ボーダーライン 第1話

出会いは女性限定のパーティーだった。
思春期に女の子から告白されても特に付き合う気がなかったアタシとしては、
動かない女性専用車両の中に居るようなその独特な空気に馴染めず、居心地が悪かった。

ビアンの友達ナミにどうしても一緒に来て、と言われて来た手前すぐ帰るわけにも行かず、
アタシはバーカウンターの隅にようやく空いた席でジンを啜っていた。

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その隣に座っていた手の綺麗な人が彼女だった。
真っ白いシャツ姿の彼女はハンサムな存在感で、
取り巻きらしい女達がしきりに彼女の気を引こうとしている。
女子校のファンクラブみたい…そんなことを想った。

ちらっと目が合った時、この人は良いにおいがする人だなあ、と想った。
互いに目をそらさず、自然に笑いかけ合えたから。
「良かったら一杯どうですか?」ショートカットと笑顔。
「… ありがとう。」
シャンパングラスを手に取り、「はじめまして」と乾杯をした。

彼女と話したいと想った。どんな人なのか知りたいと想った。
そんな、純粋によこしまな欲望を抱かせてくれる女性にアタシは初めて出会った。
“友達として”だけではない魅力を感じる女性に。

過不足ないテンション。話が途切れない感じが心地良かった。
この不思議にドキドキしたような感じはシャンパンのせいかもしれない。

「綺麗な手ですね」
「ありがとう、少し大き過ぎるけどね…」

はにかんだ彼女が何気なくアタシの前に置いた右手。
その上にアタシは左手を重ねた。
一瞬の感触。

「ここに居たんだ。」

不意に投げかけられた声。
我にかえったアタシ達は、重なっていた手を離した。
声の主はナミだった。

「帰ったかと思ったよ。」

ナミはアタシの右隣に座るなり不機嫌そうに言った。
もっと彼女と話していたかったけど、
仕方なくアタシはナミの恋愛自慢話を聞くことにした。
こういう時のナミはイライラしている。高校の時からそうだから解る。
でも、一体何にイライラしているのかは良く解らなかった。
ただナミが話しながら、アタシの左隣に座っている彼女を意識しているのが解った。
クラブの爆音のせいだけじゃなく大きな声で話し続けるその内容は、全然アタシの耳に入らなかった。

彼女にはそこに居るだけで成立するオーラがあった。
それはさらっと健康的に光っていて、
彼女の大きく美しい手のように堂々としたオーラだった。

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しばらくしてナミがトイレに立った。
アタシはテーブルナプキンに走り書きした携帯番号を彼女に手渡した。
「ねえ、あなたの名前は?」ショートカットからこちらを見る瞳。
「香です。」
「OK。私はマユ。」
別れ際の握手。
一瞬のその感触。二度目の接触。

アタシの中で何かが始まったような気がした。

Jとは肌が合う。
あれからクラブを出て、プラプラ歩いて彼の部屋に来た。
ナミには「生理が来てお腹が痛くて死にそう」と嘘をついた。
アタシは発情していた。

Jの何が好きって?体が好き。
彼とするイヤらしい事は楽しい。アタシ達はよくこうして真剣に遊ぶ。
まるで同じベッドでじゃれ合う子供同士みたいに。

「ア…!」

キッチンに座って大きく開いた脚の間を舐められてイキそうになる。
酔っているにしては敏感な気がする。どんどん濡れていくのが解る。

彼女はどんな風にSEXするんだろう。

そう思った瞬間、快感がせり上がって来た。

イク…!

例のテーブルナプキンを広げる。

「嬉しそうだね」

寝転んでいるアタシの所にコーヒーを運んできたJは悪戯っぽく言う。

「まあね」

この11ケタの数字。それが彼女とアタシのライフライン。
Jがギターを弾き始めた。
彼がどこの国から来た人だったのか、その当てずっぽうな鼻歌を聞きながら想う。
アタシはいつの間にか、眠りに堕ちた。

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