#22 サロガシーの旅 | 遺言を書く

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遺言を書くなんてことは、一生自分には縁のないことで、そんなことをするのは、金持ち土地持ちの高齢者ぐらいだと思っていた。今が良けりゃいい、今が楽しけりゃいいと、二丁目で朝まで飲んで、そのまま朝7時から酔っぱらったままバイトに行き、夜は芝居の稽古に行っていた頃の僕には、近い将来遺言を書くことになるとは想像だにできなかった。

ところがどっこい、人生何が起こるかわからない。今僕はロンドンのオフィスビル、高層ビルの一室で夫と二人で、自分たちが死んだらどうして欲しいかということを弁護士さんに伝え、遺言の下書きを作成しているのである。

遺言作成はサロガシーのプロセスの中で重要なものの一つで、時期的には病院選びと並行して行い、受精や受胎などの実際の治療の前に書いて提出しろとエージェンシーから言われていた。

遺言を書かなければならない一番の理由は、実際に代理母が妊娠した後に、もし僕ら二人が同時に事故で死ぬようなことがあった場合、その子どもの面倒は誰がみるのかということをはっきりさせなければならない、ということだった。そんなことは一ミリたりとも想像したくないのだが、今回ばかりはそれをしないといけないようだ。

ちょうどリカの会社では、福利厚生の一つに遺言を書くというオプションがあり、会社の指定する弁護士さんであればいくらか安く書いてもらえるということだったので、お願いすることにし、リカの会社に来てもらい三人で面談しているという次第である。

僕らは、サロガシーの治療を目前に控えていることを弁護士さんに伝え、エージェンシーから送られてきた書式を見せ、弁護士さんはそれを元に質問をしていく。遺言書も目的や状況によって様々なようだ。

生まれてくる子どもの保護者は誰なのかということがまず話し合いの始めにあった。そこから、財産は何がどれぐらいあって、僕とリカと別にするのか・一緒にするのか、誰にどういった割合で分配するのか、その手続きの責任者は誰にするのか、といった具合だ。ついでというわけではないが、死後の葬儀や埋葬の方法の希望まで聞かれた。

遺言を書くのが大事なことであるのは、頭ではわかっている。しかし今から子どもを持とうと明るい未来を見つめているのに、子どもの顔を見ずに死んでしまうシチュエーションを想像するというのは、全く調子が狂ってしまう。しかも僕は生まれてこのかた、リスクを考えて人生設計をしたことなんてなかったものだから、とっても変な感じだった。しかし、子どもを持つということはそういうことなんだなと、神妙な態度になりながら質問に答えていった。

そんなこんなで下書きの作成も一時間ほどで終わり、面談が終わった。遺言作成というと大げさな感じがするが、終わってみると妙にあっさりした感じだった。それもそのはず、基本的には法律のプロにお任せするだけだし、またそのことで安心感も同時に得られたんだと思う。

遺言作成についてはまだ最終確認をしなければならないが、こういったプロセスをひとつひとつクリアしていくたびに、はっきりとは説明しがたい心境の変化がお腹の奥底で蠢いている感じがした。これが親になるということなのだろうか。そういった心の機微も噛み締めながら、まだまだやることが山積しているサロガシーの旅を歩いていきたいと思っている。

 

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気が遠くなるようなこの書類の山を越えなければ!といった気持ちになってくる

 

 2015/02/12 06:00    Comment  連載   みっつんのLondon Days              
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