第6号 同性パートナーシップ契約書って?〜「もしも」に備える 同性カップル編④

今回は「同性パートナーシップ契約書」についてお話してみましょう。「不動産や財産もないので遺言は……」とか、「認知症に備える任意後見は、まだ遠い話すぎて……」というかたも、ちょっと関心がもてるでしょうか?

●二人のあいだの大切なことを約束しあう

昨今、「結婚契約書」ということばを聞きます。結婚生活を開始するにあたり、これから生じるかもしれないさまざまな問題について、あらかじめ一定の合意事項などを取り決めておくものです。生活場所、家事分担、生活費、たがいの親族との同居、そして共同生活を解消するときの話し合いのルール、もちろん子どもがいればその扶養の問題、などなどです。

トラブルに備えて作成するものですが、二人の共同生活の出発点を確認し、トラブル時には話し合いの原点に帰るための基準として、注目を集めています。

その結婚契約書を、同性カップル間でも作成したいと希望されるかたもいらっしゃいます。契約自由の原則で、同性お二人でこういう契約をしても、まったく問題はありません(まさか、これを公序良俗に反する無効な契約だと言う法律家はいないと思うのですが……。笑)。

ただ、日本で同性婚はまだ認められていないので、「結婚契約」の名称は使えません。「準婚姻契約書」とか、私の事務所では「準」などつけず、「同性パートナーシップ契約書」と称しています。二人がなぜこの契約を結ぶのか(パートナーシップを結ぶのか)、これからの共同生活で大事にする原則はなにか、そんな総則的なことから、男女の結婚契約書と同様、共同生活上の約束事を取り決めます。男女の夫婦なら婚姻することで扶養義務や貞操義務なども負うことになりますが、自分たちはどうするのか、そんなこともいろいろ話し合ったり、確認するわけです。

それらをきちんとコトバ(文書)にすることで、二人の思いや絆を確かめあうことができるでしょう。また、その文書を周囲の人に示すことで、二人のあいだにはそういうパートナーシップ関係があるんだということを理解してもらうことにもなります(さらにそれを公正証書にすれば、いっそう重みも増すと思います)。

同性カップルでは、戸籍など「親族」「身内」の関係を示す証明書類を作成できません。住民票で一部、「同居人」の表示を用いて作成できる場合がありますが、パートナーを「同居人」と呼ぶことには異論もあるでしょう。その点、この契約書は、二人が対等の関係で、パートナーシップ関係にあることの証明になります。ウェディングのさいに、あるいはパートナーシップの節目の年に(これからも共に生きていく確信がもてたとき)、作成を検討してみるのはいかがでしょう。

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結婚契約書の動きを伝える新聞記事(朝日新聞 2012.9.12)。「収入の管理 親の介護 家事・育児」「互いの価値観を確認」「争いの種 事前に把握」などの見出しが見える。

●この契約書で期待できること

ただ、法律的に小難しいことを言うと、この契約はじつは両人間を拘束するものであって、第三者を法的に拘束する効力はありません。二人のあいだでこう約束しましたというだけで、第三者までがその約束に従ういわれはない、ということです。あくまで二人のパートナーシップを当事者間で確認し、副次的効果としてそれを第三者にも提示することができるにすぎません。公正証書であってもパートナーシップ契約書の「弱点」として、以前から指摘されてきたことです。

もちろん「すぎない」と言っても、ここまでちゃんと契約書を作っている二人に対して、「あなたがたは法律的には他人同士でしょ?」と言い放つのは、少し勇気がいるハズですが。

とはいっても、せっかく作る書面ですから、少しでも効果があげられるようにしたいもの。そこは私ども書面屋の腕というわけで、「療養看護」という項目では、「あらかじめ書面で表明しておいた治療方針及び延命に関する意思を、主治医その他の医療機関関係者に提示して伝え、本人の意思に従った治療及び看護が行われるよう務めるものとする」と入れました。病気のときはお互いちゃんと看護します、と二人が約束すると同時に、「本人の意思に従った治療及び看護が行われる」ためには、お医者さん、あなたも協力して私を病室に入れたり病状説明をしてくれないとダメですよ、と言っているわけです。また、この条項を根拠により意思をハッキリさせるため、前号でお話した「医療の意思表示書」も、私の事務所ではかならずセットで作ることにしています。

この他にも、一方が死亡したときの所有物の整理、葬儀その他の祭祀をとり行なうこと等についても、本来は死後事務委任契約や遺言でするべきものですが、二人のあいだで約束しあっておくことで、相手方の親族(法律上の相続人)へのとりあえずの対抗にはなるかな、という面もあります。個々のご事情に応じて、書士などにていねいにコンサルティングしてもらうのがよいでしょう。

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同性パートナーシップ契約書では、個々のオリジナルな思いや条項を書き入れることができます。写真は、次節の萩原さん&高橋さんカップルの公正証書。「愛と誠意を尽くし」「生涯の伴侶」などの文字が見えます。

●書面を作ることでなにが変わる?

