第40回 大晦日の新宿2丁目と、一富士二鷹三なすび。 なすび文庫『美少年の性告白』

明けましておめでとうございます。今年最初の更新である。昔は、印刷所が休みになるため、年末進行といって入稿スケジュールが前倒しになった。おかげで、年越しぐらいはゆっくり休めたものだが、昨今のネットメディアでは、そんなことはお構いなしで〆切りがやってくる。なわけで、私も大晦日の『女装紅白歌合戦』出演の後、こうしてひとり寂しく事務所で原稿を書いているのである。頭の中には、つい数時間前までの2丁目のにぎわいと喧噪が、まだ残っている。体の疲れも、残っている。
それにしても、昨夜、大晦日の2丁目は、たいへんな人出だった。『女装紅白歌合戦』の会場には押すな押すなの観客。楽屋には出番を待つ女装が40名も。よくもまあ、といった感じだ。観客は身動きが取れないほど詰め込まれて、延々とオカマのショウを見続けるのである。おおよそ3時間。そして、カウントダウンを挟んで、『新春女装ショウ』が延々、朝まで。1年どころか、むこう数年間分のオカマを見れたのではないだろうか(笑)。
それにしても、ノンケが多くなった。テレビのオネエブームの影響もあってか、ここ数年は2丁目にノンケがたくさんやって来る。『女装紅白歌合戦』にもたくさんのノンケ客がいた。2丁目ならきっと面白いはずだ、と、ウキウキと年越しを楽しむためにやって来たのだろう。だが、ちょっと待て!
昔から2丁目とハッテンバの大晦日は、人が混むといわれていた。一般の飲み屋は、大晦日には閑古鳥が鳴くか、早じまいが当たり前だが。それは、ホモだってことで故郷や家族を捨てて都会に出てきたり、実家に帰れば結婚話で気が重いとか。田舎に帰れなかったり、帰りたくないホモ達が、ひとりじゃ寂しいと年越しを“仲間”と一緒に迎えるために2丁目に集まってきたからである。実は、2丁目の大晦日のにぎわいの裏には、そんなホモの寂しい歴史と切ない思いとが裏打ちされているのである。
物見遊山のノンケ客よ。2丁目の大晦日の賑わいはお前達のためにあるなんて、ゆめゆめ思って欲しくない。遊びに来るのは結構だが、そこら辺のことを少しぐらいは分かっておくのが礼儀だと思うぞ。
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さて、ゆめゆめ、である。ゆめゆめといえば、やはり初夢だ。古来より「一富士、二鷹、三なすび」が縁起が良いとされている。エロ系古本業界でも、似たようなことがいわれている。一は、富士見ロマン文庫。二は、高橋鐵。三は、なすび文庫、である。いずれも、とても縁起が良い。
一の『富士見ロマン文庫』は、1977年から発行されていた海外エロ小説の翻訳シリーズだ。有名な作品では、マルキ・ド・サドの『ソドム百二十日』や、D・H・ロレンスの『チャタレイ夫人の恋人』なども、この叢書におさめられている。現在では、全タイトルが、絶版。このシリーズが画期的であったのは、エロ本を「ナウでファッショナブル(帯文より)」にしたことである。ブックデザインも秀逸で、表紙画に金子國義らを起用した。このシリーズのおかげで、若い読者層や女性読者を取り込めたのではないだろうか。いまでも人気が高く、このシリーズの古本を集めるコレクターもいる。
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作者不詳、竹内太郎訳『エロチックな七分間』(富士見ロマン文庫) 表紙画は、金子國義。
二の高橋鐵は、戦後の性科学者の草分けである。性風俗研究家として、膨大な調査、情報収集をもとに、数々の書籍雑誌を発行した。代表的な著書では『あるす・あまとりあ』、日本生活心理学会機関誌『Seishin report』などがある。高橋鐵は、同性愛についてもしばしば言及している。彼が発行した『人間探求』という雑誌は、学術的なエロ本である。この雑誌の存在が、後のゲイ雑誌の歴史に大きく関わってくる。1952年に発刊された日本初のゲイ雑誌『アドニス』は会員制の会報誌であり、その母体となる「アドニス会」結成の呼びかけがなされたのが『人間探求』誌上であったからである。
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『人間探求 ─ 文化人の性科学誌』第01巻 第08号(第一出版社/1951年 発行)
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『ADONIS』第03号(アドニス会/1952年 発行)
三の『なすび文庫』は、鷹書房が出版するエロ本シリーズだ。出版社名からしておめでたい。このシリーズには大きくふたつの流れがある。ひとつは、海外ポルノ小説の翻訳を中心とした「背徳シリーズ」。もうひとつは、「告白シリーズ」である。その名の通り、告白手記をまとめたもので、『秘められた性告白』『女教師の告白』といったタイトルが並ぶ。中でも、『告白 近親相姦』のような近親相姦ものが群を抜いて多い。
