第36号 LGBTブームのいま、あえてHIV陽性者の高齢期問題を考える

5月のはじめ、岐阜市で開催されたHIV診療にかかわるお医者さんたちの勉強会に、ご縁があって招かれ、「HIV陽性者の高齢期問題」というテーマでお話ししてきました。今日はその一席を。

「LGBTブーム」のなかで、消されているHIV陽性者の姿

最近、メディアで性的マイノリティの取り上げがとても増え、なんだか「LGBTブーム」とでもいう感じです。私らお古い人間は25年前、90年代の「ゲイブーム」でメディアにどっと男性同性愛者の情報があふれ、それが当事者を活性化した時代を経験しているだけに、今回の「LGBTブーム」も、きっと私たち自身にさまざまなプラスの効果をもたらすものと信じます。

ただ、「ゲイブーム」のときもそうでしたが、メディアの取り上げ方はとかく物事の一面に傾きがちなのも確か。テレビで絵になるもの、わかりやすく「共感」や「感動」が得られるもの、経済や企業と結びついて成長や消費という関心を呼びやすいもの、などなど。でも、それらの陰でメディア的関心からとりこぼされているところにこそ、私たち性的マイノリティのリアリティがあるのも、一面の事実です。

同性パートナーシップの話題はとても大切なことですが、性的マイノリティの多くはたぶん、シングルとして人生を送っていたり、ノンケの子育てのような長期にわたる共同作業に乏しいせいか、短期のパートナーシップを繰り返す傾向にあるように思います。でも、セクマイの現実である単身者問題は「絵」に乏しいのか、メディアでの取り上げをあまり見かけません。

また、ゲイの領域から言えば、首都圏で男性どうしでセックスする人の5パーセント(20人に1人)はHIV陽性と推測*される一方で、HIV陽性者の姿も「LGBTブーム」のなかには現れてこないリアルの一つです。メディアの関心の外にあるだけでなく、積極的にメディアに登場して訴えていこうとしている当事者からも、そのことには触れないでおこうという気振りを感じるのは、私の勘違いでしょうか。たしかにせっかく企業が注目してくれようとしているとき、じつは「ふしだらなセックス」をしまくったあげく性病になったオカマがどっさりいる、なんて言えば、企業がドン引きするのは目に見えていますから……。でも、ゲイの現実は、そうなのです。そしてあえて言えば、「それのどこが悪いのか」。

 *2000年代初め、厚労省の疫学研究班(市川班)が南新宿検査室等での調査から推算し、都内のゲイ系HIV啓発団体でもおおむね実感と合う数字としてシェアされたもの。現在はさらに増えているかもしれない。

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駒込病院の今村先生とならんで、お話しをさせていただきました。岐阜は初めて降りたのですが、岐阜といえば、90年代のはじめ、私たち東京と大阪と名古屋のゲイの若者サークルの交流合宿を名古屋で開催したとき、岐阜大学の医学生だというゲイが飛び入り参加してくれたことがありました。それが、のちのしらかば診療所井戸田一朗医師です。それを話のマクラで紹介すると、岐阜大病院の先生が「井戸田さんは先輩です」という人もいました。感慨深い一コマです。

 見え始めたHIV陽性者の高齢期問題︎

性的マイノリティの老後を考え、つながるNPO、パープル・ハンズは、同性パートナーシップ保証への情報提供やサポートにももちろん取り組んでいますが、セクマイが単身で年をとったときどうするか(カップルも別れたり死別すればシングルです)を考えることも、持ち味の一つです。

そして、ゲイに多いHIVにもけっして目をそらさず、とくにHIV陽性で年をとったときどうするかを考えることも、大事にしています。

HIV感染症は現在、治療が劇的に進歩し、感染がわかっても早く医療につながれば、服薬でウイルスやその他の症状をコントロールして健康を保ち、長期延命できるようになりました。陽性者の平均寿命は、非感染者と変わらなくなってきています。
一方で、それは「HIV陽性者の高齢期問題」というあらたな課題を登場させています。以前なら、「短くも美しく燃え」とばかりに感染後、短期で死を迎えていたものが、いまはそのまま高齢期まで持ちこたえられるようになったことで、それまで考えていなかった問題に、医療も、社会も、そして陽性者自身も、ぶつかるようになってきたわけです。

そうした変化を背景に、今回、岐阜の勉強会に招かれたのでしょう。岐阜での講演会では、HIV陽性者の高齢化問題として、つぎのような整理をしてみました。

 新しい医療問題が出現
HIV陽性者は長期療養のなかで認知症や骨粗鬆症、悪性腫瘍(ガン)になりやすいことがわかってきました。また腎疾患から透析へ進む人もいるほか、高齢期なりの成人病にも注意が必要です。

