第75回 私は、“隠れホモ”になりたい(笑)。ゲイ関連語を4000語も集めた、いけだまこと編著『ゲイ性愛辞典 ─ もうひとつの文化を知るバイブル』。

 

私は、“隠れホモ”になりたい。残された人生で叶えたい夢のひとつなのである。しかし、それは叶わぬ夢だ。ひとたびアウトしてしまうと、もはや“隠れホモ”にはなれない。カミングアウトとは、不可逆性の「名のり」なのである。
私のカミングアウトは、いまから35年ほど前。母親に対してしたのだが、彼女がそれを受け入れ、私をホモだと受け入れてくれるようになるまでに、なんと10年かかった。長い道のりであった。もっとも、学校の友人知人や職場の仲間には、こちらから名のりを挙げるまでもなくバレバレであったのだけれど(笑)。
いまさら“隠れホモ”になることが出来ないのなら、せめても、こんな風な受け答えが出来るジジイになりたい。
「ええ、えぇ。若い頃はね、そりゃ、ホモもやりましたよ。ま、たしなみ程度ですがね。いまは、もっぱらそば打ちが趣味で……趣味が高じて、店出しちゃったんですがね……今度、『人生の楽園』で紹介されるんですよ(笑)」
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テレビ朝日『人生の楽園』ホームページより。
……と、こんなことを書くと、セクシュアリティは趣味ではない! 自分で選ぶことの出来ない性的志向なのだ!! とかなんとか、いきり立って反論してくる若者もいるだろう。その気持ちも分からないではないが、この歳になって、セックスへの関心や欲求が弱まってくると、ホモかどうかなんて、そんな大した問題には感じられなくなるのである。ましてや、なにからなにまでをセクシュアリティに照らして考え、行動するなんてこともなくなる。どーでもよくなるのだ。
そりゃ、そうだ。長く生きると、セクシュアリティだけではなく、もっと複合的で重層的なアイデンティティを築けるようになるからだ。ホモであることが、“私”の一部でしか無くなる。しかも、私を支えるバイタルエナジーのようなものが残りわずかになってくると、それをセックスにふり向けるのか、仕事にふり向けるのか、それ以外のなにかに向けるのか……が、重要な選択になってくる。セックスやセクシュアリティが全人格的なものではなくなる。むしろ、選択肢の一つでしかなくなる。あたかも、趣味的ななにかに過ぎない。そば打ちか、石窯でピザか、手びねりで陶芸か、農業をはじめて自給自足生活も良いな……その程度の選択の問題になっていくのだ。ちょっぴり寂しい気もするが、事実だ。あぁ、余生は、ひっそりと“隠れホモ”として生きていきたい(笑)。
昨今、「隠れホモはLGBTにあらず」という某氏の言説が論議を呼んでいる。心情的には某氏に共感は出来る。私の時代は、“LGBT”なんて小洒落た呼び方ではなく、“GAY”という呼び方であったが。セクシュアリティなんぞ、どーでもいいことが、どーでもよいものと扱われるような社会。男であろうが、女であろうが、それ以外であろうが、その選択が、趣味の選択ぐらいの意味しか持たなくなる社会。そんなどーでもいい社会を実現するために、どーでもよくないことをしなくてはならないのだ。カミングアウトとか(笑)。ホモだなんて名のらなくていい社会を実現するために、わざわざ「名のり」を上げて戦わなくてはいけない。この矛盾こそが、同性愛者がおかれている現状なのだ。
皆、ありのままの“私”で生きていきたいのである。しかし、社会は、同性愛者であるにもかかわらず、勝手に異性愛者だと考える。異性愛者として生きることを強制する。勝手に「名づけ」られてしまうのである。それに異を唱えるには、私はホモです、と「名のり」を上げなくてはいけなくなる。名のったら、名のったで、面倒なことが起こる……。ああ、ホント、どーでもいい(笑)。
“ホモ”も、“隠れホモ”も、“GAY”も、“LGBT”も、なんと「名づけ」ようと、実体はあまり変わらない。みんな、チンコ咥えて、ケツの穴を拡げている(笑)。それなのに、その「名づけ」の違いは、ようするに、どう生きるか、が問われているからである。それは、生き方のスタイルの問題だ。それをふまえて考えるに、言っていることは間違っていないのに某氏の発言が炎上したのは、他人様の生き方を、大上段に振りかぶって指図したからだ。そこに、心理的な抵抗があったのだろう。そりゃ、そうだ。“ホモ”だろうが、“隠れホモ”だろうが、“GAY”だろうが。皆、それぞれが置かれた人生を必死で生きているのだ。それを、「エンカレッジ」しますよ、なんて厚かましいにもほどがある。お前、どれほどのモンじゃい! と反感を買ってもしょうがあるまい(笑) 。
