第15号 HIV陽性者の老後を考える~「ボクの老後はどこにある?」④

●12月は「エイズ学会」へ出張、取材

12月1日は世界エイズデーでしたね。
性的マイノリティは、ゲイコミュニティを中心にHIVとも無縁ではいられない人びとです。きっとあなたのまわりにもHIV陽性の恋人・友人・セクフレ・知人がいたり、あなた自身がポジティブだったりするかもしれません。「僕らはすでにHIVと共に生きている。We are already living with HIV. 」私も、このリアリティを欠いて(あるいはわざと欠落させて)LGBTとか虹色とかレインボーとか「無邪気」に語る言説は、あまり信用しないようにしています。

さて、この時期恒例の日本エイズ学会(学術集会・総会。第28回)が、今年は12月3〜5日、大阪で開催され、私も参加・聴講してきました。エイズ学会には、他の学会には見られないユニークな特徴があります。

 遺伝子などの研究をする「基礎医学」、治療や看護、カウンセリングの「臨床」、予防啓発やサポートなどの「社会」、この3領域が合同で学会を行ないます。学者もお医者さんも、NGOやコミュニティセンターのスタッフも、みんな対等な立場で参加します。

 さらに、HIV陽性者自身も参加します。病いの当事者として、治療やサポートの最新情報を得るとともに、陽性者自身が予防の担い手や治療・支援の改善を提案する役割を果たしています。学会参加費や交通費を助成するスカラシップ制度も実施されています。

 学会ではエイズで亡くなった人びとを追悼する「メモリアルサービス」などユニークなプログラムも組まれ、遺族やゆかりの人、宗教者も参加します。一部は市民公開プログラムもあります。

さらに今年の学会では、いくつかの特徴的な動きもありました。

 エイズ学会を中心としてさまざまな関連イベントを集中的に開催する「大阪エイズウイーク」が取り組まれました。私も学会出張のついでにそのいくつかを楽しむとともに、大阪のゲイ向け啓発ステーション「dista(ディスタ)」が企画した「南界堂茶会 中高年世代♂♂とエイズ」にゲストとして参加しました。国のエイズ啓発予算の削減のため狭くなったdistaですが、立見も含めて30人近いお客さんでビッシリ。ゲイバーマスターと私、distaスタッフとで、ゲイの老後をどう生きるかをテーマにトークを繰り広げましたよ。

 エイズはゲイ以外のセクシュアリティやジェンダーの人には関係が薄いのでは?「大阪エイズウイーク」では、関西でエイズに取り組んできた女性たちによる「ぼちぼちシスターズが語る関西のエイズ対策とおもろい仲間たち」も開催。その番宣(?)動画も見ものです。また、上記イベントはもちろん、学会本体でも活発に発言していたのが大河りりぃさん。MTFトランスジェンダーでセックスワーカーの立場から、セックスワーカーへの啓発や支援などを中心に訴えていました。HIVを捉える裾野も少しずつ広がっているようです。

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●HIVの老後は、ほぼゲイの老後

さて、私がエイズ学会に参加するのは、性的マイノリティの高齢期に取り組むNPO法人パープル・ハンズとして、HIV陽性者の老後について知見を得るのが目的です。HIV感染後、若くして亡くなったのは昔話。いまは治療の進歩で長期療養が可能になり、陽性者の平均寿命は非陽性者と10歳違いに迫ったという報告もあります。とはいえ、高齢HIV陽性者には、医療のこと、社会的擁護のこと、さまざまな課題があります。

 非陽性者よりも10年早く、加齢が進行するといわれている
本病(HIV感染症)とともに、年齢相応の病気の対応が必要
認知症、骨粗鬆症、悪性腫瘍(ガン)が有意に高い
介護関係でHIVへの理解が乏しく、受け入れやケアを拒否される事例も
腎障害から透析へ移行しても、透析クリニックの拒否が多い
ゲイ/バイ男性で、独居、家族と疎遠など、孤立しがち
キーパーソン(同性パートナー)がいても、法的家族関係にない
若いときからの離転職や不安定雇用のため、貧困に落ち入りがち(老後はとくに深刻)
アルコール、ギャンブル、薬物、セックス等の依存症の問題
うつや引きこもり等のメンタル面の問題……

