第37号 グループリビングの「光と影」?~「ボクの老後はどこにある」⑧

 

 きょうの「老後の新聞」は、5月に開催されたパープル・ハンズのライフプランニング研究会(LP研)、「グループリビンの「光と影」?」の話題です。

開催は連休最終日。連休疲れで参加者少ないかなと思ったら、最終的に50人近い来場者があった模様。テーマも関心が高いのかもしれませんが、パレードをはさんでさまざまなイベントを合同でプロモーションする「レインボーウイーク」効果で、ふだんパープルだけではリーチしない人たちにも情報が届いたようです。

「ゲイの老後はグループホームでみんなで暮らす」と言われ続けて30年

 前回も触れましたが、同性婚ばやりの昨今ながら、さまざまな理由から性的マイノリティの圧倒的多数は、おそらく「おひとりさま」として人生を送っていくと思われます。そんなひとりで送る老後の不安に、つねに繰り返されてきた呪文が「ゲイ(性的マイノリティ)の老後は、グループホームでみんなで暮らす」。私がゲイ界隈に出入りするようになった80年代後半ころから耳にしていますから、ゆうに30年の歴史はあるのでしょう。多くの人が「最後の希望」のようにそれを口にし、「ゲイの老人ホーム」が舞台の映画にも、関心が集まりました(老人ホームが主題の映画ではないのですが……)。

 それにしても最近、なんとなくゲイ/セクマイのためのグループリビングとか老人ホームとかが、これまた「ブーム」の感があります。数年前に登場したLGBTフレンドリーを謳うシェアハウスは、現在、比較的若者層が人生の一時期を居住する「通過」型シェアハウスのようですが、いまちょっとブームなのは、高齢期のセクマイが入居し、介護も受けられ、最終的にはそこで旅立つ「終の住処」型。設立をめざす当事者グループも複数あれば(なぜか関西に多い)、相乗りする企業もあるようですし、時代も「シェア」とか「空き家活用」に追い風が吹いています。今度こそは本当にできるのか? と、コミュニティの関心や期待を集めている模様。来年には50歳の私も、もちろん関心はあります。パープル・ハンズでも、「仲間サポート」として、将来取り組んでみたいことの一つです。

そんなとき見つけたのが、2014年1月の、この新聞記事でした。

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「空き家改修 「終の住まい」に」「見守りあう暮らし NPO提案」の見出しが踊り、本文には、5LDKの空き家を改造、5部屋プラス共同キッチン、補助金を活用、NPO運営などと。思わず「これだ!」と叫んで、この記事をスクラップした私です。NPO法人「ヒューマンループ・人の輪」、そして竹内理事長(72)というお名前も記事にはあります。

それから1年。たぶんノンケのこの70代のおばさんに、「ゲイです、セクマイです」と言ってわかるかなあ……。内心悩んでいた私も(ワタシだって悩みます。苦笑)、意を決してホームを運営するNPOに取材を申し込みました。
竹内さんは、長い人生のなかでセクマイの知人も何人かいて、けっして拒絶的ではないフレンドリーな人。豪快な話っぷりでいろいろ聞かせていただきました。そして、5月のLP研にも登場。いまもフレディ・マーキュリーを愛しクイーンの全アルバムを持っているロック好きおばさん! ともかくお元気です。
以下、まずは私からの報告にそってご案内しましょう。

 高齢者による助け合いの「なかま暮らし」目指して

この「グループリビング・みたかの家」は、三鷹駅から徒歩20分、近くを駅からのバスも通る住宅街のなかにあります。空き家を15年の定期借家契約で借りあげ、改築。2013年に完成し、14年から入居者を募集開始しています。
5つの個室部分は約8畳で、それぞれミニキッチン(オール電化)や緊急通報システムがつけられ、プライバシーが守られています。
共同施設としては、トイレ、風呂、ランドリー、エレベーターのほか、大きな共同キッチン兼リビングがあります。

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左上から、居室、共同キッチン兼リビング、居室のミニキッチンと緊急通報装置(倒れたとき押せるよう下方に設置)、高齢者用バス、建物外観、NPOの人が詰める部屋。

