第33回 三島由紀夫自決の謎に迫る、切腹のエロスと美学。『SM ファンタジア』1972年10月号

「三つ子の魂百まで」、という。幼い頃の性状は生涯変わることはない、という意味だ。幼少期に受けた感銘や心傷も、一生、忘れることはない。とはいえ、歳とともに記憶力は衰える。先日も、同じエロビデオをまた買ってしまった。ネットで「やだぁ、この子、エロい!」と思って、ポチッと。届いたDVDを見ていたら、なんだか見たことのあるような気がして……。調べたら、持っていたことを忘れてしまっていたのである。悔しい思いをした(笑)。

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ちなみに重複買いをしてしまったのは、これ。BEASTの『衝撃の全員アナルSEX!! ノンケのエロ尻オンパレード編』である。深津慎平君(ジャケのモデル)の喘ぎっぷりが、実に素晴らしい!

冬が近づくこの季節になると思い出す光景がある。子供の頃住んでいた家の居間で、ひとりテレビを見ていたある日のことだ。時は、1970年。私は9歳、小学生である。部屋の様子やテレビの形、こたつ布団の柄までもありありと思い出せる。なぜ、その日のことに限って、切り取ったかのように鮮明に記憶しているのか。それは、私が見ていたテレビのせいなのである。ブラウン管 ─ 液晶ではない(笑) ─ に映されていたのは誰あろう、三島由紀夫であった。
もちろん、当時の私は三島が何者であったか、知ろうはずもない。そこには、カッコイイ制服のお兄さんがいた。腕を振り上げなにやら喋っているが、子どもにはまったく分からない。ただ、モノクロ画面ごしに騒然とした雰囲気が伝わってきた。ただただ、その映像だけが強く強く印象に残った。
かの人物が三島由紀夫で、有名な作家であり、あの後に割腹自殺を遂げたことはずいぶん後になって知ったはずである。ああ、あの時の!と思った記憶がある。さらに、彼が、世界で最も有名な日本人ホモであることを知ったのも、もっとずっと後になってからである。なにも知らない子どもが引きつけられるように、市ヶ谷自衛隊駐屯地のバルコニーで演説する三島の姿だけを鮮明に記憶したのか。いまとなっては後付けの解釈にしかならないが、当時の私はすでに、あの時の三島が発散するホモ的な匂いを嗅ぎとっていたのだろう。なんだか分からないが強烈な印象が、あの時の部屋の光景とともに私の記憶に深く刻み込まれたのである。両者を引き寄せる引力のようなもの。世代や時空を超えて通じ合う何か。そんなものがあったに違いない。いまになって思えば、それこそが“オカマ魂”なのである。

性自認も曖昧で、セクシャルオリエンテーションさえおぼつかない、第二次性徴前の少年をして、その心を捕らえて放さないほど、あの時の三島はホモ臭かった。雄々しく振る舞おうとすればするほどにじみ出る、ホモ臭さ。制服への偏愛がブラウン管越しにも伝わってくる、性的な匂い。そんなものを9歳の私は見事にキャッチしていたのである。それを“オカマ魂”と言わずして、なんと言おう(笑)。
噂話では、割腹自殺した三島の直腸からは男の精液が出てきたという。三島の介錯をし、自らも切腹して果てた「楯の会」メンバーの森田必勝のものであると、まことしやかに語られてもいる。つまりだ、自決直前に三島と森田は、一発、ヤッていたのである。おお! エロスとタナトス!! まるで、ホモ小説そのままである(笑)。
三島について研究した書物は、星の数のようにある。中には、三島の割腹自殺を、自らの腹部を女性器になぞらえて、そこに刀=男根の象徴を突き立てることで、己の同性愛願望を成就させようとしたと分析したものもあった。三島にまつわるホモ伝説の数々。真偽のほどは定かではない。これからの調査研究を待ちたい。

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さて、今回は、三島をも惹きつけた切腹の美学を、エロス方面から探ってみたい。紹介する本は、『SM ファンタジア』1972年10月号、「切腹絵巻/切腹小説 特集」である。
『SM ファンタジア』は、『Deluxe Qt! 』臨時増刊号として「檸檬社」より出版された。縦17.7センチ横11センチ厚さ1.5センチという判型は、60年代末に創刊され爆発的に売れたヤングアダルト向け雑誌『ポケットパンチ Oh!』の人気に乗じたものだろう。この時期、ポケット版サイズの類似雑誌が(もちろんエロ本も) 山のように出版された。そんな中の一冊である。編集発行人は、高倉一。彼のことは本連載でも何度か取り上げてきた。興味深い人物である。彼が手がけた雑誌(SM雑誌)であるからには、当然、ホモ要素がきちんと取り入れられている。さっそく特集ページを見てみよう。

