第42回 『すべすべの秘法』ベルリンポルノ映画祭凱旋上映記念、今泉浩一監督特別インタビュー。

 

今泉浩一は自らが主演もした1999年のデビュー作『憚り天使』から、一貫して日本でゲイ映画を撮り続けている数少ない映像作家だ。国内はもとより、海外で高い評価を得ている。2012年の日本初公開時にも大きな反響のあった前作『家族コンプリート』から2年を経て、今泉浩一監督の最新作『すべすべの秘法』が上映される(日本初公開は2014年2月、会場は同じく渋谷アップリンク)。


両親と京都に暮らすリョータは東京での短期研修が決まり、「東京のヤリ友」であるイッセイの家に泊めてもらう事になった。朝はそれぞれが仕事に出かけて夜は一緒に過ごして寝る、ただそれだけになるはずの5日間。家に到着した最初の夜、イッセイはごく自然にリョータとセックスしようとするのだが、リョータは 素直に応じることができない。実は彼には東京に来る前から一つ、気がかりな事があったのだった…。公式ホームページの作品紹介より)

今回は、特別企画。「ベルリンポルノ映画祭」凱旋上映として最新作『すべすべの秘法』と、『家族コンプリート』アンコール上映を記念して、今泉監督と、彼の公私にわたるパートナーであり、これまでの今泉作品に制作、音楽担当として関わってきた岩佐浩樹氏とのスペシャル鼎談。

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たかさきけいいち『すべすべの秘法』より。

今泉 なんかね。すごく偉そうに言ってしまうと……。2007年に『初戀』を作ったとき、やり切った!みたいな達成感があったんです。で、この先に作るものが思いつかないなぁ。作れないかもしれないなぁ、と思っていた。だから、次作の『家族コンプリート(以下、家族)』ではいままでできなかったこと、やれなかったことをやっちゃえ、と思って撮ってみた。そしたら、これも達成感があって(笑)。今度こそ、もう自分の中からは何も出てこないんじゃないかと……
でも、『すべすべの秘法(以下、すべすべ)』は、すでに上映が決まっていたんです。「ベルリンポルノ映画祭」でやることが。どうしよう?と思って、そうだ、原作モノだ!と……。いままでは、ずっと自分で脚本も書いてきていたので、ひとに脚本を書いてもらおうと考えたんです。新しい血というか、新しい話が生まれるかな、と。で、原作だったら、たかさきけいいちさんだよね、と思い、彼の作品からいくつかピックアップしたんです。

マー たかさきさんは漫画家ですね。私がゲイ雑誌『バディにいた頃に、ご一緒しています。

今泉 たかさきさんの作品は初期の頃から読んでいて、いつかやりたいなと思っていた。でも、実際に映画化をするとなると、双子の出演者が必要だったり、銭湯ロケとか、パン工場が舞台だったり……ハードルが高くて(笑)。『すべすべ』はすごいシンプルだし、いけるかなと思って。
たかさきさんに映画化の話をしたらOKで、じゃ、脚本はどうしようか?って。彼は映画の脚本を書いたことがなくて、今泉さん書いて下さい、って言われて。原作をもとに僕が書いて、たかさきさんの、もっとこうした方が良いんじゃないか?という意見を取り入れて。何回か往復して脚本が出来上がったの。

マー もともと原作『すべすべの秘法』は、2008年、『G-menを出している古川書房の『ウラゲキ!』というコミック・アンソロジーに掲載されたんですね。映画では、原作にないシーンがありますが……。

今泉 もう一組のカップルが出て来るシーンは、映画のために僕が作ったエピソード。他にも、もともと原作にはないんだけど、シナリオを書いている段階でたかさきさんが加えたのが、植物園や第5福竜丸のエピソードです。

岩佐 シナリオが出来て、それを読んで、たかさきさんがより映画に近いバージョンとして描いたのが『すべすべの秘法・原作版』です。映画のパンフ代わりに会場で販売するために印刷しました。

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ウラゲキ!』Vol.4(古川書房/2008年 発行/ISBN978-4-89236-406-8)

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たかさきけいいち『すべすべの秘法・原作版』(habakari-cinema+records/2014年 発行)

マー 原作のマンガを読んだ時、どんなところが気に入ったんですか?

今泉 すごくシンプルな話なんだけど、大事なことを言っているような……。リレーションシップとコミュニケーションの問題とか。

マー 主人公のリョウタとイッセイのカップルは、今泉監督が考える理想的な関係のあり方なの?

