第4号 45歳ゲイ、いちど「素」に戻って見えた自分 ~「90年代世代の同窓会」①

「老後の新聞」第4週は、1960年代生まれ~1990年代のゲイリブのうねりのなかでモノゴコロつき、いま中年期からのゲイライフを模索する私と同世代の人々に、そのリアルな思いを聞いてみようという、「90年代世代の同窓会」をお送りします。LGBTのポータルサイトやニュースサイトでおなじみの、キラキラ、ステキに輝いているアイコン系ストーリーじゃないかもしれないけど、この日本のウエットな土壌で性的マイノリティのプライドを胸に精一杯生きる、もうひとりのアナタの姿を感じ取っていただけたらと思っています。

●ハードな仕事環境で、ウツから退職へ。背後には思春期以来の同性愛の問題もあるかも

Hさんは1969年生まれ、今年45歳のゲイ。数年来、年下のパートナーと同居しています。現在、大手企業で働くHさんは、2年前、今とは別の会社に在職中、ウツを発病し、昨年、退職しました。

「そこは社長がワンマンでやり手の会社。待遇こそいいけど仕事は多く、社員の定着率がよくない。結果、平社員と社長の中間がいなくて、社長のプレッシャーを平社員がもろ受けて辞める悪循環。辞める人は1か月で辞めるんですが、自分は少しがんばっちゃう体質で……」

仕事だけでなく、セクシュアリティから来る圧迫も感じていたようです。

「オラ、仕事置け、飲みに行くぞ、みたいな社長飲み会がけっこうあり、もちろん社長の独演会で、そこでなんで結婚しないんだって詰められたり。社長は風俗を強制するとかはなかったんだけど、自身の女好きをあえて言うような人で、酒席は当然、居心地悪い。あと、自宅へ社員を家族ごと招くこともしばしばで、40代越えて結婚してないで一人で行く僕はいいカモですよ」

仕事きついは居心地悪いはのなかで、いよいよ仕事に変調も出てきます。

「仕事がいくつも重なると混乱してミスが起こりはじめ、不安で寝られなくなるんですね。この仕事がちゃんと終わるんだろうか、って。夜中まで仕事して自宅へ少し寝に帰っても、寝つきこそいいけど3、4時ごろ目が覚めてもう寝られない。業務は一つの計算ミスも許されないなかで、やっぱりミスするんです。そうすると社長はそれまでの努力は見ずに間違いを責めたて、僕も罪悪感で自分を責めてしまう。会社の閉じた世界のなかで、きついけど社長について行かなくちゃダメだと思いこんでいて……」

医者にはじめてかかったのは、そういう事態が3年も続いたおととしの秋。

「パートナーが、会社行くまえ無表情でボーとしてる僕をおかしいと気づいた。帰宅後、彼に当たることも多かったし。心配した彼が精神科や心療内科への受診を勧めてくれて、自分もいまの状態を少しでも和らげられるならって、すがるような思いでした」

「初診時に、医師には自分がゲイだということも全部話した。会社のプレッシャーもあるけど、もう少し広く見ると今の状態は、思春期以来、自分がなにかを隠しつづけて生きてきたその重圧感、自責感もあるんじゃないか、と。30代はごまかして生きてこられたけど、40代はごまかすのもメンドくさくなったし、逆に世の中も許容してくれなくなった気がする。追い込まれ感がある、と話しました」

医師はゲイであることにはとくに触れませんでしたが、薬で様子を見ることとカウンセリングの併用を勧め、しかし情況はあまり改善せず、昨年春、ついに休職。会社への不信感も重なることがあり6月にそのまま退職しました。自己都合退職でもウツが理由の場合すぐに失業手当てがもらえ、多くはなかったがそれまでの預貯金とあわせて、半年はなんとかなると思ったからだそうです。

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●リワーク施設で知った「弱さを話してもいい」。ゲイであることを考え直す出来事が立て続いた

休職最初の1か月、Hさんは図書館でウツの本を読みあさりました。服薬以外にも対人療法、認知行動療法などワークショップ的な療法やそのための施設(リワーク施設)があることを知り、それを探しはじめます。最初の施設は合わなかったものの、二つ目の施設はプログラムがしっかりしていて、「妙な活気にあふれていた(笑)。このぐらい刺激があったほうがいいかな、と」。

リワーク施設でのプログラムには、PCスキルの上達や仕事モチベーションの回復に役立つもの、自分のこれまでを振り返るもの、夕方落ち込んだときの解消法をみんなで考えるワークなどなど。「自分の弱さを話し、そう感じるのは自分だけじゃない、でもみんなもこう乗り越えているというのを貰えると、安心したり少し力がわいてきた。本やネットの知識でなく、それを自分とおなじ境遇の生身の人間から聞くことで、まさにピアサポートの意味があったと思う」と振り返ります。

同時に、ウツの問題に目鼻がつきはじめたら、つぎはゲイライフの再探索というか、図書館で同性愛に関する本に手が伸び始めました(そのなかに拙著もあったことが、彼が私を訪ねてくれたきっかけでした)。

「そのころ、ゲイであることをちゃんと考えなきゃと迫る出来事が立て続いたんですね。一つは泥酔して自転車で帰るとき転倒し、額を割った。通行人が救急車と警察を呼んでくれて、警察に「家族は?」と言われて携帯のパートナーの番号を示したら、「これ誰ですか? 会社の同僚?」と言われて。自分も酔ってるから相手の言うままに任せて病院へ行き、そこでも関係を聞かれた。40歳にもなって実家呼ぶのもなんだし、自分と関係のある人をちゃんと説明できない、おかしいな、って思った。

