第70回 ユダヤと同性愛を迫害する、ファシズムと軍国化の指導者は、かつて愛した男だった。歴史改変ものSFの傑作 イアン・R・マクラウド『夏の涯ての島』

 

「いっちょかみ」って、言われちゃったよ(笑)。「いっちょかみ」とは、なんにでも口を出す人を揶揄する言葉だそうだ。いろんなことにくちばしを突っ込んで(自分では何もしないくせに)批判ばかりする、という非難だ。どうやら、私が、同性婚について批判的なことを書いたことがお気に召さなかったらしい。
「いっちょかみ」、上等じゃね〜か。私は、古くは「パレード歩きません!」発言や、TIL&GFFの「LGBTS(S=Straight)っておかしくね?」事件とか、同性婚万歳ブームの落とし穴とかについてとか、嫌みったらしく、重箱の隅をつつくようなことばかりを言ってきた。おかげでずいぶんと批判もされたし、嫌われてもきた。「いっちょかみ」ぐらいの非難は、軽く聞き流すことも出来る。
ところが、今回ばかりは、聞き捨てならなかった。この発言の裏にあるものが、じつに気持ち悪く思われたからである。それは、同性愛者のために活動をしているのだから、活動をしていない同性愛者が、その活動や活動している人たちを批判してはいけない、という非難と受け取られたからだ。もちろん、こんな解釈は杞憂であって欲しいと願うが。
そりゃ、私だって、異性愛者と同じ権利を同性愛者が手に入れられることは、素晴らしいことだと思っている。その意味でも、同性婚が認められることは、大きな意味を持つものだと考えている。しかし、だからといって、婚姻制度の持つ欠陥や問題点に目をつぶる気にはなれない。だから、ネチネチと文句を言って、嫌われてしまうのである(笑)
そのための“運動”や“活動”をしてきた人にとっては、腹立たしいことであるのは分かっている。だからといって、何もしない奴は文句を言うな! というのは、いかがなものか? かつて、ある活動家から「小異を捨て、大同に就け」と忠告されたこともあるが、その全体主義的な考えに不快感を感じたものだ。私は、“運動”や“活動”のために生きているのではない。私は、私自身が納得のいく生き方をしたいだけなのだ。たとえ、ひねくれ者と呼ばれても、いっちょかみと非難されても、である。あ〜〜、なんて難儀な性格(笑)。
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さて、今回紹介する本は、イアン・R・マクラウド著『夏の涯ての島』である。
一九四〇年。
英国をファシズムへ、
そしてユダヤ人差別とみちびく、
カリスマ的指導者は、
かつて私が愛した青年だった。
(イアン・R・マクラウド著『夏の涯ての島』帯文より)
著者のイアン・R・マクラウドは、この本ではじめて日本に紹介された「叙情SF短編の名手」だそうだ。本書も、表題作をはじめ、7篇が収録されている。表題作の『夏の涯ての島』は、歴史改変SFというジャンルで、現実の歴史とは異なる歴史を経た世界を舞台にした物語である。本作では、1940年のヨーロッパが舞台。しかし、そこ(物語の舞台)では、先の大戦でドイツが勝利していた。フランスはドイツと平和協調路線をとったが、ファシズムと軍事拡張路線を取ったイギリスは国際社会で孤立。イギリス国内では好戦的ムードが高まり、一方で、政府によってユダヤ人や同性愛者への弾圧が行われていた。密告により離島に隔離され、同性愛者は“治療”を受けさせられていたのだ。そうした架空の歴史を背景にして、物語は始まる。
 日曜日の夜はたいていいつもだが、今日もやはり知人からの伝言が、クライスト・チャーチ・メドウ脇の男子公衆トイレの三番めの個室に残されていた。今週は滑らかな緑色のペンキの上に二つの爪痕で、その意味は“ラグビー・グラウンドの先の市民菜園のあるそばにある荒れた納屋で、三十分後に”ということだった。同じようなマークが、個室の壁にずらりと並んでいる。それは私の性生活のすべてだった。こっちには ─── おお、幸せで危険な日々! ─── 特殊な三連のマーク、“同情的で理解のある、用心深いオーナーのホテルの裏口で”もある。そのオーナー、ラリー・ブラックは、もういない。もちろんだ。ほかにも多くの人々がいなくなった。夜中に静かに、マン島の治療センターへ、ショック療法と注射のために連れ去られたのだ。
