第41号 新幹線自殺から考える「老後のお金」

 

 ●新幹線自殺の男は、単身、貧困、家族や友人関係が乏しい

先日、新幹線で高齢者(71歳)が焼身自殺をはかり、大ニュースになりました。巻き添えで亡くなったかたもおり、JRも想定外の事件に困惑を隠しきれません。報道によれば、この男は自身の年金の少なさに以前から不満を抱き、知り合いの議員に相談したり、自殺をほのめかす言動もあったとか。ある報道によれば振り込まれる年金額は24万円。年金は2カ月分まとめて受給しますから、月12万でしょうか。

最近話題の本、『下流老人』の著者で、生活困窮支援のNPO法人「ほっとプラス」代表理事の藤田孝典さんのコメントによればーー。
「彼は典型的な下流老人です。現役時代の収入が多くなく、貯蓄も底をついた。生活の助けを求めることのできる家族や友人関係もない。こういった人たちが、いざ年金だけで生活する年齢になると、突然貧困層に落ちる。これはまれなケースではなく、私の試算では、高齢者の9割が下流老人になる可能性があります」(週刊朝日 2015年7月17日号より)

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同性婚ニュースに注目がいきがちな昨今ですが、私の連載で折にふれ書いているように、性的マイノリティの多くは、比較的短期のパートナーシップを繰り返しながら、最終的にシングルで高齢期を迎えることが多い印象を私は抱いています(もちろん死別すればみなシングルですが)。
また、性的マイノリティのなかには、職場等の理解がともなわず、離転職や非正規を強いられる結果、老後の蓄えがしづらい人びともいると思われます(メンタル疾患や依存症の多さが、これに追い打ちをかけます)。
私の事務所や仲間と運営するNPO法人が、同性パートナーシップの法的保証サポートとともに、シングルのライフプランや高齢期の支え合いに強い関心を持ってきたのはそのためです。

今回は、新幹線自殺の引き金になった(?)年金について基礎的な知識を確認し、老後のお金についてどうしたらいいのか、若干の私見をまとめてみたいと思います。

 ●公的年金のポイントをきちんと頭に入れよう

日本年金機構の情報漏洩、さらにウチらの年金積立金を株式市場に突っ込んで官製相場の演出か? など、とかく不安が言われる公的年金。とは言え、日本は国民皆年金、強制加入です。入らないという選択はありません。
勤めている人は厚生年金や共済に、自営業やフリーの人は国民年金に入ります。現行制度では、20歳から60歳まで40年間(480カ月)加入で満額受け取れ、加入月数に応じて減額、ただし通算25年以上加入していないとそもそも受給資格がありません。現在は原則65歳から支給されます。

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よく年金は2階建ての比喩がされますが、1階部分にあたる基礎年金(国民年金)の今年4月からの満額支給額は780,100円(月額約6万5千円)。実際は加入月数に応じてさらに減額しますから、もとよりこれで暮らせる額ではありません。しかし、会社勤めの時代があれば、2階部分である厚生年金が上乗せされます。そして、公的年金は死ぬまでもらえる終身保険。これは民間では出せない強みです。
たとえば、基礎年金(国民年金)の保険料を約1万5千円/月とし、480カ月払えば総支払額は720万円。満額支給額を70万円としてこれを割れば、10年でモトが取れることになります。現行65歳で貰いはじめて10年後は75歳、まだまだ死なないお年頃。そこから先は貰い得?
年金は税金が半分投入されているので、払った保険料に比べて貰える割合が高い。加えて厚生年金は保険料の半分を会社が負担してくれることも大きなメリットです。自営等で国民年金しかないひとで老後のための上乗せ保険を探しているなら、民間の養老保険などよりも国民年金基金が、終身保険であり、現役中(納付中)は社会保険料控除で税金の計算上もお得です。

公的年金は、老後にもらう老齢年金以外にも、途中で障害者になって働けなくなった場合(交通事故やAIDS発症を想起)には、障害年金がもらえます。ただし、初診時に年金に加入していないとそもそも対象外。保険料が払えないなら払えないで、未払いのまま放っておくのではなく、きちんと免除手続きをとることが肝心です。
よく社会保険(健保と年金)は制度が複雑といわれますが、会社を辞めたときにいくつか自分で手続きすることだけ気をつければ、なにも複雑なことはありません(逆に会社に入ったときは、総務の人などの指示に従ってください)。健保と年金の手続きのポイントをまとめました。

