第39号 音楽、同職、HIV……コミュニティが芽生えたころ「90年代世代の同窓会」⑩

 

 ●コミュニティを実感するLGBT音楽祭「プレリュード」

7月18日、中野区のなかのZERO大ホールで、合唱や吹奏楽、弦楽、そしてエイサーまで在京のLGBT系音楽団体による演奏会「プレリュード2015 LGBT音楽祭」が開催されます。今年でなんと第11回。
今月の「90年代世代の同窓会」は、このプレリュード発足のときから深くかかわってきた、おかべよしひろさん。高校、そして現在は大学で音楽を教える一方、かつて2005年、2006年には、東京レズビアン&ゲイパレード(TLGP)の委員長もつとめ、さまざまなゲイイベントでの軽妙な司会ぶりとピアノ演奏でも、多くの人におなじみのかたでしょう。

 プレリュードの準備、いかがですか?
「本番に向けて各団が練習に励んでくれてますし、先日から合同演奏の練習も始まりました。毎年プログラムの最後を飾る合同演奏は、合唱系は基本全員、器楽系は若干パートで調整があるけど、ほとんど全員が舞台に乗っての演奏。弦楽と吹奏楽によるフルオーケストラに合唱が加わり毎年圧巻。今年はなにを演奏するかは、ぜひ当日のお楽しみにしてください」
私もいつだったか、ハレルヤコーラスや大地讃頌を合同演奏で聞いて、肌に粟立ったのを覚えています。おなじゲイたちによる舞台を見て、私たちにはこんなスゴイ力があるんだ、という感動でした。

そもそもこのプレリュード、開始のいきさつは?
「2005年にパレードの実行委員長をすることになったとき、東京の性的マイノリティの、といってもゲイが多いのだけど、合唱団や吹奏楽団などの合同演奏会ができたらいいなという、以前からの漠然とした夢を提案してみた。パレードのプレリュード(前奏曲)として、盛り上げとファンドレイジングも兼ねて。第1回の牛込箪笥区民ホール(新宿区)以来、ありがたいことに今年まで毎年続いています」
「パレードが無かった年も開催することについては、位置付けなどめぐり多少議論もあったけど、パレードを離れ、だんだんコミュニティをつなぐ音楽イベントとして根付いてきているように思います。いまは僕ら立ち上げ時メンバーも一歩引いて、各団からの運営委員による安定開催へ、バトンタッチを行なっているところです」
「そうそう、いまでも覚えているけど、第6回のとき聴いていて、すべての団が明らかに上手になってる、と感じた。団どうしがいわゆる切磋琢磨を5年間重ねたところで、6年目に全体の水準がフッと上がったのではないかと。こういう相乗効果があるんだな、って」

音楽の専門家であるおかべさんの言葉、これはお世辞ではないようです。


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 プレリュード2015 LGBT音楽祭
 7月18日(土) 開場:12:45 開演:13:15 なかのZERO大ホール(JR中野駅南口・徒歩8分)
入場料1,000円(当日券のみ) 来場者はLGBTに理解のあるかたならセクシュアリティ不問です。
ツイッターをぜひフォローください。@PreludeTP

 ●音楽や職業で当事者が集まれることに感動

今年52歳のおかべさん。ゲイコミュニティとのかかわりは、やはり1990年代のなかで開かれていったようです。
「関西での学生生活を切り上げて、東京に来たのが1992年の春。僕は自分がゲイであることに悩んだり治したいと思ったことはないんだけど、だからといって人に言うなんてことも考えたことはなかった。堂山のバーには出入りしてたけど、生活のなかでセクシュアリティを直視することは避けてたかな。それが東京に来て、やっぱりタックスノットというバーに通うなかで受けた影響が大きかった。マスターの大塚隆史さんをはじめ、アート関係や自由業のお客さんを中心にゲイをオープンにしている人も多かった店なので、こういう生き方もあるのかって目を開かれたし、ゲイとして生きるとはどういうことかを考える機会が多かった。美術家である大塚さんはゲイであることにこだわって創作活動しているけど、音楽をやっている自分にそういう視点は考えたこともなかった。そんなときゲイの合唱団があると知って、『これか!』と思った」

 ときは90年代ゲイブームの時代。同性愛者の人権を問う裁判、伏見憲明さんらの意欲的な執筆活動、芝浦ゴールドに代表されるクラブ、キャンプという美意識による女装カルチャーの登場……。そして夜の繁華街にとどまらず、合唱とかスポーツなど昼間のサークル活動が広がってきたのもこのころからです。
「それまで伴奏した声楽家がゲイだったなんてことはあるけど、ゲイだけで集まって合唱団、吹奏楽団なんて思いもしなかった。東京へ来て何年かしてゲイの合唱団が活動していることを知って、驚いたし、素晴らしいと思った。当時はいまより社会的に抑圧されていたわけで、ゲイが集まって活動することに素直に感動したわけですね。そうしたら合唱団は他にもあるし、ブラバンもあるし、弦楽合奏団まであった!」