今回、私の事務所でこの「同性パートナーシップ契約書」を公正証書で作成された萩原まみさん&高橋杏実さんにメールでお話をうかがいました。バイセクシュアルの萩原さんとFTXの高橋さんは21年にわたるカップルで、フィンエアー(フィンランド航空)主催のウェディングイベントに当選、このほど挙式されました。また、萩原さんはかつてレズビアン&バイセクシュアルのための情報誌『anise(アニース)』(2003年に休刊)の編集長を務め、最近では『ムーミンマグ物語』(講談社)の文章を担当したムーミン愛好家でもあります。

1)今回、書面を作ってみようと思ったきっかけや思いは?
みなさんの応援のおかげで当選し、フィンランドのムーミンワールドでウェディングを挙げることになりました。当初、「婚姻を証明する書類の提出が必要」という条件がありましたが、LGBTのかたがたの問い合わせによって「法律婚ができないカップルは署名でもOK」と変更されました。提出しても受理されない日本の婚姻届に署名することも考えましたが、つきあい始めて21年が経過し、そろそろお互いの体調なども心配なお年頃になってきたため(笑)、いい機会なので公正証書という形を選びました。

2)パートナーシップ契約書は、自分たちのオリジナリティを出せる部分もいろいろあります。
試しに「準婚姻契約」として提出してもらいましたが、公証人から却下されました。担当公証人の解釈によって、通ることと通らないことが違ってくるということを知りました。かわりに「パートナーシップ」という言葉を考えましたが、永易さんから「同性パートナーは?」とご提案いただき、そのほうがビジネスパートナー等ではなく、恋愛関係にあるのだということが伝わりやすいだろうと「同性パートナーシップに関する合意契約公正証書」という文書名にしてもらいました。私個人(萩原)は同性婚よりもパートナーシップ法を望んでいるので、婚姻に準ずるという意味の「準婚姻」よりも気に入っています。

また、冒頭の第1条に「共に生活してきた1993年からの21年の日々に基づき、順境にあっても逆境にあっても、健康なときも病気のときも、愛と誠意を尽くし」「生涯の伴侶として助け合うことを約束し」という結婚の誓いのようなロマンティックな文言を提案してみたら、公証人にそのまま採用していただけたことに感動しました。(前節写真参照)

私たちがいちばん重視していたのは、医療に関する権利のことだったのですが、公正証書に盛り込めることと無理なことを永易さんにご説明いただいたうえで、合意契約で表現できるかぎりの文言にまとめてもらいました。別に「医療に関する意志表示書」も作成してくださったので、将来の不安が大きく解消されました。

3)作成してのお気持ちは?
いままで自筆での遺言書は作成していましたが、パートナー関係や医療にかんしてはなんの保障もない状態でした。公正証書を作ったことで二人の関係がより確かなものになったというか、安心感が得られ、絆が深くなったと感じています。

4)老後の準備、マイノリティの(長い)人生に、なにか思うことがあればお願いします。
萩原の両親に証書のコピーを渡したら、「年をとってからひとりなのは寂しいし、心配だ。一緒にいてくれる人ができてよかった」というようなことを言われました。もちろん、長くつきあえばエライというものではないですし、ひとりだって充実した人生が送れると思いますけどね。私たちは20代からつきあい始めて21年目のウェディングと公正証書をひとつの区切りとして、これから先また20年、できればもう20年ぐらい、楽しく生きていければと思っています。ムーミンの作者、トーベ・ヤンソンが40歳を過ぎて生涯の伴侶トゥーリッキ・ピエティラと出会い、その後の約45年もの日々を女性二人で共に生きたように。

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写真:式に参列した萩原さんご友人提供


『同性パートナー生活読本』(2009、緑風出版)


『にじ色ライフプランニング入門』(2012、太郎次郎社エディタス)

※本文中に言う「ゲイ」は男性同性愛者に限定せず、性的マイノリティ全体を意図して用います。マイノリティ内部の差異を無化する点でご批判はあえて甘受しますが、あらかじめ読者のご寛恕をお願い申し上げます。それぞれのアイデンティティや情況に応じて、適宜ご参考になさってください。

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