第39回 毛ジラミ持ちのジェイムズ・ディーン、白粉野郎ヴァレンチノ。ハリウッドのホモ総ざらい。ケネス・アンガー『ハリウッド・バビロン』

 

年末ともなると、これまでの一年を振り返ったりするものだ。その例にもれず、私も、これまでに書いた記事と紹介した本を振り返ってみた。われながら、くだらない文章と、ど〜しよ〜〜もない本ばかり。著者作者の皆さんには申し訳ないが、古書的にも二束三文。学術的な価値もないような、本当にど~しよ~~もない本ばかりである(笑)。半世紀も生きてきて、こんなど~しよ~~もない本を必死で集めている私の人生とは、いったい何だったのだろう。一抹の不安とさびしさを覚える夜は、つめたい。
しかし、この人生。もしかしたら、こうなるべくして、こうなったのだ。それは、一冊のホモ本との出会いがきっかけだったように、いまにして思う。あれは高校2年生。近所のスーパーで開催された、古本市かなにか。中二病ならぬ、高二病。ホモをこじらせていた私が手にしたのは、ケネス・アンガーの奇書『ハリウッド・バビロン』だった。
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PARCO出版版の『ハリウッド・バビロン Ⅰ』と、(記事とは関係ないが)フィルムに映っているのは、“おサルさんになったジェイムズ・ディーン”の写真。流出写真の歴史の輝かしい一枚。そして、ジョージ・プラットラインズ撮影の“髪の毛のある頃のユル・ブリンナー”。今も昔も、スターになるためには脱がなきゃいけないのだ。
このときに買ったのは、上の写真で紹介しているPARCO出版社版ではなく、1978年に最初に邦訳出版されたクイックフォックス社版だ。当時の私は、映画だけが友だちの、ホモ。スクリーンで繰り広げられる絵空事の中でだけ、自分の感情をあらわにすることが出来たからだ。
そんな映画少年だった私が、何気なく手に取った大判のその本には、往年のハリウッドのスター達が満載。きらびやかで、美しい。そして、どこか嘘くさい撮影所のセットの写真に魅了された。むさぼるように読み進めるうちに、これが、ただの映画本ではないことに気がついた。
それは、1915年、ハリウッドの黎明から、1969年のシャロン・テート惨殺事件が象徴するハリウッド帝国没落の日まで。夢の王国に君臨した神々 ─ スター達のスキャンダルとゴシップばかりを集めた本だったのである。
『ハリウッド・バビロン』には黄金時代のハリウッドのさまざまなスキャンダルが集められている。エリッヒ・フォン・シュトロハイムやD・W・グリフィスの乱費があげつらわれ、ファッティ・アーバックル事件やデズモンド・テイラー殺害事件はハリウッド退廃の証拠となる。ハリウッド・スターたちの性的放埒、酒やドラッグへの耽溺が暴露される。
(柳下毅一郎『映画の罪』、PARCO出版版『ハリウッド・バビロン Ⅰ』巻末の解説より)
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男装の麗人としてスクリーンに現れたマレーネ・ディートリッヒは、男も、女も、虜にした。スクリーンに映し出された表象と、私生活とは切り離せない。
もちろん、同性愛がらみのスキャンダルやゴシップも欠かせない。
 事実であろうがなかろうが、同性愛話は一番人気だ。フォックス撮影所の関係者で、F・W・ムルナウ監督が同性愛(注/ゲイとルビ)の役者ばかりを優先して起用することは周知の事実だった。そのムルナウが一九三一年に事故死した際には、さまざまな憶測が飛びかったものだ。
(ケネス・アンガー『バビロンのおしゃべり雀』、『ハリウッド・バビロン Ⅰ』より)
スキャンダルの祭壇に生贄として供されたのは、ムルナウばかりではない。
 マレーネの女友達は一団となって、“マレーネの裁縫サークル”なるものを結成。それはナジモヴァ一派のようなレズビアン集団ではなく、マレーネ同様、どちらにでも転ぶ、陽気な遊び人の集団だった。
(ケネス・アンガー『バビロンのおしゃべり雀』、『ハリウッド・バビロン Ⅰ』より)
 一九六八年、ラモン・ノヴァロの奇怪な死は、過去のハリウッドの血なまぐさい事件を彷彿とさせた。優雅に暮らして天国に召される日を待っていたこの老人は、四十五年前にヴァレンチノから贈られたアールデコ調の鉛の張り型で喉をつき刺され、自らの血で窒息死していた。
