第73回 覗きマニア、制服フェチ、SM好きのホモ、レズビアン同好会「若草の会」の代表らをインタビューした、田原総一郎『ドキュメント 第三の性』。

 

私は、店子になった。30年ぶりの店子である。といっても、週に一度のパートのオバサン状態なのだが。店の名は、「Royal Family」という。ここは、あの「宇田川カフェの系列店で、はじめて新宿二丁目に進出した店である。もともとは「LD&K」というインディーズレコード会社が母体で、その飲食部門が管轄している。ところが、どうしたわけか、週末以外の平日は店を閉めていた。もったいない話である。そこで、なんとか平日を盛り上げたいと思い、あの手この手。私は、木曜日担当の店子になった。
さっそく、私を訪ねて来客があった。ありがたいことである。しかも、なかなかのイイ男。年のころは、私とほぼほぼ同世代と思われる。しかし、私がくたびれたオバサンなのに比して、この方、色気漂う兄貴な感じ。同じホモなのに、運命とは、かくも残酷なものか!(笑) どうやら、先週の本コラム『戦争と「屹立」したチンコの思い出。を読んで下さり、懐かしくなって、波賀九郎氏のことを語りたくなったのだという。ありがたい。
日本に“ゲイシーン”や“ゲイカルチャー”などというものがあるとするなら、その黎明を支えてきたのは、波賀氏をはじめとする戦中〜戦後派の世代の方々だ。その多くは、いまや鬼籍に入られている。ご存命でも、ずいぶんとご高齢のはずだ。若い世代のホモには馴染みのない方々かもしれない。名前さえ知られていないかもしれない。私が店子を勤める木曜日は、そんな先達のことを語り伝えていける“場”にしたいものだと考えている。もちろん、イケメン店子(私!)を口説きに来てくれたって、それはそれで大歓迎である。手ぐすね引いて、待っている(笑)。
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MIX BAR「Royal Family」の店内風景。住所/東京都新宿区新宿2-13-16 SENSHOビル2F、電話/03-6457-7331、ホームページ/http://www.royal-family.org/
さて、今回は、先週に引き続き、波賀九郎氏を取り上げようと考えた。氏は、モデルの男の子達のチン型を取り、それを300本もコレクションしていた。その動機や経緯を語った本があったからだ。下川耿史著『変態さん!』である。下川耿史氏は、家庭文化史や性風俗史の研究家として、数多くの著書がある。この本では、波賀氏をはじめ、褌の収集愛好家、大人の玩具コレクター、ビニ本、猥本の蒐集家、少年愛、女相撲、盗撮、マン拓……などのマニアを紹介している。波賀氏の「屹立」したチンコへの熱い思いが伝わってきてなかなか良い資料なので、ぜひとも紹介したいと思ったのだが、どうやら書庫に入ってしまっているらしく、手元になかった。残念である。せめても、書影だけでも紹介しておく。いまでも入手可能な本なので、ぜひ読んでいただきたい。
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下川耿史著『変態さん!』(ちくま文庫/2000年 発行/ISBN978-4480035622)
その代わりと言ってはなんだが、こんな本が出てきた。『ドキュメント 第三の性』。これまた、さまざまな変態さんを取材したドキュメンタリーである。しかも、著者は田原総一郎。テレ朝の看板番組『朝まで生テレビ』の名物司会者として有名である。いまや政治経済、社会問題などを舌鋒鋭く追求する論客であるが、この本が出たのは、1977年。むかしはこんな柔らかいテーマも取り上げていたのである。
とはいえ、『朝まで生テレビ』での田原総一郎の司会ぶりを見ていると、中立であるべき司会者というよりは、傲岸、独善的に番組を引っぱっていくパーソナリティーである。彼の気に入らない意見が出ると「違うって! はい、コマーシャル」と宣言して、反対意見を言わせない手法など批判も多い。ま、それはそれでエンタテインメントとしては面白いので、文句はないが(笑)。
