第20回 セックスは若い人だけのものじゃない

 

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「なんであんな年にもなって、まだセックスしたがってるんだろう?」

ゲイバーで友達数人とビールを飲んでいると、少し離れたところにいた中年のおじさんを指差して友達は言った。そのおじさんは小さなテーブルに一人で座って、空のビール瓶を左手に握って、さっきから周りをジロジロ見ている。きっと今夜の遊び相手でも探しているんだろう。ゲイバーではさして珍しい光景ではない。

「あの人、僕が初めてゲイバーに足を踏み入れた日にも同じ席に座ってたんだ。もう10年前のことだから、もう50代後半じゃないかな? あんなに必死に若作りして本当に痛い。ジロジロ見られたら気分が悪くなるよね」

その友達の口の悪さにビックリしていたら、周りも彼に同意していた。アラサーの私たちはその中年のおじさんからそう遠くない場所にいるのに、どこからそんな言葉が出てくるのか不思議だった。勝手に決められたセックス適齢期を過ぎた人をバカにすることが、この社会ではフツーになってしまったのかもしれない。昔から納得できなかったが、どうしてセックスや恋愛はまるで若い人たちだけのものみたいな扱いを受けるんだろう。そうではない人たちに恋愛やセックスをする権利はないとでも言わんばかりだ。

トロントに来て間もない頃にハッテン場でこんな場面に遭遇した。カルキの臭いが充満した薄暗い階段を上っていたら、杖をつきながらゆっくり階段を降りているおじいちゃんとすれ違った。70歳か、下手するともっと上かもしれない。あの時、そんな年齢の人がハッテン場で何をしているのかまったく理解できなかった。タオル一丁でハッテン場を歩き回ってるんだから、答えは一目瞭然だったが、先入観に邪魔されて見えなかった。

他の人にその話をすれば、返ってくる言葉はどれも同じだった。

「気持ち悪いね」

しかし、今の自分が同じ光景を目にすれば、きっと違う受け止め方をしただろう。自分が老いて、杖なしでは歩けなくなったって、きっとたまにハッテン場で遊び相手を探したくなるかもしれない。そんな時は、気ままにやりたいことをやりたい。それだけのことなのに、周りから後ろ指をさされるのは悲しい。セックスは若い人だけの特権だと決めたのは誰か知らないが、それで自分の自由を奪われる筋合いはない。

20代前半の頃は、ただ若いというだけで周りからチヤホヤされた。どうして若いだけでモテるのか、深く考えたこともなかった。20代の後半になるにつれて、体型が緩くなって、昔と比べてファッションへの関心がなくなった。そうすると、自分の存在感がガクッと減った。今でもここにいるのは同じ人間だ。むしろ、中身は数年前より遥かに美味しくなっているはずだが、どうしてこんなにも扱いが違うのだろうか。「そういうものさ」と自分に言い聞かせて、世間に擦れた人になった方が楽なのかもしれない。この先、この肉体はもっと老いて、自分の存在はどんどん透明になって、そして笑いのネタにされるのだろうか。

「君が50歳になったら、ゲイバーは49歳以下限定の場所になってればいいね」

毒舌を抑えきれずに、ざくっと友達の急所を刺してみた。こういうことするから友達が減る。しかし、彼は何も言い返さなかった。もしかしたら、何も言い返せなかったのかもしれない。多かれ少なかれ、私たちは心のどこかで年老いていくことを恐れている。そんな恐怖心を少しでも和らげようとして、そんな心無い言葉が口からこぼれる。それがブーメランとなって自分に返ってくる前に、その当たり前を変えてしまおう。

何歳になったって、自由に生きたいじゃない。

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