第11回 デート相手が車椅子に乗って現れたらどうする?

 

d5af786c389c7dc1a4ed2b723bb29425

ランチが美味しいと噂のアイリッシュバーの前でデート相手を待っていると、車椅子に乗った男性が現れた。少し動揺したものの、とりあえずぎこちない自己紹介を済まし、お店の中へ入ることにした。ふと足元を確認して、選んだデートスポットがたまたまバリアフリーで少しホッとした。テーブルに案内されて、メニューに目をやりつつ緊張を払いのけて何か無難な話題はないか考えていたら、向こうの方が先に沈黙を破った。

「首から下がほとんど動かないから、驚いたでしょ。」

彼は笑いながら、慣れたように自分のことを語り出した。交通事故で身体が不自由になったこと。それと同じ時期にHIVに感染したと判明したこと。その後しばらく鬱でまいっていたこと。昔は有名なプレイボーイだったこと。決して軽い話題ではないのに、彼にかかればなぜか爽やかに聞こえたから不思議だった。最初はどうなるかと思ったが、話が尽きない楽しいランチとなった。

後日、これを友達に話すとビックリされた。「車椅子のことも、HIV陽性だってことも、デートの日まで隠すなんて非常識だ!」そう憤る彼の気持ちも理解できたが、同意まではできなかった。

出会いがインスタントに成り立つ現代に生きる人々は、自分が出会いたい人を簡単に指定できるようになった。「体鍛えてる人募集中」とか「小柄な人が好み」とか「巨根しか相手にしません」とか、インターネットの向こうにいる人々をフィルターする行為は決して珍しくはない。誰かに出会う前から頭の中で勝手に相手のイメージを思い描いて、それにそっくりな人を見つけ出すことだって不可能ではなくなった。便利になったといえば聞こえはいいかもしれないけれど、本当にこれでいいのだろうか。

いつか、イケメンゲイに学ぶ出会い系サイトでモテる方法という類の記事を読んでいたら、アドバイスが「ありのままの自分を晒せ」だった。たしかに一理ある。詐欺写でいくらルックスをごまかしても、プロフィールでいくらサバを読んでも、出会えば結局バレてしまう。すべて晒して真正面から向き合えばお互いの時間を節約できる。しかし、すべてを晒して誰にも相手にされない場合はどうすればいいのか。五体満足でルックスに恵まれたイケメンゲイがありのままの自分を晒すのと、そうではない人が晒すのでは勝手が違う。

デートの日まで車椅子のことやHIV陽性のことを口にしなかった彼の出会い系プロフィールは顔写真と簡単な自己紹介だけだった。他のプロフィールと何ら違いはない。何も嘘はついていないが、すべてを公開しているわけではない。もちろん、ありのままの自分を晒していない彼を責める気はない。問題なのは、彼が車椅子ではなく両足で歩いて、HIVに感染なんてしていないと勝手に頭の中で決めていた自分の方だ。そんなこと、彼が目の前に現れるまで考えてもみなかった。

少し前に、トロントでアクティブに活動しているゲイの障がい者から話を聞く機会があった。脳性麻痺で電動車椅子が欠かせない彼は、ただでさえバリアフリーのゲイバーは珍しいのに、せっかく中に入れてもまるで透明人間のようだと言っていた。「自分なんかより体が不自由じゃないゲイの方がいいんだろうね。障がい者とはセックスできないと思ってるのかな?自分を知ってもらうチャンスもなかなか勝ち取れないんだ。」障がい者という部分だけではなく、一人のセクシーな人間として見られたい。彼にとってはそんな些細な願いも難しい。一番言われて頭に来るのは「君って障がい者なのに可愛いね」だという彼は、いつか「君って障がい者だし、可愛いね」と言われるような社会を目指して日々頑張っている。

そういえば、あのデートの続きを話してなかった。美味しいランチで空腹を満たした私たちは公園に座って心地良い風と青空を楽しむことにした。ポケットから薬用マリファナを出した彼はプカーっと一服して、こっちをじっと見て、微妙な表情を浮かべて口を開いた。

「君、話してて面白かったんだけど、あんまりタイプじゃないんだ。申し訳ないんだけど、これでお開きしない?」

あっさりフラれてしまった。

Top