第31回 エイズと、ミッツと、史上最凶生堀り種付けビデオ。 ─ 石井光太『感染宣言 エイズなんだから、抱かれたい』

ミッツ・マングローブ。面白くないとか、ブスだとか、性格悪いとか、さんざんな言われようである。たしかに、面倒なやつだ。私も、彼と一緒のイベントに出演していたことがあるのだが、ずいぶんと気を揉まされたものだ。一緒にやっていたイベントから、二度もアイツをクビにしたこともあった。アイツも、私のことをネタに笑いを取っていたのだから、お互い様だ。一度など、テレビで、私のアナルがとてつもなく大きいと発言しやがった。おかげで、その番組の放映後、会う人会う人から「アナルに手が入るんでしょ」と言われて辟易したこともある。ま、アナルが大きいのは事実であるが……(笑)。

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ミッツのオフィシャルブログ。

そんなミッツであるが、私はアイツが嫌いにはなれない。むしろ、最近では、好きなんじゃないかとさえ思うようになっている。そのことにあらためて気づかされたのは、10月20日に放映されたテレビ番組『TVタックル』である。この日の特集は、エイズ。いまさら……、いや、いまどきエイズである。内容は「中高年を襲ういきなりエイズ」と題して、中高年になり発病してから感染が分かるケースが増えていることを取り上げた。エイズがもはや死病ではないことを強調しつつ、早期発見、早期治療の重要性を訴えた。

世の中が、デング熱やら、エボラ出血熱にうつつを抜かしている中、民放の、相当な視聴率であろう人気番組『TVタックル』が、もはや過去の遺物扱いのエイズに注目したことが意外でもあり、感動的でもあった。もちろん、ビートたけしのピントのずれたコメントなどは、「まぁまぁ、おじいちゃん、それは戦前の話よ。まったくボケちゃって……(苦笑)」と笑って見逃してあげなければいけないが。それでも、いま、エイズで特集を組んだ意義は大きいのである。その企画を持ち込んだのが、ミッツだというではないか! 見上げたものだ。

視聴率稼ぎ(=ギャラ稼ぎ)に魂を売ってしまったか、売るべき魂さえ持ち合わせていないような有象無象のオネエタレントが跋扈しているテレビ界である。その中にあって、ミッツの今回の暴挙には、オカマ魂が息づいている。私には、そう思えるのである。好きよ、ミッツ。アンタが面白くなくても、ブスでも、性格悪くても、そのオカマ魂がある限り(笑)。

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2014年10月20日放映『ビートたけしのTVタックル』より。

そもそも、番組内でもふれられていたが、先進国で感染者数が増加しているのは、日本だけである(そして、そのほとんどが男性同性愛者だ)。その背景に何があるのだろう? エイズはもはや慢性疾患の一種だという認識が広まりつつある。それは、それで正しい。けれど、だからといって病気は病気である。病気になるより、ならない方が良かったりもする。それなのに、なぜ? エイズの予防啓発活動への国の予算が縮小されていっている、いま。あらためて、これまでの活動を功罪あわせて総括すべき時なのかも知れない。

2丁目などゲイが多く集まる場所には、エイズ関連のさまざまなフリーペーパーがある。「SEX OK!」「Living with AIDS」……そうした文言が踊るカラフルで小洒落た小冊子を数多く目にしてきた。それらによって救われる人たちも多くいたであろう。そう信じる。だが、私自身はといえば、「これですべてだって言われてもねぇ……そうじゃねぇだろ」と鼻白む思いがあった。こう書いてしまうと、これまでの活動に献身してきた人たちへの敬意を欠くように思われるかも知れない。いつだって、ものの裏側や、はじき出されてしまう側の方ばかりに目が行ってしまう、私自身のひねくれた性格によるものだ。しかし、明るく、前向きに演出されたメッセージばかりが、正しさではあるまい。

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ホモ本を集めていると、当然、エイズ関連の書籍も多くなる。所謂、エイズ文学と称されるものから、医学書、性教育のマニュアル本まで、結構な数の本がある。その中から、本連載ではじめて取り上げるエイズ本に、どれを紹介すべきか迷った。感動的なエイズ悲話か? エイズさえ笑い飛ばそうとする軽妙なパロディ小説か? 悩んだ末に、この本に決めた。石井光太 著『感染宣言 エイズなんだから、抱かれたい』である。

この本は、ノンフィクション作家の石井光太が、HIV感染宣言を受けた当事者や、恋人、その家族を取材したドキュメンタリーである。その書き出しは、次の様に始まる。

 二〇〇九年二月、東京・新橋にあるマンションの一室で、HIV感染者が集まる乱交パーティが開かれると聞いた。バレンタインデーの寒い冬のことである。
(略)
部屋の隅には、緑色の蛍光灯に照らされた水槽が置かれていた。エアポンプの音が響き、熱帯魚が大きな尾を動かしながら泳いでいる。男たちはシャワーを浴びた順からベッドやソファーに腰を下ろし、その場にいる男とともに抱き合う。中には、違法ドラッグを吸引してからことをはじめる者もいる。薄暗いへやのあちらこちらで唾液の音が響き、精液や汗の臭いが充満する。