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まずは、「切腹絵巻」である。カラー口絵で、切腹をテーマにしたイラスト作品が掲載されている。絵画としての技巧の上手い下手は別として、こうした作家の欲望に直結した表現には、実に味わい深いものがある。個人的には、前田海の『処女腹切り』シリーズがお気に入りだ。眼鏡で白衣を着た女性の切腹シーンを描いた、一枚目の『あかし腹』が特に素晴らしい。女医かとも思われるのだが、付近に杖が転がっていることや、目が赤く塗りつぶされている(=黒目がない)ことから、もしかしたら按摩ではないかとも考えられる。後れ毛がエロいなぁ。

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続いて『華麗なる切腹の世界』と題し、切腹の作法を順を追って写真で解説している。添えられた「悽烈、悲壮、哀痛 ─ 切腹のもつムードたちこめて悶悦の時が流れる!」のコピーが興奮を伝える。なにせ、「悶悦」なのである(笑)。

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いよいよホモ部である。三島剛の『若者切腹絵巻』。2見開きに渡り、4点の作品が紹介されている。三島剛は、いわずとしれた“男絵師(by 田亀源五郎)”。ホモ雑誌『さぶ』『薔薇族』などで活躍したので、記憶にある人も多いだろう。テクニックもしっかりとしていて上手い! 先述の前田海『処女腹切り』と比べれば、その画力は圧倒的であることが分かる。 とはいえ、その両者が並んでいるところがエロ本の良さだ。エロ本においては絵の上手さではなく、リビドーの強さがプライオリティ(優先順位)なのである。両者とも、切腹に対するエロスの強さでは互角だからだ。
そして、船山三四の作品をはさみ、『切腹小説 名作力作 特選集』のトビラへ続く。掲載の5作品の目次である。『競技服腹切り 南海の女白虎隊』から『幕末落城哀話 二輪の菊』へと続く。『二輪の菊』は、タイトルからしてホモものかと思われるが、残念。レズものなのである。
ホモものは、次の『壮烈敵前割腹 丘の上』と『衆道恋慕心中 花の若衆』の2本である。5作品中2作品がホモものというバランスが、さすが高倉一!と思わせる編集の妙である。しかも、『花の若衆』は、ほんのり女装〜トランス臭を感じさせる作品であるのも心憎い。

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昭和19年。敵地中国の丘陵地帯にただ一機不時着した、西川中尉と同乗していた中野伍長。進退窮まれりと悟った中尉は、機密書類を飛行機もろとも爆破し、潔く自決する覚悟を決める。西川中尉は「陸士出身で剣道三段、春秋二五歳、白皙の美丈夫」、一方、中野伍長は「年歯わずか十八歳、第五機少年航空兵の中でも随一の美少年」である。自決の時をひかえて二人は……。

 今こそ中尉は長い間胸の奥に秘めてきた思いを、伍長に向かって告白しなければならない。そして、伍長は、なんのためらいもなく、それを受け入れてくれるだろう。中尉は言った。
「いいか、中野伍長、(略)日本人らしく、りっぱに腹を切って死のうと思うんだ。腹を切るのはかなり痛いが、帝国軍人の最期にふさわしい、壮烈な死に方だ。どうだ。キサマもやってみるか」
中尉がこう言うと、伍長は目を輝かせて、
「自分も、中尉といっしょに、りっぱに腹を切って死ぬつもりであります」
と、きっぱり答えた。
(略)
「割腹と言っても、容易なことではないぞ。われわれは、支那人どもの目の前で割腹するんだから、りっぱにやれば、日本人全体の名誉になるし、失敗すれば、日本全体の恥だ。いざという時にあわてないように、今から練習しておこう」

