第15回 DVの恐怖、セクマイの苦悩と葛藤を描いた『トム・アット・ザ・ファーム』

 

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第2回で紹介した『わたしはロランス』。もう観たよね? ね? ね!?(大事なことなので3回言いました)あの名作を紡ぎ出したカナダの美ゲイ俊英ことグザヴィエ・ドランの作品が、来週から公開されるので紹介します。『トム・アット・ザ・ファーム』は、『〜ロランス』の次に作られた、彼にとっては4本目の長編で、ヴェネチア国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞しています。おや、カンヌの申し子がなぜヴェニス? と思った方。鋭い。これ、アート気質のカンヌっぽくなくて、思い切りサスペンスでサイコでエンターテイメントなのですよ。だからヴェニス行き。

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恋人のギョームが他界し、葬儀のために彼の実家の農家を訪れたトム。ギョームがゲイということは実家にはナイショ。なので、トムはあくまで「友達」を装っての訪問だった。ギョームの母アガットと兄フランシスは、突然現れたトムに戸惑いを隠しきれないものの、表向きは歓迎する。ところが、トムがフランシスと2人きりになった途端、フランシスは一変。じつはフランシスはギョームがゲイということは知っていたものの、母親に対して弟はサラという女性と交際しているように思わせていた。そこで彼は暴力でトムを支配し、アガットにはギョームのセクシュアリティを明かすな、と脅迫する。トムは最初こそ反発するものの、DV被害者心理のように、次第にフランシスに対して同情を寄せるように。

もともと舞台戯曲がありまして、それを映画化したというのも、ドランちゃんらしからぬアプローチ。だって、これまで全部オリジナルで製作・監督・主演・脚本までこなしていたんだもの。原作ありきってどうよ、って思ったんだけど……ごめんなさい。あたしが間違っておりました。やはりドランちゃんは天才です。

この作品のポイントは2つ。ひとーつ、自由な都会者と地元に束縛された者の対比。ふたーつ、DVの恐怖。

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まず前者。トムはモントリオールで自由に暮らすゲイで、亡くなったギョームもまた、地元に帰ることなく都会で自由を謳歌していたのね。対するフランシスは、というと、農場以外な〜〜〜〜〜んもない地元にがんじがらめ。兄だもの、一人親だもの。実家を離れることはできないし、離れる理由もないし、おまけに農場経営で食ってるから家業を捨てるわけにもいかないし。そんなだから、すっごい鬱憤たまってるのね。だからってDVしていいか、って言われたらNOなんだけど、日がな一日年老いた母親と暮らしてるだけだからはけ口がなく、母のいないところではたまったストレスが暴力として出てきちゃう。彼の暴力性は、トムに対する暴力支配のシーンだけでもわかるんだけど、じつは相当なことを村でやらかしちゃっているのね。この辺は観てからのお楽しみ。トムもそれを知って我に返るんだけど、観ている方もゾゾゾ〜〜〜っとさせられることウケアイ。

しかもですよ。都会育ちのトムが、唐突に暴力ふるわれるだけでもギョっとするもんでしょ。しかも農夫のフランシスだもんで、すんげーパワフルだし(ちょっとゲイ的にはイケメンかもしれんけど)。そんじょそこらのジム養殖マッチョとは違うわけですよ。そのうえ、「弟がゲイってこともお前がゲイってことも言うな!」ってのは、モントリオール住まいのトムにはもはやナンセンス。ふざけんな、って話ですよ。プンスカ。

でもね、後半でジワジワとわかるんだけど、フランシスはむやみやたらに暴力をふるってたわけじゃないのね。勝手にさっさと都会に脱出した弟に対する嫉妬、それに不満しかない実家生活、それに……おっと、ここからは観てからのお楽しみ。

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そして後者。DV被害にあった人は、なぜか暴力をふるう側に対して同情や共感をしてしまうとよく言いますが、そのさまがトムの心象描写で見事に浮き彫りにされていきます。最初こそ抵抗して、農家から逃げだそうとするトムですが、なぜか戻っちゃう。それも「はやく逃げなよ!」ってつい言いたくなるタイミングで。で、どんどんとトムはフランシスとの間に芽生える妙な関係にハマっていくんですね(妙っていってもセクシュアルじゃありません)。ギョームの彼女とされていたサラは、トムとギョームが勤める職場の女性だったんだけど、ひょんなことから彼女も農場に来てしまい、そのただならぬ雰囲気にドンビキ。そのころにはトムは「フランシスを手伝いたいから、農家に残ろうと思うんだよね」とまで言っちゃう。ぎゃー! マジかよ〜! って感じ。でも、そこに至るまでの心の機微を、ホントに見事に描き出しているの。そこがドランちゃん、天才のワザ。しかもトムを演じてるのは、他ならぬドランちゃん。なんなんすか、この才能。見た目よし、性格よし、演技よし、才能バリバリって……天は二物も三物も与えちゃうのね。

そんなこんなでこの作品、ドランちゃんのアート路線の作品とは一線を画するサスペンス・エンターテイメントだけど、セクシュアル・マイノリティの苦悩と葛藤を描いた人間ドラマとしても傑出。これを観ておもろくない、という人はいないだろうと言うほどの出来映えです。

余談ですが、この作品の公開初日。あたしがなぜか登壇するイベントもございますので、よろしければ観に来てね。新宿よ(昼間の回だけど)。

<作品情報>
トム・アット・ザ・ファーム
製作・監督・出演:グザヴィエ・ドラン
出演:ピエール=イブ・カルディナル、リズ・ロワ ほか
配給:アップリンク
公開:10月25日より、新宿シネマカリテ、渋谷アップリンクほか、全国順次ロードショー
(C) 2013 – 8290849 Canada INC. (une filiale de MIFILIFIMS Inc.) MK2 FILMS / ARTE France Cinema (C) Clara Palardy

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