第66回 同性婚祝賀ムードに水を差す(笑)。ダイアン・ボーン『アンカップリング ─ 親密な関係の曲がり角』

 

6月26日。アメリカ連邦裁判所は、同性婚を禁止する州法は違憲とする判断を下し、これにより、全州で同性婚が認められた事になった。このニュースは、アメリカ国内のみならず世界中に広がった。おかげで私のツイッターのTLも、例の“なまぬる〜い”虹色アイコンで埋まった。個人的には、あのデザインは好きになれないが。視認性も落ちるし(笑)。
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HUFFPOST JAPAN」でも、たくさんの写真入りでこのニュースを紹介。コメント欄が興味深く、ここを紹介した。是非、一読を。
それにしても、ゲイ・プライド・マンスに、パレードを間近に控えたこのタイミングに発表した演出も、さすがと思わせる。任期完了を控えたオバマ大統領の、最大最高の置き土産となることだろう。これは、同性婚合法化の判決に対する会見の様子。なんだか、スゲェ、かっこいい。戦争出来るように憲法を変えたがっている、どこぞの国の首相とは大違いである。以下、自粛(笑)。
同性婚合法化の判決を受け、会見するオバマ大統領。ちなみに、安倍総理は、会見で「現行憲法の下では、同性カップルの婚姻の成立を認めることは想定されていない」と発言している。
このニュースを受け、日本のLGBTの皆さんも、さぞかし喜んでいる事だろう。浮き足立っちゃって、「日本でも同性婚の実現を!」とか息巻いちゃっているかも知れない。つい先日も、私のもとに、とあるレズ・カップルがやってきた。「私たち、結婚するんです!!」と言ってきた。話を聞けば、どこかの国へ行って、結婚式を挙げてくるのだという。ああ、そうですか。結婚ごっこなら、どうぞご自由に。勝手にしやがれである。それを、なんでまた、私に言いに来る? 祝福が欲しいのか? おめでとうと言ってもらいたいのか? それとも、結婚式に出て、祝儀でも払えというのか? ひねくれ者の私は、そう考えた。で、私は、彼女たちに、こう尋ねた。
「あら、おめでと。でさ、もし、日本で、本当に、同性婚出来たら、アンタ達の、どっちが、どっちの籍に入るの? どっちの苗字を名乗るの?」
そうしたら、互いに顔を見合わせたまま二人とも黙っちゃって、挙げ句に、下を向いてしまったのである。そんなことも考えてなかったのか!? 愛し愛され、二人で共に暮らす……それが“結婚”だと思っているなら、あまりにも愚かだ。“結婚”という制度には、さまざまな問題が含まれている。戸籍のこと、家父長制のこと。そうした問題点に目をつぶって、“結婚”の持つイメージに酔っているだけなら、結婚ごっこでしかない。私は、そう思うのである。
私は、同性婚に対して、これまで批判的な立場を取ってきた。みんなが持っているからといって、いまさらファミコンを欲しがったって、意味ないじゃん。そう考えてきたのだ。だって、婚姻制度なんて、ファミコン並みに古くて、使えない制度なんだぜ(笑)。もちろん、婚姻制度の持つ問題の責任を、同性愛者だけが解決していかなくてはいけないわけではない。しかし、これから同性婚を実現していこうというのであれば、そうした制度の欠陥部分のことも考えていってもらいたいと願うのである。せめても、スーパーファミコンぐらいの制度にしてもらいたいなぁ、と。
そして、良いことの反面、悪い影響もあるのが、この世の常。同性婚が実現して、結婚するのが“普通”とか“当たり前”と考える同性愛者が主流となれば、きっと、結婚しない/出来ない同性愛者に対する風当たりが強くなるのではないか、とも考える。しかし、この世の中には、一人の相手と性的な関係を続けていくことが出来ない/したくない人間だっている。そうしたタイプの人間を、ふしだらだからだとか、結婚も出来ない欠陥人間だとか、独身で可哀相だとか、オールドミスだとか、馬鹿にしたがるシャイニーなLGBTの人たちが出てきそうである(笑)。性の多様性を声高に叫びながら、それじゃ、本末転倒ではないか。ま、日本では、まずは手に入れてからの話なので、同性婚したい人は、せいぜい頑張っていただきたい。
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手前にあるのは、LEGOのウェディング・セット(品番 853340)をカスタマイズした「同性婚セット」(笑)。