【手続き1(健保)】 会社を辞めたときは、住所地の役場で国民健康保険に加入する。保険料は前年の収入にもとづいて計算されるので、無職になったのに高い保険料に苦しむことがありますが、これは仕方なし……。分納などは窓口で相談してみてください(最近は減額措置がとられることもあるようです)。

【手続き2(年金)】 おなじく会社を辞めたときは、年金手帳を持って、住所地の役場(場合によっては年金事務所)で国民年金に加入してください。放っておくと、すでに厚生年金は脱けているので年金未加入(未払い)状態になり、あとで加入年数が足らなくなり痛い思いも。無職になって年金が払えない場合も、免除等の申請をお忘れなく(定年で60歳以上の人は、年金納付は終わりです)。

【手続き3】 留学や個人で外国へ移住する場合、いままで払った年金をムダにしないためにも、かならず年金事務所で相談してください(任意加入ができます)。

【手続き4】 若い人で学生納付特例の人、延納は10年までです。就職したら最初のボーナスで一気に払ってしまいましょう。

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自分のエリアの年金事務所はどこにありますか?

●老後のお金を少しでもラクにする方法は?

最初の新幹線自殺に返ります。老後を月12万の年金で暮らす方法はあるのでしょうか。

男がどんな家計を営んでいたのかわかりませんが、もし住居費があまりかからないなら、家計ももう少し楽だったかもしれません。男の年金額から逆算して、現役中に家を買うほどの収入(余裕)があったとは思われません。(もっとも、自家でローン完済後でも、管理費や修繕積立など、まったく住居費ゼロになるわけではないでしょうが。)
こういうとき、所得に応じた安い家賃で入れる公営住宅が求められますが、日本は公営住宅の供給がきわめて乏しい国です。貧困問題に取り組むさまざまな団体や人びとが、「住まいは人権」を合言葉にこの問題に取り組んでいます。
住宅保障が、「下流老人」問題の解決の決め手でしょう。全国1千万戸の空き家、廃止で放置されている官庁の官舎アパートなど、なんとか活用できないものでしょうか。

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私の近隣(東京都中野区)にある官舎アパート。官庁の予算削減で廃止されるのはいいとして、縦割りのため、その後、活用されることなく放置されている模様です……。

一方で、身近に私たちができることを考えてみましょう。
男は71歳でしたが、70代はまだまだ元気です。健康で働けるなら、労働によって社会参加しながら収入も補填するのは、当然とってよい選択ではないでしょうか。
年金は現在65歳から受け取りますが、これを70歳まで繰り下げると、最高42%割増されます。また、60歳で納付終了ですが、65歳までは任意加入して加入年数を延長し、あとあともらう年金を増やすこともできます。再就職の場合、70歳までは厚生年金に入る場合もあります(いったん手取りは減りますが、70歳以後の年金が増える)。
年金制度の活用で、意外に受給額に伸び縮みがあります。
 老後になるまえに年金についてやっておくなら、国民年金を払えない人は上記のとおりせめて免除申請の手続きをしておくこと。また、あとで払えるようになった場合は、手続きした期間については10年以内なら追納して埋めることができます。これも老後の年金を増やす方法です。未払いのまま放っておいたものは、2年以内なら利息をつけて追納することができます。

年金以外では、老後資金のためのウマイ運用話などについては、得意な人にお任せすることにして、庶民派FPの私としては、
・医療費負担と収入減をもたらす病気をしない(禁煙、肥満解消、健診で早期発見)
・できるだけ会社は辞めない(厚生年金に入れてもらう)
・定期的な貯蓄と借金のない家計
・不要支出の削減(保険と住宅が見直しやすい)
あたりから手をつけては、と思っています。「病気せぬのが貯金のはじめ、会社辞めぬが保険の第一」と昔の人も言っています(ワタシが言いました)。

 もちろん、連載38号で触れたように、元カレなどと「そっちも一人なら、また一緒に住まないか?」などの、生活シェアもいかが? 住居費や生活費の共同化で節約にもなります。

 

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