入居者は、①60歳以上で単身②経済的・精神的に自立し協調性がある、などの条件を満たした人から、NPO法人が選びます。ホームでは、そうして入居した人たちによる共同生活が行なわれます。炊事も共同キッチンでみんなで協力して作るなど助け合いの暮らし。料理が下手な人だって、買い出しや片付けなどを分担。作れない場合は、NPOメンバーの調理委託など家事サービスを利用したり(食材費900円、調理850円@時)、配食利用も可能です(このNPOでは配食事業もしています)。犬猫も可(しつけ必須)。飼い主の死後は、他の入居者が引き継いでくれるでしょう、と竹内さんは微笑みます。

介護付きホームではないので、このNPOが介護をするわけではないのですが、NPOが地域で培ったネットワークで信頼できる介護事業所などにつなぎ、みたかの家へ訪問介護を受ける予定です。あくまでここは施設ではなく「自宅」であり、入居者それぞれが鍵をもち、門限などもありません。
NPOの役割としては、昼間はだれかが出入りしていますが、夜は入居者だけです。しかし、緊急時は市内の竹内さん宅へ電話が入り、バイク15分でかけつけるそう(70代のおばさんなのに!)。NPOは、企業運営のホームのように、金さえ出せばなんでもやってくれるわけではありません。高齢者という縁で集まった居住者どうしが協力しあいながら「なかま暮らし」を行ない、NPOは「みたかの家」という場を提供し、その暮らし方を居住者と一緒に作っていく、オープンで対等な付き合いが基本です。
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 費用3300万は、国と都の助成金や会員から借り入れで

さて、こうした家はどうやったら建設できるのでしょう?

まず空き家を改修するためのお金が2900万円、その他に空き家を借りる敷金や前払い家賃、備品購入等で合計約3300万円強が必要でした。改修費が意外にかかりますが、こうした集合住宅は建築基準法上、「寄宿舎」の部類に入り、設備のハードルがかなり高くなり、どんどんお金がかかったそう。
そのお金の調達ですが、こうした空き家活用推進の政策があり、国(500万円)と都(600万円)から助成金が貰えました。足らない分は、NPOの会員が1400万円を出し合い(会員からの借り入れ)、政策金融公庫からも650万円を借ります。エコ発電推進でリチウム電池設置の補助金66万円とかもあったそう。

そうして建ったみたかの家。収入としては当然、入居者からの家賃で運営するわけです。入居者資格に「経済的に自立していること」とあるように、生活保護などの人は資格がなく、その点で貧困対策の福祉住宅ではありません。ただ、個室と共有部分の利用で居住費は10万円以内で、食費など生活費を入れても「年金の範囲ですむ」よう設定されています。
たがいに支え合う「なかま暮らし」は、サービス付き高齢者住宅のようなケア部分の費用がいらない分、割安かもしれません。もちろんNPO運営ということは、営利法人である企業運営のように出資者への配当のための利潤を出す必要もないので、あくまで入居者本位の運営ができるのも強み。
こうした具体例を目にすることで、ああ、こういうかたちでうちらもグループホーム作ることできるかもしれない……と思えるひとときでした。

これは一般高齢者向け活動をするNPOが運営する一般高齢者向け住宅ですが、さて、性的マイノリティ向けとかLGBT向けなどと謳い、老後を助け合いの「なかま暮らし」をするという住宅があったら、みなさんはいかが思われますか? 入居を検討してみますか?
みたかの家も開設後、全国から見学者が絶えず、市内で開催した入居説明会にも50名以上が参加し、関心の高さがうかがえました。そして、めでたく5室に入居者が入れば、その収入で、家主への家賃や公庫・会員への借り入れの返済ができるよう設定されているわけですが、ここまでが「グループリビングの光」だとすれば、ここでタイトルの「」の部分です。
じつは入居者が「いない」のです……
 高齢者ホーム作りの夢に残った苦い現実、越える道は?