主人公のグリフィン・ブルックは、大学教授で、歴史家である。もちろん隠れホモ。ハッテンバの公衆便所で、お仲間を探す「幸せで危険な日々」を送っていた。それも、見つかれば島送りになるご時世なので、いたしかたないだろう。いまや、年老いて病に冒されたブルックであるが、かつて若かりし頃に、愛した男がいた。
わたしの幸福の唯一の源泉も、同じくらい昔まで遡る。三十年近く前に数日だけ起きた、一つの奇蹟に。あれ以来わたしは、同性愛者に真実の愛はわからないと、自分に言い聞かせてきたような気がする ─── そのほうが楽だったから。しかし同時に、そのときからずっと、フランシスはつねにわたしとともにあったのだ。
ブルックの愛したフランシスこそ、30年を経て、全体主義を推進するカリスマ的指導者として、イギリスの首相となっていたのである。歴史学者として、そして、同性愛者として、ブルックは、ファッショ化し戦争へと向かっていくイギリスとその牽引者であるフランシスを、複雑な思いで見つめていた。そんなある日、フランシスからブルックの元に“国民祝典”への招待が届く。時を経て、再会を果たすことになるふたりであった……。
私は「いっちょかみ」なので(笑)、読書も、あらゆる本を読みかじっている。広く浅く、だ。なので、専門分野の知識は乏しい。SFについても、詳しくはない。SFと聞けば、宇宙を舞台に荒唐無稽なストーリーを期待してしまう程度だ。情けないことに。だから、『夏の涯ての島』を読んで、とてもSFとは思えなかったのである。むしろ、登場人物たちの心の葛藤や、矛盾する感情への共感がある。そして、同じ過ちをくり返そうとする歴史への嘆きが伝わってくる。それが、「叙情SF短編の名手」と呼ばれる所以か。日本が、歴史を書きかえようとしているいま。そんないまだからこそ、こんな本をおすすめしてみた。ぜひ、一読を。
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イアン・R・マクラウド著『夏の涯ての島』(早川書房/2012年 発行/ISBN978-4-15-208887-1)
おかげさまで満員御礼となったミッツ・マングローブとのトークショウ『あの日見たマーガレットという花を僕達はまだ知らない(略して、あのはな)』だが、調子に乗って、第2回が行われる。ゲストは、以前、本コラムで紹介した『いわゆる淫乱旅館について』の社会学者の石田仁氏である。淫乱旅館からハッテンバ、そしてアプリへ。変化するホモの出会いについて、お話を伺う。ぜひ、お出でを。
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『あの日見たマーガレットという花を僕達はまだ知らない。(略して、あのはな)』 日時/2015年8月31日(月)19:00〜24:00、会場/新宿二丁目「ArcH」、料金/2000円/1ドリンク付き。詳細は、http://aliving.net/schedule_detail.php?date=2015-08-31で
また、これも、金子國義氏の訃報を紹介した本コラムがご縁で、「放蕩娘ナイト」なるイベントに出演することになった。オフィシャルな追悼イベントとのこと。私は、ゲイバー「洋チャンち」のママとトークショウです。こちらにも、ぜひ。
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『放蕩娘ナイト〜金子國義へささぐ夜』 日時/2015年8月29日(土)、会場/銀座「砂漠の薔薇」、料金/前売り3800円1ドリンク付き、当日4000円1ドリンク付き。詳細は、https://www.facebook.com/pages/Office%EF%BD%B0i/864947886928587?fref=nfで

 

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