第5号 病室でパートナーと会えますか?〜「もしも」に備える 同性カップル編③

法律などできちんと守られることが少ない性的マイノリティの、「もしも」に備える〜同性カップル編。きょうは最初に、いくつかの「証言」を聞いていただきましょう。

●意外に起こっている、医療からの「締め出し」

Aさん(レズビアン)の話
「私に持病があり、あるとき夜中に発作を起こして、彼女が救急車を呼んでくれて病院に。私は発作が苦しくて病室に入ったままそれどころじゃなかったんだけど、付き添ってくれた彼女は家族じゃないってことで、そのあと医者からなんの説明も受けられず、病室に入ることもできず、廊下の長椅子でずっと待ってた。彼女のまえを何度も看護師さんが通ったんだけど、なんの声もかけてくれなかったそう。これが家族だったら、「先生、夫はどうなんですか?」「奥さん、こちらにどうぞ」ってスムーズなんでしょうけど……」

Bさんの話(ゲイ、前号のインタビュー参照)
「泥酔して自転車で帰るとき転倒し、額を割った。通行人が救急車と警察を呼んでくれて、警察に「家族は?」と言われて携帯のパートナーの番号を示したら、「これ誰ですか? 会社の同僚?」と言われて。自分も酔ってるから相手の言うままに任せて病院へ行き、そこでも関係を聞かれた。40歳にもなって実家呼ぶのもなんだし、自分と関係のある人をちゃんと説明できない、おかしいな、って思った。さいわい入院もせず治療だけですんだ。病院を出たら彼が迎えに来てくれていた」

これらはこの2年のあいだに私が直接聞いた話です。「いやー、こういうこと実際あるんだー」が実感でしょうか。これ以外にも、以前からつぎのような「実話」は、耳にしていました。

*運転中に心臓マヒで倒れ、救急隊が携帯電話の履歴の最後の人にかけたら、さいわいパートナーだった。しかし、「家族のかたですか」と聞かれて、そうではないと口ごもったところで、「それ以上は個人情報ですのでお話できません」と切られた。彼は不幸にも亡くなったが、そのまま情報が得られなければ、生き別れになる可能性もあった。(お二人はおたがい家族にカムアウトしていたので、先方の親族から連絡がついた。)

*大きな列車事故に巻き込まれて、パートナーが病院に収容されたらしい。ニュースで知った病院に電話で問い合わせたが、「家族以外には答えられない」と照会を拒否された。

個人情報保護がいわれ、病院等での厳格(すぎる)対応にヘキエキする場面もあります。個人情報の保護はもちろん大事ですが、一方で「家族」と認知されていない同性パートナーが、医療の場で締め出されるという事態も現実に起こっています。発病や事故は、ある日、突然、起こります。法律上、家族ともなんとも規定がない同性カップル(どんなに豪華なウェディングを挙げようと海外の同性婚で登録しようと、国内の法律的には友人同士でしかありません)は、あらかじめなんらかの対策をとっておくことが必要です。

●パートナーにあなたの情報が届くか

まず考えておいてほしいのは、あなたの万一時の情報が、パートナーに届くか、です。

本人に意識があるときは、医療者や救助者に連絡先を問われて、だれへの連絡を依頼するか、その人をなんだと言って説明するか、シミュレーションしてみましょう。「パートナーです」と言えればいいですが、そう言うことをためらう人もいるでしょう。親友、きょうだい、いとこ、同僚……なにか考えてみましょう。

本人に意識がないとき。医療者や救助者は身元確認情報を探すでしょう。緊急連絡先カードを財布のなかなどに携帯するようにしましょう。先の事例のように、「家族でない」というばかりに、情報提供を拒まれることがあります。緊急連絡先カードを持っておくということは、「本人がこの人に情報を伝えてほしい」と言っているのですから、救助者は安心して情報を伝えることができるわけです。

緊急連絡先カードは、いろいろなところで作成・配布されています。それらを利用してもいいし、自分の名刺の裏に「私に万一時は、この人に連絡をお願いします」と一筆書いておくだけでもよいと思います。

会社等に提出している緊急連絡先なども、定期的に見直してはどうでしょうか。カミングアウトしていない人は、親族でない人(自分と苗字の違う人)を申告すると、「これ、誰?」と言われて困る場合があるかもしれませんね。親族が遠方なので都内の親友、いとこ、結婚した姉(妹)……みなさんそれなりに苦労しているようです。一方、家族にカミングアウトできている人は、家族を経由してパートナーに連絡を入れてもらう手配ができていることも。