調べてみると、若い頃、ディレクター時代にはずいぶんと無茶な取材もしたようである。有名な逸話として、ニュージャージーのマフィアが経営する店で「ビリヤード台の上でうちの売春婦とセックスしたら取材を許可する」と言われ、衆人環視の中、黒人娼婦とセックスをした経験があるそうだ。また、全共闘くずれのフリーセックス集団を取材する際、その条件として女性メンバーからセックスするよう求められて、応じたという。なかなかのやんちゃ坊やであったのだ。
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テレビ朝日『朝まで生テレビ』公式ホームページより、田原総一郎。
そんな彼が、変態の世界をルポしたのが、『ドキュメント 第三の性』である。この本には、12本のインタビューが収録されている。ざっと書き出してみよう。
ケース1 倒錯の性(告白) (*注 SM愛好の男女3人の鼎談)
ケース2 サディスト男 30才
ケース3 サディスト女 28才
ケース4 大人のオモチャのパイオニア
ケース5 ホモのサド・マゾ 50才
ケース6 ホモセクシャル 31才 裁判中
ケース7 性転換 20才 ホステス
ケース8 ノゾキとホモセクシャル 45才
ケース9 ノゾキのXXさん 男?才
ケース10 レズビアン 28才位
ケース11 レズの夫婦 20才と40才位
ケース12 夫婦交換(スワップ)
興味深いのは、12本のうちの半数が同性愛と性転換であることだ。2000年に出版された前述の下川耿史著『変態さん!』と比べると、わずか20年ちょっとの間に、変態カテゴリーで語られるジャンルがぐっと増えている。逆に言えば、田原が本書を書いた時点では、変態といえばなにはなくとも同性愛(と、SM)であったのだろう。この時代の同性愛への関心の高さがうかがえるではないか。
同性愛、性転換を扱ったそのどれもが興味深いが、すべてを紹介するわけにもいかないので、個人的に最も面白かった『ケース8 ノゾキとホモセクシャル 45才』を取り上げよう。S氏は、昭和5年生まれの映画俳優。ホモエロ写真の蒐集家でもある。
 で、今度はゲイバーのね、オッカアがいいコいないかしら? って家(うち)へ来たの。この野郎、どうせゲテモノ食いだからと思って、“お前、ちょっといいコがいるんだけど、やるかい?”って聞いたら、“どんなコ?”って聞くから、こうこうって話したら、“いいわっ、いただくわっ”ていうから、よーし、電話でその若い子を呼び出して、この部屋で二人を合わせて、ま、いつものとうり、“俺、ちょっと友達のところへ行って来っから、一時間ばかり留守番してて”って出て行っちゃったわけだよ。
(略)
“どうだった?”って聞いたら、“イヤッ! あのコは!”っていうわけだ。(略)“あのコ、変なことを言ったんだろ?”っていうと、“そうよっ! やってる最中にあんた、オ○ンコ、オ○ンコ、って言ってくれって言うからしょうがねーから、オ○ンコ! オ○ンコって大きな声で言いながらやってたらシラケちゃってあんたっ、伜が縮んじゃったっ!”っていうんだよ。“変な趣味持ってんだねー”って言ってた。そういうホモさんもいたよ。
S氏は、自分が喰った男の子を、友人知人に引き合わせ、自分の部屋まで貸して、その様子を覗くのが趣味だったようだ。このエピソードで面白い点は、今のようにアプリがあるわけでなく、ホモが出会うことが難しかったため、男の子を使いまわしていた点だ。S氏が、その仲介役をやっていたのである。また、部屋も貸すなど、ホモの間には、ある意味、相互扶助的な繋がりがあったのだろう。はたしてS氏が仲介料を取っていたかは不明だが、こうしたシステムは、後に商業化していく。その発展系が、ウリ専になったのではないだろうか?
