第67回 男か? サカナか? 悩める魚フェチのホモ(笑)。『さぶグラフィティ あいつ』の人生相談は、最高だった。

「他人の不幸は、蜜の味」である。ところが、そうそう身近に不幸な人が転がっているわけでもない。そこで、新聞や雑誌に掲載される「人生相談」コーナーを楽しみにしている。「人生相談」ほど、他人の不幸をエンタテインメントにした企画は他にはないからだ。相談が真剣であればあるほど、面白い。その回答にも、時代背景や風潮が反映して、真面目に答えていればいるほど、興味深い。

さて、私がこれまで、ホモ雑誌の「人生相談」で読んだものの中で、最高に面白かったのが、これだ。相談内容然り、その回答然り。いずれも、丁々発止。研ぎ澄まされているのである(笑)。

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 海で育ったたくましい男。有明海のむつごろうを友としてウナギ、カレイ、タコ、カニその他海の生きものと生活してきましたが、今では東京暮らし十年、会社にいつもトウフを持ってゆきます。ヒヤヤッコを会社で食べるのが楽しみ、休日は上野の水族館に行くのが一番の楽しみ。水槽に入っているカメ、サカナが泳いでいると自分もハダカになっていっしょに泳ぎたくなる。アパートに帰り魚屋で生きているウナギ、タコなどを買って、たらいの中に一緒に入って遊んでいる時が、この世の幸せ、俺を狂わせて喜ばしてくれる。海の友だち、人間よりも海の生きもの、海が好きで夏が好きな俺。
 一年中清い海で塩風をすって暮らしたいのだけれど、男のことを思うと田舎ではだめだ。田舎に帰りたくない。九州の田舎の母は早く帰ってきて嫁を貰えと言うし、東京のようにホモと気がるに遊べるところは他にないし困っています。どうしたらいいですか。
(江戸川区 海の好きな九州男児)
この相談者の悩みは、田舎に帰りたいが、帰ったら男遊びが出来なくなるし、親に結婚しろとうるさく言われて困る……と額面通りに受け取ってはいけない。それでは、そこらのホモのありきたりの悩みでしかない。この相談者の悩みの核心、というか、独自性は、「魚屋で生きているウナギ、タコなどを買って、たらいの中に一緒に入って遊んでいる時が、この世の幸せ」という、この男の性癖にある。つまり、男(ホモ)を取るか、サカナを取るか?、という悩みなのである。対する回答が、これまた、ふるっている。
[答]東京に十年暮らしていて信じ難いことですがあなたの文面を全面的に素直に信用するとすればあなたは確実に田舎に帰った方が良さそうです。ホモになったのはなにかの間違いか悪い男にだまされているんですあなたのような人は結婚すれば男のことなんか自然に忘れてしまって、女房と海辺でつつましく漁業を営み元気な子供を産んで長生き出来る人だと思われます。別に結婚したくなかったら無理してしなくても結構です。魚達と遊んでいればいいのですから。なるべく早く東京を去って日本の片隅に一人だけでも純粋な日本人が棲息しているという安心感を私に与えて欲しいものです。
あっさり、「ホモになったのはなにかの間違いか悪い男にだまされている」と断定。サカナに生きろと、この回答者は言うのである。ホモ雑誌の「人生相談」なら、サカナなんかよりも男を薦めるべきだと思うのだが……(笑)。この画期的な回答をしたのは、栗本睦雄なる人物。調べてみたが、詳細不詳。そして、その雑誌こそ、ホモSM誌として人気の高かった『さぶ』が、一時期、発行していた増刊号『さぶグラフティ あいつ』である。
ホモ、SM……性癖にはいろいろあれど、サカナとは!? それを、しっかと受け止め、受け入れるよう諭す姿勢が、そのまま変態ホモ雑誌の誉れ高い『さぶ』誌の懐の深さ。志の高さである。素晴らしい。
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そもそも、「増刊」や「別冊」が出版されるのは、本誌の売り上げがまずまず順調で、新しい読者層を開拓したいという目論見であることが多い。もしくは、本誌編集人へのご褒美として、好き勝手に作らせてやる場合もある。なので、「増刊」や「別冊」は、本誌が取り扱わなかったようなネタや、ちょいと際どい内容であったり、趣味性に走った編集になることが多い。その例にもれず、『あいつ』も、ちょっと変わった内容のホモ雑誌になっている。
手元にある、1980年 初夏8月号を見てみよう。
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まず、表紙を開けると、三つ折り式の、三島剛によるピンナップ『霞草』という贅沢さ。
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大迫義郎撮影の『海爛漫』、岩上醍醐撮影の『君に捧ぐ青き供物』と、カラーグラビアが続く。悪くはないが、ホモ雑誌にありがちで、凡庸か。
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次の、水影鐐司のイラスト口絵は、面白い。『窓』と題された3つの作品は、いずれも窓越しに男たちの痴態を描いている。もちろん、「覗き」がテーマである。
