第25号 渋谷区パートナー証明、どう見る?ーー私の視点~「もしも」に備える 同性カップル編⑬

渋谷区のパートナーシップ条例が、あいかわらず話題ですね。当事者/非当事者(といってもセクマイはグラデーションなので、なにが当事者かはカンタンではありませんが)、そして当事者内部でも、さまざまな論点をめぐって百家争鳴状態です。今週あたりから渋谷区議会での議論になるとのこと。その帰趨に私も注目しています。
今号の「もしも」に備える 同性カップル編のコーナーでは、条例案について私なりの視点でいくつか感想、論点を記してみたいと思います。

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これから条例の審議に入る渋谷区役所。そのゆくえに注目です。
画像出典元:TOKYOビル景

 1 盛り上がる「外野」。つぎは当事者がどう動く?

私が今回いちばん驚いたのは、こうした条例よりも、それを報道するメディアや社会のがわの反応がえらく熱いなあ~、ということでした。社会のがわが、「待ってました!」とばかりに反応している感じです。
時代の変化で、身近なところでなら少しずつカミングアウトする当事者が増え、ノンケがわでも「友だちにそういう人いるよ」「一緒に住んでるカップル、知ってる」という人が増えました。そこへ加え海外から、〝同性婚がつぎつぎ制定〟〝あのセレブもこのセレブも同性婚〟といったニュース。それを見るにつけ、「なんで友だちの二人はケッコンできないの?」「なんか日本って、オカシクない?」という思いにもなるのでしょう。乙武さんなど著名人が同性婚を支持するツイートをすると、大変な数でリツイートされるのもその現われでしょう。

そこへ加えて最近、日本はオカシイことだらけ。民意と逆行する政策、メディアへの圧迫感、戦争への不安……息苦しい思いのなかでこのニュースは、「やっと日本も変われる!」「世界の常識が日本の常識になる」、その象徴のように映るのかもしれません。

ではメディアや社会のフィーバーの次に、私たち(当事者)はそれをどう受け止め、どう動くのか。証明を申請し、それを他人に提示することは、カミングアウトにほかなりません。カムアウトすることなくして権利の獲得はない—-この点もまた、「世界の常識が日本の常識になる」のか。私の関心は一貫してそちらにあります。

 2 法的効力はない点を再確認

今回のパートナーシップ証明は、言うまでもなく「渋谷区で同性婚が許可」などではありません。「このお二人はカップルなので、みなさんよろしく対応してくださいね」と、区がお墨付きを与える、それ以上でもそれ以下でもない。当初から法的効果はない、婚姻とはまったく別、と区も説明する通りです。どっかの自治体がアザラシに出した住民票よりは値打ちがある、と言ったら言い過ぎでしょうか。

とはいえ、行政が「パートナーシップ」(男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備える戸籍上の性別が同一である二者間の社会生活関係。条例第2条)を公認するアナウンス効果は、上述のとおり絶大。いままで公式には無いとされてきたものを、ドーンとテーブルの上に出したようなものですから。これはあなどれません。
法や制度の社会的影響と実際の効力については、当事者がわも、熱い心(hot heart)と冷めた頭(cool head)で考える必要があるようです。

 3 証明を受けるにはお金がかかる

このパートナーシップ証明、区役所かどっかの窓口に行って、「住民票1通、お願いします」「はい、手数料300円」というわけにはいかないようです。岡田マリ・渋谷区議のブログに掲載の条例案をもとに考えてみましょう。

条例案によれば、

一 当事者双方が、相互に相手方当事者を任意後見契約に関する法律(平成十一年法律第百五十号)第二条第三号に規定する任意後見受任者の一人とする任意後見人契約に係わる公正証書を作成し、かつ、登記を行っていること。
二 共同生活を営むに当たり、同時者間において、区規則で定める事項についての合意契約が公正証書により交わせれていること。

