第34号 私の「同性婚」ノート~木村草太さん講演会から~

 お祭り騒ぎ報道から熟考の時期へ

新聞を見ていると、このところ「同性婚」が来ている! 感じです。

渋谷の例の条例以来、メディア上にいわゆるLGBTネタが堰を切ったようにあふれました。で、こういう記事を書くのは若い女性記者と相場が決まっていたのに、私の購読する朝日では、政治部の論説委員(50代のオジさん)まで4月5月と続けて性的マイノリティを取り上げています。若い女性が書くなら「アレは女・子どもの話」でお目こぼし、しかし大の男の記者が書くことではない、とばかりについぞ筆に上らせなかったのに、いまや論説委員クラスも書き始めた事態に、うたた感慨を覚える私です。

さらに、5月の憲法記念日を迎え、時節柄、憲法に視線が集まるなかで、「えっと、同性婚って憲法が関係なかったっけ?」というガチな視点を出してくるのが目に付きます。
朝日は5月3日の憲法記念日特集で、いま人気の憲法学者・木村草太さんが、やはり憲法本を出したAKBの内山嬢と対談する企画で、「同性婚」をめぐる憲法解釈を紹介。
オピニオン特集のかたちで同性婚を取り上げたのは、5月2日の東京新聞「「同性婚」 新しい家族の形」、そして5月15日の毎日新聞「論点:同性婚、家族の形を考える。両紙とも、同性婚が「家族の形」を問いかけると位置づけ、論者が「子どもの問題」をクローズアップしているのが目に付きます。

そう、すでに同性婚は、ウェディングの写真に「なんで愛を法律で禁じられなきゃいけないのか初めて思った」なんて素朴に賞賛したり、同性カップルは病院や家探しが困難、相続もできないのです、といったおなじみの不幸物語、あるいは多様性は会社を勝たせる、といったワールドビジネスナウな話から一歩を進み始めているようです。

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上から、朝日(見開き2面を使って。右下隅に同性婚のコラムも)、東京、毎日の各紙面。

 同性婚は、民法に条文追加することでできる

4月のレインボープライドのパレード前日、LGBT支援法律家ネットワーク(有志)が主催した憲法学者の木村草太さん講演会のことは、この連載でも以前ご案内しておきました。実際参加してみて、200人近い聴衆が詰め掛けた会場で、私もさまざまな気づきを得られたひと時でした。
個人的に面白かったのは、「同性婚が合法化される」というとき、どんな法律ができればいいのかが具体的にわかったこと。別に特別な新法を作るわけじゃないんですね。
木村さんが紹介したのは、婚姻について定める民法の731条に続けて、731条の2として、つぎのような条文を加えるものでした。
*法律は条の番号「条名」をずらすといろいろ不都合が生じるので、適切なところにあとから枝番号で挿入することがよくあります。

 民法731条の2 婚姻は同性の間でもこれを行うことができる。

ああ、これだけのことなのか、と思いました。木村さんによると民法は、低年齢婚、近親婚、重婚は明文で禁止していますが、意外にも同性婚は禁止していません。なので、まずこれを入れます。そして731条の2の2項として、

 2項 前項の婚姻について本法(民法)を適用するときは、「夫婦」とあるのは「⚫︎⚫︎(←同性の「ふうふ」についてなにか適切な用語を考える)」、「夫」とあるのは「一方の配偶者」、「妻」とあるのは「もう一方の配偶者」と読み替えるものとする。

やはり、「夫」「妻」「夫婦」という語から同性婚は想定されないとする解釈が一般的とのこと。
では、こういう法律を作ることが、現在の日本国憲法に照らして合憲なのか違憲なのか? 木村さんは憲法学者として、憲法は同性婚を禁じていない、としました。このへんのことは、すでにウェブでもレポートされていますので、ご覧いただくことにしましょう。文言解釈レベルで一つひとつ詰め、結論を導いていくあざやかな手さばきは、会場で聴いていて大いに興奮。練達な将棋棋士そのものでした(木村さんの将棋好きは有名です。笑)。

よく、「憲法は同性婚を禁じてないと言うのは詭弁だ、解釈改憲だ、これでは安部サンを批判できないぞ」という声があります。「同性婚支持派のリベラルは改憲問題から逃げるな」とも。
いえ、だれも逃げてはいません。憲法を問うのは、はじめに改憲ありきではなく、こうした具体的な立法(民法改正)の過程で、あるいは婚姻届け不受理の取り消し訴訟などのかたちで問うのが「やり方」というものでしょう。
あるいは、「憲法の原理を理解した上で、想像力を駆使して我々の「頭の中」に理想のルールを創造すること」ーーそれが木村さんの言う憲法の創造力かもしれません。