あと、セクマイのカップルっぽい話だなと思ったのは、たとえパートナーと同居していても、おたがいの実家の情報を知らない場合があること。突然死したパートナーの実家の連絡先がわからず(しかも故人はフリーランスだった)、やっと思い出したまえの勤め先に事情を話し、無理を言って個人情報を探してもらい連絡ができた、という実例があります。パートナーと万一時の連絡先一覧を交換するとか、せめて親族等の年賀状があれば示しておくとか、細かいことですが大事です。

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パープル・ハンズでも、緊急連絡先カードを作成し、賛助会員になってくださったかたにノベルティとして差し上げています。裏面に3名の連絡先を書けます。さらに、ゲイに多いHIV陽性など薬の飲み合わせ等の問題から、一般救急病院よりもはじめから主治医のいる病院へ搬送されたほうがいい場合もあります。病名の記載は無理としても(だれが見るかわからないカードなので)、主治医の有無や病院名を記載できるのが一つの特徴になっています。

●パートナーがあなたと面会できますか?

同性カップルでは、連絡とともに、駆けつけたパートナーが病室へ入れるのか、医者から説明を聞けるのか、という問題もあります(冒頭Aさんの話参照)。

現代は自己決定が尊重される時代。意識がある場合は、「あの人を病室に入れてほしい、一緒に説明を受けさせてほしい」と、勇気をふるって主張しましょう。家族でないからといって、拒まれることはないはずです。

問題は、これまた本人に意識がないとか、症状が重く主張ができない場合です。

個人情報保護法では、「本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない」(第23条)とあります。この第三者には、本当は家族も含まれるのですが、なぜか医療などの現場では、「家族のかたはどうぞ」がまかり通っています。じつは今回あらためて調べてみて、「家族は例外」などとは法律や厚労省のガイドラインのどこにも書いていませんでした。実際、人によっては、「たとえ家族でも、アノ人たちに勝手に言わないで!」という場合だってあるはずです。

ここで「家族とは誰か」などと終わらない議論をしてもしかたありません。「本人の同意を得ないで、提供してはならない」なら、本人の同意があれば提供していいわけですから(法律の反対解釈と言い、有効です)、万一に備えて医療における意思表示書を作っておきましょう。

・私の意識がないときは、●●●●を病室に入れ、私の情報を説明してください。
・治療については●●●●によく説明し、その意向を尊重してください。

こうしたことをちゃんと書面にし、サインや押印をして、パートナーどうし交換しておくと安心です。人によっては、そこにさらに「現代の医学で治療が不可能なら、無駄な延命措置はしないでほしい」など、いわゆる尊厳死の意思を書き加えることもあります。

拙著など参考書等を見てご自分で書いても、私ども行政書士に依頼されてもいいですし、さらにそれを公正証書にすることもできます。だんだん権威付けが増して医療者への説得効果も増すと思いますが(同時に作成費もかかりますが)、要は「医療の場で、私はこうしてほしいのです」ということが、現在、意識がない、口がきけないあなたにかわって、書面で外部の人に伝わればよいということです。

医療者は、本人の意思が明確になっていれば、パートナーの面会や医療説明をしてくれます。これは同性婚制度がなくたって、可能です。同性婚を待ってるまえに、なんらかの医療意思表示書を作っておきましょう。

ただ、問題がひとつあります。パートナーと駆けつけた家族とが病室ではち合わせした場合です。家族に「あとはこちらでやります」「お引き取りください」と言われたら? カミングアウトしていない場合、自分を何者だと説明するのか。自分でよくシミュレーションしたり、書士などに書面を作ってもらう場合はていねいにコンサルティングしてもらってください。

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東中野さくら行政書士事務所で作成している、医療の意思表示書。2枚目には、作成者(行政書士、私)の署名と職印が押してあります。これをお互いに交換しておき、いざというとき、医療者に示してもらいます。当事務所では、任意後見や遺言、パートナーシップ契約書(次号でご紹介)など、同性パートナーシップ保障に関係する書面作成のさいには、サービスで一緒に作成しています。単体での作成もできます。上にあるのは、パープル・ハンズで作成し、賛助会員に配布している「緊急時面会カード」。お互いにサインして、相手に渡しておくものです。シンプルなカードでも、たしかに本人の意思表示として効力はあります。

参照:拙著


『同性パートナー生活読本』(2009、緑風出版)


『にじ色ライフプランニング入門』(2012、太郎次郎社エディタス)

※本文中に言う「ゲイ」は男性同性愛者に限定せず、性的マイノリティ全体を意図して用います。マイノリティ内部の差異を無化する点でご批判はあえて甘受しますが、あらかじめ読者のご寛恕をお願い申し上げます。それぞれのアイデンティティや情況に応じて、適宜ご参考になさってください。

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