第22号 カップルの一方のHIV陽性がわかった! ~ 「もしも」に備える 同性カップル編⑫

今週の土曜はバレンタインデー。世界中で同性間を含めて愛の告白がされる日(イスラム圏は除く?)。その一方で、ゲイ男性間だと愛の告白以外にも、「きょう検査結果もらってきた。……陽性だった」なんていう告白もあるでしょうか。
今号の「「もしも」に備える~同性カップル編」は、ゲイに多いHIV感染症、パートナーや恋人同士の一方の陽性がわかったときを考えてみました。

 告げる? 告げない?

パートナーシップであれ恋人関係であれ、関係の途中で一方のHIV陽性がわかることはあるもの。そんなとき、どうしたらいいのでしょう。「日本でいちばん多くのHIV陽性者に会ってきた男」、NPO法人ぷれいす東京でさまざまな相談にあたっている生島嗣(いくしま・ゆずる)代表に聞きました。

「それは個々のカップルさんごと、ケースバイケースですよね。つい最近までセックスしていた場合と、長いカップルでもうセックスしていない関係でわかった場合とでは、考えることもいろいろ違うでしょうし」

ゲイの場合、長くなると下半身はおたがいフリーにしていいよ、となることもあり、そうなると陽性がわかったほうから自分もウツされているかも、ということは考えにくいでしょうね。

「感染がわかった人が、それを相手に伝えるかどうかは、これもケースバイケース。ただ最初に私たちがお話することとして、告知直後のまだパニック状況で相手に伝えたら、聞いたがわもパニックになる。ある程度、免疫状態や治療方針が落ちついて—-1、2か月もあれば筋道もつくので—-それから伝えたほうが相手もわかりやすい、とは言います。でも、ふだんから親密でなんでも共有しているような関係性だと、逆に1、2か月もたってから話すと「なんですぐ言ってくれなかったの」と不信感を買うことも」

そうやって相手に自分の陽性を伝えた場合、カップルは往々、どうなるのでしょう?

「もちろんそれがきっかけで破局する場合もあるのでしょうが、ぷれいす東京へ来る人は、関係を続けたいと思う前提で相談に来るかたが多く、相手の陽性を受け入れている人も少なくないですね。世間には、自分の陽性がわかれば相手はかならず逃げていく、というイメージがあるから、それが怖くて検査にも行けない実情があるのでしょうが、事実はそうでない場合も多々あります
「もちろん、告げられたがわも葛藤がないわけじゃない。本人の重い秘密を聞かされてしまった自分はどうしたらいいの、と思ったり、本人がいろんなサポートを得て立ち直り、日常生活を取り戻している一方、自分はどうしたらいいと悩んだり、場合によると「巻き込まれた」みたいな軽い被害者感覚を抱く人もいます。ぷれいす東京では陰性のパートナーのためのミーティングもあり、「ほかで話せなかったことがここでは話せた」「みんなそう思ってたんだ」と気持ちが軽くなる人もいますね」
「むしろ、優しい(?)ゲイの人が多いのか、あれこれ相手のためを思って先回りして考えすぎて疲れ、つい誰かに話したくなることも。でも、それって本人がいちばん望まないことですよね(苦笑)。モンモンとするときは電話相談やミーティングなどを利用してみてください」

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ぷれいす東京では、HIV感染不安の相談、感染がわかったあとの相談、感染を知ったばかりの人のためのスタートプログラムをはじめ、さまざまな人向けに、さまざまなプログラムを実施しています。ぜひ、ウェブにアクセスしてみてください。

 付き合うことを決めたとき、なぜHIV告白する?

ゲイのお付き合いは、セックスが先行する場合が多いもの。「暗がり」で出会って、でも気持ちが深まって付き合おうとなり、そこで「じつは自分……」と切り出したとき、どうなるのでしょう?

「それも相手の反応はいろいろで、最初から陽性だと言ってくれなかったのはヒドい、と怒る人もいます(自分も暗がりで出会っておきながら)。でも、だいたいその場限りが前提の遊びの場で、陽性でも陰性でもいちいち断る人はいないし、それを陽性者にだけ責任を求めるのもどうか、ですね」
「一方、逆に聞かされても、HIVのクスリ飲んでるならウイルスも出てないし大丈夫でしょ、とか、僕たちセーファーにやったじゃない、とか、全然動じない人もいますね。HIVによる身体障害者手帳の数などから推測して、千葉、神奈川、埼玉を含む首都圏で1万人ぐらいのHIV陽性者がいて、そのほとんどがゲイ・バイ男性です。HIVはどこかの誰かの話じゃなくて、すでに身の回りのことですよとは、声を大にして伝えたいですね」