それとも、なにか? 結婚出来さえすれば、「死が二人を別つまで」愛し愛される関係が保証されるとでも考えているのか? だとしたら、それ、結婚に期待し過ぎ。夢、見過ぎ(笑)。そもそも、好いた惚れたの感情が、そんなに長続きするはずもない。特にホモの場合、性的関係のゆるさが文化の特徴でもある。やろうと思えば、簡単に、本当に簡単にヤレちゃう環境が整っているのだ。 同性婚が可能になったら、離婚する率も、メチャクチャ多くなるだろう。次のゲイ・ビジネスのチャンスは、ゲイのための離婚専門の弁護士事務所とかね。儲かると思うな(笑)。
さて、今回紹介するのは、ダイアン・ボーン『アンカップリング ─ 親密な関係の曲がり角』である。アンカップリングとは耳慣れない言葉だが、カップリング、つまり二人が親密な関係を築くこと、の反対語だ。夫婦や恋人同士など、親密な関係性の二人が、いかにして別れに至るのか、を研究した本である。著者のダイアン・ボーンは、ボストン・カレッジの社会学の教授。20年間続いた結婚生活が破綻した経験から、彼女は、「学問的な観察と理論を根底に『愛の毀れ方』のモデル、とでもいったものを抽出」することに着手した。彼女の関心は、「いかにして関係が終わったかであり、なぜ終わったかではなかった」。別れの理由ではなく、別れのプロセスを問題にしたのである。彼女は、別れ(離婚を含む)を経験した人へのインタビューを数多く集め、それを分析し、整理し、共通するプロセスを抽出したのだった。彼女によれば、親密な関係性の二人がアンカップリングするプロセスは、次の様な段階を経る。
カップルのどちらかが、二人の関係への不満を感じ始めるが、最初は、それを自分の胸の内に「秘密」にしておく。その思いは次第にふくらみ、こんな関係は自分らしくないと感じるようになる(1-2)。その「不満」は次第に表に現れてくる。不満を打ち明けた友人などが助言者(2-2)となって、いよいよ「イニシエーターの移行」へと進む。イニシエーターとは、別れたいと最初に言い出す方で、その相手はパートナーと呼ばれている。そして、別れたいと言うイニシエーターと、関係の継続を望むパートナーとの間で「水面下での駆け引きと問題解決の先送」が行われる。二人の関係性の問題点に直面することを避けようとする心理から、事態は「隠し合いの破綻」を迎える。たとえば、関係性を断ち切らないための一時的な手段として別居する(6-5)など「努力」をするようになる……といった具合だ。
この本では、別れのプロセスのそれぞれ段階を追って、インタビューで聞き出したサンプルが紹介されている。以下、各章のタイトルを列挙してみる。アンカップリングを経験したことのある人なら、なんとなくは内容が分かるだろう。
第1章 秘密
1-1 関係改善のための交渉
1-2 自分らしさを求めて(自己の再定義)
第2章 不満
2-1 不満の訴え
2-2 助言者との出会い
2-3 世間への公表
第3章 イニシエーターの移行
3-1 アイデンティティーの葛藤と変化
第4章 水面下での駆け引きと問題解決の先送り
4-1 イニシエーターの寄与
4-2 パートナーの役目
4-3 問題の表面化を阻止する両者の協力
第5章 隠し合いの破綻
5-1 直接的な話し合い
5-2 計画の変更
5-3 間接的な方法としての責任転嫁
5-4 致命的失敗
5-5 共有時間の減少
5-6 探偵のようなパートナー
第6章 努力
6-1 二人の話し合いが生む変化
6-2 勝利への妨げ
6-3 終局へのシナリオとしての努力
6-4 カウンセリングとそのための小競り合い
6-5 別居
第7章 イニシエーターの利
7-1 アイデンティティー喪失と周囲との関係
7-2 時間のもたらす恩恵
7-3 微妙な力関係
7-4 混乱の来襲
7-5 二人の関係を象徴する物
第8章 別れ話の公表
8-1 二人で築いてきた世界の再構築
8-2 共有財産の分割:友人の奪い合い
8-3 周囲の人々の反応
8-4 和解への障壁
第9章 パートナーの気持ちの整理
9-1 関係収束への手段
9-2 先に進むことを妨げるもの
9-3 新しい自覚
9-4 内面の変化の象徴
第10章 アンカップリング
10-1 絆の継続
10-2 和解
このインタビュー部分が、大変に面白い。友達のノロケ話を聞かされるのほど、ウンザリするものはない。けれど、別れ話を聞くのは面白いのと、同じだ。下世話な興味で読んでも、面白いのだ(笑)。「あぁ。ある、ある」と膝を打ったり、「みんな、同じねぇ」とため息をついたりしながら、ついつい読み進めてしまう。しかも、この面接調査は、「二人が共に過ごした年月の長短、彼らの経済状態、同性愛異性愛、老若のいかんに関わらず行われたので、ホモ関係の別れについても、たくさんの事例が紹介されている。たとえば、次の様なエピソードだ。
