第64回 なぜ、フランケンシュタインはホモなのか? 映画『ロックンロール・フランケン』から考える、新旧フランケン映画のホモ要素。

鬼の霍乱(かくらん)。このひと月ばかり、体調を崩していた。腰を痛めて、起き上がれなかったのである。それでも、毎週末の仕事をすっぽかすわけにもいかず、ハイヒールを履いて出かければ、笑顔で若い子たちとバカ騒ぎ。週明けには、ふたたび腰痛に悩まされた。作り笑顔がいけなかったのか、持病の偏頭痛に、顔面神経痛が再発。おまけに、副鼻腔炎になるわ、指先の神経麻痺も悪化して、チンコの勃ちも悪くなった(笑)……さんざんである。

体のあちこちが、ポンコツだ。思えば、もう長いこと酷使してきた肉体である。そろそろ、経年劣化していてもおかしくない。役に立たない腰を、若くて健康な腰に取り換えたい! 痛む頭の上半分をスパッと切って、頭脳明晰な頭に取り換えたい! ついでに、鼻もだ。どうせなら、鼻筋の通ったキレイな鼻に取り換えたい! チンコだって、チンコだって、もう少し、立派なモノに取り換えたい!(笑)ベッドに伏せって、そんなことを夢想していた。それじゃ、まるでサイボーグか、人造人間である。
体がダメになると、心も弱くなる。そんな折も折、京都の「アスタルテ書房」店主の訃報を聞いた。直接の面識はなかったが、来京の際には、必ず立ち寄った。そのお姿も、何度も目にしている。澁澤龍彦生田耕作中井英夫バタイユジュネら、異端文學から幻想文學にかけての豊富な蔵書を持つ古書店であった。住居用マンションの一室に、派手な看板も出さず、ひっそりと、秘密サロンのような店が、気に入っていた。畏れおおくも、自分が古書店を出すなら、「アスタルテ書房」のような店を、と夢見ていたのである。ニュースは、そのまま「アスタルテ書房」の閉店を知らせていた。私の夢はまだ叶わないというのに、憧れていた先達が、また一人、先に逝ってしまわれた。なんとも、心細い思いである。
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フランケンシュタインのフィギュアは、East Up Co.社のG-damaシリーズから、「MONSTER CARNIVAL」のフリー。
弱り目に祟り目。気が塞ぐ。気晴らしに、肩の凝らない映画でも観るかと、買っておいてまだ見ていないDVDを漁る。選んだのは、『ロックンロール・フランケン』。タイトルからして、B級の匂いがプンプン。ところが! これが、なかなか面白かったのである。
音楽プロデューサーのバーニーは、天才科学者フランキー・シュタインの研究を知り、偉大なロックスターのパーツを墓場から盗み出し、究極のスーパースター『キング』を作ることを思いつく。エルヴィス・プレスリーの頭、ジミ・ヘンドリックスの手、シド・ヴィシャスの臀部、ジム・モリソンの股間……。
(ジャケットの紹介文より)
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ジム・モリソンのチンコを盗み出そうとする、ヤク中のイギー(中央)。
と、まぁ、いかにもな筋書きである。バーニーが、有名ロックスターのパーツを集めさせたのは、ヤク中のイギー。彼が「有名人陰茎コレクション」から盗み出してきたのは、ジム・モリソンのモノではなく、リベラーチェのチンコだったのだ! リベラーチェは、50年代から、派手な衣裳とパフォーマンスで人気を博したピアニスト。もちろんホモである。リベラーチェのことは、ソダーバーグ監督の映画『恋するリベラーチェ』がよく描いているので、見ていただきたい。さて、そうとも知らず、フランキー博士によってキングの股間にはリベラーチェのチンコが取り付けられたのであった。つまり、清志郎だと思っていたら美川憲一だった、みたいな感じ(笑)。それでも、手術は大成功。人造人間キングは、誕生した。
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キング(右)の誕生を祝福するバーニー(中央)と、フランキー博士(左)。
実は、フランケンシュタインとホモは縁が深い。死体集めを命じられた召使いが、間違ってホモの脳みそを持って来てしまったという話に書きかえられて、いくつもの作品が作られている。メル・ブルックス監督の『ヤング・フランケンシュタイン』然り、アンディ・ウォーホル監修によるポール・モリセイ監督の『悪魔のはらわた』然り。
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メル・ブルックス監督『ヤング・フランケンシュタイン』のポスター。
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ポール・モリセイ監督『悪魔のはらわた』のポスター。
では、なぜ、フランケンシュタインばかりがホモにさせられるのか? その謎は、実は、フランケンシュタインを世界的に有名なモンスターにした、1931年のユニバーサル映画『フランケンシュタイン』にある。名作ホラー映画として名高いこの作品を撮ったのは、当時から、ハリウッドで、ホモであることを公言していたジェイムズ・ホエール監督。彼は、心やさしいが、異形ゆえに、村人から迫害されるフランケンシュタインの姿に、同性愛者のイメージを重ね合わせていたのだろう。単なる恐怖映画ではなく、人間存在の悲劇として情感豊かに描いたのであった。この作品に込められたホエール監督の思いは、ホモのDNAとして、のちの同性愛者たちに伝えられたのであった。ちなみに、ジェームズ・ホエールの晩年を描いた、ビル・コンドン監督の『ッド・アンド・モンスター』は必見である。
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ジェイムズ・ホエール監督『フランケンシュタイン』のポスター。
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ビル・コンドン監督『ゴッド・アンド・モンスター』のポスター。
そして、もう一点。人口生命体の創造というファンタジーは、子供を持つことの出来ない同性愛者にとっても、切実な夢であったからだ。ついに、その夢は、1973年、リチャード・オブライエンの舞台『ロッキー・ホラー・ショー』として結実。宇宙からやって来た女装のオカマ科学者フランクン・フルターによって、理想のマッチョ男、人造人間ロッキーが誕生するのである。この作品は後に、ジム・シャーマン監督の手により映画化され、カルト映画の金字塔としていまだに絶大な人気を誇っている。
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ジム・シャーマン監督『ロッキー・ホラー・ショー』のポスター。
話がそれた。『ロックンロール・フランケン』もまた、そうした、ホモ=フランケン映画の系譜上にある。しかし、単なるパロディにとどまらず、一歩踏みこんだところが、なかなか面白いのだ。
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悩める心を歌い、大ヒット。トップスターとなったキング。