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某氏の失敗は、その言葉の選び方にあったのではないかと考える。同じことを伝えるにも、言い方がある。相手の心に伝わらなければ、意味がない。さて、ということで、今回は「名づけ」をテーマに、本を選んでみた。言葉にまつわる本だ。しかも、同性愛関連の言葉ばかりを集めた辞典なのである。いけだまこと編著『ゲイ性愛辞典 ─ もうひとつの文化を知るバイブル』。
1 この辞典は、昭和30年代から50年代までの資料を中心に、昭和20年代以前のものや昭和60年代以降(平成26年3月まで)のものも適宜対象とし、ゲイ性愛に関すると思われる約4,000語を収録した。
2 ゲイに固有の用語に加え、一般的あるいは学術的な性愛関連の用語も編集氏の恣意的な判断により幅広く収録した。俗語はもちろん、死語、古語、新語、流行語、老人語、若者語、外来語、外国語、方言なども、いわゆる普通の現代語と区別することなく収録した。
(いけだまこと編著『ゲイ性愛辞典 ─ もうひとつの文化を知るバイブル』の『凡例』より)
ゲイ用語が、4000語である! これは、すごい。伊藤文学は、「一万点を超える文献を読み、完成までに十年の歳月をかけた、日本に、いや、世界に類を見ない、労作」(いけだまこと編著『ゲイ性愛辞典 ─ もうひとつの文化を知るバイブル』に収録の、伊藤文学著『ゲイ文化を知る最高のバイブル』より)と賛辞を送っている。
収録されているのは……
かつま【括魔】魔羅を刮(こす)る(扱(しご)く)こと。⇒魔括(まかつ)。
 例◆ペニスはますます加わる括魔で、本能の極点に達していた(「薔薇 26」22P)。
かわつるみ【皮交尾・厠交尾み】①手淫の異称、②(厠(かわや)→屎(くそ)まること→尻(しり)の連想)男色。
 例①◆かはつるみ、今の手弄なり(「隠語辞典集成 21」31P)。
 例②◆「宇治拾遺物語」の法師の談中に「かはつるみはいつばかりにて候ひしぞ」とある(「隠語辞典集成 21」31P)。
けらくび【蛄首・螻蛄首】槍の穂先と柄が接する部分・亀頭と陰茎の間の括(くび)れた部分・亀頭。
 例◆短穂ははねて、ケラ首がふくれて、青春の雪片が吹き飛んだ(「さぶ増刊号 5」67P)。
といった、いまでは使われなくなった言葉も多数収録。これは、過去の文献を読むときに、非常に役に立つ。
デアアイゲネ【Der Eigene】1896年にドイツで発行された世界最初の同性愛者向けの紙媒体
 例◆最初の同性愛者の新聞『デア・アイゲネ』[《特異なもの》]の創刊者であったアドルフ・ブラントもやはり委員会(ヒルシュフェルトが創設した人道主義科学委員会のこと・編集子注)と訣別した(「ガニュメデスの誘惑」87P)。
ディッシュクイーン【dish-queen】悪意の噂を吹聴するオネェのゲイ。
 例◆dish queen(中略)うわさ話をまきちらす男の同性愛者(「アメリカ俗語辞典」116P)。
なんて、耳慣れない固有名や、外国語、外来語も多く、勉強になる。
べったらおねえ【粘ら御姐】好みの男に対してなよなよと粘り付くような態度のおねえ。
 例◆(職場の同僚に女好きのふりをしなければならないゲイにマスターが・編集子注)あんたみたいなベッタラオネエが大変ねえ(「ゲイという経験」117P)
みとりせん【看取専】最期を看取るような老人を専ら性愛の対象にすること・人。
 例◆「看取専ってフケ専の鑑ね」「遺産目当てって陰口をたたく人も…」(上野のゲイバーにて)。
なにより、この辞典の白眉は、俗語や話し言葉の豊富さである。雑誌や書籍を調べただけでは足りず、ゲイバーで耳にした言葉までも拾い上げた筆者の努力には頭が下がる。圧巻なのは、陰茎の類語が4ページにわたって紹介されているところ。ちなみに、ゲイの類語も、4ページ弱、紹介されているのだ!
