第27号 性的マイノリティと医療、病院の現場で私たちはどうなる?~「ボクの老後はどこにある?」⑦

「老後の新聞」、今号は昨年の11月30日(というより、世界エイズデーの前日)、新宿二丁目のコミュニティセンターaktaで行なわれたパープル・ハンズのLP研(ライフプランニング研究会)性的マイノリティと医療での対応~~HIV臨床の現場を例として」の模様をお伝えします。ゲストにお招きしたのは、ACC(国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)の医師、塚田訓久さん。
塚田先生はACCですでに15年ほど勤務。つねに250人から300人ぐらいの患者さんの担当医をされています。HIV感染症という病気の特性上、その8割、あるいは9割はゲイ(男性間の性的接触による陽性者)だとおっしゃいます。まさにゲイの現場に通じた塚田先生に、性的マイノリティと医療について聞いてみました。

*塚田さんの回答は、すべて個人的見解と断っていらっしゃいます。所属病院等とはいっさい関係がありません。
 お医者さんに正直に話していい?

「性的マイノリティと医療」といえば、まず思い浮かぶのが、お医者さんにかかりたいけれど自分のセクシュアリティのことなど話していいのか、どん引きされないのか、という恐れ。お医者さんとしては、どうなのでしょう。
「セクシュアリティに関して医師に聞かれた場合、きちんと話していただいたほうがよい治療に近づくと思います。性交渉の相手次第で、起こる病気も治療法も異なる場合もあります。原因不明の熱には性行動が関係しているかも、と医師は考えますから、そのとき同性間のセックスと言えなくても『気になるセックスがある』と言うだけでもHIV検査につながる。医師も、聞くからにはちゃんと受け止めるつもりで聞いています」

塚田先生は内科・感染症の専門医という立場柄、発熱にはよく注意されるそう。現在もエイズを発症するまでHIV感染に気付かれない人がまだ多く、一番多いのはニューモシスチス肺炎(カリニ肺炎)。これはHIV感染がない場合にはかなりレアな病気で、なかなか診断にたどり着けない場合も多く、性行動の情報があるだけで診断は違ってきます。

実際、医師の、性的マイノリティへの受容性はどうなのでしょう。
「セクシュアリティをカムアウトされて驚いたり引いたり、慣れていない医者はいるでしょうが、聞いたからには、そこから先はプロとしてちゃんとやっていくと思うし、それができない医者へは通わないほうがご自身にとっても幸せでしょうね」

たとえば見た目と書類の性別が違うトランスのかたなどは、どうでしょう。
「慣れてなくてビックリする人もいるでしょうが、医学的には病気を見つけて適切な治療をするだけです。ただ、ホルモン剤と治療とどちらを優先するかとか、悩ましい場合もありますね—-ええ、HIVのなかにはトランス傾向のかたもいますから、私も実際、拝見することはあります。ただ、医師・看護師は大丈夫でも、ほかの職種—-事務や清掃など裏方の人まで含めて自然な対応ができるかはわかりませんし、入院時の部屋が個室でない場合に女性部屋、男性部屋のどちらになるかなど、病院がまだ快い場所でない場合もあるかもしれず、そこは申し訳ないと思っています」

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よりよい医療を得るために、私たちも少しだけ勇気を出して、お医者さんに話してみよう。

 同性パートナーが面会したり説明を聞いたりできるか?

つぎに同性カップルのパートナーが病室で面会できたり医師から説明を聞けるか、という問題。医師の現場感覚としてはどうなのでしょう。
「患者さんの希望があれば面会はできますが、治療に関する説明を聞くことは現実には厳しいこともあるでしょうね。特に本人の意思が確認できないとき、血縁者や配偶者など以外は、本人の意思が確認されるまでは排除されるのが現実です。日ごろから付き添いで来ているなど、こちらも二人の関係がわかっている場合なら、お話しすることもあるかもしれませんが、いきなり救急車で来て、付き添ってきた人が話を聞かせてくれと言われても、かなりためらうでしょうね」

また、病院で亡くなった場合は、どうなるのでしょう。
「法律上の相続人であるご親族に話すことになるでしょうね。いちばん難しいのは、例えば本人は親族と縁を切ると言っており、親身な関係者(パートナーや友人)がいる場合でも、本人が亡くなった場合はやはり親族優先ということになること。専門外なのでくわしくは存じませんが、最後になにか法律を持ち出されてきたときに、法律を超えることをするだけの根拠になるなにかがないと、私たちとしても対応できない」

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本人の意思確認が難しいときは、面会ができない場合も……。(イラスト:キャミー)

ここでパープルで作成・配布している緊急連絡先カード緊急時面会カードなどを紹介しました。
「こうしたカードで万全かはわからないが進めやすくなるし、親族にも説明がしやすいと思います。とはいえ、親族とパートナーなどが病室ではち合わせした場合、本人の意識がないところでは、親族優先になると思いますね。逆にパートナーや親友などが出てきたら、この人は誰ですかという話にならざるをえない」