異常な衝動に駆られ

途方にくれてる
引き裂かれた心が2つ ──
俺の中で争い合う
もう訳がわからない
だから歌うのさ
勃起ブルースを
(劇中、キングが歌う曲より)
成長するにしたがい、キングは、自分の中にある“引き裂かれた心”に悩まされるようになる。女性に心惹かれながらも、セックスしようとするとうまくいかない。そして、自分の中にある男性への“異常な衝動”に気づき、戸惑うキング。その心情を叩きつけるように歌った曲が、大ヒット。一躍、スターダムにのし上がる。
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言うことを聞かないチンコに苛立つキング。
しかし、次第に、キングのチンコは自我と人格を持ち始め、彼を支配しようとし始めるのであった。ついに、言い寄ってくる女性ファンを殺害。懺悔しに向かった教会の神父に、逆に言い寄られ、怒ったキングは、神父の尻に十字架を突き刺して殺してしまう。悩んだキングは、フランキー博士に相談をするのだが……。
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フランキー博士に「君はこの世に一人だけの特別な存在だ」と諭されるキング。
自分を偽ってないか?
本当の自分から目をそらすな
真実から目をそらすな
鏡を見て真の自分と向き合え
自分がゲイだと受け入れろ
(劇中、キングを諭すフランキー博士のセリフ)
キングの産みの親であるフランキーは、キングに、そう諭す。つまり、これは、フランケンシュタインの物語に託した、ゲイの自己受容(アクセプタンス)の物語であったのだ。はなはだ下品で、悪ふざけに満ちてはいるけれど……。『ヤング・フランケンシュタイン』は、悪ふざけとしては傑作である。しかし、ゲイ・ストーリーとしては、『ロックンロール・フランケン』の方が、数段、出来が良い。もちろんB級だけれど(笑)。
あ、すっかり映画の話になってしまった。ので、最後にこの本を紹介しておく。すべてのフランケンシュタイン映画の原点である、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』。ゴシック・ロマン小説の白眉。とはいえ、原作には、ホモ本的な要素は皆無である。悪しからず。
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ブライアン・オハラ監督『ロックンロール・フランケン』(1999年度作品/発売元 メディア・トップ)
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メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』(新潮文庫/2014年 発行/ISBN978-4102186510)
思わぬ“当たり”に、気を良くしたら、体調もすこし良くなってきた。病は気から、と、よく言ったもの。さぁ、頑張って働くぞ! ……とはいえ、フランケンシュタインのように、ポンコツ部品は取り換えられない。この老体が動く内に、やっておきたいことを片づけておこう。「アスタルテ書房」には及ばぬまでも、オカマ関連専門の古本屋「オカマルト」の再建である。
そう決意して、これまで勤めてきた会社を辞めることにした。これで、多少の時間の余裕が出来る(収入は減るけどね)。でもって、その時間で、新しい試みを始めることにした。この連載を読んで下さっている方から、トークショウの企画をいただいたのである。ホモ業界、2丁目社会、ゲイリブ方面まで。タブー無し。無礼講のぶっちゃけトーク。さて、どうなることやら。初回のゲストは、宿敵ミッツ・マングローブを予定。女装〜ドラァグクイーン界を徹底総括、するつもり(笑)。ま、たまには年寄りの言うことに耳を傾けても、バチは当たらないよ。詳細が決まり次第、報告するので、是非ともご参加を。

 

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