第30号 Are you ready for 「セクマイの介護」?

私たち性的マイノリティの高齢期を考えたとき、「介護」の問題は気になる話ではないでしょうか。高齢期になれば、多かれ少なかれ身体機能(頭の機能も含め。笑)が衰えるもの。介護ということで、他人さまの手助けが必要になることもあります。
今日はNPO法人パープル・ハンズが、性的マイノリティの介護問題に取り組んだ一席です。

本題に行くまえに、介護には「突然始まる」型と「だんだん始まる」型があるというお話を。
突然始まる」型は、脳血管疾患(脳卒中など)で身体にマヒが残ったり、骨粗鬆症で骨がもろくなっているところで転倒・骨折したりなどが原因です。病院などから戻されたら、さっそく介護が必要かもしれません。
脳血管疾患は男性の要介護原因の1位。昨今、ゲイコミュニティの一部にはガチムチ嗜好が顕著で、高血圧・高脂血症、多食、多飲酒、おまけに喫煙率も高く、脳卒中から要介護まっしぐら!? 骨粗鬆症は高齢女性が要注意ですね。
だんだん始まる」型は、ご存知、認知症のほか、老人性ウツから身体機能も低下などが原因です。一人暮らしだと自分では気づきにくいこれらの異変。周囲で気づいてくれる人がいるといいのですが……。
 子なし一人、HIV、身体に処置……セクマイの介護は難しい?

さて、超高齢社会で介護は多くの人に関係ある課題となっています。私たち性的マイノリティにとっては、さらにつぎのような考慮点があるかもしれません。

 ・子なし/一人暮らしで高齢期を迎える人が多いと予想され、他人の手(介護力)の持ち合わせが少ない。孤独死の予備軍ともなる。
・介護では家族/身元引受け人を要請される場面が多いが、そこに同性のパートナーがかかわれるのか不明。
・ゲイにはHIV陽性者も少なくなく、介護事業者や医療(町の高齢者クリニック等)が対応してくれるか不明。さらにHIV陽性には認知症の発生が有意に高い。
・トランスジェンダーは見かけと書類上の性別が異なる、身体に処置をしているなどの場合があり、事業所の対応が不安。
・デイサービス等でノンケ並みに孫の話などできないので、なじめるか不安。プライバシーも聞かれたくない。
・メンタル不調、薬物等への依存症を抱えているものもいる。
・若年期から非正規を強いられ資産形成ができず、高齢貧困、「老後破産」の危険性がある。
・介護の終了時=死の場面で、パートナーと親族間での争い、逆に「身寄りなし」「無縁死」もありうる。

私たちセクマイは、こうしたさまざまな「ヤヤコしさ」(生きづらさ、とも言います。笑)を持った人種だということは、自覚しておいていいでしょう。

今、高齢期にあるセクマイには、時代の制約から結婚生活を選ばれた人も少なくなく、介護の場面でも配偶者や子どもがキーパーソンとなることが多いでしょう。しかし、50代ぐらいの当事者からは、結婚をしないままの人も多い。ゲイではHIV陽性も少なくない。これらの人がさらに年を取って、これから介護の場に顕在化してくるのです(HIV感染が発病してからわかり、残念ながら機能障害などが残った場合には、40代から介護のお世話になる場合もあります)。

介護では、介護保険にお世話になります。具体的には、ケアマネージャーさんやヘルパーさん、老人ホームやデイサービスなどの諸施設とかかわります。その人たちは、私たち性的マイノリティに対応できるのでしょうか?

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性的マイノリティの高齢期支援の課題を伝える資料(©パープル・ハンズ)

 ケアマネやヘルパー、介護現場の人と直接つながる

性的マイノリティの老後やパートナーシップの確かな情報センター、NPO法人パープル・ハンズでは、当事者への情報提供のほか、セクマイを取り巻く社会環境の改善に取り組んでいます。
今回パープル・ハンズでは、パルシステム東京・市民活動助成基金様の助成を得て、まずは事務所のある中野区内の介護事業者向けに、「性的マイノリティー(LGBT)とHIV陽性者~~新しい利用者ニーズを知る研修会」(2回構成)を開催しました。区内事業者リストをもとに、140通程度のDMを発送。中野区および中野区社会福祉協議会の後援名義もいただきました。そのほかツイッター広報や新聞告知、エイズ関連メーリングリスト投稿なども併用し、区外からの参加も歓迎。

まだまだ関心は高くない、ニッチな領域とは予想していましたが、結果として、第1回は11名、第2回は14名が参加し、5名の方が2回とも参加してくれました。参加職種は、ケアマネージャーや介護ヘルパーを中心に、精神保健福祉士、作業療法士、医師、社会福祉士、新聞記者、行政職員です。

本稿では、アンケートを通じて寄せられた声をご紹介しましょう。
みなさん、どんな動機で参加したのでしょう。「これまでまったくなじみのない課題なので、知っておきたかった」「今後この問題が顕在化すると思って」という声が寄せられました。

