第44号 世田谷区でも同性カップル公認へ~パートナーシップ保証の内実が課題~

 

 ●区役所で宣誓、区の押印と受領証でパートナーシップを証明

7月29日、世田谷区議会の委員会で区長が同性カップルへの公的書類を発行する要綱案について報告したことが、大きく報道されましたね。3月末に成立した渋谷区の男女平等・多様性推進条例にもとづくパートナーシップ証明制度につづく全国で2例目であり、同時に、渋谷区とは異なる方式でもあることが注目を集めています。
この件を大きく報道した東京新聞によれば、

 ・同性カップルが区にパートナーであることを宣誓し、区が押印した宣誓書の写しと、受領の証書を交付する。
・宣誓するには、双方が20歳以上で区内に居住するか、一方が区内に住み、もう一方が転入を予定していることなどが条件。
・区が10年間、宣誓書を保管する。

とのこと。
渋谷区では、証明を受けるには事前に任意後見契約の締結や共同生活にかんする公正証書を作成する必要があるのに対し、世田谷では特段の準備は不要です。同居さえ、要件にはなっていないよう(通い婚の実態に対応?)。意外にカンタンな、「この手があったか!」的な方法は、世田谷区のアイデア一本勝ち(笑)。
委員会で配布された要綱や宣誓書の案も、一部世田谷区議のブログに画像で紹介されています。ちなみに、カップルが別れたときは、双方の希望で宣誓書は廃棄できる、と。「協議離婚」に限るようですが、相手の協力が得られない場合もあるので、一方の通告のみで廃棄でもいいような……。

区役所で二人のパートナーシップを宣誓すると聞いて、私はフランスの結婚式を想起しましたよ。フランスでは結婚から教会(宗教)を排除し、市長のまえで宣誓するのがフランス革命で確立された方式です(参考ブログ)。毎週土曜に行なわれる市役所での結婚式は、日本の玉姫殿のごとく30分刻みで進行するとか(笑)。ただ、世田谷は申請者のプライバーシ保護で、一組ずつこっそり(?)受け付けるみたいですが……。

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宣誓方式を打ち出し、世田谷区が全国の注目のまとに。

 ●国の法律に変化がないかぎり、法的効果はない

さて、この世田谷の宣誓方式ですが、すでに多くのかたが指摘されているように、なんらかの法的効果をともなうものではありません。
また、先行する渋谷区との比較もいろいろなされているようですが、渋谷の証明にも世田谷の宣誓にも、同性カップルに対する国の法的整備がされていない現状では、自治体レベルで独自に付与できる法的効果はなにもないのです。
あくまで、これまでタブー視されていた、あえて言えば「昼日中から口に出すのがはばかられてきた」同性カップルの存在を、渋谷区なり世田谷区なりが直視し公認した、そのことによる社会への波及効果を狙うものだということです(実際、2月このかたパンドラの箱の蓋が開いて、社会に大いに問題提起、関心喚起することができ、同性カップルの困難や解決への願いが多くの人に知られはじめています)。

みなさんの頭を冷やすためにあえて言わせていただければーー渋谷や世田谷でこの実現に尽力されたかたがたも苦笑して許してくださると思いますがーーどちらも「おもちゃの証明書」にすぎない、ということです。
渋谷はこの証明に従わない業者を公表すると言われましたが、わたし的にはこれは、「せっかくオモチャ与えて喜ばせてるのに、泣いて帰ってきた。あんた、うちの子になにしてくれた〜(怒)」的な話で、こういうおとなげない振る舞いは区も「できればしたくない」と言ってましたね。
一方で、渋谷では区営住宅への申込みが夫婦同様に受け付けられることが少し話題になりました。これは地方分権推進で、公営住宅の入居要件は住宅を運営する自治体の裁量で決めてよいことになったためで、まさに公営住宅法という法律が変わったからできたこと。法律が変わってなければ、たとえ渋谷の証明でも公営住宅の申込み受付さえ実現しなかったのです。

おもちゃの証明などといえば、渋谷でも世田谷でも努力している人に失礼ですが、国の法律にかかわらないなかで自治体で精一杯できる範囲のものを設計したのだと思います。これを「はじめの一歩」にして、法律へと結びつける努力を、私たちが声をあげることで進めていきたいものです。

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おもちゃなんて言ってゴメンなさい。つぎは確かな法的効果を得るために、民法を拡大して同性の婚姻を認めるのか、別法によるパートナーシップ制度を創始するのか。私たち自身が考え、声をあげる番です。

 ●もしも世田谷が先だったら?