ゲイの音楽サークルのなにが、そんなにおかべさんを感動させるのでしょう。
「自分のセクシュアリティを隠すことなく、おなじ仲間と好きな音楽で時間を共有できるのはとても自己解放ーー発言やしぐさ一つも偽ることなく(笑)。それから曲目や演出も、一般のアマチュア楽団なら気恥ずかしくて提案できないものがやれて、聴衆にも受け、感動をする」
私もどこの合唱団だったか、演奏会で中島みゆきの「誕生」を歌うのを聞き、そこに二重三重の意味が重なって目頭を熱くした思いがあります。「どんなときも」や「RENT」のナンバーなど、当事者ならではの思いもあるでしょう。

「僕らがゲイバーデビューしたころは、本名も電話(固定電話の時代)も教えない、バーに行って居合わせれば会うのがせいぜいの時代から、ゲイが昼間も会い、好きな活動をともにすることは、本当に大きな変化だった。いまの若い子なら、ゲイが集うだけでは感動もないだろうし、逆にカミングアウトして一般のアマチュア楽団に参加することに躊躇ない人もいるかもしれませんね」

音楽(趣味)がもつ力は人をつなぎ、「コミュニティ」と言われる空間、感覚を醸成していきました。おかべさん自身もタックスノットで知り合ったピアニストと2台のピアノによる演奏会を96年から2年ごとに開催。「あのとき、500近い観客席が男ばっかりで埋まってるのは壮観でした(笑)」。

この時期、ゲイコミュニティを形成していったもう一つの契機がHIVです。おなじゲイの陽性者の手記(声)と音楽などのエンタメを通じてHIVとコミュニティを身近に感じてもらうステージ「VOICE」(ぷれいす東京主催)が1997年から開催され、おかべさんも司会者として、出演者として、存分にその才を発揮します。

趣味のサークルだけでなく、職業による集まりが生まれ始めたのもこの時期でしょうか。教師のサークル「堂山教師」、そして「STN(セクシュアルマイノリティ教職員ネットワーク)」が生まれ、高校の音楽教師としておかべさんも参加します。
「教師のサークルがあることを知ったときも驚いたし、嬉しい、と(笑)。おなじ仕事をしている人で悩みを共有したり情報交換したり、スキルアップというか職能の向上にも役立つつながりを、セクシュアリティを包み隠さずもてる、話ができるのがありがたい。それに教師の場合、自分たちへのエンパワーとともに、生徒のなかにも性的マイノリティはいるはずで(かつてのわれわれがそうであったように)、こうして私たちが連帯することが、長い目で見ると当事者の生徒のためにもきっとよい効果をもつ、という意識はありましたね。STNは明確に、悩める生徒にわれわれはなにができるのかという視点をもって始まりました」

多忙な学校業務のあいまを縫ってSTNはネットワークを広げ、性的マイノリティについての正確な理解と情報を伝える書籍『セクシュアルマイノリティ』を刊行。現在、改訂第3版に至っています。

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タックスノットの多彩な人脈を駆使し、別冊宝島から『ゲイの贈り物』など3冊が誕生(1992〜94年)。学校仕立ての「学園天国」には、おかべさんも音楽について寄稿しています。90年代にはこうしたさまざまな動きがありました。

 ●「大きな家族」に包まれて暮らす感覚

音楽、教師ーーもとよりゲイというかLGBTの多いエリアで、そのつながりに恵まれたのも事実でしょうが、同時に、おかべさん自身がそのつながりを大事にし、積極的に広げてきた姿勢も目を引くのです。それはなぜなのか? それが私がインタビューを申し込んだ理由でした。

「そうですねぇ……。ノンケはセクシュアリティで繋がることはないよね。『あら、おたくもノンケだったの?』という共同性はないわけで(笑)。たとえばノンケ社会でのつきあいって、仕事とか立場、職場での職階、稼ぎ(生活水準)とかで縛られているけど、われわれはある程度の長幼の序はあるにしても、年齢や社会的立場を超えて付き合えて、ふつうなら知り合わないような職種の人がバーなどを通じて知り合う。それって昔から面白いなあ、と。ゲイって不便なこと、抑圧されて苦しいこと、権利が保障されていないことなど多々あるけれど、ゲイだからこそ得られる人生の面白みはたしかにある。それは差別されていることと裏表で、だから自分たちは、お互いに支えあって生きていこうというメンタリティでもあるのではと」