のとき、区長はパートナーシップ証明をすることができる、と定めています(10条)。この任意後見契約はこちらで、共同生活の合意契約はこちらで、私もすでに解説しています。

ところで、パートナーシップ証明をするためにこうした要件をつけることに、行政書士としては「商機到来!」と言いたいところですが、私はじつは反対です。それはただの証明にしてはお金がかかりすぎるからです。
任意後見契約は、公正証書の作成や登記料、登記謄本代などにあわせて約2万円、2人で4万円かかります。また、パートナーシップ契約書も公正証書で約1万5千円程度かかります。われわれ行政書士などにコンサル・仲介を依頼すれば、そのぶんの報酬も必要です
そして、これは一か二のどちらかでいいのか、その両方が必要なのかは、いま時点では決まっていません(渋谷区役所担当課に電話で確認)。両方必要となれば6万円程度必要で、お金がない人は証明を受けられないことになります。
 *公証役場や法務局に平日日中に行くのが大変とか、セクマイに慣れていない公証人(高齢男性が多い)では不安などから、書士へ依頼するニーズが考えられます。

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任意後見とその登記証明書が同性パートナーシップの証明にもなると言い出したのは私が最初かもしれませんが(『同性パートナー生活読本』2009年。アマゾン品切れ中)、なにも制度がないなか、せめて公的な制度で使えるのはコレかもという趣旨であって、逆にこれが要件とされるのは、私としては忸怩(じくじ)たる思いです。
証明を受けるには、せいぜい住民票で同居(同一住所)を証明する程度でOKにしてほしいものです。

また、こうした公正証書を作ることは、法に守られていない性的マイノリティのライフプラン上、大変有益だと思いますが(そのことをこの連載でも説き、私の事務所でもサポートしているわけです)、たんに区の証明書取りのために慌てて作るとか、それで書士が特需だとかは、ちょっとオカシイ。私自身がライフプラン相談を提供する身として、本末転倒だと思います。ゲイ/セクマイとしての一生をじっくり考える機会にしてほしいものです。

この証明は2)で述べたとおり、法的効果はないものですから、その内実は公正証書で担保しようということかもしれませんが、だったらこのうえなんのための証明か、とも言えます。

また、今回の制度創設は、「同性カップルが家が借りられない」とか「病院で面会や家族同意書を断られる」からとありますが、証明があったからといってかならず家が借りられるわけではないし、面会や同意書も病院の対応はまちまちです(家族同意書などなくても手術や入院はできる)。自分でバリバリ公正証書を作るような人なら、たとえ区の証明がなくても、不動産屋でも病院でもガンガン交渉・主張して、自分で道を切り拓くでしょう(私の友人のなかには、面会拒まれたら病室のドア蹴破ってでも会う、と言う人も。苦笑)。まず当事者のカムアウトや交渉があり、それでも限界があるので法的な裏付けを創設、が本来の筋でしょう。

再三述べますが、行政が同性カップルを公認することのアナウンス効果は絶大ですから、これはこれで他の自治体にも広がってほしい。でも、当事者には、証明を作ってもいいけど、「カネもないなら(法的効力もないんだし)そんなもん作らんでええ。無いなら無いで、別にカネのかからんやりようはある」と申し上げたい気もします。

 4 第2次ゲイブーム? 今度こそ法や制度を作ることを忘れるな

最後の感想です。
冒頭にも触れたように、本件のマスコミでの熱い取り上げが続いています。わたし的には、「25年ぶりのゲイブーム」「90年代の再来」という感じです。
あのころもゲイを取り上げた記事やテレビ番組が、「また出た!」「また載ってた!」状態でした。縛りがキツい時代にもかかわらずテレビで顔出しするゲイも何人もいました。メディアの動きが当事者を刺激し、「こんなに仲間がいるんだ」「自分は自分でいいんだ」と活性化。サークルで、ミニコミで(ネット以前です)、クラブの陶酔のなかで、自己を受け入れていきました(私もそんな時代の子の一人です)。

