第29回 『THE HOMOSEXUAL HANDBOOK ホモテクニックフォトイラスト集』と、モテ期の私。

モテ期である。そういう気配を感じる。なにをトチ狂ったことを……と思われるかも知れないが、モテ期に入った気がする。私はモテないことで有名だ。私をよく知るホモ100人にアンケート調査をしても、浮いた噂の一つでも聞いたことがあるという人間は皆無に近い。そんな状態が、かれこれ20年も続いている(笑)。おそらく女装界一、モテないのである。

ところが、ここ最近、まわりがザワついている(気がする)。熱い視線で見られている(気がする)。なんだかんだちょっかいをかけられている(気がする)。秋波が送られている(気がする)。これはもしや!?と思い、友人に相談したところ、ボケだと言う。アルツだと言う。色ボケ痴呆老人だと言う。なんと失敬な!

それが証拠に、昨夜だって、仕事を終え、「AiSOTOPE LOUNGE」のおりぃぶぅを訪ねた帰りに拾ったタクシーの運ちゃんが、見送りに出てくれたおりぃぶぅのことを見て「あの人は女なんですかね?」と聞いてきた。深夜の2丁目で、あんなに背の高いキレイな“女”はオカマに決まっているじゃないか!!

きっと2丁目を流すのが馴れていない新米の運ちゃんなのだろうと思い、親切に彼女がオカマであることを説明してやった。それが発端となり、運ちゃんは次々と話しかけてきた。2丁目にはよく来るのか?、あなたはホモなのか?、やっぱり男の方がテクニックがうまいのか?、アナルを使ったらウンチが付かないのか?……などなど。最初は面白がって答えていたのだが、だんだんと話の雲行きが怪しくなってきた。

自分は(運ちゃんのことね)、不倫相手の彼女がいるのだが(これは言い訳か)、彼女のフェラではイカない。ついには、男の方が良いと言い出す始末。男とやったことあるの?と聞き返すと、たまに「24会館」に行くという。

な〜〜〜んだ、ホモじゃん。百歩譲って、バイか。……ということは、もしかして誘われてるのか? ナンパなのか? こういう時にモテ慣れていないと、どう対応していいか分からなくなる。挙句、運ちゃんは私にタチか?ウケか?尋ねてきたのである。いい歳をしてオロオロする私。だが、タクシーは無情にも事務所のある六本木に到着した。「2CHOPO」の〆切が迫っている。残念ながら、このモテ期を活かせずに、私は、今こうしてせっせと原稿を書いているのである。

「習うより慣れろ」とはいうけれど、そもそもモテないので経験値は上がらない。いつまでたっても色恋の駆け引きが上達しない。最近では、セックスもご無沙汰で、ついにやり方さえ忘れつつある(笑)。そこで、四十の手習い。あらためてホモセックスを勉強し直すことにした。「2CHOPO」ではとても為になる『セックス・アンド・ザ・キャシー』が連載中だが、私は元来、不真面目な人間なので、こんな本を教科書に選ぶことにしたのである。

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手前のフィギュアは、「STiKFAS」

『THE HOMOSEXUAL HANDBOOK ホモテクニックフォトイラスト集』。ホモ向けのセックス指南書だ。1970年代初頭に、医学博士の奈良林祥が『HOW TO SEX』という性のマニュアル本を発行。シリーズ累計250万部も売り上げたベストセラーである。これに倣ったのか、ホモ向けの性のマニュアル本である。発行元は「アロー・インターナショナル」。以前、ホモ向けのビニ本『若男』『恋男』を紹介したことがあるが、それらを発行していたのも同社である。そのカメラマンであった斉藤京治について調べていた中で出会った本である。

