第31号 aktaで「公正証書」の勉強会をしました

きょうは、3月29日にNPO法人パープル・ハンズのLP研番外編として行なわれた、「公正証書って、なに?」という勉強会の模様をお伝えします。渋谷新条例のパートナーシップ証明の要件とされているアレについてです。行政書士として、私が講師をいたしました。
パートナーシップ証明の制度を正確に知りたい

例の新条例では、「区長はパートナーシップの証明をすることができる」という条項があるため、日本でも同性婚開始か? と大きな注目を浴びました。メディアも「パートナーシップ条例」「同性婚条例」と。
もちろんニュースバリューはそこにあるわけですが、最初にこれは「男女平等・多様性条例」である点も確認しておきましょう。これまで男女平等やジェンダーイコーリティに取り組んできた人の思いも生きる条例になってほしいものです。

さて、この「パートナーシップ条例」、もとい(笑)、「男女平等・多様性条例」、みなさんは原文に当たっておられますか。現在、渋谷区役所のWebにpdf掲載されています。
条文によれば、「パートナーシップ」とは、「男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備える戸籍上の性別が同一である二者間の社会生活関係をいう」と定義され(2条の(8))、「区長は、第4条に規定する理念(永易注:性的少数者の人権の尊重)に基づき、公序良俗に反しない限りにおいて、パートナーシップに関する証明をすることができる」(10条)と定めています。婚姻でいえば重婚にあたるとか、なにか犯罪利用のような公序良俗に反することがない場合、証明を出せるというわけです。公序良俗とは、区のお気に入りないい子ちゃんになれというハナシではありません。

この証明を受けるには、①相互に任意後見契約を交わし登記をする②区規則で定める事項についての合意契約を公正証書でする、が必要です。細かいことは、これから規則で定めます。また、①②がなくても区長がとくに認める場合には、証明を出せる場合があるかもしれません(区議会答弁、および10条2項但し書きによる)。これも規則で定めるのでしょう。

さて、ここで多くのかたが、「任意後見契約」「合意契約」「公正証書でする」ということに、それ、なに???、 の思いではないでしょうか。

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 当日は約25名のかたが参加、カップルさんとおぼしき人も数組いらっしゃいました。アンケートを見ると渋谷区民もいたようで、まずは正確なことを知っておこう、の心。同性婚やパートナーシップへの思いは思いとして、制度の趣旨や効力などを正確に理解しておくーー熱い心と醒めた頭は、やはり大切でしょう。
今回はふだんからLP研やパープル・カフェの会場としてお世話になっているaktaさんへのチャリティー企画として、会員もふくめて500円以上の参加費をいただき、その全額(13,900円)を寄付いたしました。aktaなど「コミュニティセンター事業(ゲイ向けHIV啓発)」は来年度以後の存続が危ぶまれています。HIV啓発にかぎらずさまざまな活動に活用されている「二丁目の公民館」を守れ! ーー私どもでも微力ながらご協力させていただきました。

財産管理や身上監護を委任するのが任意後見制度

最初に公正証書あるいは公証制度と公証人についてご説明します。

公証制度は明治になってフランスから導入された制度で、文字通り、重要な契約書などに係官が添え印を押すなどして、それが真正なものであることを公に証明するものです。その係官が公証人、公証人のいるところが公証役場、そして公証人に作成してもらう文書を公正証書と言います。
公証役場は全国に約289か所あり、どこで作成しても効力はおなじです。
公証人は、裁判官や検察官のOBが試験を受けて法務大臣に任命される特別な公務員で、公務員と言いつつ給料がなく、証書の作成料などを収入とする独立採算制(公証人の給料のほか役場の家賃や事務員経費もまかなう)です。
しかし、公務員である公証人が作成した公正証書は「公文書」であり(他は私文書)、裁判などでも強い証拠能力が認められています。また、作成を公正証書ですることが法律で定められているものもあり、まさに任意後見契約がそれにあたります。

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明治初期、お雇い外国人としてフランス法を伝えたボワソナード。明治政府での仕事のほか、法政大学をはじめ各種の法律学校の基礎を作り、日本の法制近代化に大きな影響を与えました。公証制度もボワソナード先生が教えたのでしょうか、ね。

