#23 男二人で手を繋いで歩いてみた件

 Comment  連載   みっつんのLondon Days              

 

日曜日、あまりにも天気がいいので、お弁当を持って公園に出かけた。日頃の暗く重たい曇天が真っ赤な嘘のような快晴。雲のない青空は突き抜けるように高い。公園の小高い丘から彼方に見えるのは、ここ数年で雨後の筍のようににょきにょきと伸びるロンドンの高層ビル群。そのうちの一つ、シャードと呼ばれるEUで一番高いビルが、全面ガラス張りの大きな三角の壁で、冬のわりに強い陽の光を空に向かい斜に反射させている。でもやっぱり、空はもっと高いんだなって思った。
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ちょうど公園に着いた時、芝生の緑がまぶしい丘の上から、がっちり熊系のおじさんふたりが手をつないで歩いて歩いてきた。この陽気と穏やかさも手伝ってか、平和で微笑ましい。
ロンドンの中心部で男ふたり手を繋いでいるのを見るのは特に珍しいことではない。ただ、スペインかイタリアからの旅行者らしいカップルが多い気がする。そういう光景をリカと見かけると、僕らも繋いでみようかという話になったことがあるが、
「日本人とスウェーデン人はそういうのを周りに見せびらかす文化じゃないよね」
とかいう冗談で終わるのが常だった。単純に恥ずかしいというのを隠すためだったと思う。しかし、心さえ繋がってればわざわざ外で他人に見せびらかす必要はないのにと、20代の頃は男女のカップルを見ながら思っていたのも確かだ。今思えば、自分がやれないことをやっている人への軽い嫉妬だったのかもしれない。
閑話休題。そのおじさんたちが降りてきた緩やかな坂を、彼らとすれ違うように登っていく途中、僕も不意に手を繋ぎたくなった。羨望の気持ちがなかったわけではないが、シンプルにそう思った。ふとリカの方を見ると、彼らの方をチラリと見返すそぶりをしながら、
「いいね」
と一言だけ呟いた。リカは黒い手袋を両手にしていたのだけれど、左の手袋を外すと僕に渡し、僕はそれを自分の左手にはめた。陽射しが暖かいといえども、冷たく乾いた風が、リカの左手と僕の右手から体温を奪っていく。僕らの手は、手の繋ぎ方を忘れていたかのように、少しぎこちなくも重なっていった。そうして僕らは、陽の光の下、初めて手を繋いだ。
丘を登った向こう側には小さな池があるのだが、そこに来る頃にリカは手を離した。繋いだ手の平が汗ばんでそれが心地悪いらしい。冷たい風の中でかいた汗は、緊張のせいだったのだろうか?
しばらくして、陽のよくあたる乾いた芝生のエリアを見つけると、赤い敷物を広げ、お弁当を食べた。魔法瓶に入れてきたブラックコーヒーをふたりで飲むと、少し体があったまったような気がしたが、座っているだけだとやはり身体が冷えてくるのを感じた。
敷物を畳み、歩き始めるとやはり手が冷たい。そしてまた手を繋ぐ。でも今度は汗ばむことはなかった。それどころか、まだ手の甲が冷たいままだ。リカは手を繋いだまま自分のコートのポケットに突っ込んだ。やっぱりそのほうが暖かい。
そのまま歩いていると、子どもたちがたくさん遊んでいる遊具場のところまできた。手を繋ぐのを見せびらかすつもりは、もちろんこの時だってないけれど、子どもたちには見てほしいなと心の内に秘めていた。まだ思春期も迎えていない彼らが、その時期を迎えた時、異性を好きになろうが同性を好きになろうが、なんの疑問もなくそうやって手を繋ぐのが自然な姿だと思えるようになって欲しいと願ったから。
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 2015/02/19 06:00    Comment  連載   みっつんのLondon Days              
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