ホモセクシュアリズムは現に誤解されているし、今後も猟奇な照準がホモの世界に合わされないという保証は何一つないのです。ホモセクシュアリズムをとりまく理解者が、単なる遊び人であったり、敢えていえば真に異常者であったりするような、脆弱な基磐(*注/原文ママ)しか持ち合わせていない現状が一つにはあるし、一方では、たしかにぼくらの社会は根本的なSEX革命を履行しつつあるのだけれど、それはぼくらの様式であって、決して一時代前のそれではないということが二つめの理由になるでしょう。
(略)
社会がいまだ偏見に満ち満ちていた時、ホモセクシュアリストもまた「自分は異常なのだ」という偏見に犯されていたのです。もともと、この国は〈男色〉が〈悪徳〉や〈悪業〉のなせる業だとは考えなかった。それにしても、自身に自覚的なこの異常性は社会的に排斥されるべきもの、であったのです。社会で生き続けるためには、結果的には、神経症にならざるをえなかったことになります。しかも、〈内向的な性〉は常に〈異常〉に近いから、他人の目には彼はますます異常として映り、彼自身の肉体はそれ故、ますます性格破綻的な生活を送ることになります。
(略)
では、転じて現在はどうなのでしょうか。「もっと遅くうまれてくればよかった」といやらしい笑いを浮かべ、ホモの世界で荒かせぎをする中年ホモにあなたは会ったことがあるでしょう。彼らは偏見の時代に生きているがために、現在においても、ごまかしと逃避の生活を繰りかえしています。よく世間では〈ホモはうそつきだ〉。われわれはもちろん、そんな軽言を一般論としては信じませんが、たしかに中年ホモの中には、こうした指摘が事実だとしか言いようのない人間が存在しています。このような現象は今までみてきたとうり、歴史的には悲劇に違いありませんが、実害がある故、黙ってみすごすことはないのです。黙過すれば必ず、ぼくら自身に、一般的偏見となって帰ってくるのですから。

これは、本書冒頭の『INTRODUCTION』からの抜粋である。ここで注目したいのは、対社会への視点である。ホモを社会に対峙する自我を持った主体としての認識がある。ゲイ・アイデンティティの萌芽とも呼べる意識を感じ取れる。そしてもう一点、より年長の世代のホモを否定することで、自分たち若い世代のホモが社会を変えていこうとする強い意志がある。70年代である。変革の時代の雰囲気が伝わってくるではないか。そんな志しの高そうな本だが、内容は、わりと通俗的だ。そのタイトルの通り、さまざまなホモセックスの方法をイラスト図解で説明している。こんな具合である。

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(2) 逆スプーニング 特に強烈な刺激があるというわけではないが、足指に対するキスは献身的な愛情表現として緊張を解く役割をする。性器は相手の尻に押しつけ、次の展開の期待感を持たせる。

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(27) スマタ・スプーニング スプーン型への移行型。股の間から前へ性器をつきだしてしまえば、二つ並べた性器を相互手淫できるという強みもあります。

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(14) ミルキング・フェラチオ(1) 右手でミルキングしながらのフェラチオ。フェラチオされている人は、相手の頭を押さえて、フェラチオのリズムをつくりだします。

耳慣れない言葉が出てきたので、解説しておこう。「スプーニング」とは、スプーンを重ね合わせるように、ふたりの体をぴったりと重ね合わせること。「ミルキング」とは、指による肛門愛撫のことだそうだ。こうした専門用語をおりまぜながら、オナニーからセックスまでを詳細に解説。はては、セックスの全行程まで指導してくれる。

PROCESS〈1〉
1、視線を合わせる

2、手を陰茎にちょっともっていく。適度に相手を勃起させ、陰茎をじっと視る。

3、視線を合わせる。

4、うなじ、首筋へのキッス

5、ラブ・バス→あごの下→のどのまわり→胸、乳首→わきの下→肩
↓ ↑                           ↓
↓ くるぶし←ふくらはぎ←太もも←尻の間←尻の上←わき腹←背中

6、足の甲、裏、かかと、足指へのキッス

7、すね、太ももへのキッス

8、フェラチオ

9、ミルキング

10、アナルSEX

……と、順番を憶えるだけでもひと苦労である(笑)。だが、この本は、さらに親切に、次のステップも教えてくれる。至れり尽くせり、である。

PROCESS〈2〉
→ラブ・バス→太ももへのキッス→陰のうに舌先をはわせ軽やかに左右にゆする。ふるわせる⇄会陰に進み、縫線に沿って舌をスピーディにリッピングする(陰のうは手でもちあげておく)⇄肛門にアニリングスの第一段階〈穴ひろげ〉をする⇄肛門口の周囲を舌でふちどりするように動かす⇄アニリングス、舌の挿入、舌の出し入れ⇄ラズベリー・パイ→陰茎の包皮をむく(親指と人さし指を使って、または舌で)→陰茎の根元に舌先をふるわせるようにバタフライ・キッス→亀頭冠のまわりを舌で一周→亀頭をペロペロとラッピングする→亀頭の裏側をじっくり舌で愛撫する→亀頭を口にふくむ、あまり深く入れず舌の円運動をくり返す→陰茎を10cm前後口にふくむ、吸う→激しい前後運動、引く時はゆっくり、入れる時ははやく、ミルキングを開始する→指を肛門に挿入、ミルキング→亀頭を力強く吸い上げて射精させる→精液を一滴のこらずのみこむ。