今泉 望む形というわけではないけれど……。よくわかんないけど、最近のゲイの出会いがスマートフォンになってきてるでしょ? それは、なんだかねぇ……(笑)。

マー でもさ。原作にも描かれてないけど、リョウタとイッセイだって、絶対にスマホのアプリで出会ってるはずだよ(笑)。

今泉 う〜ん。きっと。そんな気はするけれど。でも、それじゃ、映画としてつまらないじゃない?(笑)。

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映画『すべすべの秘法』より。

マー 『すべすべ』は、公式ホームページの紹介文にあるように、「取り立てて派手な事件も事故も起こらない“きわめてありふれた”ゲイの日常」が描かれています。前作『家族コンプリート』とは、全然、違っていますね。

今泉 原作ありきの作品なので。原作自体、何も起こらないし(笑)。でも、それが良いなと思いました。前作と続けて同じことをやりたくないと思っていて、違うようにしたいという意識はあった。

マー 同じ監督が撮ったとは思えないぐらいですよ(笑)。反応もずいぶん違うんじゃないですか?

今泉 僕の友達に限っていうと、『家族』は好きだけど『すべすべ』はダメって人と、『家族』はダメだけだけど『すべすべ』は好きっていう人と、きれいに分かれる。両方好きとか、両方ダメという人はいなくて……。ゲイだけの意見じゃなくて、ヘテロの人の意見もそうなんです。
例えば映画監督の佐藤寿保さんは、『家族』は面白いけど、『すべすべ』は観ていて気恥ずかしいって、評価が低いの。別の監督は、『家族』はダメだったけど、『すべすべ』はとても良くできている、って。人によって全然違う。そんな反応が面白いけど、何故かって分析までは出来ていない。わかんないや(笑)。

マー 佐藤寿保監督は、「ピンク四天王」の一人とも呼ばれた有名なピンク映画監督。今泉監督はかつて俳優として、佐藤監督の作品にたくさん出演していますね。

ところで、『すべすべ』は、「ベルリンポルノ映画祭」の招聘作品として企画制作されたんですよね。

今泉 最初に「ベルリンポルノ映画祭」に出品したとき……。そんな映画祭は知らなくて。なんで、呼ばれたんだっけ?

岩佐 いきなりでした。その「ベルリンポルノ映画祭」のディレクターが2008年に「ベルリン国際映画祭」で『初戀』を観て気に入ってくれていたようなんですが、その人から、直接、連絡が来たんです。

今泉 そのときは『家族』を持っていったんだけど。ポルノ映画祭ってだけでもすごい。それにベルリンって付くから、どんなごっついポルノが大集合するのかしらと思ってた(笑)。でも、会場で観てみると、ポルノといっても幅が広くて……。

マー 今泉監督は、ポルノ映画に思い入れがあるんですね。

今泉 あるある。一番最初にポルノ映画を観たのが15歳のとき。とにかくポルノ映画が観たかったんだけど、いっぱいあって、何を観たらいいか分かんなかった。取っかかりがなかったの。その取っかかりになったのが、畑中葉子!(笑)

マー 後ろから前から!(笑)

今泉 それは2本目。観たのは1本目の『愛の白昼夢』です。これが大当たりしちゃって、その後、『後ろから前から』が作られたんです。主題歌もそっちの方が有名なんだけど、『愛の白昼夢』が彼女の日活デビュー作です。僕は、畑中葉子が特に好きだったわけじゃないけれど、当時ものすごく話題になっていたから。とりあえず観とけ、って思って。
さすがに日活の劇場に行くのは勇気が要った。僕、童顔だったし。どうしたって18歳には見えない(笑)。でね。銀座に「並木座」って映画館があって、『シティロード(映画演劇の情報誌)』に『狂った果実』と二本立てって書いてあった。並木座は前にも行っていたから、場所も知ってるし、どんな感じかも分かるし。で、はじめてポルノ映画を観に行ったんです。
でも『愛の白昼夢』は正直つまらなくて、がっかりした。で、もう一本の『狂った果実』。これはてっきり石原裕次郎のだと思ってスルーするつもりだったんだけど、同名の日活ロマンポルノだって、劇場に行ってはじめてわかった。じゃあ観るか、と。根岸吉太郎監督の作品で、これがね、すごく良かったの。泣きました。
それがきっかけで、ポルノ映画って面白いと思った。それから通い始めて。神代辰己とか、田中登とか、小沼勝とか……。リアルタイムじゃなかったけど、すごい観た。監督によって映画ってこんなに違うんだって発見して、監督で映画を追いかけはじめた。でもね、自分がポルノ映画をやるとは全然思っていなかった。その頃は、映画の仕事をしたいとか、俳優になりたいとも思っていなかったんですけど……。なんかね、導かれるように……(笑)。