 ・今後は要介護者のなかでもHIV陽性や性的マイノリティの人が増えてくる。基本的なことから聞いておきたい。
・陽性者の利用要請が来る「Xデー」は近い。理解を深めたい。
・事業所が歌舞伎町に近い地域で、高齢期に入ったLGBTの人たちはどのように暮らしているのか知りたかった。
・学生時代の友人がトランスジェンダーで関心をもった。
・高齢者には、「身寄りがない」「縁が薄い」というケースが増えている。そのなかにはセクマイの人もいるかもしれないと思い。

少ない参加者でしたが、介護者の一部にこうした関心が芽生えていることがうかがえました。受講の感想としては、知らない知識を得たことへの満足感は高かったようです。

・知らない話ばかりでとても参考になった。
・偏見のないつもりだったが、HIV対応等に知識の偏りがあったことがわかった。
・多くの学びをいただいた。
・自分自身もゲイで、ゲイでもある専門家としてなにができるのか考えている。
・(性的マイノリティは)制度のはざまに置かれている人だとわかった。

とくにHIV感染症は、昔の情報のままで利用者を拒否している事例も多いので、情報さえ更新されれば受け入れが進む可能性があります。

自由記述には、興味深いエピソードも記されています。

 ・セクシャルマイノリティというか、女装愛好家なのかもしれないご利用者さまがいた。女装をさせてあげたいと思いましたが、すでにターミナル期で更衣するだけでも体力を消耗しすぎるので諦めた。
・(ゲイとおぼしい)男性利用者に、男性介護者を拒否されたことがあった。恥ずかしいとのことだった。
・相談支援センターからHIV陽性者(高次機能障害、車いす)の受け入れを打診されたが、施設長が断った。無知による対応だと思う。
・入職希望者にトランスジェンダーの人が面接に来ることが増えた(採用事例はまだないが)。そのかたがたのトイレや更衣室など職場環境での対応はどうしたらいいか?

HIV陽性者への利用拒否は、やはり現実に起こっているようです。
こうして介護現場にあるかたのさまざまな意見が聞けて、パープル・ハンズにとっても実りの多い研修会でした。

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第1回研修会(2014/12/12)
性的マイノリティの基礎知識、HIV感染症の基礎知識。
第2回研修会(2015/3/10)
介護事業所におけるHIV陽性者の受け入れについて、成年後見制度をもちいたサポートについて。
写真は第2回研修会の様子

介護事業所との顔がつながっているネットワーク

今回を振り返って、参加事業所/参加者の数こそ多くはなかったものの、なにもしなければ繋がれなかった人たちと繋がり、情報を伝えることができたのは、大きな成果でした。今後、私たちもセクマイ当事者等から介護について相談を受けたとき、顔がつながっている事業所を紹介できるネットワークをもてました。

一口で介護事業所と言いますが、大手が運営するものから小人数やNPOが運営するところまで、さまざまです。ある事業所はアンケートで、

 ・当事業所は一般的に困難事例と呼ばれてしまっている利用者さんを多数受け入れている。今回の話を聞いて、それらの一つとして、性的マイノリティやHIV陽性のかたも受け入れられると思った。

と書いてくれました。こうした「志し系」の事業者とめぐりあえたのは幸いでした。
また、複数名の性的マイノリティ当事者(の介護/福祉関係者)が参加し、専門性を持った当事者とのネットワークが生まれたことも、ありがたいことでした。「自分はゲイとして、当事者向けの事業所を立ち上げたい」という声もありました。余談ですが、その人たちも加わって研修会後の打上げ、大いに盛り上がりました(笑)。

今回参加ができなかった事業所にも、こうした課題の顕在化が近い将来に予測されること、区内に当事者団体があり、なにかのおりには相談もできることを伝えることができたと信じます。
つながれたネットワークを大切に、今後も情報の継続的な提供に務め、つながりを絶やさないようにしたいと思っているところです。
また、読者のみなさんのなかで介護・福祉にかかわるセクマイ当事者のかたからのご連絡も、今後とも歓迎です!

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介護施設への受け入れ困難を伝える読売新聞の解説記事(岩永直子記者、2回とも参加)。この記事は、ネットでもぜひ読んでください。記事中、療養に疲れてみずから服薬を中止し、むしろ死を願う患者の話も痛ましい。ゲイの患者と明記はされていませんが、陽性者の8割はゲイ・バイ男性。これも性的マイノリティと高齢期や介護をめぐる課題の一つです。さまざまな人の協力で、克服していきたいものです。

【ご案内】タイトルにもある「東中野さくら行政書士事務所」は、性的マイノリティの老後や同性パートナーシップ保証に強い事務所です。事務所収入の一部でパープル・ハンズの活動も補填しています。中間会社等も入らず費用は合理的だと思います。現在、さまざまな特徴をもった事務所さんが増えてきました。書類作成等には、弊事務所もご検討先の一つとしていただければ幸いです。

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