……だそうだ。これをマスターしたら、ホモセックスの免許皆伝である(笑)。それにしても、「陰のうは手でもちあげておく」とか、「陰茎の包皮をむく(親指と人さし指を使って、または舌で)」とか、「精液を一滴のこらずのみこむ」とか、余計なお世話といえば、それまでである。ホモセックスマスターへの道は険しく、次々と習得しなくてはならないテクニックが、へたくそなイラストと共に紹介されていく。

 

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これは、「(31) ひじの利用(3)」である。私の乏しい性体験では、このようなことをしたことも、されたこともない。ひじでチンコを挟むのって、そんなにポピュラーなのか? はては、電車や銭湯でのテクニックまで紹介している。

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(4) 混んだ電車の中 相手が背中をこちらに向けている場合、尻へ性器や手を押しつけている。

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(9) 共同浴場でオナニー 図のあちら側からは決して見えないようにすればスリリングなオナニーが楽しめる。

スリリングって言われても、これは、あきらかに公然ワイセツ幇助で犯罪だろ(笑)。

この本の著者は、日本版『THE HOMOSEXUAL HANDBOOK』刊行委員会となっている。ということは、本家があるのだろう。本文に「現在、世界各国において母国語による『THE HOMOSEXUAL HANDBOOK』の制作が行われております。日本においては正確を期すため「日本版『THE HOMOSEXUAL HANDBOOK』刊行委員会」をアローインターナショナル出版社内に結成し、翻訳はこのチームが担当しました。オリジナルはアメリカのAngelo d’Alcangelo氏の手になるものです。」とある。どうりで、用語解説のページに、日本では馴染みのない「ポスティリオン(指による肛門愛撫)」「Stalk(勃起したペニス)」などが紹介されているはずである。

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写真2点とも/カメラマン 斎藤恭治による口絵より。

さて、本書は、またも志し高く、次の様な一文で締めくくられている。

ゲイ・バーやマッサージ・パーラーが一般社会からの逃避の場所としてではなく、異性愛的世界とホモセクシュアル世界の相方に受け入れられていく立場に立って、ホモセクシュアルそれ自体として、〈自立〉してゆかねばなりません。
したがって、経営の確立を図るために、〈誠実さ〉を売り物にするあのホモ・ショップのひとつの貌をあなたは十分に吟味する必要があるのです。

この「あのホモ・ショップ」とは、以前のホモビニ本の回で推理したように「アップル・イン」のことではないか。この一文は、ホモ・ショップが、別の「貌」として出版社を立ち上げたと読み解ける。つまり、アップル・イン=アロー・インターナショナルであると確信を深めたのであった。さて、下調べは済んだ。次は、実際に「アップル・イン」に取材に行って、当時のことや斎藤恭治の消息について聞いてくることにしようか。乞うご期待である。

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日本版『THE HOMOSEXUAL HANDBOOK』刊行委員会
『THE HOMOSEXUAL HANDBOOK ホモテクニックフォトイラスト集』(アロー・インターナショナル/1973年 発行)

いやはや。モテ期を迎えた私は、復習もバッチリ。はたして「むかし取った杵柄」を発揮できる相手は現れるのか? もはや人生終盤。老いらくの恋の相手は、いずこに?
というわけで、恋の相手を求めてかけまわる日々。10月31日には「rienda HALLOWEEN PARTY」に出演。109で人気のファッションブランド「rienda」の仕掛けるハロウィンパーティ。頑張って、イケメン探さなくっちゃ!

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「rienda HALLOWEEN PARTY」
日程/2014年10月31日(金)21:00〜、会場/渋谷・SHOWER LOUNGE PLUS、料金/3500円
詳細は、https://www.facebook.com/pages/Rienda-Halloween-Party/529795087046483?hc

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