すべすべ2014のコピー
映画『すべすべの秘法』 日程:2015年1月16日(金)〜20日(火)、会場:渋谷アップリンク、料金:一般¥1,800/UPLINK会員¥1,600。詳細は、http://www.uplink.co.jp/event/2014/34374

マー 『すべすべ』は、もともとポルノ映画として企画されていますが、所謂、ポルノ映画とは印象が違いますね。もちろん、たくさんセックス描写も出てくるんだけど……。

岩佐 最初は、セックスシーンは2パートだったんです。いずれも、布団の上でセックスしてるシーンで、一応、完成。でも、セックスシーンが撮り切れていない気がして、追加撮影したんです。お風呂場のシーンがあったでしょ? あそこです。

マー 映画の中の二人は、どちらもリバなんだよね。そこが今風だって思った(笑)。原作じゃ、リョウタが受けっぽい設定だけど……。

今泉 どっちもやらせようって思ってた。この作品じゃないけど、韓国で上映した時、やおいファンの女の子から「攻めと受けがはっきりしていないのは何故か?」って、質問された。それがどうも、自分の中で違和感があったの。ず〜〜〜っと。でも、やりたい時もあるよね?、やられたい時もあるし(笑)。

マー あと、気になったのは、この作品には、HIV/AIDSのことが暗喩として出てくるけれど……。

今泉 HIV/AIDSの問題にはずっと関心があって、実は、1作目の『憚り天使』からコンドームを登場させてるの。だけど、コンドームを装着するシーンを入れようとすると、映画の流れを断ち切っちゃって使えなくなるんです。だから、『憚り天使』では、トイレの床にコンドームの破ったパッケージが落ちているといったショットを入れています。そういう感じで、何かしらの表現は入れているつもり。ジャカルタで『すべすべの秘法』を上映した時も、お客さんとのQ&Aで、コンドームの話が出た。

岩佐 セックスしている時、コンドームを着けているんだか、着けていないんだか、どちらとも取れるように描いてあるが、HIV/AIDSの問題について何も考えていなかったのか?、という質問でした。

今泉 だからね、難しいなって。課題だね。映画の中で、それをどうやって表現していくのかって。

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映画『家族コンプリート』より。

マー むしろ、『家族』の方がハードコア路線だし。そもそも、謎の新型ウィルスに感染した家族の話なんだから……。でも、『すべすべ』の方が、より巧妙で、いい意味で“キケン”な気がしますよ。そうした意味でも、『すべすべ』は、『初戀』のアナザー・ヴァージョンのような気がするのですが……。両作品とも、ラストに、満開の桜のシーンがありますし。

今泉 特にリンクさせているつもりはない。桜は、単に、好きなの。『家族』のラストも桜なんですよ。
でも、やっぱりね。これまでに作品を上映してくれた映画祭を見てみると、『すべすべ』や『初戀』を上映してくれたグループと、『家族』を上映してくれたグループとは違う。『初戀』はLG映画祭向きだったんだけど、『家族』は違った。

岩佐 『家族』は、日本でいうと「東京国際映画祭」みたいな、大きな映画祭で上映されたんです。「香港国際映画祭」で世界初公開をして、韓国の「プチョン国際ファンタスティック映画祭」、台湾の「台北金馬影展」や、カナダの「バンクーバー国際映画祭」のようなところです。LG映画祭でも大きいところ。たとえば、はじめて、ロスの「OUTFEST 2011: Los Angeles Gay & Lesbian Film Festival」でも上映されました。

今泉 『家族』は、新しい映画祭を開拓できて、よしよしと思ってたんだけど。今回、『すべすべ』をその映画祭に送っても、ことごとく落ちた……(笑)。

岩佐 『家族』のように、登場人物皆殺し!みたいなキャッチーな感じは無いですから。映画祭は、「こんなヘンテコな映画があるんだよ!」って言い切れて、宣伝になる作品が好きですから(笑)。

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映画『家族コンプリート』 日程:2015年1月17日(土)〜18日(日)、会場:渋谷「UPLINK」、料金:一般¥1,800/UPLINK会員¥1,600。詳細は、http://www.uplink.co.jp/event/2014/34374