 医療や療養体制が追いつかない
成人病などを診てもらう高齢期クリニック、そして透析病院や介護施設等では、HIVへの偏見からなかなか受け入れが進まない現状があります。特に透析病院の拒絶の多さに、陽性者は困っています。

 社会的援護が必要な事例が多い
HIV陽性者の多くはゲイ・バイ男性であり、病気とセクシュアリティの2重のスティグマに苦しみ、親族や地域行政にも打ち明けづらく、孤立を深めがちです。
単身者が多く、セクマイゆえの離転職などからの貧困、そして薬物依存やメンタル不調などに悩む人もいます(こうした状況で認知症を発症した場合は、どうなるのでしょうか)。また、同性のパートナーがいても、法律的な立場が主張しづらく、医療・介護・行政手続き等でどう対応されるのか不明です。

医師・看護師のほか、薬剤師やソーシャルワーカーも参加した会場では、すでにこうした課題を直接、見聞きすることもあるのでしょうか、うんうんとうなづきながら聞いてくださる姿も見えました。

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6月はじつは12月とならんで、HIV検査が呼びかけられている時期です。東京都の検査情報などは、こちらで調べられますが、あなたがお住まいの自治体でも、夜間や休日、1週間待たなくてもすぐわかる即日など、受けやすい検査が用意されているはずです(調べてみましょう)。年に一度は自分を振り返る検査の機会を!
 ︎成年後見による見守りサポート

勉強会では、地域で孤立する(高齢)HIV陽性者ーーその多くはゲイ・バイ男性ーーへのサポートとして、成年後見制度について紹介しました。成年後見制度は、最近、渋谷区のパートナーシップ証明の要件としても話題にのぼっていますが(任意後見契約)、本来は、認知症などで判断能力が低下した人にキーパーソンをつけて、その人をサポートするのが目的の制度です。

HIV陽性、認知症で判断能力低下、一人暮らし、貧困で生活保護受給、介護も必要、だからといってさまざまな事情から親族に世話されるのは避けたい……こうした状況に、(利益相反となる病院関係者以外の)だれかがキーパーソンとしてついて、その人の医療や介護などを含めた身辺を整え、サポートする体制が必要です。入院時の保証人や死後の片付けも、考える必要があるでしょう。

超高齢社会の現在、一人暮らし高齢者のサポートに、株式会社やNPOなどさまざまな「見守り法人」が活動しています。法人とご本人とが後見契約などを結び、いわば「契約家族」「見守り家族」として、その後のサポートにあたっていく仕組みです。
ノンケ・一般向けではなく、セクマイやHIV陽性など特有の事情をふまえたサポートの提供を、というニーズにたいして、パープル・ハンズという法人として取り組めないか。そういうことを考え、ゆっくり準備を進めているところだ、ということをお話ししました。

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 遺言やエンディングノートの作成などの「老いじたく」や、パートナーとの公正証書の作成などには、当事者NPOおよび専門家として、いろいろご相談に応じています。

また、いまからできる社会の環境改善ということで、たとえば事務所のある中野区で、介護施設にたいして性的マイノリティやHIV陽性者を受け入れるための研修会を開催している話もしました。

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最後に勉強会で、「高齢・陽性ゲイのかたの問題は、高齢独居の一般の患者のかたと、どこが違うのか」というご質問をいただきました。たしかに、高齢、単身独居の陽性者を支えるうえでセクシュアリティは関係ないかもしれませんし、ゲイの患者さん自身でもそれにこだわる人、気にしない人、逆に触れてほしくない人、いろいろいらっしゃるでしょう。でも、私はこう答えてみました。

「一般の患者さんならお医者さんから家族のことなど聞かれることもあるでしょう。でも、ゲイの患者は、自分のなかの大切な部分について話すことも、また医師や介護の人から聞かれることもなく、最期の亡くなる日まで、その部分については「無かったこと」にされて終わるかもしれない。そんな人生って、なんなのでしょうね。受容されている感覚、それが大事な気がします」

ゲイの老後はHIVの老後でもあり、HIVの老後はほぼ、ゲイの老後でもあります。身近なHIV陽性の仲間たちが最期まで安心して人生を生きられるとき、どんな性的マイノリティも、やはり安心して人生を生きられるのではないか。私はそう考えています。

【お知らせ】
毎度の告知です。「東中野さくら行政書士事務所」では、わかりにくい「任意後見契約」や公正証書について、契約書のコピーを見ながらわかりやすく解説する「使ってみたい人のための公正証書講座」を土曜日に開設しています。渋谷での証明申請を考えているかた、他区でもパートナーシップやライフプランの参考にしたいかた、どうぞ受講してみてください。
受講料:千円(パープル・ハンズの活動費に)。詳細・申し込みはこちら。(今週はお休みです。)

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