おすぎさんにキスをされた話―③

 

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体調を心配してくださったあと、おすぎさんは「私たちの時代なんかはダメだったけど、今の子はちゃんと(性別を)変えられるものねえ」と笑顔でおっしゃる。おすぎさんの肌はすべすべで、Aさんと「お若いですよね」なんて驚きながら腕にさわったりしていると、おすぎさんは酔いも手伝ってか、手を握ってくださった。そして唐突に「芯を強く持って、生きるのよ」と目を見ておっしゃる。そしてそのまま自然な流れで当たり前のようにキス。私と。

全然拒否感なんかなかったし、むしろすごくうれしかった。きっとAさんもそうだったんだろうと思う。もう、自分は小さい、と思った。なにもかもどうでもいいほど包み込まれた。元男性だのオカマだの性同一性障害だの何と思われようと、偏見を持たれていようと偏見を持っていようと、キスしようと思えばできちゃうし、キスを受け入れさせることもできるのだ。

その後もおすぎさんは陽気にテーブルを行き来していろんな友人知人にからみ、かといって節操なくふるまうわけではなく、Aさんだけに十何度もキス。私にも数回キス。そしてハグ。セクシュアリティなんてどうでもいい。小さい小さい。

最後に「最近のいろんなこと、教えてね。今度対談でもしましょう」なんておすぎさんはおっしゃって、お別れしました。

これだけで私の長年の胸のつかえが完全に取れたわけではないけれど、心はこうして少しずつ解きほぐされていくものかもしれない。

この事実をシンプルに一文にすると「酔ったおすぎさんにキスをされた」ということになり、陳腐なネタ話として流れますが、そんな話の中にちょっとした真理があることもあるのです。

 

おわり

 

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