第32回 「猫を飼いなさい」と、老詩人は言った。男同士の付き合いの長続きのコツと、Andrew DePrisco『WOOF! A Gay Man’s Guide to Dogs』

「猫を飼いなさい」と、老詩人は言った。

これは知人に聞いた話。男同士の付き合いの長続きの秘訣を、年下のボーイフレンドと30年以上も一緒に暮らしているという老詩人に訊ねたそうだ。その時の答えだ。猫を飼え、と。さすが詩人である。なかなか含みのある、名回答ではないか。
そもそも、人間。好いた惚れたのといったって、そんな夢心地が長く続くはずもない。つき合い始めてしばらくすれば、浮気の虫も起きようもの。ホモのように、ふたりの関係を外壁から固めておく“結婚”などという制度からも無縁で、手軽にセックス出来ちゃう環境があれば、そりゃ、ヤッちゃうよねぇ(笑)。だいたい、男ってのは、いつだってヤリたい生き物なのだ。そんな男同士のカップルが、関係を長続きさせるのは至難の業である。セックスがふたりを結びつけておけるのは、恋の魔法にかかっている初期段階だけのことだからだ。「女房と畳は新しい方がいい」なんて、フェミニストから叩かれそうな言い回しだが、これまた事実。セックスと色恋は、新鮮な(相手)ほど楽しいものだ。
そこで、「子はかすがい」ならぬ、「猫はかすがい」である。夫婦やカップルといった閉じた関係性では、ともすれば、互いの気持ちが外へ向かっていってしまう。放っておけば、関係自体を崩してしまう。そこで、ふたりの意識を集中させるポイント、つまり、結び目のようなものが必要だ。それが、かすがい。子どもでも、猫でも、共通の趣味や仕事でもいい。逆にいえば、時が経つとともに、「かすがい以外は、ま、それぞれで適当にやっていきましょう!」な関係になっていくということだ。色恋にのぼせた頭では、ちょいと寂しくも思うかも知れないが、それがふたりの関係を長続きさせるコツなのかもしれない。

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『第13回 二丁目 女装紅白歌合戦』のポスター。紅組司会はブルボンヌ、白組司会は元2CHOPO編集長のバブリーナ。そして、総合司会は私。因縁深い三人が並ぶと、まるで有吉佐和子『三婆』のポスターかって(笑)。

さて、先日、年の瀬の12月31日に開催される『女装紅白歌合戦』のフライヤー撮影に行ってきた。これは、NHKの紅白歌合戦になぞらえて、紅組白組に分かれた女装たちがショウ合戦を繰り広げるというもの。今年は、私が総合司会の大役を仰せつかったのである。楽屋で化粧をしていると、セッティングを済ませたカメラマン氏と、会場となる「AiSOTOPE Lounge」の店長ともちかの和やかな笑い声が聞こえてくる。「カワイイ〜!」「たまんない♥」と、いい歳したオヤジ同士の会話とは思えない嬌声である。こりゃ、「9MONSTER」で男の写真でも見ているに違いないと思い、支度もそこそこに彼らのもとへ。案の定、ふたりでiPhoneをのぞき込んではしゃいでいる。
……ところが、iPhoneの画面に映っていたのは、犬。たしかにカワイイが、犬。たまんないが、犬。黒いポメラニアンの幼犬であった。聞けば、カメラマン氏が飼い始めたのだという。カメラマン氏、しまりのない顔で延々と愛犬について語り出した。餌には気をつかってオーガニックを選んでるから食費が大変、とか。彼氏が犬用のマッサージオイルを買ってきた、とか。もうね、バカ。完全な親バカ(笑)。そんなデレデレなカメラマン氏を見守りながら、ついに「かすがい」が必要になったのだね、と思う私であった。

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写っているのは、我が家の愛犬。ダルメシアンのダルビッシュ。おとなしくて手間がかからないイイ子。飼い主に似て、本好き♥(←親バカ)

私のまわりのホモ達、わりと中高年のホモ達の多くが、ガーデニングを始め、ペットを飼い、和食器(!)に凝り始めたりしている。これがゲイのライフスタイルの、三種の神器である。中でも、ホモがペットを愛するのは世の東西を問わないらしく、こんな本まで出版されている。Andrew DePrisco『WOOF! A Gay Man’s Guide to Dogs』

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何冊もの犬の飼育ガイドブックを著している愛犬家Andrew DePriscoが、ゲイのために書き下ろした新刊だ。もちろん彼自身もゲイで、巻頭の献辞には次の様に書かれている。

Dedication
To Tengu, my favorite boy and a wondrous Shiba Inu,
To the memory of the ever-smiling Kabuki,
To the sense-stealing Azuki, our show girl,
To Max, the dog who tracked down my heart, and
To Max’s owner, Robert, the center of my world.

