとか。I氏の息子I’も、オヤジに習っての同好の士。

このSは、先述の「野たれ死んだ元ドラマーのS」で、石津謙介か? ならば、息子は三島由紀夫のことで、これだけじゃ、なにも面白くもないが……

「ボンジュール、マドモアゼル」なんて外国語を自在に操って人気のあるFが、鶯谷の旅館『N』でホモ乱交パーティに参加していた。うす暗い中、ふと肌のあった相手をよくよく見たら、その大先生で大いに恐縮したとか。

Fは、『ひょっこりひょうたん島』のドン・ガバチョの声でお馴染みの、俳優 深江章喜にゲイボーイと恋愛していたことを語らせている。

 

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俳優

深江 大恋愛なんてないんだ。男とならあるけど……。
内田 えっ? オトコ?
深江 そうだよ。いまの女房と一緒になる前に、ケニーってコと半年間同棲していたんだよ。
(略)
深江 話術はたくみだし、面白いもんだなアと思ったのが導入部だね。そのうち、麻薬と同じで、だんだんおかされてくるわけ(笑)。
(略)
深江 それが高じてくると、朝、目を覚ませば、お茶を運んでくる、新聞もってくる。風呂に入いれば、背中流しにくるだろう。いいもんだよ(笑)。
(略)
深江 人間誰しも、ホモっ気があって、それを理性でおさえてるだけなんだって、誰かが言ってるけどね。オレは探求心が強いからねエ(笑)。

さらにさらに、北山竜のマンガ『パーフェクト野郎 〜 ヒキョウなまねしないもん』では、雨宿りさせた美女が、出勤途中のゲイボーイだったというオチ。まるごと一冊、ホモ特集みたいな号である。

 

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『週刊大衆』1975年07月24日号(双葉社/1975年 発行)

そもそも人のセックスについてあれこれ詮索するなど、あまり品の良い行為ではない。だけど、品がないからこそ面白かったりもするのだ。誰がホモか、ホモじゃないか? これは、雑誌からインターネットに場を移して、いまだに続くスキャンダルだ。その内、ホモが当たり前の世の中になれば、そんなことが話題にさえならなくなるかも知れない。けれど、かつて、噂話にかこつけて、イニシアルでしか語りえぬ男同士の愛の世界があったことを忘れてしまってはいけないと思うのである。

さて、「火のないところに煙は立たぬ」のことわざがあるように、火種というものがなにかしらある。先のハイヒール事件の裏には、実は、2000年から開催されていた「東京レズビアン&ゲイパレード」にまつわる不明瞭で、不可解で、不愉快な出来事が発端となっているのだ。登場人物は、S、F、Ο、M、Y、G、U……。ま、この噂話の真相は、またいずれ。皆さんは、秋の夜長をイニシアルの謎解きで過ごすのも一興かと(笑)。

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