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 講演につづき、後半は当事者たちも参加してシンポジウム。木村さんは、法律家ネットワークが呼びかけている日弁連への同性婚人権救済申し立てや、いずれ起こるであろう裁判のさいには、私も意見書を書きます、と頼もしい発言をされました。ネットワークでは同性婚人権救済申し立てへの賛同署名を募っています。応援の気持ちを込めて、ぜひあなたもご署名をご検討ください!(ネット署名か署名用紙の郵送か、どちらかでお願いします。)

 同性の両親が子どもをもつこと

ただ、ここで考えないといけないのは、「子ども」のことです。こうして読み替えをした場合、民法の他の規定が、どれもうまく同性婚の場合にも適用できるでしょうか?
民法772条に「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」という規定があります。これを「一方の配偶者が婚姻中に懐胎した子は、もう一方の配偶者の子と推定する」とできるか?  いまは生殖医療で懐胎することができる。その子は同性婚の相手にとって「なに」になるのか? 女性が懐胎したとき、相手の女性から精子の提供を受けたという事実は生物学上ありえないわけですから。

木村さんは、これについては最高裁決定ですでに解決済み、とします。

性同一性障害で女性から男性になった夫とその妻による夫婦で、妻が第三者の精子提供を受けて産んだ子を、生物学上はつながりのない夫の「嫡出子」とする最高裁決定が出ています。つまり、嫡出子とは精子の提供とかDNAで繋がっているとかだけを言うものではない、と最高裁で決定されたわけです。
この決定の趣旨によれば、女性が産んだ子は、その女性の同性配偶者と生物学的につながりはありませんが、嫡出子と推定することができ、その子に対して親子関係を創出することができます
*推定とは、「みなす」と違って、反証する事実があった場合などは修正することができることを言います。この場合、もう一方の配偶者が認知を拒否するなどのことがなければ嫡出子とされます。

これを法律にする場合は、

 第3項 第1項の婚姻から生じた嫡出子について本法を適用するときは、「父母」とあるのは「両親」、「父又は母」とあるのは「いずれかの親」、「父」とあるのは「一方の親」、「母」とあるのは「もう一方の親」と読み替えるものとする

とすればよいと言います。ただ、法文上はこれで問題ないとしながらも、木村さんは子どものことについては「子の福祉」の観点から、まだまだ熟議を重ねていく必要があるとしました。また、講演では触れませんでしたが、男性同士ではどうなるのか? 日本では代理母が認められていないので、女性同士だけを考えたのでしょうか……。

この、「子をどうする?」については、冒頭の新聞記事がまさにそれを問うています。
東京新聞では、フランス在住のジャーナリスト・浅野素女(もとめ)さんが、フランスの同性婚でも子どもをめぐる議論が続いていることを伝えています。
毎日新聞では、家族法で著名な東北大の水野紀子教授が「子への影響 軽視するな」と題して、「結婚とは子供を育てるための枠組み」である、生殖医療で生まれた子たちは「両親が同性であれば、いずれ必ず自らの出自に疑問を持つ時が来るし、ひいては自らの存在にも疑問を持つことがある」、だから子をもつことができる婚姻まで許すべきではない、と主張します(ただ、同性カップルが養子を得て子育てすることは認めています。また、同性カップルへの不平等は婚姻とは別のパートナーシップ法で解消すればいい、としています)。

水野さんのインタビューには、私でさえ一文一文、問い詰めたいところがいろいろありますが、90年代はじめから25年、生殖医療の進歩の現実もあって、法律学者らを具体的な議論の土俵に上がらせるところまで来たことには、これまた深い感慨を覚えます。

さてーー
幸せな二人を祝いたいだけなのに、そんなに難しい話が必要なの? と思われるでしょうか。あるいは、同性婚だけがセクマイのすべてじゃない! という声もあるでしょう。同性パートナーシップを営まない人、あるいは同性パートナーシップとはあまり交叉しないセクシュアリティのかたも、私たちのなかにはいます。

ただ今後、法律のかたちで定着させるためには、法律的な論点をきちんと詰めていかないと、国会での可決にまではたどりつけません。子の問題は、同性婚論議のまさに台風の目。その難関を当事者として越えていく覚悟(?)が問われるのかもしれません。その努力をする人へは、ぜひ応援をしたいと思うものです。
そして上述したように、こうした論議のなかで、憲法は同性婚を認めているのかということ自体も問われてくるでしょう。

私たちの存在は、家族の形や憲法など、この国の未来の形につながる問いを含んでいることに、いまさらながら打たれる思いです。

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