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1990年代に、雑誌にどっとゲイ記事があふれた「ゲイブーム」の時代。私もこんな記事たちを読んで、育ったのです(笑)。

しかし、当時はみんな若かった。自分が自分でいられることがただ嬉しく、クラブで踊ったりハッテン場でセックスすることに夢中で、ゲイは法律や制度を作ることを忘れていました。でも、少しあとから来たトランスの人たちは、法律を作りました。

法や制度を作ること。それは法に乗れる人(一級)と乗れない人(二級)とを生みだし、当事者を分断する!——そんな言い方も知らないわけではありません。今回は取り上げませんでしたが、渋谷条例にもすでにそんな批判や批難が当事者内部から出ていることも承知です。

それでも私は、この条例が可決され、なんらかの法制度ができることが重要だと思っています。難点があり限界があるからといって今回は流してしまえ、という論には与(くみ)しません。

ロートルの思い出話で恐縮ですが、2000年、東京都で人権施策推進指針という文書が作られたとき、さまざまな当事者の働きかけで、都の指針骨子の原案を作る専門懇談会が出した「提言」に盛り込まれた「同性愛者」の文字が、その後、都の指針骨子では削除されるという異例の事態が起こりました(通常この種の答申はそのまま踏襲されるものです。庁内からの異議とともに、石原都知事の意向も働いたと言われます)。
その後のさまざまな人びとの運動、都議会での質問・追及等を経てようやく同性愛者についての記述は復活しましたが、その一方、「性同一性障害」の記述は「提言」から実際の指針まで一貫して存在しつづけました。すでに法律にもある記述を、さすがにツルの一声で削除することはできないからです。法律に書き込ませるとは、こういうことなのでしょう。
 それ以外にも行政のさまざまな予算措置のなかで、「性同一性障害」というかたちでトランスジェンダーへの記述や施策は存続してきましたが、法律がない「同性愛者」は言及がないなど、一貫して不安定な立場を強いられています先の衆院選時の政党アンケートでは、自民党が「性同一性障害者への施策は必要だが、同性愛者へは必要がない」と答えています。

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都の骨子から同性愛者が削除されたことを伝える記事(朝日新聞2000.7.17夕)。その後、記者会見でこの件を問われた石原知事は、「特殊な性状を持っている人は見た目ではわからないから、どういう形で人権が棄損されるケースがあるのか想像が及ばない。実感に乏しい問題だ。私は純粋なヘテロ(異性愛)だから」と述べました(朝日新聞2000.7.19朝)。法律や制度がないということは、言われ放題のことがあっても反論の根拠がないということです。

「いまは批判をすべきではない」と言っているのではありません。私もその批判の多くを共有します。そのうえで、自分が見てきた歴史からも、私自身は、いまは制度を作ることを優先する選択をしています。

 *この人権指針は、策定から15年を経て、現在、改訂作業が進められています。改訂のための有識者懇談会がこのほどまとめた「提言」には、同性愛者についても「性的指向」として新たに取り上げるべき人権課題に位置づけました(詳細は、東京都のHPから)。今後、パブリックコメントを経て、4月以降、指針の改定・公表が行なわれます。

 【追記】この記事の脱稿後、鈴木けんぽう・渋谷区議会議員のツイッター(3/2)によれば、「同性カップルパートナーシップ証明書について、公明党栗谷議員が代表質問で取り上げた。さすがの内容。1)性別変更予定でまだ至っていないカップルにも適用されるか→適用。2)任意後見の公正証書は必要か→若いカップルなどで取れ(ら)ない場合、「区長が認める場合」規定で対応」とのこと。
1)はトランスジェンダーのかたの同性愛の場合で、現状は戸籍上、異性間でも証明がありうるとのこと。2)は、公正証書要件について条例案には「ただし、区長が特に理由があると認めるときは、この限りでない。」という但し書きがあり、それで対応の模様です。審議の動向、さらに条例施行にあたり定められる区規則の内容を見守りたいと思います。

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