というわけで、中国の丘の上、二人は切腹の予行練習(笑)を始めるのだった。

 日の丸はちまきをしめた中野伍長は、美しい顔を上気させて、短刀のさやで、夢中になって腹をこすっている。白い下腹部が、かぎ形に赤くなっている。
その姿を見ると中尉は、腰のあたりがうずうずとして、熱いものが激しく突き上げて来てたまらなくなった。
「中野、俺は……」
と言いかけて、伍長の手をぐっと引き寄せると、その若々しい裸身を、両腕でガバと抱きしめて、頬をすり寄せた。全身の血潮がたぎった。そして、伍長を毛布の上に押し倒し、あえぎながら、
「おれは、キサマがかわいくてならんのだ。キサマ、おれの弟のなってくれ。いいな」
と言いながら、伍長のなめらかな肌をなで回した。
「ああ、中尉殿。自分も、中尉が大好きであります。(略)」
(略)
「中野。おれとキサマは、生きるも死ぬもいっしょだぞ。キサマの身も心も、おれのものだ。おれの身も心も、キサマのものだ。さあ、見せてくれ。おれのも見せてやるぞ」
と言いながら、飛行服をぐっと押し下げた。それから伍長のも下げてやった。
中尉の下帯の前袋は、突き破らんばかりに盛り上がっていた。そして、伍長も同じように興奮しているのが、中尉を狂喜させた。

ふたりの恋の成就と蜜月の時はつかの間に過ぎ、いよいよまわりを中国人に取り囲まれた二人に、自決の時が迫った。

「帝国軍人の切腹というものが、どんなものすごいものか、終わりまで、よく見届けて語りぐさにしろ」
と大声で言った。ふたりは両手をあげて、
「天皇陛下万歳」
を絶叫した。そして、刀を右手に握りしめた。

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後に二人の自決の報せは新聞に「『帝国軍人の亀鑑』『壮烈白虎隊魂』『死して護国の鬼とならん』『諸肌脱いで血戦凄烈十文字腹』など悲壮な文字を連ねて、読者を軍国的な興奮へと導いた」と書かれ、この小説は結ばれる。ま、そんな精神性で戦争なんかやるから、結局、日本は大敗して、多くの若者を死なせてしまうのだが、それはさておき(笑)。戦争、敗戦、自決……心傷ともなる原体験を、いつしか性的快楽と興奮へと変換してしまうエロスというメカニズムは、つくづく興味深いものである。思想と政治とエロスとが混然となった三島切腹は、それゆえにいまだに不可解な大事件として語られ続けているのである。

おそらくこの小説が読まれていた世代(であり、三島にとって)は、切腹はいまよりも身近であったはずだ。親族の中に、もしかしたら戦争で自決した人がいたのかも知れない。子どもの時に、そうした話を聞かされたのかも知れない。それが引き金となって、切腹マニアに育つのではないか。「三つ子の魂百まで」、である。
最近では、映画やテレビでもそうそうお目にかかることのない切腹シーンであるが、切腹のエロスに取り憑かれたマニアは、現在もなお意外と多い。その代表は、早乙女宏美氏である。2002年には『早乙女宏美切腹写真大全』を出版。いまも各地で切腹ショウを行っている。かたや、ホモの世界では目立った動きをしている人を、私は知らない。切腹マニアのホモの方は、是非とも「2CHOPO」経由でご連絡を頂戴したい。

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『Deluxe Qt! 』1972年10月 臨時増刊号『SM ファンタジア』(編集発行人 高倉一/檸檬社/定価300円)

三島が自決を遂げたのは、11月25日。私は彼の命日となるその日の前夜、『BALL』というイベントに出演している。ドラァグクイーンのBibiy Gerodelleが主催する、ニューヨークのハーレムで開かれるパーティをコンセプトに、ゲイカルチャーにフォーカスした新感覚のダンスイベントだ。この日は五周年ということで、マドンナのバックダンサーも務めたJAVIER NINJAも来日、出演する。「HOUSE of NINJA」の若きマザー。“オカマ魂”溢れる彼のヴォーギングは、本当に素晴らしい! ハウスでは、マザーの称号は母から娘へと受け継がれるように引き渡されていく。“オカマ魂”の継承である。子どもをなさないホモは、こうして次世代のホモへと遺伝子を繫いでいくのだ。私も三島に倣って精一杯着飾って(!)、彼から受けた“オカマ魂”を語り伝えていきたいと思う。それが私の、オカマ三島由紀夫への弔いなのである。

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『BALL』日時:2014年11月24日(月・祭)17:00〜22:30、会場:青山「Velours」、料金:3500円。詳細は、https://twitter.com/BALL_TOKYOhttps://www.facebook.com/pages/BALL/332861530156042で。

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