(ケネス・アンガー『ハリウッドの黄昏』、『ハリウッド・バビロン Ⅰ』より)
「アールデコ調の鉛の張り型」とは! さすがハリウッドスター、やることが違う(笑)。でも、こんなモンをアナルに入れていたら、殺害されるよりも前に、鉛毒で死んでしまっていたことだろうが。そんな粋なプレゼントの送り主であった、絶世の美男ルドルフ・ヴァレンチノもまた、多くのページを割いて、彼の同性愛ゴシップが紹介されている。
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映画『血と砂』のセットでくつろぐ、“ピンク・パウダー・パフ(白粉野郎)”こと、ルドルフ・ヴァレンチノ。(ケネス・アンガー『ハリウッド・バビロン Ⅰ』口絵より)
男性用化粧品の宣伝に名前を貸したヴァレンチノを、『シカゴ・トリビューン』紙の論考委員が揶揄した。「おしろいの自動販売機! 男性用洗面所に! アメリカ男性の総ホモ化か!? どうしてもっと以前に、ルドルフ・グリエーモ ─ 別名ヴァレンチノを抹殺しておかなかったのだろう?」「さらに結婚相手がいずれもレズビアンであったことが世間に知れ、彼の“男らしさ”に対する疑問は、ますます深くなった。」(ケネス・アンガー『ルディの評判』、『ハリウッド・バビロン Ⅰ』より)
これを受けて、ヴァレンチノは『シカゴ・トリビューン』紙に「り合いも辞さぬ剣幕で果たし状を突きつけた」。果たし状とはなんとも時代錯誤だが、クイーンズベリー侯に決闘を挑んだオスカー・ワイルドを思い出させて、個人的に大好きなエピソードである。ヴァレンチノのこのエピソードは、ケン・ラッセル監督の映画『ヴァレンチノ』によく描かれている。ケン・ラッセルは『ハリウッド・バビロン』を下敷きにしたのではないか、と思われるほどだ。
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ケネス・アンガー監督作品『スコルピオ・ライジング』のワンシーン。
映画好きのホモ少年を虜にしたこの本の作者が、自らも映画を撮っていることを知ったのは、“オカマのコンちゃん”こと今野雄二の著書『恋する男たち』であった。ホモセクシュアル・ムービー不滅の金字塔、アンダーグラウンド・シネマの最高傑作と誉れの高い『スコルピオ・ライジング』の監督こそが、ケネス・アンガーであったのだ。これを知ったとき、愕然としたね。何気なく手に取って愛読書となった本の著者がホモであった! 類は友を呼ぶ。ホモはホモを呼ぶ、である。
以来、アンガーの作品が上映されるたびに足を運び、全作品を観た。国内外で発売されたアンガー関連の書籍、ビデオをことごとく買い漁った。ここら辺が、オタクならではである(笑)。そして、ついに、続編の『ハリウッド・バビロン Ⅱ』が、1989年、リブロポート社より翻訳出版された。絶版となっていた『ハリウッド・バビロン Ⅰ』も再版。アンガーの追っかけである私は、狂喜したのである。
豊富な自殺ネタが印象的な『Ⅱ』だが、同性愛ネタもたくさんである。「ハリウッドでも伝説的なフェラチオ巧者」であったウィリアム・ヘインズ、ビッグ・ビル・ティルデンの少年愛、毛ジラミをうつされたジェイムズ・ディーン、両刀使いのタルーラ・バンクヘッド老後をはかなんで自殺したジェイムズ・ホエール監督……などなど。
だが、『Ⅱ』は、残念なことに筆力の低下が否めない。映画制作に私財を投げ打っていたアンガーが、資金欲しさに柳の下の二匹目のドジョウを狙って書いた、やっつけ感がある。それでも、集められたスキャンダルとゴシップの数々は、悪徳の魔都ハリウッドへの供花として祭壇を華やかに彩っている。
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少年に手を出したおかげで、スターダムから転落したビッグ・ビル・ティルデン。(ケネス・アンガー『ハリウッド・バビロン Ⅱ』口絵より)
映画は、「影」である。私たちが観ているのは、スクリーンに映し出された光の「影」である。「影」には実態はない。作りだされた虚構でしかない。しかし、虚構の中にも「真実」がある。いや、むしろ、虚構の中にこそ「真実」が顕現するのだ。その事実こそ、映画が人を惹きつけててやまない魅力であり、魔力なのである。
