第48号 「老後の新聞」、連載1周年によせて

 

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 ●中年ゲイの私が、安心して読める記事
この「老後の新聞」連載が、1年を迎えました。みなさまのご愛読に、心から御礼申し上げます。

老後の新聞はこの1年、3つの“紙面”でお届けしました。

法的保証がない同性カップルの、万一時に備える書面やライフプランの知識を伝える、「“もしも”に備える 同性カップル編」。
われわれ性的マイノリティの高齢期や人生をめぐる話題を追いかける「ボクの老後はどこにある?」。
そしていま、中年真っ只中を生きる(私もその一人)、有名・無名の生活者セクマイの、いわばそれからのライフヒストリーを綴るインタビューシリーズ、「90年代世代の同窓会」。

1年たつと47号、第0号を含めて48本。けっこう書いてきましたねえ。自分で褒めてあげたい(笑。もっとも先輩ライター諸氏は、もっと長く続けてますけど)。

私が記事執筆で心がけたのは、連載0号にも書いたことですが、

 ・「進んだ」海外ではなく、私たちはこの日本で生きている
・日本で、老後にかかわる法律や社会制度はどうなってるのか
・そのなかで現実に私たちはなにができるのか
・それは実際、(怠惰でお金もない)私にもできることか

一言でいえば、等身大の暮らしにこだわった—-ということでしょうか。この1年の2CHOPOの流行語(?)をもじれば、「シャイニー」ではない、ステキでもおしゃれでもない中年ゲイの私が、自分のこととして安心して読め、そして一つか二つは、性的マイノリティとして生きていくうえで役に立つ情報や視点を盛り込めたか、です。

これはあなたの手帖です
いろいろのことが 書きつけてある
この中の どれか 一つ二つは
すぐ今日 あなたの暮しに役立ち
せめて どれか もう一つ二つは
すぐには役に立たないように見えても
やがて こころの底ふかく沈んで
いつか あなたの暮し方を変えてしまう
そんなふうな
これは あなたの暮しの手帖です

ご存じでしょうか? 花森安治という編集者が、みずから取材・執筆・編集し、おまけに写真や挿絵もみずから撮り、描いて装丁した、「暮しの手帖」という雑誌に毎号かかげられたメッセージです。

そのなかの、どれか一つ二つは、今日、あなたの暮しに役立ち、もう一つ二つは、いつかあなたの暮し方を変えてしまう、私はそんな記事が書けたでしょうか。
そしてこの連載は、あなたの“暮しの手帖”となることができたでしょうか。
私たちが性的マイノリティであることは、けっして夜の遊びや思春期の一時的なものではなく、私たちの長い人生を通じて続く「暮し」そのものなのですから……。

 ●自分たちの足で立つための知識
ところで、昨年9月からきょうまでを振り返ってみて、日本の性的マイノリティにかかわる動きとして、やはり特筆すべきは、渋谷区の同性パートナーシップ証明制度でしょうか。私自身、2015年のいま、こうした動きが日本で登場するとは正直、予想していませんでした。それにもまして、この動きを追うメディアや社会のがわの反応の大きさというか激しさに、驚きました。
その後、世田谷区でも宣誓方式による同性カップルへの区長による公認制度がスタートすることが発表されました。他の自治体でも、同性カップル公認を検討したいという意向がある旨、報道されています。

これらのニュースをきっかけに、そこここで“LGBT”という言葉が目につくようになり、同性パートナー・同性婚、そして企業におけるLGBTダイバーシティーに、メディアの注目が集まっているようです。

同性パートナーシップ証明の仕組みや法的な意味については、この連載でも何度か取り上げ、私なりに解説してみました。
国の法制度がまだ変わっていないなか、こうした自治体の文書は、残念ながら法的効果のない、あくまで形式的なものにすぎません。ただ、行政が同性カップルの存在を正視し、公認することは、日本社会で大きな影響力をもつことは論を待ちません。
これを国レベルで同性カップルにかかわる法制化へ進め、効力を確実なものにするためには、いよいよ当事者の姿と声を明らかにしての努力が必要でしょう。

とはいえ、一気には進まない法制化の一方で、二人のあいだの意思表示や契約で実質的なパートナーシップを形成することへの理解も大切です。
二人の暮らしの安心を守り、もしもに備えるために、基本的な法的考え方や書面の知識をぜひ身につけてください。みなさん、その点は「賢く」なってください。
必要な書面の作成や、いまできる対策を検討してください。パートナーが亡くなったとき相続ができません、とネットのまえで嘆くより、まず遺言を書いてください(自筆なら自分で無料で書けます)。事故時も連絡が来るよう、せめて緊急連絡先カードを交換してください。
いつまでも福祉番組好みの、援助が必要な「かわいそうな人たち」でいるのは、やめませんか。
自分たちの足で立つための知識を、この1年、書き続けてきたつもりです。一つでも二つでも役に立てば、ライターとして、また法律の専門家である行政書士として、これに過ぎる喜びはありません。

 ●シングルと低所得、「老後」とはそれが問われる場
もうひとつ、この「老後の新聞」は、同性パートナーシップの法的保証とともに、一方で「シングル」の問題にも着目してきたつもりです。世上の「LGBTマーケット」の話題をよそに、中下層の収入でのサバイバルに、関心を寄せてもきました。
シングルと低所得—-「老後」とはまさにそれらが如実に問われる現場でしょう。そこにセクマイ全体に多いと言われるやメンタル不調、ゲイに多いHIV陽性、トランスの人の性別変更にかかわる課題なども重なってきます。

いま、高齢社会や高齢者の独居問題は、行政でも見守りその他に取り組んでいます。社会でも、さまざまな動きが生じています。
高齢期を安心して送るには、行政その他の機関にきちんと相談したり、社会の動きにかんする良質な情報をキャッチしておくことが大事だと思います。同時に、社会に流布する情報があくまでヘテロ仕様の現状で、これを自分たちの状況にあてはめて、どう活用すればいいのかわからないこともあるかもしれません。
「老後の新聞」には、そうした世の中の高齢期をめぐる情報を、セクマイバージョンに翻訳してお伝えする役目もあろうかと思っています。

連載2年目—-
シングルの問題や、中下層の所得水準でどうサバイブするかのライフプラン情報、高齢社会・単身社会でのさまざまな動きにもさらに目配りし、今後も執筆を続けます。当事者がわのアクションも、組織的であれ個人であれ、さまざまに起こっています。仲間の動きもぜひ、伝えていきます。
そしてプロのライターの末席にいるものとして、思い込みの作文や、ネット記事にありがちな著作権無視の盗用を排し、取材やデータの行き届いた、信頼される記事を目指してまいります。
みなさまのご愛読、そして今後とも拡散などでの応援、またできればご感想メールなどをいただければさいわいです。

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