第65回 性同一性障害の受刑者に、ホルモン療法は認められるべき?神いっき被告のためのWEB署名提出へ

 

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まきむらよ。

毎週月曜、こちらの連載「まきむぅの虹色ニュースサテライト」をお送りしております。

今回のテーマは、

性同一性障害の受刑者に、ホルモン療法は認められるべき?

です。

★ 日本で性同一性障害とされる人が刑務所に入ったら、どういう扱いを受けるの?
★ 神いっき氏のためにWEB署名提出、チェルシー・マニング氏は国を提訴へ
★ 性同一性障害のホルモン療法を中断すると、健康被害はみられるの?
★ ホルモン療法中止で起こったこと ~Ms.Tの場合~

以上の流れでお送りします!

※注……本稿では、現代日本でつけられる診断名としての性同一性障害、およびそれに対して医療の場で行われるホルモン療法との呼称を一貫して使用します。

これはあくまでも、2011年に法務省矯成第3212号として出された「性同一性障害等を有する非収容者の処遇指針について(通知)」という通達書にならった表記であり、病識を持たない当事者のアイデンティティを否定するためのものではないことを最初に申し上げておきます。なにとぞご了承ください。

★ 日本で性同一性障害とされる人が刑務所に入ったら、どういう扱いを受けるの?

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写真:本人のものとされるfacebookアカウントより

自称“声優のアイコ”こと、神いっき被告
もしも刑務所に入ることになったら、男子刑務所に入れられると思いますか? それとも女子刑務所に入れられると思いますか?

実は、女子刑務所に入れられ、ホルモン療法が中断される可能性が高いのです。
2011年に法務省から出された通達によれば、

・受刑者は戸籍上の性別にしたがって扱うこと
・受刑者へのホルモン療法は基本的に認めないこと
・受刑者に性同一性障害の診断を受けさせることは国の責任の範囲外とすること

などが求められています(詳しくは:神いっきさんが自分の望む性別で適切に扱われることを求めます」という署名運動が起こりました。

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署名が求めているのは以下の4ヶ条です。

・取り調べ中、また勾留中の生活全般において、性別の扱いについて本人の意向を最大限尊重すること。
・事件と直接関係のない性の問題に言及するなど、ハラスメント行為がないよう厳重に注意すること。
・医療を保障し、ホルモン摂取や精神科の服薬等、本人の希望にしたがって継続できるようにすること。
・妊娠の事実に対し、中絶と出産の選択、その方法等について本人の意向にしたがうこと。また、そのための適切な処置を受けられるようにすること。

(署名ページより引用)

神いっき被告本人がどのような扱いを望んでいるかは、本人にしかわかりません。ただ、とにかくその意向を無視して戸籍上の性別だけで扱うことのないように――と署名は求めています。

署名は2014年9月21日時点で約250名の賛同を集め、一度関係各所へ郵送されました。(現在も署名は受付中です。関心のある方はCNN)。

このような扱いが、人権尊重の観点から必要な措置と考えるのか、それとも受刑者の扱いにおいて不公平と考えるのかはいまだ議論が続いています。

日本の法務省の立場としては、受刑者にホルモン療法を認めなかったとしても「収容生活上直ちに回復困難な障害が生じるものと考えられない」としています。ただしこの立場には批判も多く、一部ホルモン療法が認められている受刑者もいるもようです(参考:写真:PAKUTASO
結論から言えば、「まだ研究中のことも多いものの、心身に変調をきたす例は報告されている」です。

受刑者に限らず、ホルモン療法を突然かつ長期的に中止した場合は以下のような危険性があります。

※注……ご自身の健康状態については、記事をうのみにせずご自身で医療機関にご相談ください。以下にご紹介するのはあくまで、医療の専門家ではない筆者が、各種資料をまとめたリストです。

1.頭痛・不眠・疲労感など、更年期障害に似た症状が現れる
ホルモン療法を中止すると性ホルモンが欠乏するため、いわゆる更年期障害に似た症状が現れます。これはMtFでもFtMでも同様です。

2.骨粗しょう症を招く可能性がある
更年期障害に関連し、骨粗しょう症を招く危険も指摘されています。性ホルモンが骨の成分の流出を防ぎ、骨を守る役割をはたしているためです。