こうした課題が集中して現われるのが、まさにHIV陽性者の高齢期です。ゲイの老後はHIVの老後でもあり、HIVの老後はほぼゲイの老後—-異論はあるでしょうが、私はそう思っています。
厚生労働省エイズ動向委員会のまとめを見ると、2013年の新規感染者は1,106人で、男性同性間は70.5%。不明や異性間と答えた人にも男性間がいると推測され、実割合はさらに高いでしょう。発病でわかったエイズ患者は484人で、男性同性間の性的接触は56.4%。中高年での発症が顕著で、検査機会のさらなる提供や既婚ゲイへの啓発にも留意が必要です。しかし、この実態にもかかわらず、いまでもゲイ・バイ男性の存在をあえてスルーする医療者や研究者、行政担当者は少なくありません
長期療養による老後課題の登場、そして事実上ゲイを中心とした疾病。この交差点に、パープル・ハンズのような性的マイノリティの高齢期サポートに取り組む存在の必要性があると考えています。

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HIV支援の最近の注目課題は、陽性者の(再)就労と、近年発生が著しい薬物依存です。サポートのためのさまざまな資材が、厚労省の研究費などを使って、NGO等により作成され、多くはPDFでも公開されています。ぜひ、ご利用(陽性のお友だちに紹介)ください。
地域におけるHIV陽性者等支援のためのウェブサイト
職場とHIV/エイズ ハンドブック」(人事・労務向け、東京都作成)
職場とHIV/エイズ ハンドブック」(職場同僚向け、東京都作成)

●エイズ学会での「老後」報告例から

さて、高齢HIV陽性者の課題はまだこれからで、エイズ学会でもシンポジウムが組まれるほど大きな課題とは認知されていませんが、いろいろな分科会ではチラホラ報告も出るようになりました。

ACC(国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)は、日本のエイズ治療の中心機関で、国内最多の通院者を抱えていますが、その看護師さんから「ACCに通院中の高齢HIV感染者の現状」という報告がありました。
2014年1月1日で70歳以上の患者42名(男性36、女性6。うち男性同性間感染は26)
併存疾患は、糖尿病(8)、悪性腫瘍(4)、ペースメーカー(2)、慢性腎不全(2)。
社会背景は、生活保護(10)、独居(20)、サポート者無し(13)など。
福祉利用は、訪問看護(1)、デイサービス(1)、施設入居(1)。
*利用には、ACCが仲介して医療説明を行なっているとのこと。
多くの患者は定期通院や服薬管理が行なえているが、今後、受診が困難になった場合やサポートがいない人のサポート作りが課題、とのことです。介護事業者への理解促進、そして独居や認知症の場合のサポート(死後事務まで含め)が課題でしょう。

昨年、国内1000人あまりの陽性者が参加した大型ウェブアンケート「Futures Japan」の結果も、さまざまなかたちで報告されましたが、「老後に対する不安」も紹介されました。
有効回答913名(男性95.9%、女性3.7%)、平均年齢は38.1歳。
回答者の93%が老後への不安を感じていました。その中身は、今後の病状の心配はもちろんですが、「生活を手伝ってくれる人の不在」「長期入所施設に入れるのか」「在宅サービスなどを使えるのか」など、孤立、療養・介護の受け入れを心配しています。また、老後はだれの世話になりたいかについては、「パートナー・配偶者」という答えが約半数でしたが、「だれも思いつかない」「だれの世話にもなりたくない」という回答もそれぞれ20%強あり、自身をみずから孤立させている心理に私は切ない思いを感じました。
こちらのページの中段にも、結果が紹介されています。

この号が掲載される頃はクリスマス。世界の平和といのちの意味について考える季節でもあります。
HIVというまだ制御されきってはいない小さな小さなウイルス。あなたのすぐそばでそのHIVとともに生きている人びとについても、この時期、少し思いを馳せていただけたらと願います。

 


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