アンガーは、光り輝くスター達のスキャンダルやゴシップという「影」ばかりを集めることで、映画という「影」の魅力をあますことなく活写した。私も、映画評論や、映画史の本……たくさんの映画本を読んできたが、『ハリウッド・バビロン』ほど、いきいきとした、リアルな、ハリウッド=映画を描いた本はないのではないだろうか。アンガーは、毒をもって毒を制す。虚構をもって虚構を制す。影もをって影を制したのである。
ここに書かれたスキャンダルやゴシップが、すべて事実かどうか、そんなことはどうでもいい。正しいかどうかよりも、大切なこともある。そもそもが映画という虚構である。虚構をもってしか語れないこともあるのである。
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ケネス・アンガー著、堤雅久訳、海野弘監修『ハリウッド・バビロン』(クイックフォックス/1978年 発行/絶版)
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ケネス・アンガー著、明石三世訳、海野弘監修『ハリウッド・バビロン Ⅰ』(リブロポート/1989年 発行/絶版)
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ケネス・アンガー著、明石三世訳、海野弘監修『ハリウッド・バビロン Ⅱ』(リブロポート/1991年 発行/絶版)
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ケネス・アンガー著、明石三世訳『ハリウッド・バビロン Ⅰ』(PARCO出版/2011年 発行/ISBN978-4-89194-881-8)
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ケネス・アンガー著、明石三世訳『ハリウッド・バビロン Ⅱ』(PARCO出版/2011年 発行/ISBN978-4-89194-882-5)
ひるがえって、ホモ本である。同性愛も、かつてはこの社会に存在していないものとされていた。いわば、虚構であった。同性愛者自身も「影」に隠れて生きていた。そんな、かつての同性愛(者)を語るのに、一部の学術書や研究書ばかりでは事足りぬ。そこから取りこぼされてしまう雑多で、陳腐な、噂話や、与太話の中にこそ、実存の同性愛(者)の姿が描かれているのではないか。アンガーが用いた手法に倣って、私は、雑本、駄本、ど~しよ~~もない本たちを集めることで、いきいきとした同性愛(者)の姿を語りたいのだ。それが、ホモ本である。
マイノリティであることで、それは常に政治利用される危険もはらんでしまう。たとえば、オネエである。この“キモチワルイ”存在は、同性愛コミュニティの中にあっても邪険にされやすい。たとえば、「典型的ないわゆる『オネエ』は登場せず、真っ正面から同性愛者、マイノリティ性を抱える若者の心の問題を扱っているところが、非常に重要なポイント」(2CHOPO『東小雪とひろこのレズビアン的結婚生活』第88回より)だと評判の高いロック・ミュージカル『bare』だが、同性愛をテーマにしたミュージカルでオネエが登場しないなんて、なんだか嘘くさい(笑)。狙いか? このことはとりもなおさず、真っ正面から同性愛者、マイノリティ性を抱える若者の心の問題に悩むのは、オネエではなく、真っ当な、普通の、大多数のLGBTだと言わんばかりだ。そんなことないって。オネエだって悩んでるんだって(笑)。
自らの正当性を主張したいがいために、ついつい、キモチワルイ存在を隠蔽して、外面を良くしたくなる気持ちはわからないでもない。そんな風潮の昨今。だからこそ私は、よりキモチワルイ、間違ったり、失敗したり、悪いこともしてしまう、そんな、ど~しよ~~もない“普通”の同性愛(者)の姿を紹介していきたいのだ。
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愛すべき、ど~しよ~~もないホモ本の数々。
なわけで、以下、これまで紹介した、愛すべきど~しよ~~もないホモ本たち。お正月休みで暇を持てあましているときにでも、お読み頂けたらさいわい。どうか、皆さん、よいお年を!