そんな『なすび文庫』に、『美少年の性告白』というタイトルがある。これが、ホモ本なのである。収録されている手記がすべて、男同士の性体験を綴ったものだ。目次から、タイトルを紹介しよう。
映画館のなかで興奮状態を見られて……。(西尾太郎 15歳)
友達と船旅している最中に中年のおじさんに……。(杉山政男 14歳)
職場の同僚との息のよさがついつい肉体にまで。(加藤栄次 19歳)
友達のお兄さんが僕のはじめての相手だったんです。(清水鉄夫 15歳)
実父と近親相姦を経験してしまった!(鈴木清一 17歳)
ぐうぜんに入ったトイレで男との初体験を……。(遠藤清幸 12歳)
外勤の仕事で得意先の奥さんの主人と深い関係に。(元自衛隊員K・S 20歳)
(『美少年の性告白 1』目次より)
ざっと、こんな感じだ。
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『美少年の性告白 1』の トビラ口絵より。
『美少年の性告白』は、(1)~(3)まで3冊発行されているので、そこそこ売れたのであろう。(1)の初版は、1982年。「美少年の」というだけあって、投稿者が若い。全19篇のうち、最高年齢が20歳でふたり。他は全部、未成年。一番下が、なんと12歳! 今じゃ、犯罪である。この中から、15歳の渡辺哲君の告白を紹介することにしよう。
 僕の立っている前に三十三、四才の中年のサラリーマンらしき男が立っていた。背広をきちんと着こなし、白いワイシャツにネクタイをキリリとしめた風ぼうはどこかの一流商社マンといった感じだ。人の顔をながながと見つめるのは失礼なんで、視線は電車内の広告を見つめていた。それというのは、その中年の男の局部が僕の局部に密着され、ゴリゴリと何か硬さを感じる。
(略)
 ゴリゴリゴリ………。僕は、もうどうすることもできずに、いいや、オジサンも男だ。同じ男だから大きくなったってはずかしくなんかないや、そう一人ではげましながら、あそこが自然と変化していくことなど気にもしなかった。ところがどうだろう、なんと両腕を組んでいたオジサンの手が、知らぬまに僕の局部の前にあるではないか、これはヤバイなあと一瞬思っていたときには、もうおそかった。
(略)
 オジサンは僕の表情をのぞき込み、こんどは僕のファスナーを下げようと努めている。しかし僕の局部はファスナーが素直に下りる状態ではない。
(略)
そのままにしていると、オジサンはまたもや、僕のファスナーを下げ、中に指を差し込もうとしている。
 僕の局部から透明な液が少しばかりでてきたような気がした。一瞬、出てしまったような快感がした。オジサンの手のピストン運動がはげしくなってきた。
(『通勤電車のラッシュアワーで男の痴漢に。』より)
告白手記とは、正しくは、実体験をルポしたノンフィクションだ。だが、エロ本においては、必ずしもそうとは限らない。告白手記と銘打っただけのフィクションであることが多い。その目的は、読者の身にも手記のような出来事が起こるかもしれない、と思わせることだ。電車で、映画館で、トイレで、職場で……。日常生活のどこかで、いつか訪れるかも知れない男同士の性体験。それを密かに夢みていたホモ達が、この本をむさぼるように読んでいたのだろうか。なんだか、いじましい。
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三木淳一編『美少年の性告白 1』(鷹書房 なすび文庫/1982年 発行/ISBN4-8034-0187-X)
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三木淳一編『美少年の性告白 2』(鷹書房 なすび文庫/1982年 発行/ISBN4-8034-0191-8)
いじましい、といえば、私にもいじましい夢がある。今年こそは、同じマンションにもうひと部屋借りて、遠くの倉庫に置いている蔵書を引き上げてくることだ。うぅ~~ん。お家賃も2倍になるのだが。なんとか頑張りたい。仕事しなくっちゃ!
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FM-FUJI『Slash&Burn』 毎週月~木曜、21:00~23:26。詳細は、http://fmftp.lekumo.biz/slashburn/

ということで、1月6日(火)、FM-FUJI『Slash&Burn』という番組に出る。友人のドラァグクイーン Bibily Gerodelleがレギュラー出演している『おねぇたまに聞け!』というコーナーのゲストである。よろしければお聞き下さい。USTREAMでの放映もあるとのこと。

 

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