その支え合いは、実生活においても反映されているようです。
「誰かに依存するのではなく、自分のことは自分でしながら、でも、おたがいが気にかけ、支え合う暮らしって、僕のなかではどこか人としての理想的な姿でもあるんです。たとえば、うちのマンションにも何軒かゲイが住んでいて、僕が知ってるだけで5世帯(笑)。そのうちうちを含めて3世帯とはよく行き来して、どっかの家で飯食ったり、鍵を交換しあって緊急時にはお願いします、って」
「僕は学生時代に寮生活で、うちの部屋がみんなの溜まり場になっていて、帰室すると誰かがいて勝手にお茶飲んでて、そんな共同生活、じつは人間ぽくて嫌いじゃない。東京に来た当初に初台に住んでたときも、近所にタックスノットつながりの友だちが数人いて、そこで鍵を持ち合いしたりして言ってたのは、交通事故にあって親が出てきたら、先に部屋に入ってエロビデオ隠しておいてね、とか(笑)」
前号で私が述べた「なりゆきグループホーム」「なりゆきゲイタウン」が、実践されているようです。

子どもをもたない、家族をもたない私たちは、こうして「大きな家族」を作り、そこに包まれることによって安心感、生きがい、人間らしさを味わおうとしているのかもしれません。あるいは、まだまだ社会での厳しさがあるなか、バッファというか、そこへ戻ることでキツさを緩和し、人間のバランスを回復してくれる場所が必要なのではないか。パートナーができ、二人だけの世界にこもるパターンもある一方、おかべさんはつねにコミュニティへの繋がりと共助のスタンスを快いものとしているようです。
「マンション内の3軒だけでなく、近所にいるゲイ友も行き来するし、さらにバーやコミュニティの友人・知人との交流も含めて、僕らは大きな家にいるという感じはあるし、そういう感覚を信じられる世代なのかもしれません。最近の若い人たちはどう感じるのかなぁ」

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おかべよしひろ 1963年大阪生まれ。高校教師を経て現在、大学教員。音楽教育のほか、台湾の音楽や音楽教育史について研究している。

 ●異性愛者が変化しはじめた時代。そして迎える僕らの老後

最後に今年52歳のおかべさんに、年齢を重ねること、そして老後のことについて、聞いてみました。

「なんか、恥ずかしながら、気がついたら50歳になってたみたいな。自分はつねに若手教師という意識があったけど、いつのまにか中堅も通り越して管理職世代ーー実際、管理職やってます。時の経つのは早いねぇ(笑)」
われわれは子どもによって年をとらされるということがないですから。
「そんなことで、いま自分が52歳だという実感はなかなか持てないけど、肌の衰え、体の衰えは身に迫ります(苦笑)。目下の関心事は、美容、健康、開運(笑)。これでもいろいろアンチエイジングに励んでまして、最近ちょっと気に入ってる化粧品が……(以下、化粧品と美容器具についての解説が約15分続く。省略)」

では、こうして90年代以来を見てきて、最近のめまぐるしい社会の動きについてどうお感じになりますか?
「え、ほんと? みたいな、正直、驚いています(さっきからこればっかり。笑)。しかも、渋谷区のパートナーシップ証明にしても、そういう提案が異性愛者から出てきたこと。異性愛者がわれわれのことを解決すべき課題として捉えるようになってきた、そして採決にかけたら基本的にノンケの議員たちの賛成多数を得る時代になった。国会でのLGBT議連の動きなどにも、隔世の感があります。その影には、名前や顔を出して活動する当事者がたくさんいてくれたからですが。そしてアメリカでは同性婚が合憲との判決。すばらしい!」
パックスのようなパートナーシップ制度や、選択的別姓を導入したうえで、同性婚が日本でも実現してほしいものです」
そのまえに、弊事務所にもどうぞご相談においでください(笑)。

さて、ご自身の老後、どう考えていきますか?
「老後なんて、昔は考えなかったよね。40過ぎたぐらいから漠然と、どういう老後を過ごし、死んでいくのか、考えるようになったかな。老後の仕事、お金、住む場所、パートナーの有無、病気したときのこと、そうそう、死んだあとはだれが片付けるのか、とか。いま年下のパートナーがいて、順当なら僕が先に死に、彼が片付けてくれるんだろうけど、その時には甥っ子や姪っ子も、大阪からきっと出てくるはず。僕は家族には正式にカミングアウトしていないんだけど、この甥と姪にはいろんな事情を話しておかないと、パートナーにも迷惑かけることになりかねないから、これからそういう仕事があるかなあ。そんなことを考えています」

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