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これ、すべて陰茎の類語!
なんといっても、豊富な例文が引用されているのが、この辞典の大きな魅力だ。例文だけを拾い上げて読むだけでも、十分に面白い。これは、辞典であると同時に、読み物としても価値がある。
一方、辞典としての精度はと問われれば、正直、首をかしげざる所も多い。表記についての問題点もある。だが、それを理由に著者を責めるのは筋違いというものだ。いけだまこと氏は十分すぎるほどの偉業を成し遂げたと思うからだ。この辞典をより充実したものにしていく作業は、これからの私たちに課せられた課題である。もっとも、飽きっぽい私には、到底、出来るな所業ではないのだが。
 この辞典には、ゲイ性愛にかかる種々雑多な名称や呼称が集まったといえるかもしれない。それは、異称や別称や改称のたぐいであり、また、俗称や蔑称や愛称のそれである。素性のよくない言葉もあれば、思わず襟をただす由緒正しい詞もある。
 隠語や洒落やは表現を多様にする修辞であるが、もとよりその実体の豊かさがもとになる。さいわい、ゲイ性愛の世界が位相語の土壌として申し分ない内実を備えていることは、この気まぐれな一冊を一瞥していただくだけで明らかであろう。
と、いけだまこと氏は『あとがきにかえて』で書いている。私は、この一文が好きである。私たちの文化を、あれもこれも、下品なものも、ゲスなものも、いかがわしいものも、あまさず掬い上げようという筆者の愛情を感じるからである。切り捨てるのではなく、拾い上げる。エンカレッジしてやろうなんて思い上がりは、まったく無い。ちなみに、この辞典には“LGBT”という語は、次の様に紹介されている。
エルジービーティー【LGBT】Lesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイセクシュアル)、Transgender(トランスジェンダー)を総称する略語。
 例◆LGBTは、男女の同性愛、両性愛、性同一障害などを包含する言葉とされる。
これに、「隠れホモではない」と書き加えられないことを、心から願う(笑)。
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いけだまこと編著『ゲイ性愛辞典 ─ もうひとつの文化を知るバイブル』(一粒書房/2014年 発行/2000円(別)/ISBN978-4-86431-288-2)
さて、いよいよ、9月6日(日)に『第2回 全日本アナル選手権 ─ グランドスラム THE アナル』が開催される! なんじゃ? と思われる方も多いだろうが、「アナル選手権」については『第24回 「全日本アナル選手権」レポートと、肛門期への固着。』をご参照いただきたい。
私は毎回、審査員として出演している。年に一度の、楽しみである。唯一、残念なのは、ホモの参加者がいないことだ。いつも、ノンケM男たちのアナル自慢大会になってしまうのだ。しかも、ノンケのアナルマニアは、この程度のもんかい! と、腹立たしくなる。やはり、アナルはホモの牙城である。まだ、エントリーを受けつけている。我こそはと思うホモアナラーの皆さん、ぜひ、ご参加願いたい(笑)。
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『第2回 全日本アナル選手権 ─ グランドスラム THE アナル』 日時/平成27年9月6日(日)13:30〜、会場/新宿「シアターPOO」、料金/エントリー料 ♂3000円・♀1000円、見物料 ♂5000円・♀2000円。エントリー料・参加料とも、1ドリンク付き。申し込み・詳細は、松本格子戸(まつもとこうしど)まで。電話/090-3658-2945。メール/angra-love@ezweb.ne.jp

 

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