もう一点。今でこそ、“ケツマンコ”という呼称はポピュラーであるが、これは、同性愛者が自らの内にある女性性や女性化願望を受け入れられたという証左でもあろう。しかし、この時代は、自分の肛門を女性器になぞらえて興奮するというのは「変な趣味」だと考えられていたのだ。いったいいつから、同性愛者は“ケツマンコ”という呼称を使い始めるようになったのだろう? 社会の同性愛の受容の状況と、同性愛者自身の意識の変化と関連づけて研究したいテーマである(笑)。
 それからね、これは中野のある(注/「ある」に傍点)便所。街の中のちょっと人通りが少ない所。今はもうぶっ壊して全部改装しちゃったから、表からションベンしてるのが見えるようになっちゃった。その頃は入り口が曲がってたから外からは全然見えなかったわけ。だからわりにハッテン場だったわけ。大便するところが二つ。金属の扉だったわけ。ドーンッと締まるやつね。夏だったんだよ。ま、二十五、六、七ぐらいの、ちょっと坊主っくりの感じの男がションベンしてたの。丸首のシャツ着て半ズボンはいて。それでね、俺は隣でションベンしながら、ま、見るつもりでね、何気なく見たような顔しながら、ヒュッと見たわけ。そうするとね、白いものが見えるんだよ。六尺フンドシしてんだよ。あらあ、フンドシマニアもいるんだなあ、と思ったの。でも顔はちょっとヤーサマみたいだしね、ヘタにジロジロ見てたり、ヘタに手を出したりして、何すんだ、コノヤロー! なんて言われちゃ嫌だからと思って外に出たの。いつまでも出てこなきゃ、おホモさんだし。そしたら四十五、六のオヤジが入っていったんだよ。それからお客(注/「お客」に傍点)が一人二人続いて入っていったんだけれども、そのオヤジとフンドシは出てこないんだよ。
(略)
ちょうど誰もいなくなった気配だからポンッと入っていったら二人がいないわさ。アラッ、どこへ行ったのか、と思ってフッと見たら一番奥のお便所の扉が閉まっているわけだ。ということは中に入っているわけ。ソーッと扉に聞き耳を立てたら、ハアッ、ハアッ、かすかに聞こえるわけだよ。あっ、やってる、やってる、と思ったの。で、今度は隣に入って、鍵をソーッとかけたわけだ。荷物を置く棚みたいなのがあるわけ。人間一人乗っかってもブッ壊れないような固いやつなの。そこへソーッと乗っかってね、上からスッと覗いたわけだよ。そしたらね、その男を抱いてるわけだよ、オヤジが。そしたらオヤジがヒュッと上見たんだよ。あっ、と首引っ込めたんだけど、見られたかなあ、と思ったの。でも何も言わないし。ま、いいや、と思って又スーッと、気にしながら覗いたの。そしたらオヤジの方がヒョイッと背伸びするみたいにこっちを見たわけよ。パッと引っ込めたけどね、オヤジは笑ってんだよね。何だよ、笑ってるということは、別にいいっていうことかな、又ヒュッと覗いたんだ。そしたらオヤジが今度はこっち来い、って手マネをするわけだ、来いっ、て。
なんとも、コミカルというか、微笑ましいやりとりである。きっと、S氏のしゃべり方も面白かったのだろう。その後、オヤジとフンドシ、S氏、もう一人、アロハシャツの若者が加わって、狭い便所の個室でくんずほぐれつハッテンした様子が、面白おかしく語られている。
とにかくオヤジも俺も粗チン連盟の会長みたいもんだから、今まで万年筆でコチョコチョ、コチョコチョ、遊んでたのが、さあーっ、今度はそれの数倍もあるようなコーラのびんだろうっ、これは面白いわさ。見てたの。アロハ野郎がフンドシ野郎のケツにモノをあてがったと思ったら、ホントに一気だねっ。一気に元までグーッと入れちゃったよ。まあ、悲鳴とも絶叫ともつかない、ノドを押し殺したような声で、ウワーッ! ウワーッ! て言ったもんね。
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『ケース5 ホモのサド・マゾ 50才』は、東京・高円寺にあった、SM好きが集まるスナック『I』のマスターのインタビュー。