彼は私が一度に一人の人としかつき合わない主義であることを知っていましたし、また私が彼にそうなって欲しいと望んでいることも知っていました。私たちはこのことについて何度も話し合いました。なぜなら彼だけがほかの人とつきあったりして、そのために私がエイズの感染する危険を被ることは、公平ではないと思ったからです。ある晩のこと、私はあるバーに行きました。そこは彼の行きつけでした。なんと彼が誰かほかの人と一緒に来ていたんです。私には信じられませんでした。だって、二人で話し合ったその直後にですよ。私は店を出ました。翌日彼が電話をしてきた時、しばらくの間会いたくないと彼に言いました。[洋品店店員、35歳、同棲2年後に離別]
こんな例もある。
リッキーは女装に懲り初めました(注/原文ママ)。特にファッションとメイキャップに。本当に女装がうまくなって、あちこちのバーの催しで一等を取るようになりました。でも、その衣裳の用意をするのが、僕には重荷になってきたのです。何時間も何か月もかけて、似合うドレスを探したり、その寸法を直したり、メイクしたりして用意をするのが。リッキーは、女装のためにかなりのお金と時間をつぎこむようになりました。で、それにつきあうのはトムだったんです。僕は女装が似合うほど顔が良くないし、第一興味もありませんでした。[奉仕活動/学生、28歳、同棲1年後に離別]
インタビューした人物に関する情報は、文末の[]内程度のことしか書かれていない。性別が明記されていないのだ。訳によっては、「私」としか書かれていないので、性別が特定できない。もしかしたら、見落としたホモ関係のインタビューが、もっとあるのかも知れない。
[奉仕活動/学生、28歳、同棲1年後に離別]の彼は、次の様な証言もしている。
僕らは二人ともクラシックが好きだったし、オーソドックスな、伝統的な美術が好みでした。それが今じゃ、彼はどんどんウェストコーストっぽくなっていくんです。新しい友達の影響だって、分かってるんです。
「ウェストコーストっぽくなっていくんです」というところが、いいねぇ。胸を打つ(笑)。具体的な事例が語られれば語られるほど、読む方は下世話な興味をかき立てられて、面白いのだ。それ故に、この本は、社会学の学術書でありながら、「著者の感情はあくまで押さえた書き方だが、その底に彼女の人間観察と思いやりがしずめられている。(略)読む人の心を苦しいまでに打つということはなみたいていのことではない。(略)人間が好き、そして人生の陰影が分かる人でなければ誰がもっともプライベートな『愛の毀れる時』を語るだろうか」と、エール大学社会学部准教授 池上英子は賛辞を送っている。
この本がアメリカで最初に出版されたのは、1986年。日本で翻訳出版されたのは、1994年である。
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ダイアン・ボーン著『アンカップリング ─ 親密な関係の曲がり角』(日生研/1994年 発行/定価 2000円)
出会いに別れは付き物、である。結婚出来たら出来たで、離婚のことも考えなきゃいけない。ま、そんな理由で、この本を紹介した。異性愛者と同じ権利を手に入れることは、もちろん同性愛者にとって必要で、大切なことであるが、それは異性愛の文化をそっくり受け入れることではない。性的な関係のゆるさこそ同性愛の特性であるのなら、それに対応した“ゆるい婚姻制度”を作りだす努力も必要なのではと思う次第だ。祝賀ムードに酔っているこのタイミングだからこそ、鬼っ子の私は、ちょいと水を差してやりたくなったのだ(笑)。
そんな、鬼っ子で、ひねくれ者で、天の邪鬼の私が、トークショウをする。もともと、この連載を読んで下さっていた方が思いついて、実現することになったのだ。題して、『あの日見たマーガレットという花を僕達はまだ知らない。(略して、あのはな)』。7月23日(木)開催。場所は、新宿2丁目・ArcH。
いまさらね、怖いもの無し。失うものも何もない。傍若無人で、天下御免。問答無用のトークショウである。初回のゲストは、宿敵ミッツ・マングローブを迎え、ここらで、女装~ドラァグクイーンのシーンを総括してやろうじゃないかと。なぜ、ミッツが宿敵なのかも、その時に明らかに……!?(笑) ぜひ、お出で下さい。
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あの日見たマーガレットという花を僕達はまだ知らない。(略して、あのはな)』(7月23日(木)19:00〜24:00/新宿2丁目・ArcH/入場料2000円 1Drink付き。詳細は、http://aliving.net/schedule_detail.php?date=2015-07-23で。

 

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