遊びの場はともかく、本当にお付き合いしようというときは、自分は陽性だときちんと告げる人が多いようですね。

「言うがわの気持ちを代弁すると、服薬してウイルスがコントロールできてれば相手への感染可能性はほとんどない、むしろ自分が相手からなにか貰わないために今後のセーファーセックスへの協力を求めるのが一つでしょう。もう一つは、それがベターかどうかは一概には言えませんが、伝えにくい秘密を共有することで関係が深まる効果があるのもたしかですね。実際、告知を契機に「これから一緒に生きていこう」と同居を始めたり、家を買うなど大きなプロジェクトを一緒に始めたりするカップルはよく見かけます。いま、海外のデータによると陽性者の余命は平均寿命と5年差に迫っていますが、それでもHIVは死を含めて人生の有限性を教え、それだけに今後はよりよく真剣に生きたいという気持ちを抱かせてくれるのかもしれませんね」

「ゲイが人生のハラを括る3つのとき」は、家を買って8桁の借金背負ったとき、親の介護が始まったとき、そして自分のHIV陽性がわかったとき、と言いますが(ワタシが言ってるだけ。苦笑)、HIVはときには人生を見直し、変えるチャンスになることもあるのでしょう。もちろん、自分ひとりで考えるのが苦しいときはいつでも相談してくださいね、とは生島さんからの伝言です。

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HIV陽性を「告白」して、それが二人の新しい出発になることもあるんですね。もちろん一人の人も、自分の身体を大切にしながら、「ポジティブ」に生きていく道を仲間とともに考えてみては? 陽性当事者の団体、JaNP+(ジャンププラス)の情報はこちら

 感染をめぐる法律問題

ちなみに、一方のHIV陽性がわかったとき、「なんで初めてヤるとき言ってくれなかった」「お前、ゴム使わないでやったじゃないか」など、いろんな感情が沸き、トラブルに発展することもあるでしょう。
陽性者はセックスするとき、そもそも相手に自分の感染事実を伝える義務があるのでしょうか。答えてくれたのは、弁護士の前園進也さんです。

「ハッテン場などその場かぎりでセックスをする場合、①HIVの感染率は低い、②HIV感染はとくに秘匿性の高いプライバシーである、ということから、いちいち相手に伝える義務はないと考えられます。コンドームを使用していなかったときでも、③ゴム無しを選択したことには双方に責任があり、④その場限りの相手には真実告知を基礎づける信頼関係がなく、たとえウソを言ったとしても真実告知義務に違反とは言えない。これらから、ハッテン場でゴム無しでやった場合でも、やはり告知義務はないといえるでしょう」

その場限りの場合、「あのとき言わなかったじゃないか」というだけでは、相手の責任は問えないということですね。

「しかし、相手が継続的にセックスをする恋人やパートナーの場合は、③④の根拠は成り立たないし、反復的なセックスでは感染のリスクも現実的なものとなり得ます。恋人やパートナーとコンドームを使用しないセックスをする場合には、感染の事実を伝える義務があると言えます」

そう前園さんはアドバイスします。

また、「自分は相手からウツされた。HIV感染させた法的責任を追及したい」という声を聞くことがあります。それは可能でしょうか。
「責任追及の方法としては、損害賠償請求や刑事告訴(傷害罪等)が考えられます。そのためには、まずは本当に自分がその相手から感染したこと、そしてその感染が起こったとする時期に本当に自分はまだ陰性だったことの立証などが必要です。しかし、それらはかなり困難でしょう」

 *以上、前園弁護士の回答は、エイズ予防財団主催「NGO指導者研修会」(2014年10月)に私が参加したさいの講義資料「HIV感染症と法律相談」(担当:前園進也・山下敏雅弁護士/LGBT支援法律家ネットワーク)から抜粋し、前園弁護士の監修をいただきました。ただ、あくまでも一般論で、個々の事情により判断は法律家ごとに分かれる場合もあります。

なお、これ以外にもHIVをめぐる法律問題では、相手にプライバシーをバラされた・晒された(ネットなどで)、職場での採用や健康診断、解雇のトラブルなどさまざまあります。そうしたときは、ためらわず弁護士に相談することをおすすめします(トラブル発生後は、弁護士しかかかわれません)。
弁護士の探し方としては、前園弁護士も参加する上記「LGBT支援法律家ネットワーク」というワードでネット検索し、プロフィール等にそれを表示しているお近くの弁護士さんに相談してみるのがよいでしょう。
近隣で見つけられない場合、プロフィール等には表示していないがネットワークに参加している弁護士もいるので、私に「HIV問題で弁護士に相談したい」「○○県××市在住」とだけメール等でご連絡くだされば、私から近隣で引き受けられる弁護士にご連絡してもらうようにしますので、ご一報いただければさいわいです。

 *LGBT支援法律家ネットワーク:弁護士を主体に、法律にかかわる各種の士業者も参加する当事者/支援者の全国ネットワーク。メーリングリスト上でさまざまな情報交換をしています。私も行政書士として参加しています。プライドパレード等に合わせ各地でイベントを開催することもあります。ぜひ、ご注目ください。  

 


【メモ】
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