開設から1年以上も経つ、この4月の取材の段階で、入居者はゼロでした。いえ、正確に言うと、一室はNPOが借りて複数団体の共同サロンとして活用し(それとて実質は竹内さんが家賃を負担)、もう一室は他のメンバーが将来移る予定で確保。つまり、自分たちでさらに持ち出しで赤字を埋めている形です。竹内さんたちも「失敗だった」と認めています。(その後、LP研開催時点でおひとり、入居が成立したそうです。)

なぜこういうことになったのでしょう。
このNPO「人の輪」は、朝夕の犬の散歩で顔なじみになった人どうしが、舅・姑の介護や、続く自分の老後の悩みや不安を語り合うなかで、10年まえに生まれました。自分たちがやったような介護を子にはさせたくない。では自分の老後はどうする? そのなかでグループリビングのアイデアに「夢を掛けた」わけです。空き家活用が言われる以前から家を探し、苦節十年でやっと協力者を見つけ、作ったのがみたかの家です。夢を捨てず、仲間を牽引してきた竹内さんには、独特な人間的オーラがあります。
ところが、いざできてみると、ここがノンケ家族の現実なのでしょうか、入るつもりだった会員の子どもたちが「おかあさんはNPOに騙されているんじゃないの?」とばかりに入居に反対し、断念した人が続出したというのです。子としては、家もあるのに引越しして余計なカネを使われ、結果として遺産が減るのが嫌なのでは、と(といって、親の介護をする気はない……)。

では、一般の高齢者から入居者が来たかといえば、あれほど説明会には詰めかけながら、自分が「なかま暮らし」をしようと手を挙げた人は結局皆無でした。企業が運営し(認可というかたちで行政が関与)、カネを払って相応のサービスを買う、そういう契約関係がハッキリしたものでなければ、警戒心の強い高齢者はなかなか決心しない(それでも決心しない人も多い)……と竹内さんは言います。自分から動こうという人はいなかった。そして、不安だ不安だと言いながら、結局、高齢者は他人との暮らしを嫌がるのも、骨身に沁みてわかった、と。

とかく夢や期待が先行しがちな「高齢期はみんなでなかま暮らし」がぶつかった厳しい現実。公の助成金で建てたので、いまとなっては企業に売却したり転用が難しい。認知症のグループホームへの転用なら許可がでるかな、と竹内さんは苦笑します。
ひるがえって、同様に夢や期待が先行している「LGBT向け高齢者ホーム」です。できたとして、蓋を開けたら本当に入る人はいるのだろうか? すばらしい、夢が実現する、と口にし、気軽にイイネ! するあなた自身は、入居をしますか?
いろいろな思いを抱きながら、みたかの家の事例を聞き、LP研でお話しした私でした。

・金額が問題なのでしょうか(この施設で、この金額?? など。よく考えると安いのだけど)。
・自分たちで共同生活するという、寮生活または合宿生活みたいなスタイルに抵抗があるのでしょうか。
・ゲイ/セクマイらしい付加価値がつけば考えてもいいのでしょうか。そもそも有料老人ホームなどは富裕層狙いだろうし、その富裕層はつとに家も買っているだろうから、転居のモチベーションアップのためにもなお必要。

セクマイ用に成功させるには、もう一ひねり、二ひねり必要ではあるでしょう。
でも、それに加えて私は思ったものです。

・ゲイ、セクマイのためのホームを謳っていては、入居即カミングアウト状態で、まだ日本の当事者に敷居が高いのかも……(これは渋谷の証明書でも同じだけど)。

・さらに、ゲイが作ったものを、一番信用しないのも、またゲイ。自分の本名や住所、仕事も語らない、ニックネームと携帯アドレスだけの付き合いが常のコミュニティで、どうして終の住処、人生を最期までともにしようという関係性が生まれるのだろうか。ただ、それは本人の問題ではない。他人のゲイを信用できないのは、そもそもゲイである自分を信じ、許せない、内なるホモフォビアのせいなのだから……。

 ・ゲイが、セクマイが、老後をおなじ仲間と一緒に送るためには、まず自身の内なるホモフォビアを克服すること。自分自身との折り合いをつけて、はじめてフランクに他人との関係性も築けるのではないか。老後や終末期はとくにそれが問題では……。

というところで、今回は文字数いっぱいになってしまいました。高齢期向けのセクマイ系グループリビングや介護施設・老人ホームはどういうかたちで実現するのか(私も実現してほしいと思っています)、LP研当日のさまざまな質問なども折りこみつつ、後日、「熱い心と冷めた頭」で考え、書いてみたいと思っています。みなさんのご感想も教えていただければ嬉しいです。

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