第89回 「境界のないセカイ」発売中止問題は、なぜ「抗議を恐れてのことらしいよ」ってだけの段階でここまで広まったのか

 

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その作品が「境界のないセカイ」というタイトルだったことを今、噛みしめています。

まきむらよ。

毎週金曜、世界のニュースから性を考える時事コラム「まきむぅの虹色NEWSサテライト」をお送りしております。

今回のテーマは「『境界のないセカイ』発売中止問題の広まり方に学ぶ、情報に踊らされない態度」です。

昨今、「幾夜大黒堂さんによるマンガ作品『境界のないセカイ』が、LGBT団体の抗議を恐れた出版社により打ち切られたらしい」というお話が広まっていますね。

今回はそもそも、「この話がなぜ広まったのか」ということに着目。そこから学びとれる“情報に踊らされない態度”について考えていきます。

★ そもそも、実際には何があったの?
まず本件について、主要WEBメディアの記事をいくつか挙げます。

【境界のないセカイ】講談社がLGBTへの配慮で発売中止か 「腫れ物扱いは不幸でしかない」|ハフィントンポスト日本版

「境界のないセカイ」、出版社の判断で連載終了 “表現上の問題”が原因か|ねとらぼ
ご覧の通り、「○○か」という書き方で断定を避けていますね。

★ では、なぜ「講談社が性的マイノリティへの配慮で打ち切った」と断言しないのか?
その理由は、著者である幾夜大黒堂さんのブログを見るとわかります。

本作で問題になった表現について。

講談社さんが危惧した部分は作中で”男女の性にもとづく役割を強調している”部分で、「男は男らしく女は女らしくするべき」というメッセージが断定的に読み取れることだと伺っています。
(私への窓口はマンガボックスさんの担当編集氏なので、伝聞になっています)
これに対して起こるかもしれない性的マイノリティの個人・団体からのクレームを回避したい、とのことでした。

幾夜大黒堂Web支店 @SakuraBlogより引用/2015年3月18日17時閲覧

ということで、本作品の打ち切り理由については、講談社が直接発表していることではなく、あくまで「伝え聞いたこと」なわけです。

要はね、この記事を書いている2015年3月18日現在、

「発売中止は性的マイノリティからの抗議を恐れてのこと“らしい”よ」っていう話でしかない

ってことよ。

★ そのことを著者の方がはっきり書いていらっしゃるにもかかわらず……
これがネットの書き込みとかまとめサイトの記事とかになると、こういう断定調の見出しにされちゃうわけですね。

大変よ!ゲイリブのせいで漫画の連載が打ち切りよ!|2ちゃんねる同性愛サロン板

【漫画】 作中で「女性なら男性と恋するのが普通」 ⇒ 講談社がLGBT団体の抗議を恐れて発売中止|痛いニュース
そして、単なる講談社叩きやらゲイリブ叩きのネタとして消費されてゆく……という大変アレな展開になっているのが現状なわけです。

なんていうか、正直……

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写真:PAKUTASO

しょんぼりんこやわぁ……

この「境界のないセカイ」の件を利用し、ネットで嬉々としてゲイリブ叩き・出版社叩き・はたまたLGBT叩きまで繰り広げる人々の、一体何割が元の作品を読んだのでしょうか?

一体何割が著者の話に耳を傾けたでしょうか?

一体何割が講談社側に説明を求めたのでしょうか?

そして一体何割が、「自分自身の“叩きたい欲望”に駆られただけ」ではないと言い切れるでしょうか?

講談社側の担当者は、「近日中に会社として公式発表をする予定」としています(出典:ハフィントンポスト日本版)。

今できることは、講談社側の声明を待つこと、それからそもそも元の作品をちゃんと読むことなんじゃないのかしら。

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掲載元のマンガボックスで、iPhone・Android・パソコンからすぐにでも読めますよ。

★ 今回の一件は、何万人をも巻き込んだ壮大な伝達ミスよ。
そして、そうやって“伝わらない”ことが人間と人間の間では往々にしてあるからこそ、みんな「どうやって表現したらいいか」を考えるわけでしょう。

伝わらないのよ、本当に!

耳を傾けることより、叫び散らかすことのほうが気持ちいいって人は少なくないわけ。そういう人間の性をまざまざと――自分自身の中にも――見たようで、今回の件については本当に私、

さっきのチンパンジーみたいな顔になったわ

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リアルに。

ああ、さみしい。さみしいわ。さみしいのね、人間って。だけれど、いや、だからこそ、必要とされる態度は以下の通りだと思います。

★ 今回の一件に学ぶ、“情報に踊らされない態度”3ヶ条
ちょっとまて! 叩く前には! 再確認!

(1)情報の出典を、複数ソースで・できれば元まで辿って確認する。
今回の場合の例:ちゃんと作者さんのブログや作品を読む、複数メディアの記事を見比べる

(2)関係者が複数いる場合は、それぞれの言い分を聞く。
今回の場合の例:幾夜大黒堂さん・マンガボックス・講談社それぞれの見解が発表されるまで待つ

(3)同じ名前で呼ばれる下にも違う意見の人がいるのだということを理解する。
今回の場合の例:「同性愛者の意見はどうなの?」「これだからゲイリブは」的なことを言わない

でもまぁ、この記事をこうやって全部最後まで読んでくださるようなあなたは、そもそも元から情報に対してていねいに向き合っていらっしゃる方なのでしょうね……。ありがとうございます。

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本件の真相がどうであるにしろ、(そしてそれが一般読者に知れる形で公開されるにしろしないにしろ)今回のことが、「伝え聞いた話」の段階で講談社叩き・ゲイリブ叩き・LGBT叩きに利用されたことを私はたいへん残念に思っており、繰り返してはならないことだと考えています。

それから、こーゆーこと書くとまた私について「講談社擁護か!? こいつ講談社の出資してる会社から本出してるぞ! 言わされてるんじゃないのか!?」「妻はマンガ業界人らしいぞ」「権力にすり寄るタレント風情が……売名乙」「これだから女は」「実は正体はチンパンジーなんじゃないのか」みたいな陰口を展開なさる方がいらっしゃることだろうと思いますので、先に私が書いておいてさしあげますね。無駄な時間を過ごす人が減るようにね^^

それにしても、ああ、この作品は、「境界のないセカイ」というタイトルだったのよね……。そのことを今、あらためて噛みしめながら、引き続き本件の動向を見守りたいと思います。

本件が単なる「叩きネタ」で終わらないことを祈りながら。


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