3.月経が再開する可能性がある
子宮・卵巣摘出手術を行っていない、いわゆる「未オペ」のFtMの場合は、ホルモン療法を中止することで月経が再開する可能性があります。月経に強い嫌悪感を持つFtMにとっては、希死念慮につながるほどの大きな心理的負担を強いることになりえます。

4.精神に変調をきたす
ホルモン療法を中止したことにより、自律神経に影響を及ぼす可能性があります。また、体つき・におい・肌の質感などが変化していき、いわば「自分が自分ではなくなっていく感覚」から精神に変調をきたす危険性があります。

(参考資料:Medscape, 写真:PAKUTASO
※イメージ写真です。ご本人ではありません

注意※以下、身体的虐待に関する記述を含みます。読みたくない方は花の写真のところまで読み飛ばしてください。

Ms.Tは、アメリカに住む38歳。まじめで魅力的な、明るい人物だという評判です。

しかしながらMs.Tには、主治医に言えずにいることがありました――彼女がMtFトランスジェンダーである、ということです。彼女はMtFであることを医師に言えなかったばかりか、「定期的な月経があります」という虚偽の報告までするほどでした。

ある日、Ms.Tは両親に連れられて病院へやってきました。両親によれば、Ms.Tは「気が変になってしまったのかもしれない。話を聞いていないし、返事もしてくれない」というのです。恐らく女性ホルモンをやめたせいではないか、と両親は訴えました。Ms.TがMtFトランスジェンダーであるということは、この時はじめて両親によって医師に明かされたのです。

両親によれば、Ms.Tにはこんな過去がありました。

彼女はベトナムで男の子として生まれ、男の子として育てられました。しかし、Ms.Tは自分を女の子だと感じていました。9歳を過ぎたころから、女の子の服装や女の子の遊びをしたがるようになります。それを見た親類は、彼女を繰り返し殴りつけたり、ベッドに縛り付けたりといった虐待を加えるようになりました。

そんな中、14歳になったMs.Tは、ストリートで女性ホルモンを買って摂取しはじめました。この(自己判断による)女性ホルモン摂取は、Ms.Tが20歳でアメリカのサンフランシスコに移住するまで続きました。

Ms.Tはアメリカ社会によくなじみました。ホテルで働き、男性とデートをすることもあったそうです。女性ホルモンについても、友人や“メキシコ系の薬局”から簡単に手に入れることができたといいます。またベトナムに残してきた親類と違い、アメリカで共に暮らす家族は彼女を女性として扱ってくれました。家族はこう語っています。「女性ホルモンがMs.Tを幸せにした」

しかし、ある日のこと。Ms.Tは、家族と共にサンフランシスコから引っ越しをします。残念なことに新しい街では、女性ホルモンがとても高額でした。Ms.Tは恋人の男性に金銭的サポートを受け、女性ホルモンの摂取を続けましたが、やがて恋人と別れることになり、女性ホルモンを買うことができなくなってしまいました

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写真:PAKUTASO

ご紹介したケースは、あくまでこのMs.Tという方の場合です。「性別移行をする人はみんなこうなんですよ」と一概に言い切ることはできませんし、またMs.Tの症状を「ホルモン療法の中断だけが原因だ」と断言することもできません。

しかしながら、虐待を受けてもなお、ストリートで売られる女性ホルモンに14歳で手を出してまで女の子として生きようとした姿や、一時は介護を必要とするまでになった症状が服薬と女性ホルモンで回復しているという事実は、ホルモン療法が心と体にとってどれだけ切実に欠かせないものなのかということを反映しているのではないでしょうか。

受刑者がホルモン療法の継続を認められ、本人の性自認通りに扱われることについて、「性同一性障害だけ特別扱いするのか」「犯罪者のわがままを聞くな」などといった批判も聞かれます。しかし、他人が受刑者を「わがまま」扱いしようがしまいが、受刑者のホルモン療法中止が心と体におよぼす悪影響は何ら変わりません。今後の法務省の見解がどうなっていくのか、注意して見ていきたいものです。

ということで、今週も読んでくださってありがとうございました! また来週月曜日にね。まきむぅでした◎

 

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