もう一つは、リワーク施設への申込みは区を介してなんだけど、役所の窓口で情況説明するときパートナーと同居していると言うと、職員は「え?」「自分、同性愛者なので」「あ……」と。施設でもメンタルの悪い人を預かるんで保証人が必要。それをパートナーにすると、「すいません、これ誰ですか。苗字違いますよね」「パートナーです」「え?」「だから、そういうことです」「あ……」と。

こういうことが立て続いたなかで、ゲイの問題に真剣に向き合う必要があるなと思い、本も探し始めたんです。役所や施設での対応はそれなりにドキドキしましたが、でも言ったら意外にスッキリして、ある程度は自己開示しながら生活基盤をちゃんとしなきゃいけないな、と」

もちろん、この出来事だけで、急にゲイライフを考え直したわけではありません。

「たしかに自分がゲイだということは一度受け入れているんだけど、僕は恋人と付き合うとわりと二人の世界に入って、そこからあまり広がらない。浮気するとかヨソにセクフレ作るとかは自分はなく—-あまり性欲に関心が向かないタイプ—-安定してるけど、閉塞感もあった。もし別れるとなったら、これを止める理由がない。なぜ二人で生きているのか、社会的にも自分のなかでも意味がわからない。そのまえから会社で二重生活し、彼を彼女に置き換えて話すことに、諦めてはいるけど正直疲れた。ましてリワーク施設の仲間と関係も深くなると、自分を信頼してくれている人にも隠し続けるのは嫌。自分(たち)は社会的におかしくない、間違ったことをしているわけじゃない、彼とのパートナーシップについても意味を確認しちゃんとカタチにしていきたい、そう思い始めた。だから、同性婚やパートナーシップ制度にも興味をもち調べ始めたんです」

そんなときリワーク施設で、自分がどうしてウツに至ったか、どう対処していくのか、2、30人のまえで約1時間語るプログラムの順番が回ってきて、そこでゲイだとカミングアウトすることにしました。否定的な反応は一人もなく、「真剣に話していることが伝わった」「自分も別のマイノリティ」「勇気を貰えた」など、サポーティブなコメントの数々。それがHさんにとっても大きな自信になったようです。また前後して母親にもカミングアウトします。

「母は淡々と受け入れてくれました。救急車の話もして、万一時にはパートナーがいると伝えたら、あなたがいいなら私はそれでいい、と。弟夫婦に子どもがいるので、孫はもういいと言われて。あと、父には理解できないかもしれないので言わないでおこう、と」

40代、ウツによる仕事のリセットは、そのままゲイとしての自分の人生の再構築へ繋がっていったようです。

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●お金のことは気にはなるけど、自分にとって納得できることをつかみたい

Hさんは施設のプログラムを終了し、現在の会社へ再就職します。

「ウツやリワーク施設での経験を経て、働くこととか業績とか、会社にある価値観とかへの見方が大きく変わった。会社は、イケイケというか、つねに前向きで自分で問題設定・問題解決できる人が賞賛される世界。でも、人ってホントにそうなのかなあ、って。大会社やエリート層特有の、自分たちは間違ってない、収入や地位も安定した勝ち組だというあの〈おおらかさ〉〈自信〉が、人としてとても薄っぺらに感じられて。自分は加工工場のおっさんや職人さん、負け組とされ社会の下積みとされる人のほうに惹かれるんです」

「そのことと同性愛の問題が、自分のなかではリンクしてるんですね。大会社ですごく仕事ができる人にならなくてもいい、期待される人材でいなくてもいい、という感覚と、自分は同性愛者だけど、それでいいでしょ、という感覚が近い気がする。会社には期待されていないけれど、それよりも自分をちゃんと持つ、同性愛者として隠し隠しでなく、ちゃんと生きていく、そのことがとても近く感じられる」

一度「素」になったからこその言葉かもしれません。これからの人生については、どう考えているのでしょう。

「ゲイということを無視してはもう生きていきたくない。大きな会社で同性愛者として働き続けることは難しい。社内ダイバシティの向上を自分から率先して働きかける気もない。いまの仕事の延長線上で、いずれ独立開業したいと思って起業セミナー覗いたり、ある資格の勉強もしているところです。いまの会社も契約で長くはいられないし」

「もちろんお金のことは気にはなるけど、年収2、300万でも二人持ち寄れば暮らせるとパートナーと話しているところ。やりたいことができているなら、あとは選ばなければ仕事もある現在です。バイトで補填しながらでもそれで生きていきたい。海外旅行や美味しいもの食うとかにいまは興味がないし、SNSで見せつけられる「リア充」自慢に、ぜんぜんリア充だとは思えない。リワーク施設で違うリアルや充実を知ったからかな。これからは自分にとって本当に納得できることをつかみたいと思っています」

※本文中に言う「ゲイ」は男性同性愛者に限定せず、性的マイノリティ全体を意図して用います。マイノリティ内部の差異を無化する点でご批判はあえて甘受しますが、あらかじめ読者のご寛恕をお願い申し上げます。それぞれのアイデンティティや情況に応じて、適宜ご参考になさってください。

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