つぎに任意後見契約のご説明ですが、その前提に、ちょっとだけ小難しいお話を。

私たちが生きている近代社会では、人は理性的存在で契約などをする能力(行為能力)や自己決定する能力があり、その点でだれもが平等である、というタテマエがあります。これはフランス革命で打ち立てられた考えで、この考えをベースに人の権利や人と人との関係についての法律、つまり近代的な民法が整備されました(ナポレオン法典)。

では、認知症とか事故・発病で植物状態とかで、自己決定が十分にできない人はどうすればいいのでしょう。そういうとき日本の民法では、キーパーソンをつけてその人の失われたり低下した判断能力を補ってあげる仕組みを作っています。それが成年後見制度です(ちなみに未成年ははじめから親権者がキーパーソンになります)。
このキーパーソンがすることは、具体的に言うと、財産管理、そして身上監護(介護や病院の契約代理など)です。判断能力の衰えた本人にかわって、「頭のサポート」をしてあげる、その法的な根拠を与えるのが成年後見制度です。ちなみに「からだのサポート」は介護制度というわけ。

この後見制度は、ふつう本人の判断能力が衰えてから周囲や本人が裁判所に申し立てて後見人を決めてもらい、その後は後見人が本人を代理します。手続きや、後見人にできることは法律に定められているので、これを法定後見といいます。また、後見人も裁判所が職権で決めます(申立時に候補は出せますが、そのとおりにならない場合もあります)。

それに対して、判断能力の衰えに備え、あらかじめ本人が自分でキーパーソンを指定したり、そのときにお願いすること(与える代理権)を自分で決めておくのが、任意後見です。自分で自由にオーダーメイドできるので「任意」後見というわけ。万一時にはどういうことをお願いするのか、そのための代理権はどんなものか、報酬は払うのか、途中で解約することはできるのか、それらをお願いする人(委任者)とされる人(受任者)とで話し合って取り決める、つまり契約するわけです。

この契約は、万一時には自分の財産を預けたりする重要な契約ですから、公正証書で行ない、契約は登録(登記)することに法律(任意後見契約に関する法律)で決まっています。登記証明書をとれば、二人のあいだにすでに法律にもとづく関係があることが証明できます(なお証明は、他人が勝手にとることはできません)。
気になる費用ですが、任意後見契約の作成には公正証書の基本料である11,000円、公正証書は紙代が250円@1枚かかりますが、この契約は役場に保管される原本、委任者と受任者に渡される正本、登記のための謄本、合計4冊印刷します。そして法務局への登記料で、合計約20,000円かかります。カップル双方でやるので約4万円。

もう一つの「区規則で定める事項についての合意契約」というのは、おそらくパートナーシップ契約書とか準婚姻契約書と言われるもので、二人の共同生活についての取り決めごと(家事とか費用負担とか療養看護、貞操義務とか……)をするものです。これを私文書ではなく公証役場で公証人に話して契約書にしてもらいなさい、ということ。二人の共同生活はそれぞれオリジナルであるべきで、それをあらかじめ区が事項を定めるというのは、個人の自由な関係性を縛る感じがなくもないのですが……。こちらも公証役場手数料が約15,000円程度かかります。

当日の勉強会ではこのあと私の事務所で作成した任意後見契約とパートナーシップ契約書の実例コピーを配布し、契約条項を具体的に読んでもらいました。他人の財産を法的な立場を得て管理したり、契約(病院入院や介護施設入所もすべて契約です)を代理するにはどういう取り決めが必要なのか、共同生活にはどんな契約をしておくとよいのか、具体的に知れて、みなさんの、へーー、へーー、という感じがうかがえました。

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法制度にかんする議論は印象論や思い込みではなく、まずは法文や実物にあたって考えることが大切ではないでしょうか。
証明取得より、生活者としてパートナーシップをじっくり考える機会に

最後に、つぎのようなまとめをお話しました。

同性間パートナーシップの法的保証制度は、現在、日本にはありません。何年ともに暮らしていても、せいぜい友人関係としか取り扱われません。ただ、現代は自己決定尊重の時代であり、書面作成などで、どういうときにはこの人にどうしてほしい、こういう権限を許可する、みんなもそれを尊重してほしい、と表明することができます。
同性パートナーシップ保証に有益な書面の代表的なものは、医療における意思表示書、財産管理と身上監護委任の任意後見契約、財産承継の遺言で、じつはそれらの組み合わせで「婚姻」と同様の内実に近づけることはできるのです(当連載のこちらでも、まとめを掲載)。

