#25 友の旅立ちと星の王子さまから学ぶ恋愛術

 Comment  連載   みっつんのLondon Days              

親友のひとりが旅発つことになった。ロンドンへいつ帰ってくるのかはわからない、当て所のない旅らしい。もちろん寂しい気持ちがあるが、なんだか清々しい気持ちで見送りたくなる。旧ソ連の一国で生を受けた彼女は、旧ソ連からの独立の動乱や、両親を同時に事故で亡くすなどの経験を経て、十四歳の頃から小さな弟の母親代わりをしながら生きてきた。そういった話は、こちらが聞けば小川の清流のようにさらっと話してくれるが、自ら不幸話を並べ立て悲劇のヒロインぶらない奥床しさが、彼女の美しさを一層のものに引き立てている。僕らはヨガの先生になるためのコースで知り合い仲良くなったが、彼女は写真家でもあり、ここで使っている僕のプロフィール写真も彼女に撮ってもらったものだ。

9794e2ff1a5794270c55213e5e29d9a8

 

知り合った時の彼女は何処か翳があるというか、ヨガやスピリチュアルが好きなふわっとした雰囲気の、妖精のような印象を持つ女性だった。その妖精の透明の翅は繊細な薄紙のようで、飛び立つにはあまりに脆いように思われた。そんな彼女が今飛び立とうとしている。あの妖精の翅は、十四歳の頃から背中に無意識のうちに隠されていた力強い翼に、いつしかとって変わられていた。

そんな彼女の旅立ちに何か贈りたいと思っていたら、ふと引き出しの中から小さなストラップが出てきた。星の王子さまのストラップだった。サン=テグジュペリ原作の物語、以前東京で舞台化しそれに出演した際に劇場で売っていたものだった。本棚から英訳の星の王子さまを取り出し、改めて読んでみる。今から旅立とうとしている彼女に合っていると思った。この詩的で哲学的な物語は、読み手のタイミング次第でその人の人生にあったアドバイスをくれる。読み手によって意味合いが変わってくるとも言えるだろう。いい文学とはそういうものだ。それを彼女にプレゼントした。
僕が星の王子さまの舞台に出演した際、『本当の友だち』を探している王子さまに、どうやったら『本当の友だち』を見つけられるかを教えるキツネの役を演じた。ただ王子さまは子どもなので友だちという表現ではあるが、そこには愛する人を見つけるという暗喩も秘められている(と考えて演じていた)。そこに友情と愛情のはっきりとしたボーダーは描かれていない。キツネの言葉にはボディブローのように後からじわじわ効いてくる言葉がたくさんでてくる。先ほど、読み手によって意味合いが変わる本だと書いたが、ゲイ目線で見るとまた興味深い。
『人間は忙しすぎて友だちの作り方を忘れている。人間は物をお店で買うだけで、でも友だちはお店では売っていないから、もう人間に友だちはいない』
出会い系アプリを開けば、これだけたくさんのゲイがいるんだということが目に見える。普段の生活で恋愛対象が目に見えないゲイとしてはそれを眺めるだけでも安心感が得られ、中毒的に利用する人も少なくないだろう。というか、僕もそうだった。しかしその一方で、すぐ話しかけられる、すぐ会える、すぐセックスできる、この忙しすぎるサイクルにはまってしまうと、カタログショッピングのように、こっちがだめならこっちでどうだの連鎖に陥りやすい。もちろん出会い系が悪いわけではない。僕とリカも実はスマホ時代の前の出会い系で知り合っている。大事なのはそのあとだ。キツネは誰か友だちになりたい人が見つかったらどうすればいいかも教えてくれている。実践するのはなかなか大変だけれど、頭の隅に置くぐらいならできるかなと思って毎日を過ごしている。
『忍耐が大事だよ。距離を縮めるのは毎日少しずつ。そしてしゃべっちゃダメだ、言葉は誤解のもとだからね』

41bc51886e6d7edc0e499d91f9d428bd


8be7f20f578561f3f214cbd4f58acfac
サン=テグジュベリ『星の王子さま-オリジナル版』(岩波書店/2000年 発行/ISBN 4-001-15676-8)

 

 2015/03/05 06:00    Comment  連載   みっつんのLondon Days              
Top