文字に起こすと当事者として暗くなる言葉かもしれませんが、塚田さんは一つひとつ言葉を探しながら、うーん、困ったなあ、でも現実は……、という感じで話されました。

「私自身は診療のなかで、日ごろからそのかたの人間関係なども、できれば把握しておくようには務めています。HIVは治療が進歩して高齢期を迎える患者さんもいます。万一時の対応の希望なども伺ったりします。HIVはいまはすぐ亡くなる病気ではなく、準備時間は十分ありますので、血縁のかたと意思をすり合わせておいていただくと病院としても大変助かるのですが……」
いつも書いていますが、最後は親族へのカミングアウトへ帰ってくるようです。もちろん今後、親族や病院側の理解の助けともなるような同性カップルへの公的な認証などが、情況を後押ししてくれる可能性は高いでしょうが。

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パープル・ハンズで配布している緊急時面会カード、その下は、東中野さくら行政書士事務所で作成している「医療における意思表示書」。これらについての詳細は連載5号でもご説明しました。なお、「医療における意思表示書」はより多くの人にご利用いただきたいので、お二人で1万円(税別)で作成しています(書面の通信販売ではないので、一度はご来所でご相談ください)。

 手術の同意書は、どうなる? 

おなじく手術の同意書がパートナーの署名でもいいのか、そもそも署名はかならず必要なのか、という問題もあります。
「親族が誰もいなければ、むしろやりやすい、私たちは医学的に最善なことをするだけです。いちばん困るのは、親族の所在がハッキリしているのに、友人やパートナーの署名が認められるのか。私の感覚では、無理。手術時の署名は、本人の意思が確認できない手術中に、困ったことが起きた場合、だれに判断を委ねるかをハッキリさせておいてほしいということで、そうなると病院としては法的関係のある人に署名をしてもらいたい、という発想になるんでしょうね」
「なにかあったときの連絡先がないというのは困るのです。それを友人やパートナーにと言われても、その関係のレベルがどういうものか、こちらはわからない。やはり親族に優る関係はないだろう、と」

これは塚田先生にかぎった話ではなく、多くの日本人の平均的な感覚なのでしょう。「親族」というものへのこの圧倒的な担保感。本当は「親族」に苦しんでいる人も少なくないというのに……。それでも日本の法律では成人後に親族、とくに親との関係を終了させる仕組みがありません。
これに対して私たちも、本人の自己決定尊重の趣旨から、医療の事前意思表示書などできちんと本人の意思を明らかにしておくとか、任意後見契約(公正証書で作成が法的要件)などに「身上監護」の委任項目を入れておくなど、書面による対抗策を提案しています。また、厚労省のガイドラインも、親族以外のものも説明対象にできることを銘記しています(下記注)。

パートナーという言葉だと、家族のイメージはないものでしょうか?
「われわれはその意味がわかりますが、一般的にはどうでしょう。男女であれば内縁とか事実婚とわかりますが、同性どうしだと……」
浸透した家族イメージを意識の日常的なレベルで転換する。同性カップルも家族なんだとイメージすること。「理」や「法」よりも「情」で動く(?)日本人の場合、今回の渋谷区のような、行政によるパートナーシップ証明が、やはり必要なのかもしれません。

*厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」(2004)抜粋
本人以外の者に病状説明を行う場合は、本人に対し、あらかじめ病状説明を行う家族等の対象者を確認し、同意を得ることが望ましい。この際、本人から申出がある場合には、治療の実施等に支障の生じない範囲において、現実に患者(利用者)の世話をしている親族及びこれに準ずる者を説明を行う対象に加えたり、家族の特定の人を限定するなどの取扱いとすることができる。(II 用語の定義等–5.家族等への病状説明。下線永易)

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パープル・ハンズの活動を紹介した読売新聞の記事(2014.10.30)。ゲイカップルの一方が入院した時、病院から「緊急連絡先」を聞かれ、パートナーを指定すると、看護師から「肉親でないと」と突き放された。「後見人契約もある」と言い返すと納得してくれた、と。病院側も納得・了解できる裏付けがあると、なんとかなるようです……。

 受けやすい医療、私たちのがわの勇気も大切

当日は、いま紹介した以外にも、さまざまな問い、そして質疑応答が繰り広げられました。
「貧困で発病したときは、どうしたらいいのか」
「じつは薬物を使用している。診察や検査でわかるのか、わかったら通報されるのか」「同性間で子どもをもつ生殖医療の現状は?」などなど。

また、性的マイノリティが受けやすい医療はどうやったら実現できるのかについては、今回のLP研には医療関係者の参加も多く、とくにメンタル系・精神科の受診をめぐって、フロアからも質問や経験談などが語られました。メンタルのつまづきの根本にセクマイの悩みがあるのに、それを語ることができなければ、いつまでたっても解決には結びつかないですものね。

ゲイ男性とHIV医療の話が中心的でしたが、レズビアンも性行為の相手が同性であること、以前違うセックスパートナーがいたなど話してくれれば、診断がより正確になる場合も。もちろん風邪程度でそこまで言う必要はありませんが、原因不明の熱などには大切な情報になるそうです。

医師も占師ではないので、黙って座ればピタリと当てる、とはいきません。ちょっとだけ勇気を出して気になることを話してみれば、よりよい医療への道は広がっているのではないでしょうか。

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医療がすべての人に開かれ、使いやすいものであるように……。

*来週の2CHOPO「老後の新聞」は休載いたします。悪しからずご了解ください。

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