『ケース6 ホモセクシャル 31才 裁判中』は、制服フェチの加納良昭(31才)が、当時通っていた定時制高校の連続放火の容疑者として逮捕された「富士校放火事件」に対し、冤罪を申し立てている裁判中のインタビューである。ところが、裁判のことはほとんど触れられておらず、ひたすら、彼の制服フェチについて語られている。
ま、十一時頃取り調べが終わって、留置場に帰されて。で、これは空想の話なんですけどね。留置場に寝てると、正面に、夜中になるともう、くたびれちゃって寝てるんですよ。制服のまま、ね。椅子に腰かけて、死んだように。それを見ながらね、何度センズリかいたかわからないですよね。
と、留置中にもかかわらず、制服姿の刑事を思い浮かべてオナニーするとは、制服フェチの本領発揮。フェチの鑑。見上げたものである(笑)。冗談はさておき、この「富士校放火事件」は、ホモ冤罪事件として、当時、騒がれた事件である。『薔薇族』『MLMWなどでも大々的に取り上げられた。興味深い事件なので、また稿を改めて紹介したいと思う。
と、読みでのあるインタビュー揃いのホモに対して、レズビアンの2本が、あまり面白くないのである。インタビューされた側の問題なのか、インタビューアの問題なのか。残念である。
『ケース10 レズビアン 28才位』は、日本ではじめてのレズビアンの同好会「若草の会」の代表鈴木道子のインタビューである。とても、貴重な資料となるはずであろうが、これがまったく面白くない。おそらく、彼女は何度もメディアに登場しており、しゃべり慣れているからだ。何度もしゃべっている内に内容が整理されて、そつのない、メッセージ性も込めた完成したものになってしまっているからだろう。生の部分、というか、彼女自身が伝わってこない気がするのだ。まったく、残念。
『ケース11 レズの夫婦 20才と40才位』の方が、まだ、面白い。インタビュー場所がスナック『良志久』という店で、東郷健の店らしく、東郷もインタビューに加わっていたせいもあるのかも知れない。ふたりのなれそめは勿論、セックスの好みの違いや、生活スタイルなどが赤裸に語られている。ふたりのパーソナリティが垣間見えるのが面白い点である。
「ドキュメント」といっても、傲岸、独善的な田原総一郎のインタビューだ(笑)。彼の目を通した同性愛、性転換の姿でしかないことは言うまでもない。それでも、端々に、当時の同性愛者、性転換者の“本当”の姿が見え、“生”の声が聞こえてくる、面白い本である。
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田原総一郎著『ドキュメント 第三の性』(エフプロ出版/1977年 発行)
さて、ミッツ・マングローブをトークゲストに迎え、大好評だった第1回「あの日見たマーガレットという花を僕達はまだ知らない。(略して、あのはな)』。その第2回目が、8月31日(月)に開催される。今回のテーマは、ハッテン場。トークゲストは、本コラムの第54回『二丁目の成り立ちから、淫乱旅館の発生と進化まで。』でご紹介させていただいた、社会学者の石田仁氏。淫乱旅館と呼ばれたかつてのハッテン場の発生の過程から、ゲイビジネスとして成立していく過程まで。ホモの出会いの場所であり、偉大な文化であるハッテン場の面白いエピソードを交えたトークショウ。ハッテン場に行く人、行かない人。好きな人、嫌いな人も。どうぞ!
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あの日見たマーガレットという花を僕達はまだ知らない。(略して、あのはな)』 日時/2015年8月31日(月)19:00〜24:00、会場/新宿二丁目「ArcH」、料金/2000円/1ドリンク付き。詳細は、http://aliving.net/schedule_detail.php?date=2015-08-31で。

 

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