第68回 チンコの話題で盛り上がるウォーホルとバロウズ。史上最低最悪の対談集(笑)ヴィクター・ボクリス著『バロウズ/ウォーホル テープ』

 

「まあ、ジュンって、デカチンだから」「なんで、知ってんのよ?」「だって、そうなんだもん」「普通だよ、普通」「アンタも普通サイズ?」「うん」「いや、ノボルはデカチンだよ!」「違うって! 嘘だよ」
こんな会話は、毎日、毎晩、2丁目のバーやクラブの片隅で、芝プーのプールサイドで繰り広げられている、口さがないホモ達の与太話だ。意味も価値もなく、つまらないおしゃべりだと思うだろう。
ところが、そんな会話を、アンディ・ウォーホルウィリアム・バロウズがしていたとしたら、俄然、興味が出てくる。
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アンディ・ウォーホルは、言わずと知れたポップ・アートの旗手。20世紀後半のアートシーンの最高、最大のアーティストである。誰もがきっと、美術の教科書で、彼のキャンベルスープ缶やマリリン・モンローの作品を目にしたことがあるはずだ。
かたや、ウィリアム・バロウズもまた、20世紀後半のアメリカ小説の一面を代表する作家である。1914年に生まれ、ハーバード大学を卒業するほどの秀才でありながら、卒業しても定職に就かず、アレン・ギンズバーグやジャック・ケルアックらと親交を持ち、麻薬に耽溺。その経験から書き上げた『ジャンキー』を発表。
その後、1959年に発表した『裸のランチ』が、内容のグロテスクさと猥褻描写により発禁処分となるが、これが逆に、彼の名声を高めた。文章をバラバラに切り刻み、それをランダムに並び替えるという「カットアップ」手法を生み出し、文学史上にもその名をとどめることになる。とはいえ、彼の作品が学校の教科書で紹介されることはないだろうなぁ(笑)
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ヴィクター・ボクリス著『バロウズ/ウォーホル テープ』の口絵より。左/アンディ・ウォーホル、右/ウィリアム・バロウズ。
 どちらのアーティストも、同性愛が口に出すのも忌まわしい悪徳で死んだも同然と思われていた時代に、自分がゲイだと知りつつ育った。ふたりとも十代には異常者扱いされて自分が醜いと思わされた。ふたりともすさまじく苦しんだ。内心ではアンディとビル(注/ウィリアム・バロウズのこと)は情熱的なロマン主義者で、感情が華開くのを許されていればそれはふたりを圧倒したことだろう。だが、ふたりはそれぞれ仕事に没頭し、自分の職業を最も表現する仕事着をまとった(略)ふたりともクール、ヒップ、美の定義者となった。ふたりとも活発な同性愛者となり、一九七〇年代からはゲイ解放のアイコンともなった。
(ヴィクター・ボクリス著『バロウズ/ウォーホル テープ』の『第九章 ウィリアム・バロウズとアンディ・ウォーホル 比較の伝記』より)
この偉大なる芸術家であり、同性愛者のふたりを引き合わせたのが、今回紹介する本『バロウズ/ウォーホル テープ』の著者である、ヴィクター・ボクリスであった。彼は、「ニューヨークのアンダーグラウンドの桂冠詩人」と自称しており、詩人であり、かつ、編集者、インタビューアーとして活動していたらしい。アンディ・ウォーホルの発行していた『Interview』誌をはじめとする媒体で仕事をしていたようだ。
どういう経緯でか、彼は、バロウズやウォーホルと近しく付き合っていた。ずいぶんと可愛がられていた様子は、この本の端々から伝わってくる。ところが、彼に才能があるかといえば……この本を読む限りにおいて、そうとも思えないのである。いわゆる、有名人ゴロみたいなものか。本人には取り立てたて能力もないのに、有名人達に取り入り、不思議と可愛がられる存在。そんなボクリスが、晩年の老オカマ芸術家のふたりを引き合わせ、そのインタビューで一発当てて金儲けしようとしたのが、この本であったような気がする。志(こころざし)のかけらも感じられない(笑)。
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ヴィクター・ボクリス著『バロウズ/ウォーホル テープ』の口絵より。左/アンディ・ウォーホル、中/ミック・ジャガー、右/ウィリアム・バロウズ。
ボクリスは、ウォーホルとバロウズ、時には、ミック・ジャガーを巻きこんで、なんとか彼らの対談やらインタビューをものにしようとするのだが……。そのインタビューの様子が、彼自身の覚え書きや数多くの写真と共にまとめられている。とはいえ、加齢と麻薬で耄碌(もうろく)したウォーホルとバロウズが、まともな対談など出来るはずもなく、この有様である(笑)。
ウォーホル まあ、ビル(注/バロウズのこと)はデカチンだから。
私は、これが今まで録音した最も笑える一節だと思った。ゲイ解放運動が拝借した彼らの威厳ある名前のまじめくさった重みを、あっさりしぼませたように思えたのだった。
アンドレ(注/ファッション誌エディター) なんで知ってるんですか?
ウォーホル だって、そうなんだもん。な?