著者は、このパーティに来ていた拓郎という男にフォーカスしていく。拓郎は生まれながら「顔貌はゆがんだように左右が違っており、ひどい肥満体で口臭がきつかった」ことから、それがコンプレックスとなって女性の前で極度に萎縮してしまう性格となった。はじめて行った風俗店での失敗がきっかけとなり、「僕は女性とセックスしてはいけない人間なんだ」と思い込む。そんなある日、公園で、初老のホームレスが抱き合って寝ている姿を目撃する。「野外で暮らしていれば、男同士で慰め合うしかなくなるのかもしれない。そう思ったとき、ふと自分も同じように男性と性交してみてはどうかという考えが浮かんだ」。彼はそれ以来、同性とのセックスをくり返すようになる。ドラッグも経験し、乱交仲間との楽しい付き合いも経験した。ところが、通勤途中で意識を失って倒れ、救急車で運ばれた病院で、HIVに感染し複数の合併症を起こしていることを知らされる。それでも、男同士の乱交は止められなかった。彼は著者にこう語る。「ぜ、全部親のせいなんだよ。や、奴らが俺をこんな醜い顔に産んだから、HIVに感染する羽目になったんだ」

他にも、ホモであることを隠して結婚し、30年。感染宣言によってホモであることも知られてしまった夫婦の双方に取材した『第四章 夫婦』。結婚を決意した薬害エイズの青年と、その恋人や、それぞれの家族との葛藤をコラージュした『第二章 家族』。子どもを産もうとする感染者たちの姿を描く『第五章 妊娠』など、感染者たちの凄絶な人生のドキュメントである。

この本には、明るく、前向きな感染者のイメージばかりではない。暗澹たる気持ちにさせられるエピソードも多い。売らんかな、といった著者の意気込みが鼻につく箇所もあるにはある。フィクションっぽすぎる書き方が気になる箇所もある。だが、しかし、HIV/AIDSを取り巻く現実には、こうした事例が数多くあることを実感させる。それは、著者の膨大な取材によって裏付けられているからだろう。この本を取り上げた理由は、感染者であろうが無かろうが、人間には愚かで、卑怯で、弱い部分もあるのだと語っているからだ。感染したからといって、誰もが聖人になれるわけではないのである。

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石井光太『感染宣言 エイズなんだから、抱かれたい』 (講談社/2010年 発行/ISBN978-4-06-216530-3)

さて、話は変わるが、ここで、私のもっともお気に入りのホモビデオを紹介することにする。もし、無人島に3本だけホモビデオを持って行けるとしたら、これを選ぶだろうというぐらいである(笑)。2002年に発売された、COAT KURATATSU『scooop!!! 第5弾 肛門性交大全』だ。

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モデル? 男優?は、どこぞのビデオで見たことのある顔ばかりのベテラン勢ばかり。というか、使いまわされたなれの果て(笑)。アナルだって、すでに開発済みの面々ばかり。とはいえ、その扱いがひどい! 腕入れられそうになるわ、出血しちゃうわ。まぁ、よくやるなぁ……という感じ。その中の1編が衝撃的であった。見終わった後に、賢者タイムならぬ哲学タイムに突入しちゃったぐらいである。

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いずれも、『scooop!!! 第5弾 肛門性交大全』のジャケットより。

モデルの男の子はサングラス型ディスプレイをかけさせられ、おそらくはエロビデオを見せられている。最初はチンコ揉んだり、咥えたりだったが、その内に、当然というかアナルへと……。ついに、やられちゃうのか。興奮して画面を見つめる私の目に映ったのは、男の子を弄ぶ男達の黒コンドームを被せたチンコの大写し! ところが、次のシーンで男達は、コンドームの先端の精液溜めをハサミで切ったのである。あれれ!?と思う間もなく、男の子のアナルに挿入。入れ替わり立ち替わり男達がハメまくるのである。男の子の肛門から溢れ出る白濁液(たぶん、疑似)。

さて、この映像に込められた意図を理解するまでに、私はしばらくの時間を要した。つまりだ、これは“生堀り種付け”である。わざわざコンドームの先を切り取るシーンをインサートすることで、それを強調している。それが、とてもリスキーな行為であることは、このエピソードにだけ「この作品中の表現はフィクションです。実際の性行為にはSTDのリスクが伴います。したがって当社はこれを推奨するものではありません。」というテロップが入れられていることからも、自明である。 しかも、男の子は目隠し状態である。なんたることだ! これは、感染させたい/感染したいというファンタジーで興奮する人のためのビデオであったのだ。ダメだと分かっているからこそ、やりたくなるのか。人間とは不思議なものである。セックスを食事に例えれば、味気ないオーガニックよりも、ジャンクフードの方が美味しかったりするのも、また事実だ。

こうしたリスキーな欲望を非難する人も多いであろう。それは分かる。けれど、それを断罪する資格は、私にはない。私もまた、その映像に、衝撃とともに興奮を覚えてしまったのだから。人間とは愚かで、卑怯で、弱いものである。だからこそ、私は人間を愛おしくも思うのである。願わくば、私を含め、彼らが、ファンタジーと現実の境界を切り分けるだけの理性を持つことだ。賢者タイムならぬ哲学タイムに、そう思った。

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『scooop!!! 第5弾 肛門性交大全』(COAT KURATATSU/2002年 リリース)

やだわ。自分のオナニーのオカズについて書くのって、こんなに恥ずかしいとは思わなかった。これでまた、口の悪いミッツに何を言われることやら……(笑)。てなことで、ミッツが始めたイベント『女装紅白歌合戦』が、今年もまた開催される。残念ながらミッツの参加は未定だが、不肖、この私が総合司会を務めさせていただく。大晦日の夜、2丁目で年越しはいかがだろうか。日程は、12月31日(水)。会場は、新宿2丁目「AiSOTOPE Lounge」。詳細は、情報公開され次第、お伝えしよう。

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