今回の渋谷区の証明は、こうした内実づくりの自助努力にたいして、いわば区が「後援名義」を出すようなものでしょうか。証明自体にはとくに法的効果はないのですが、「お上の権威」に弱い日本人(苦笑)、公正証書をドサッと出されるより、区の証明書を示されたら、「はあ、区が認めているなら……」と納得しやすい、それがねらいです。区(行政)が同性カップルに公的な文書を出す、その画期性や社会的なアナウンス効果は大きなものがありました。

この条例、一部からはずいぶん「批判」を受けていますね(苦笑)。

①公正証書ですでに中身があるのに、法的効果もない証明をなぜ出すんだ!
②男女婚なら無料で紙一枚でできるのに、区は公正証書を作る金のあるカップルのみ優遇するのか!
③そもそも男女なら公正証書なんかいらないはずだ!

ともかく怒っています。そして「こんな条例廃止しろ!」「無いほうがまし!」と、いやはや(汗)。
①については、区は最初から法的な効果はないと言っていますし、さっきも書いたように「しょせん」後援名義です。とりたい人がとればいいだけであって、とらないご自身に条例がなにか実害を及ぼすのでしょうか?

②は、同性カップルを守る方法は緊急連絡先カードに始まって無料や低額でできることもいろいろあります。この連載をはじめ、拙著やLP研で種々紹介しています。ぜひ活用してください。でも、それらの方法があるから条例なんかいらない、廃止しろ、は、いただけませんねえ。いろいろあったらいいじゃないですか。
ちなみに無料・紙一枚の婚姻ですが、その一枚で男女は、同居・協力・扶助義務、費用分担、連帯債務、相手方親族との姻族関係、もちろん貞操義務、ほかにもイロイロもれなく付いてきます。パートナーシップ証明には取得にともなう義務は生じないようです(権利も付与されませんから)。

そして③については、法律婚した夫婦でも、相手名義の財産の処分や契約を代理するには任意後見契約などが必要です。夫婦だから自由にできるわけでないことは、銀行の窓口で「本人確認は?」「委任状は?」と言われるとおりです(夫婦別産制)。同性カップルにのみ過剰負担を押し付けているわけではなく、法律や制度は正確な理解をしていただきたいものです。
ただ、パートナー間で後見契約をしておくことは、万一に備えて役に立つ必要条件とは言えますが、逆に後見契約があることが「婚姻関係と異ならない程度の実質を備える」証拠になる、つまり十分条件だとは言えません。高齢見守りで、NPOや施設、弁護士など専門家と契約することもありますから。なぜこれを要件としたのかは、私も疑問なしとしません。今後、他地域で同様の制度を検討、立案するときは、考慮してほしいものです。

ということで、私には「提案したヤツが気にくわねえ」「喜び組の顔、見たくねえ」という以外、この制度に反対する理由が見当たらないのであります(苦笑)。ましてや「おまえらの拙速な条例作りで宗教右派のバッシングが沸いてきたじゃないか、どうしてくれる」と批判をするのは、もう方向が逆でしょう?

最後にーー。

証明の効果は象徴的なもので、内実はあくまで自分たちで用意をすることになっています。その点では、渋谷区の人も区外の人も、法律のない日本で性的マイノリティである自分の暮らしやパートナーとの関係をどう守るのか、老後もふまえて真剣に考えていく必要があります。
そしてカップルに限らず、シングルで生きるとか親友との共同生活を考えているとかでも、それはおなじなのです。
いたずらに証明書の取得だけを目的にするのではなく、今回のことを、生活者としての性的マイノリティが暮らしや老後をじっくり考えるよき機会としていただきたいと願っています。パープル・ハンズも、また私をはじめ当事者/支援者のさまざまな法律家(たとえばLGBT支援法律家ネットワークなど)も、そのために喜んでお手伝いする所存です。

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LGBT支援法律家ネットワークでは、レインボーウイーク中の25日、憲法学者の木村草太さんの講演会を開催します。ご興味のあるかたは、ぜひ参加してみませんか。Webサイトをご参照ください。

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