ところで、こうして二つの方式が並び立つと、両者を比べ、一方をもちあげ一方を腐したくなる(最近はディスるって言うの?)のは人間の常……。とくに、渋谷は証明取得に数万円かかる公正証書が必要なのに、世田谷は特段の費用負担がない、という点は大いに物議をかもしています。

その点、いまとなっては渋谷区は気の毒だな、それは一番手ならではの困難だったのかなーーと思う点もあります。
上にも述べたように、同性カップルというのは、世の中的には昼日中から口にするのもはばかられる、結婚もできない二流市民のようです(怒)。それをこともあろうにお役所が公認する条例を日本で最初に作ろうってんだから、「そんなアヤシイやつらを区が認めていいのか〜」という声に過度に警戒、防衛的になるのもありそうな話。これから針の山も血の池もつづく地獄の区議会マラソンを駆け抜けるための苦肉の索が、「二人は公正証書を二つも作っている、市民社会のもっとも正当な人たちです」というこの高いハードルだったのでしょう。
そのおかげかどうにか成立にこぎ着けました。事前に作る公正証書の効力が(無効力な)区の証明の効力と「勘違い」されて、実益ありそうに見えたのも手助けになったかもしれません。

ところがそれからたった4か月。世田谷で宣誓制度について報告する区長へ区議たちからは、「対象者の適用範囲が狭い」「なぜ条例化しないのか」など、むしろもっと積極策を求めるかのような声があったそう(朝日新聞)。
世田谷で、もしも渋谷より先に提案されていたら、「なんの証明書類もない二人の、宣誓とはいえ口裏だけを信じて区が証明なんか出していいのかァ!」「そんな怪しいヤツらを公認していいのか」と、蜂の巣つついた騒ぎになったかもしれません。
世田谷が現在たんたんと受け止められているように見えるのは、社会の同性カップルへのタブー感が崩れ、免疫がついた結果でしょう。しかし、それも渋谷の大騒ぎがあったおかげかもしれないのです。

 ●公正証書はそもそも悪なのか!?

今後、3例目、4例目が出てくるなかで、あるいは世田谷的な宣誓方式が普及するのかもしれません。簡便であり、公正証書作成などという過大な費用もかからないのですから。
しかし、そうした雰囲気のなかで、今度は逆に、公正証書を作ることが悪いことである、不要で過剰な要求であるといった印象や認識が一人歩きしていないでしょうか。そして、区の証明があればそれでなんとかなる、という誤解が広がっていくことを懸念しています。

繰り返しますが、渋谷も世田谷も、しょせん「おもちゃの証明書」なんです。
私の連載で何度も指摘しているように、法的裏付けのない同性カップルは、いざというときに困難な事態に陥る可能性があります。
でも、同時に、それを回避する方策もいくつかあります。その一つが公正証書だし、費用がかかるというなら、無料で自作できる方法や書面もあります。
婚姻やパートナーシップは、区(行政)から認められるという社会的承認の側面も大事ですが、同時に、契約や合意書を作成し、二人でパートナーシップの中身や法的保証を自前で形成していくという面も、おなじぐらい大事なのです。
そうやってカップルのライフプランを考えて書類などを整えていったら、たまたま区の要件に合致したので証明書を取った、というのが流れなのに、渋谷では区の証明を取るにはウン万円かかる(書士などに頼めばもっとかかる。男女婚や他区では無料なのに)と、前後を逆にして誤解されたのが、渋谷の気の毒その2です。

わたし的には、

渋谷は、終生添いとげる自信がついたカップル歴10年選手がパートナーシップ書類を作った仕上げとして取得する、などに向いている。(期間にかかわらず二人がお金出し合ってマンション買ったなどのときは、遺言その他の書面で固めたうえで、ついでに証明も取得する。)
世田谷は、パートナーシップのスタート時に「私たちホントにこれから付き合うのよね」と気持ちを確かめあうのに向いている

ーーそう言ってみたい気がします(行政が出すなら余計な条件つけずにみんなに出せよ、という声もわかりますが、各区の現在の制度を評すれば、ということで)。

そして、同性の婚姻制度のないなかで、二人のライフプランや法的保証をリアルにどう形成していくのか真剣に考えよう。それはウェディングよりもっと大事なことであり、これはどこの区にいても、同性カップルなら考えていくべきことーー私は結局、この連載でそれしか言っていない気がするのです。

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任意後見契約につけられた代理権目録。こうした書面による裏付けにより、同性パートナーシップの法的な内実を形成することが可能です。緊急連絡先カードなど、無料でできることもいろいろあります。連載バックナンバーや拙著、弊事務所の講座や相談もぜひご参照・ご利用ください。

 

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