彼は、柴犬のテングと、アズキと、彼の「世界の中心」である恋人のロバートと、彼の飼い犬マックスと共にニュージャージーに暮らしている。それにしても、天狗に小豆に歌舞伎とは! 柴犬だからなのか、もしくは彼自身がアジア系なのだろうか。この本の多くのページを割く「MATCHMAKER A-Z」の章は、さまざまなタイプのゲイと、彼らにふさわしい犬種を紹介している。レザー系、ベア系はもとより、カウボーイ、サイズクイーンに、ドラァグクイーン……と、あらゆるゲイにマッチする愛犬について解説。こじつけとはいえ、なかなか面白い。この中でも、アジア系やユダヤ系、ネイティヴアメリカン、ヒスパニック、黒人……と、人種の多様性にも気を配っているのが、アメリカ的だ。

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上段左から/FASHIONISTA、COW BOY、LEATHERMAN。下段左から/FARM BOY、GUPPY、DRAG QUEEN。

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上段左から/SIZE QUEEN、GAYSIAN、PUMP BOY。下段左から/BEAR、YENTA、TWO-SPIRITS。

この本は、所謂、飼育ガイドブックとして、しつけや手入れの方法、交配や血統証のこと、ドッグショウへの出場までのことが詳しく書かれているが、それだけではない。ゲイの有名人やゲイ・ディーヴァの愛犬を紹介する蘊蓄ページや、ゲイとノンケの愛犬の名付け方の違いを表にしたりするこだわりが満載なのである。もちろん、われらがジュディ・ガーランドの映画『オズの魔法使い』に登場した犬、トトを引き合いに出して、彼女とゲイ・ムーヴメントとの関わりを紹介したりもしている。なんともアメリカ的な一冊だといえる。犬なんて飼う気もない人、飼いたくても飼えない人でも、Jason O’Malleyのイラストが満載で、手元に置いておくだけでも楽しい気持ちになる。

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ゲイ・ディーヴァと愛犬の一覧表。エリザベス・テイラーは、マルチーズとシーズー。ベット・ミドラーは、ジャック・ラッセル・テリア。シェールは、秋田犬なんだって。

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ゲイとノンケの愛犬の名前の付け方の違いを一覧表にしてある。小型犬は、ゲイだと、CoCo、Ginger、Kylie……。ノンケだと、Angel、Fifi、Sugarなんだって。ホントかね(笑)。

さて、「子はかすがい」である。ゲイやレズビアンのカップルが結婚することが当たり前になってくると、子どもが欲しくなるものらしい。実際に子育てをしているカップルもいる。子供を作ろうと頑張っているカップルもいる。同性婚の法整備すら出来ていない日本では、その努力には頭が下がる思いだ。もちろん、子どもを欲しがる気持ちは、同性愛者も異性愛者も変わらない。不妊で苦しむ親のことが話題になることも多い。人工授精に代理出産……。私のような人間からすれば、「なにもそこまでして」と思ってしまうぐらいだ。生殖医療が進歩したとはいえ、その恩恵にあずかれるのはごく一部であろう。裕福であったり、恵まれた環境にいる人たちに限られる。子どもが持てる人と、持てない人との間にますます格差が生まれているようである。過熱する報道で、なりふりかまわず子どもを欲しがる親たちを見ていると、どこか狂信的で、カルトな印象さえ受ける。 それほどまでに「子はかすがい」の呪縛は強いものなのか。
欲しければ、手に入れられた方がいい。それはそうだ。だが、なんでもかんでも手に入れられることが豊かなのではなく、たとえ手に入れられなくとも幸せを感じて生きていけることが、本当に豊かな社会であり、豊かな人生といえるのではないだろうか。私のような人間は、そう思うのである。


Andrew DePrisco『WOOF! A Gay Man’s Guide to Dogs』(BOWTIE PRESS/2007年 発行/ISBN1-931993-86-6)

そこで、「猫はかすがい」「犬はかすがい」である。こんなこと書くと、犬猫と子どもを一緒にするな!と怒られそうであるが(笑)。それでも、そもそも子どもが作れないホモにとって、家に(恋人以外で)愛情を注ぐ対象がいるというのは幸せなことである。ペットの話をするホモ達の顔は、皆、デレデレである。古くからの友人のDJ TOMO ASAHINAも、実家の母親のために猫を飼い始めたという。母親のためとは言いながら、親バカぶりは彼の方が上らしい。仕事で顔を合わせるたびに、愛猫の写真を見せられる。最近は、写真じゃなくて動画になった(笑)。あのハンサムな顔をクシャクシャにして、猫自慢をするASAHINAが可愛くてしょうがないのである。
そのASAHINAが、DJ活動20周年を迎える。来る11月14日(金)、『20th Anniversary Party』を開催する。彼が所属する、イギリスの爆発的な人気を誇るダンスミュージックレーベル「Fierce Angel」のMark Doyleも来日。彼にゆかりのDJやDQも総結集! こりゃ、すごいパーティになりそうだ。万障お繰り合わせの上、ぜひ、ご来場されたし。もちろん、私も出演。なんとかして、この老いさらばえた化けネコの飼い主を探し出すつもりなのである(笑)。

20thanniversaryFlyer

『20th Anniversary Party』日時:平成26年11月14日(金) 22時〜、会場:渋谷「amate-raxi」、料金:3500円1ドリンク付き。詳細は、http://www.amrax.jp/schedule/event.php?id=1714

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