#8 カミングアウトと言霊

 Comment  連載   みっつんのLondon Days              

僕の友達にゲイがいるんだけどさ、そいつが男に恋をして、おたがいに惚れあって……最初は彼もゲイだってことを隠してた。だけど、だんだん平気になって、僕みたいな親友なんかには言えるようになった。だけどある日、そいつは家族の前で打ちあけた、「僕はゲイです!」って。おふくろさんは気絶、オヤジさんはカンカン、親戚一同大騒ぎ。「うちの一族にゲイが出た!」「 あいつはまともじゃない。」……だけど、それからの彼は彼らしくなった。まわりからどう見られようが、自分が男を好きになるのは自然だと思えたから。だから今は幸せそうだよ、男ふたりで一緒に暮らしてる。

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これは、僕が東京にいたころ出演した芝居『愛ってなに?』の中のワンシーン、直接観客の子どもたちに語りかけます。この芝居は70年代にドイツのテアトル・ローテ・グルッツェという劇団が作ったもので、ざっくり言うと、子どもたちのための性教育の芝居。本場ドイツではサーカスの興行のように街を移動し、親子が一緒に見て、愛と性について考えるきっかけを与えるものになっていると、この芝居をやりたいと言い始めたドイツ人の演出家が言っていました。

思春期を迎えた年頃の男の子と女の子が一人ずつモデルロールとなり、その他に話を進める司会者役の男女が一人ずつ、そしてギターや歌や効果音で話に色を添える音楽家が一人、その5人で話は進みます。僕は男司会者の役でした。女の子は胸やお尻の体の変化に戸惑い、男の子は「毎日のようにオナニーしちゃうのってヤバいのかな」って迷ったりすることを観客に語りかけながら、男女司会者がちょっと大人目線でアドバイスしていくのです。好きな子ができた時のアプローチの仕方、初キッスの仕方、初めてのセックスの心得、避妊の方法と大事さ、STD(性行為感染症)やHIVについて(これは原作にはなかったものの僕らで付け加えたり)、最後のシーンは僕が擬人化されたオーガズムに扮し、オーガズムって何か、そしてどうやったら得られるのかまで、コミカルに、でも真剣に正直に伝えていく芝居でした。

芝居全体を通して思春期の子たちに伝えたかったのは、愛するという行為は自然な事、セックスも自然な事、キスのアプローチもセックスのアプローチも、オーガズムへのアプローチも、すべて外側から内側へむけて少しずつ時間をかけること。男の子と言っても人によって感じるところは違うし、女の子も同様で同じ人間はひとりとしていないんだから、なにかセックスについて思う事があったら、恥ずかしがらず口に出して相談すること。そしてそれを伝えるために演出家が常に稽古で言っていたのは、『下品にならずに正直に』ということでした。それがお客さんの心を開く鍵だと。だから、役者同士お互いに、稽古場では自分のオナニーやセックスの経験談を正直に語り合ったりすることで、正直に観客に語りかけるという感覚を練習したりしていました。

そんな、『正直さ』が鍵のこの芝居、人を愛する事やセックスは自然なことだと言い、愛にもいろいろあって、同性愛もひとつの愛のカタチだと紹介するシーンがありました。そう、そのシーンの最後を締めくくったのが冒頭でご紹介したあのセリフ、僕、男司会者のものでした。台本を受け取ったその日、そのシーンの存在を知ったときは衝撃的でした。自分がゲイでそれを隠して生活しているのに、このセリフを言わなきゃいけない……。それでも最初は、プロの俳優なんだから自分と違う人間を演じればいい、って思っていたけれど、いざ稽古が始まると『正直さ』が必要だと言われる。みんな自分の恋愛や体験談を正直に語っているのに、自分は…言えない。この芝居の性格上、みんなが同性愛に対しての理解があるということがわかっているのに、でも言えない。なんだかもう、頭の中はぐちゃぐちゃで、変なプレッシャーに押しつぶされそうになっていました、誰もそんなプレッシャーかけてはいないのに……。

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そのころ、よく通っていた2丁目のバーがありました。お金のないその時代、1杯700円のレーベンブロイを1杯だけ頼み、それで何時間もいさせてもらったりして、本当にお世話になりました。ある日、稽古帰りに寄らせてもらっていつもどおりレーベンブロイを頼み、ママさんとしゃべっていたときのこと。

「今の稽古場でカミングアウトしなきゃだめかなーって思ってるんだけど」
と重たーい感じで相談したら、軽ーく返されたのが、
「無理にしなくていいんじゃない? しなきゃいけないタイミングなんてないし、その時は向こうから勝手にやってくるわよ。ま、自分らしく…ね。」
だって。いやー、それだけで心は随分軽くなりました。

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なんだかうまく説明できないけど、『しなくてもいい』と言われたことで、カミングアウトしたい自分が正直に “ポコン” って産まれた感じでした。それから数日して、 “その時” はあっさりやってきました。実際に稽古をしている時間ではなく、みんなで車座になってあーだこーだと芝居をよくするためのミーティングの最中、『あっ、今だ!』みたいな瞬間があって、

『このシーンのこのセリフが、ずーっと言いにくいんですよね……実は僕自身がゲイなんで……』

みんな、うんうん、そっかそっかーと聞いてくれてたんで、以外にあっさりだったなーなんて思ってたら、2秒後ぐらいに全員から驚嘆の声。人間、人が言ってる事を本当に理解するのって、ちょっとタイムラグがあるんだなーって気づかされるリアルなリアクションでした。共演の女優さんのあの時のコントのような二度見は、一生忘れないでしょう。

そして時は経ち、海を越えロンドン。先日、ヨガ友達とヨガの哲学やスピリチュアルなことを話していたとき、話の流れで “言霊” の話題になりました。日本ではこういう言葉があるんだよって。

『コトダマ – は日本語で言葉に宿る精霊っていう意味で、口から出た言葉の全ては現実になる。いいことも、悪いこともね。』

そんな風に説明していると、ふとあのシーンと自分の経験とが重なり甦るのです。友達へのカミングアウト、そして家族へのカミングアウト、そのとき実家では家族会議が開かれ……、でも3年経った今年、初めて夫を親に会わせることができたこと。いろんな人の助けがあって今があるのだけれど、文字通りこのシーンを自分がさらっているようで、『言霊』ってあるのかなーなんて思ったりしています。もし、この芝居を再演する機会があったら、ぜひまたやりたいし、もっと正直に語る事ができると思う。その時はこのシーンの最後の一文を少し変えたいと思います、こんなふうに。

……だけど、それからの彼は彼らしくなった。まわりからどう見られようが、自分が男を好きになるのは自然だと思えたから。だから今は幸せそうだよ、男ふたりで子どもと一緒に暮らしてる。

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ー黄赤系アプリで使える英会話ー

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Points!
*distracting = 人の気を散らす、紛らす、動転させる。
*appreciate、ここでは相手の発言に対し、(それに価値があるという意味を込めて)理解する、って感覚。ちなみにこの言葉感謝の気持ちを伝える時にもよく使われます。 “Thank you, I really appreciate it.” (ありがとう、本当に感謝します) みたいな感じ。

 

 2014/11/06 06:00    Comment  連載   みっつんのLondon Days              
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