第1回 年寄りと古本の言うことは素直に聞いとくもんだよ!! 〜 西條道夫『男色に関する十二章』(『風俗科斈』昭和29年10月号より)、辻仁成『ワイルド・フラワー』
第2回 子供を取るか、女装を取るか!? 映画『チョコレートドーナツ』。 〜 ハーヴィ・ファイアスティーン『トーチソング・トリロジー』
第3回 殺人犯で死刑囚ホモの凄絶な人生。 〜 日沼エイスケ『泥棒日記』
第4回 以前の持ち主のフェチがわかる!痕跡本の愉しみ。 〜 仁科勝編『新・薔薇の快楽』ほか
第5回 山谷の日雇いホモ老人とホモ内格差社会を考える。 〜 いざわさわ男『生きた 愛した 歌った』
第8回 ハッテントイレでびっくり! マーガレットの交友録&身辺雑記 〜 Laud Humphreys『Le Commerce des Pissotières』
第9回 アナ◎と雪の女王と、激動するロシアのゲイ事情。 〜 アドリアン・ガイゲス/タチヤーナ・スーヴォロワ『スカートのしがらみの下で』
第11回 ちんこに乗せたカタツムリのたたり! 〜 J.T.リロイ『かたつむりハロルド』
第12回 90年代ゲイリブの終焉と、宙づりとなった時代。斉藤芳樹写真集『fabulous 1999-2006』 ~ 斉藤芳樹写真集『fabulous 1999-2006』
第13回 乳首と、わいせつと、思考停止。 〜 ゴッセ出版『少年』
第14回 ホモの兄を持つ、弟。ホモの弟を持つ、兄。 〜 バーバラ・ワースバ『クレージー・バニラ』
第15回 どうなる? 集団的自衛権。はたして、ホモが徴兵されたら? 〜 諸井紋『変態記録小説 男色部隊』(『獵奇夜話』第2集より)
第17回 でっかいチンコは、お好きですか? 〜 Dian Hanson『The BIG PENIS Book』
第18回 ホモ幽霊にヤラれるよりも、怖い話。 〜 朝倉三心『恐怖体験 私は性霊に犯された!!』
第19回 夏は短し、恋せよホモ!蟬の声に、初恋の男を想う。 〜 嵐山光三郎『悪人芭蕉』『芭蕉紀行』
第20回 男は、すべてホモ! トンデモ仮説と、ジョン・ヴァーリイのジェンダーSFの世界。 〜 ジョン・ヴァーリイ『へびつかい座ホットライン』『残像』ほか
第21回 僕のドラァグクイーンとしてのルーツ。 〜 辻村ジュサブロー『写真集 ジュサブロー』、高橋睦郎『王女メディア』
第22回 赤狩り、ビニ本、終戦記念日。 〜 ホモ向けビニ本『若男』『恋人、『浪漫倶楽部』
第23回 お茶を飲みながら、凛々しいオネエ=“りりオネ”の生き様を考える。 〜 ロバート・アンダースン『お茶と同情』
第24回 「全日本アナル選手権」レポートと、肛門期への固着。 〜 伏見憲明『プライベート・ゲイ・ライフ』、和田アキ子『和田アキ子だ 文句あっか!』、太田千寿『三島由紀夫の霊界からの大予言』、大沢在昌『新宿鮫』
第26回 同性婚について、イエス・キリストにあれこれ訊いてみた。ただし、大川隆法「幸福の科学」経由(笑)。 〜 大川隆法『イエス・キリストに聞く「同性婚問題」性と愛を巡って』
第27回 日本初のホモ用占いカード、ついに発売!! もちろん仕掛け人は、この人! 〜 鏡リュウジ『秘密のルノルマン・オラクル』
第29回 『THE HOMOSEXUAL HANDBOOK ホモテクニックフォトイラスト集』と、モテ期の私。 〜 アロー・インターナショナル『THE HOMOSEXUAL HANDBOOK』
第30回 いまはなき淫乱旅館「大久保ビジネスイン」の思い出。 〜 ジェームズ・パーディ『いつかそのうち』(柴田元幸編『夜の姉妹団』より)
第31回 エイズと、ミッツと、史上最凶生堀り種付けビデオ。 〜 石井光太『感染宣言 エイズなんだから、抱かれたい』
第32回 「猫を飼いなさい」と、老詩人は言った。男同士の付き合いの長続きのコツ。 〜 Andrew DePrisco『WOOF! A Gay Man’s Guide to Dogs』
第33回 三島由紀夫自決の謎に迫る、切腹のエロスと美学。 〜 『SM ファンタジア』1972年10月号
第34回 変態ワールド炸裂! 池波正太郎『剣客商売』より、年老いた隠れホモの物語。 〜 池波正太郎 『隠れ蓑』(池波正太郎 『剣客商売 七』より)
第35回 キスと乳首に背いて。 〜 アルチュール・ランボオ『ランボオの手紙』
第36回 ミソジニー(女性嫌悪)炸裂!! 60年代末の同性愛啓蒙の書 〜 芳賀國臣『必然的性革命』
第38回 戦時の若者を待ち受けたM検とは!? チンコ検査の実態。 〜 笹岡作治『ああ,M検物語』(『薔薇族』1973年7月号より)

 

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