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『さぶ』本誌でも人気の高かった投稿写真の企画が、『あいつ』にも。まずは、『秘密現場』。投稿者の手紙と共に、工事現場での責め写真が掲載されているが、写真よりも手紙が面白い。「20年来の友人である従軍カメラマンより多数の無残な写真を見せられた時から、私の心の隠れた本能が呼び覚まされた」と告白する。「民間人男女の性器りょうじょくの死体、南ベトナム兵によるベトコン兵士性器電流責め、天井から吊り下げられたベトコン兵の肛門に突き刺さった土間に立っている竹串、その向こうの土間には死んでいるのか、股間から血が流れているベトコンが転がっている。このような写真は8年以上たっても忘れられません」……と、うっとりと語っている。
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『友雄君が又、ズボンを脱いだ』もまた、一風変わった短編である。主人公は、大学1年生の友雄君……であるのだが、小説の語り部は、友雄君の履いているビキニブリーフが擬人化して、オナニーやハッテンの様子を綴っている。フェティッシュで、奇妙な読み心地が面白い。
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もう1本の小説は、渡脩之助の『未練花』。これまた、なんとも奇妙。読者にとっては感情移入しにくいであろう、ハッテンバの店員が主人公。男に振られて、タイトル通りに、自分を捨てた男への未練をグチグチ語るだけのもの。ヌケるかと問われれば、まったくヌケない(笑)。
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コミックは、吉田光男『春の雪』。三島由紀夫の同名小説『春の雪』に題を取ったのか、一人の青年将校と少年との恋の思い出を描く。
……と、列挙するだけでも、この本が、いかに毛色の変わったホモ雑誌であったか分かるだろう。有り体にいえば、ホモの中の変態に焦点を当てようとした、二重苦、三重苦のホモ雑誌なのである(笑)。冒頭の「人生相談」も、巻頭カラーページに続く、読み物としては最初の企画であり、巻末にはまた、こってりとした『あいつのSM座談会 SMは高級な遊びであると。うん』が12ページのボリュームで掲載されている。この座談会は、池袋にあったSMホモバー「X」のマスターはじめ、その客、『さぶ』出入りの作家陣による座談会である。添えられたイラストは、なんと、渡辺和博という贅沢さ。
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さてさて、本誌の『さぶ』も無くなってしまったいま。『あいつ』も、なかなか目にすることはないかもしれない。たまに古本屋や、ヤフオクに出品されることもある。是非とも、手に取り、この時代の“変態”であることを謳歌していたホモ雑誌編集者の矜持を感じとっていただきたい。もっとも、現在では、ホモであることそれ自体は、悩むに値するほどの問題ではなくなってしまったが……。
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さぶ8月号増刊『さぶグラフィティ あいつ』1980年8月号(サン出版/1980年 発行/1000円)
最後に、また、「人生相談」から、もうひとつ。
昔は男だったけれど途中で女のようになって化粧をしたり乳房をふくらませて普通の男にベタベタしてくる気持ちの悪い人をホモだと言うのだと思い込んで」いた、22歳の相談者。職場で知り合った15歳ぐらい年上の男は、「身近にこんな面白い人は会ったことが」ないほどの人物で、「三ヵ月くらいした時その人は自分がホモだとハッキリ言って」「その内にその人はいろいろな友達に紹介してくれ」「みんな僕が昔思っていたホモのイメージとは違って」「みんな人間的に楽しく、ユニークで自由な生き方をしていて一般社会のきまりきった生活をしている人達にうんざりしていた僕は新しい世界の人達と知り合いになれて嬉しい」という、この相談者。男とも女とも経験が無い、まったくの童貞。「正直に言って女に感じるときはありますという彼だが、「ホモの人達と付き合うようになってから女というものはなんて馬鹿で人間として魅力がないかつくづく分かり女が嫌になってしまいました」。ところが、「ホモの人達は話がすぐに直接男の体の方に進んでいって」「僕にはついていけない」「今のままホモの人達ばかりとノンケのままで付き合っていられるか」が、彼の悩みである。
これに対して……
[答]あなたは「中学三年生」とか「蛍雪時代」の相談コーナーへ手紙が出した方がいいと思います。この「あいつ」はあくまでもホモエロティシズム追求のアダルト感覚でやっていますので、あなたのようなお尻に青い斑点のあるような人はお門違いです。(略)あなたの友人と思い込ませているしたたかなホモがあなたのケツ膜破りを自分のものにしようと手薬煉(てぐすね)をひいているだけなのです。(略)それとも「少女フレンド」の読み過ぎで“最初のセックスは素敵な人としたいわ”なんて思い続けて結局二十五・六でトルコのおばはんと初体験なんてことになるんだったら今の内に知り合いのホモと乱交でもしておいた方がずっと人生にプラスになります。最後に一言。何でもいいから早くセックスに狂いなさい。それとも一生童貞と決心しなさい。
と、オネエ嫌いの潜在型隠れホモをバッサリ(笑)。

 

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