マー ふ〜ん。私は、予告編を観た瞬間から、『すべすべ』が気に入った。面白そうだって予感があった。絵(画面)が安定していて、美しかったせいかな。『家族』の時よりも、カメラが良かったように思えたんだけど……。

今泉 撮影監督の田口弘樹さんに言わせると、『家族』の時は悪条件だったけど、やりたいことが出来た。逆に、『すべすべ』はちょっと失敗した、って。田口さんの中で、どこが成功で、どこが失敗したか。それは聞いていないけれど……。その話を、トークショウのゲストの田亀源五郎さんに言ったら、彼も、え〜〜っ!?って。撮影のことをぜひ田口さんにぜひ訊いてみたいって。

マー 今回の上映は、『すべすべ』も、『家族』もやるんですね。両方を見比べることも出来て、興味深いと思います。今泉監督の、幅広い作風が楽しめると思います。1月18日(日)は、田亀さんと田口さんのトークショウがあるんですね。源ちゃんじゃないけど、私も撮影のことは気になるから、見に行っちゃおうかな(笑)。

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我が人生のホモ本『ジャン・ジュネ全集』を抱える、今泉監督。

マー さて。この連載は、毎回、ホモ本を紹介してるんだけど、今泉監督の「我が人生のホモ本!」っていったら、なに?

今泉 探し出すのが、すごい大変だった。本棚の奥にしまってあるのは分かってるんだけど、そこにたどり着けないの(笑)。まずは、ジャン・ジュネ全集。

僕、ジャン・ジュネは映画から入ったんですよ。『愛の唄』を最初に観た時、衝撃的だった。びっくりした。それまで、名前は聞いたことあったけど、読んだことはなかったから、読んでみなきゃいけないかなと思って。最初は、文庫だったけど。面白かった。『薔薇の奇蹟』かな。牢屋の話。その中に、牢屋の中で編み物をしているシーンが出てくるんだけど、そのイメージは『憚り天使』の中で使ったんです。便所の中で僕が編み物をしているってシーンで。

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ジャン・ジュネ『新潮社版 ジャン・ジュネ全集』(新潮社/1992年 発行/ISBN4106804050)

次は、バロウズの『おかま』。好き。まず、タイトルがしばらしい。この本が出たのが、1988年。僕いくつだろ? 23歳か。僕、『東京グラン・ギニョルって劇団にいて、その関係で当時から「ペヨトル工房」に出入りしていたの。そこが、出したの。キタ~!って思った。

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ウィリアム・S・バロウズ『おかま ─ クィーア』(ペヨトル工房/1988年 発行)

今泉 僕がはじめて買った日本のホモ本が、これ。『蒼い蜜』。この子が、もうね、呼んでるわけ(笑)。新宿の「黒猫館(ポルノショップ)」で思い切って買って、見てみたら、消しがあまいのね。嬉しくなっちゃって。それで、「クリエーターズのこのシリーズを買うようになって、一時期集めていてだいぶ持ってる。けど揃わななかったですよ。

それでね、思った。やっぱりね、男の裸なら誰でもいいってワケじゃないんだって。ダメな子はダメなのよ。どんなに出てても(笑)。中で、一番好きなのが、これ。『15月の海物語』。この子がサイコーね。最強ですよ。
僕、この写真家の東風終さんに会いに行ったことがある。なんか我慢出来なくなって。会わなきゃいけないって思い込んだの。でも、理由もないし……。ある時、モデル募集の記事を見つけて、それで事務所まで会いに行ったんです。結局、「あなたは使えない」って話になったんですが(笑)。

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若林靖宏&東風終『蒼い蜜』(クリエーターズ/2800円)

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若林靖宏&東風終『15月の海物語』(クリエーターズ/2800円)

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若林靖宏&東風終『月光の彼』(クリエーターズ/2800円)

ジュネ、バロウズ。そして、クリエーターズ(!) 。今泉監督とは歳が近いせいか、好きな本も同じものが多い。いずれも、その内、この連載で取り上げようと思っていたものばかり。そんな今泉監督の新作『すべすべの秘法』は、この連載の読者ならば、きっと気に入ってもらえるに違いない。ぜひ、足を運んでもらいたい。ちなみに、私が出るトークショウは、私と、今泉さん、岩佐さんとのトークショウは、1月17日(土)。劇場でお待ちしている。

 

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