バロウズ 普通、普通だよ。
ボクリス 普通。
アンドレ 普通、普通。
ボクリス あなたのも普通……
ウォーホル うん。
バロウズ みんな普通のチンコを持ってるんだ。
ウォーホル アンドレはほんとにデカチンだよ。
アンドレ アンディは私がデカチンだと確信してますね! ウソですから。
ウォーホル なんだよ。
(ヴィクター・ボクリス著『バロウズ/ウォーホル テープ』の『第三章 バロウズとウォーホルとの夕食』より)
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ヴィクター・ボクリス著『バロウズ/ウォーホル テープ』の口絵より、ウィリアム・バロウズのポートレート。か、かっこいい!
ちなみに、この時、ウォーホルは52才。バロウズは、66才。いい歳したジジイが、チンコ、チンコって……。それでも、ディナーは楽しく進んでいたようだ。だが、テーブルの話題は、またしてもチンコで盛り上がっていた(笑)。
ウォーホル でもねえ、本当にわかんないのは、白人がすごい黒いチンコをしてたりすることなんだよ。
ボクリス チンコが他の肌より黒いんですか?
ウォーホル うん、すごく黒いときもある。
ボクリス ええと、ビルによればアラブの少年はくさび形のチンコをしているそうですよ。
ウォーホル くさび形? くさび形ってどういうこと?
バロウズ うんそうね。何というか広いくさび形もあるけど、そんなみんながそうだってわけじゃない。いやはやそんなにちがうわけじゃないよ。一部はちょっと、えーと何というか、広い形なんだ。
アンドレ 先っぽ? 亀頭?
ウォーホル そうなったら亀頭を入れるのがむずかしくない? ほれ、描いて見てよ。
バロウズ まったく、無理だよ、そんなはっきりしたもんじゃない。何かえらく特別なことがあるような誤解をヴィクターが植え付けてしまったようだね。実際には、民族とは何の関係もない。そういう人はたくさんいる。
ウォーホル まあ、ビルはデカチンだから。
(ヴィクター・ボクリス著『バロウズ/ウォーホル テープ』の『第三章 バロウズとウォーホルとの夕食』より)
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ヴィクター・ボクリス著『バロウズ/ウォーホル テープ』の口絵より。左/ヴィクター・ボクリス、右/ウィリアム・バロウズ。
と、こんな様子だ。これじゃ、そこらのホモの与太話と同じレベルだ(笑)。本書の帯には、デカデカと「史上最低最悪の対談集」と書かれているが、間違いではない。20世紀史上最高最大のアーティストふたりも形無しである。しかし、どんな偉人も、普段は、チンコ!チンコ!と、我々と変わらないおしゃべりをしていると思うと、なんだか親近感も湧く。それを知らしめてくれただけでも、この本の価値は十分にあるのではないか。バロウズの恥ずかしそうな、困ったような受け答えの愛らしさといったら。このジジイ、66才だったんだぜ(笑)。
さて、ウォーホルとバロウズのふたりを手玉に取ったボクリス自身もまた、ホモであったようだ。彼らとの関係がどんなものであったのかは知るよしもないが、ボクリスの申し出には応えてやろうとするふたりの老ホモに、なんともいえないボクリスへの愛情の深さを感じる。そこを読み取ってもらえれば、この本の「ホモ本」的価値は十分である。たとえ、史上最低最悪の対談集であったとしても(笑)。
そして、もう一点。この本の価値を高めているのは、翻訳家 山形浩生の『訳者あとがき』である。辛辣で、的確。これだけは読み飛ばしてはいけない。
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ヴィクター・ボクリス著『バロウズ/ウォーホル テープ』(スペースシャワーブックス/2014年 発行/ISBN978-4-907435-33-2)
ウォーホルとバロウズでさえこの有様なんだから……と、勇気を奮い立てつつ、いよいよ7月23日(木)、トークイベント『あの日見たマーガレットという花を僕達はまだ知らない。(略して、あのはな)』開催! 毎回、さまざまなゲストを招き、ディープで、偏った、聞くに堪えないトークを繰り広げようという企画。
初回ゲストは、ミッツ・マングローブ! 私の宿敵(笑)。そして、女装を撮り続けてウン十年の写真家 村しのぶ氏も、お蔵出し秘蔵女装写真を携えて参加して下さる。女装シーンを総括すべく、新旧東西の女装たちを俎上に乗せるトークショウ。お待ちしてます!
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あの日見たマーガレットという花を僕達はまだ知らない。(略して、あのはな)』 日時/2015年7月23日(木)19:00〜24:00、会場/新宿二丁目「ArcH」、料金/2000円/1ドリンク付き。詳細は、http://aliving.net/schedule_detail.php?date=2015-07-23で。

 

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