第9号 生命保険、そんなに必要ですか?〜「もしも」に備える 同性カップル編

いままでいろいろな書面の知識をご紹介してきました。今月はライフプラン上よく話題になるテーマを、同性カップルバージョンで考えてみましょう。人生で最大の買物(次回)と、2番目の買物と言われるもの(今回)についてです。

●郵便局のかんぽ生命は同性間でもOK

同性カップルと生命保険の話は、この業界、関心の高いものの一つですね。
生命保険の受取人は、保険会社との契約自由の原則で本来、だれにしてもかまわないはず。当然、自分の同性パートナーを指定することもできるはずです。しかし、なぜか日本の生保会社には「2親等」規定があって、2親等内(配偶者、親、子、きょうだいなど)の人を指定しないと契約できない。かつて社会問題化した保険金殺人事件の影響と言われています。当然、法律上なんの規定もない、要するに「友人」にすぎないパートナーは、養子縁組でもしないかぎり、受取人にはできない……。
まさに日本の同性愛者差別の象徴、「だから同性婚が必要! パートナーにも生命保険を!!」、そういう声も聞こえます。あるいは、パートナーを受取人にできる保険会社があるらしいと聞くと、「え、どこどこ? 教えて!」と関心殺到。「ここだけの話ですが、ワタシなら同性パートナーの生保加入を請け合えます」と営業する業者も……。その人に頼まないことには保険に入れない、とばかりに。
最初に言いましょう。全国津々浦々にある郵便局で申し込む「かんぽ生命」は、2親等規定がありません。パートナーを受取人にして生命保険に入ることができます(以前の簡易生命保険法からの継続だそう)。窓口で確かめましたし、実例も知っています。保険金の上限は1千万円ですが、万一時にそれだけあればいいという人は、郵便局で申し込んでください。もちろん、「この受取人は誰ですか?」「なぜこの人に?」と聞かれるでしょう。ぜひ、「パートナーです」と答えてください。「それでなにか問題がありますか?」と。これは、日本に同性婚制度ができたところで、おなじことです。「僕の夫です」「私の配偶者です」、そう言うしかないでしょう。黙って入れる保険はない。声を出すことでしか、権利は得られません。
1千万以上の保険に入りたい場合は? 一部に入籍しない事実婚パートナーも「配偶者」として受取人に認めている保険会社があり、住民票や公共料金の請求書等で同居(生計同一)およびその年数を証明します。そのなかに現在1社だけ、異性/同性を問わないところがあるとのこと。
ただ、保険会社として「同性カップルのための保険」をうたっているわけでなく、たんに性別不問ということで契約にこぎつけるものですから、担当営業パーソンの社内稟議書類等がものを言うようです。私は、「そういう不確定なことでは、あとで社内審査がひっくり返って契約を差し戻されたり、保険金支払いの段階で揉めたりしないのかな」と思ったのは事実ですが。

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保険のパンフレット、手元にあっただけでも随分ありました。
ご自分が入っている保険の内容について、よく理解されていますか??

● 同性間で本当に生命保険に入る必要はあるのか?

このように、同性カップルと生命保険をめぐっては、なにかとややこしい話があり、それをかいくぐって契約にこぎつけた事例は、ときに羨望や賞賛の対象とさえされるのですが……、ところで自分が亡くなったときパートナーに保険金が下りるという生命保険、どうしても入らなくちゃいけませんかね?
生命保険は、自分に万一のことがあったとき、収入のない主婦である妻や幼い子が路頭に迷うリスクの対策で入るもの。パートナーも職があり自前の収入があるなら(多くの同性カップルはそうでしょう)、あえて保険料を払ってまで生命保険に入っておくニーズはない、と私は思っています。いくらでもお金があって、いろいろな対策を講じる、その一つというならともかく、限りあるお金を合理的に使うことを考えれば、そのお金はむしろ生きているうちに二人で楽しむことに使ったり、貯金しておく(遺産はおたがいに渡るようにちゃんと遺言を作る)ほうが賢明なのではないかと思うのです。少なくともパートナーは、あなたの死亡と引換えにお金を貰うより、あなたが生き続け、自分と一緒に人生を楽しんでくれるほうを望むのでは?生命保険に入れてもらうことで、保険会社に自分たちのパートナーシップを認めてもらったように思うのは、勘違いでしょう。
自分が死んでも暮らしに困る人がいない場合、生命保険は不要というのが私の考えです。これは同性カップルでもシングルの人でも、どちらにも言えることでしょう。
もちろんパートナーになにか事情があり、自分に万一の時にはまとまった保険金を渡してあげたいという場合には、遺産と遺言以外では、さきに紹介したように郵便局のかんぽ生命を検討してみてください。

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同性パートナーも入れる生命保険を探すまえに、それが自分たちのニーズにあっているのかもクールに考えてみませんか?

● 有限なお金を合理的に使うリスク回避策を

日本人は「保険信仰」が強く、保険に入れないとなると不安であり、逆に、保険にさえ入ればなんとかなると思うようです。保険会社は、こんなことが起こったらと、さまざまな宣伝を通じて不安を煽ります(その宣伝費も保険料には含まれているわけですが)。政府にしてからが、所得税に生命保険料控除を設けているということは、国民を生保加入へ誘導しているといえます。
しかし、ご自分の身の上に起こりそうなリスクをしっかりシミュレーションし、それは保険で備えるのがいいのか、貯金があればなんとかなるのか、そこは考えどころです。保険もタダではありません。
また、強制加入である社会保険(健康保険や公的年金。保険料は給料天引き)でも、じつにさまざまなサービスが受けられます。高額療養費、傷病手当金、障害年金……聞いて、ああ、アレね、と思い出せない人は、ちょっと調べてみてくださいね。それらもきちんと把握したうえで、それでも足りないものがあった、他にも入るお金に余裕がある、というときにはじめて民間の保険の加入を検討してはどうでしょうか。
もちろん保険には、生命保険だけでなく、いろいろな種類があります。乗り物(車、バイク、ロードバイクなど)に乗るなら事故に備えて適切な損害保険に入ったほうがいいですね。ペット保険、旅行保険、スポーツ傷害保険なども同様です。
不動産(家)を買い、万一時にはそれを遺言でパートナーに渡したい人で、親にカムアウトしていない人は、親を受け取り人にして生命保険に入っておくのは一策です。遺言を書いても、親には3分の1の遺留分があります。放棄してくれれば問題ないのですが、不動産しか遺産がなく、親が遺留分を請求すれば、場合によっては家を売ってお金を払う必要があるかもしれません。そのとき保険金があれば納得しやすい。親が亡くなったら、即解約します(きょうだいには遺留分はありません)。
すでに2親等内の人を受取人にして入っている生命保険の受取人をパートナーに変更することは、遺言でできる場合があります。新規加入はあまりお勧めしない私ですが、入っているものは解約しないで活用するのは一策です。

* 保険の見直しや書類の作成、社会保険の情報照会等は、専門家に相談することもご検討ください。

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【おまけコーナー】
今月の4回の連載に、「おまけコーナー」がつきます! まだまだ認知度の低い東中野さくら行政書士事務所のために、パープル・ハンズのメンバーで友人のキャミーちゃんが、得意の4コマ漫画を描いてくれました。事務所でどんなことができるのか、楽しくご覧ください。第1話は「ウェディングはしたけれど の巻」。初回のご相談は無料です。

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