第76回 一度あげた看板は、なかなか下ろせない。オネエタレント元祖の一人、ピーターを紹介する『女性セブン』1969年4月23日号。

 

相も変わらず、テレビにはオネエタレントたちがひしめいている。キレイなのもいれば、汚いのもいる。面白いのもいれば、面白くないのもいる。頭の良いのもいれば、バカなのもいる。百花繚乱である。それでも、これだけの需要があるのだから、オネエタレントとは凄い存在である。
かくいう私も、かつて、テレビ朝日系列の深夜番組でレギュラーをやっていたことがある。当時は、私のようなキャラクターは、深夜枠にしか出られなかったのである。時代は変わったものだ。さらに、スッピン(!)で、NHK-BSのレギュラー出演の話がやってきた。その番組は、セクシュアルマイノリティに焦点を当てた番組として企画されたものであった。しかし、その第1回目が放送されるや、たちまち打ち切りとなってしまった。斯様な番組は「国民的なコンセンサスが得られていない」というのが局長が発表した理由であった。これをきっかけに、プロデューサーだった人が更迭された。オカマがオカマとしてテレビに出ることは、人の一生を左右してしまうほどの事件だった時代なのである。私は、テレビはもう、こりごりだ。

Akira Shimada『同性愛とテレビジョン・NHK放送中止事件の真相』より。
この一件から、私は、NHK受信料の支払い拒否を始めた。オカマが国民の一部であることを無視するテレビ局など、支持する必要など無いのだから。しばらくすると、受信料の取り立てが来た。私は、支払い拒否の意図を説明。自分たちの存在を否定するテレビ局に、なぜ、受信料を支払わなければいけないのか?、と。そしたら、取り立て人、「それでは、これまでの滞納分は結構です。これからはお支払いをお願いします」だって。その頃には、NHK本体でセクシュアルマイノリティをテーマにした番組も作られるようになっていたので、ま、いっか、と思った次第である。その番組自体は、画期的であったが、あまり面白いとは思わなかったけれど(笑)。
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そんな因縁深いテレビとオネエの関係であるが、オネエタレントの草分け的存在は、ゲイバー「青江」のママであり、同じくゲイバー「吉野」の吉野ママであったはずだ。60〜70年代のテレビ界にもオネエタレントは活躍していたのだ。現在も活躍中の、美輪明宏(丸山明宏)、カルーセル麻紀、ピーターらも、当時のブラウン管(液晶ではない)を賑わすスターであった。
今回紹介するのは、1969年4月23日号の『女性セブン』。主演映画『薔薇の葬列』公開を控え、まさに売り出さんとする、ピーターが、モノクログラビアを4ページも使って紹介されている。
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「女っぽい唇と、すんなりした足がいちばんのご自慢 ── 身長165センチ 体重45キロ」とスペックが書かれている。(『女性セブン』1969年4月23日号より)
タイトルは、『処女(注/「おとめ」とルビ)でありたいと願う少年』である。なんとも、詩的な情感あふれるタイトルではないか! 「処女」と「少年」を並記し、しかも、ご丁寧にも「おとめ」とふりがなまでつけてしまう、念の入りよう。タイトルリード文は……
“いまいちばん若く、美しいゲイボーイ”と深夜の六本木で評判の16歳の少年、ピーター ── その華麗なる“おんな(注/「おんな」に傍点)の粧い”
こんな短いタイトルまわりだけで、「ゲイボーイ」1回、「少年」2回、「おんな」「処女」が各1回で合計2回と、まだるっこしい言いまわしだ。何と呼べばいいのか? 突如現れた新種のタレントへの呼称に悩むライターの姿が目に浮かぶ。今ならさしずめ、「美貌のオネエ」、たった6文字で説明出来てしまうだろうに(笑)。
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「2DK、家賃2万9千円のマンション(東京広尾)に同じ店のゲイボーイと2人住まい。」だそうだ。(『女性セブン』1969年4月23日号より)
次ページには、直撃インタビューが掲載。これが、なかなか、素晴らしい。
Qあなたは男?それとも女?
A話し方や容姿は女。でも精神的には男なのよ。中性かしら。
Qどうしてそんなに女っぽいの?
A小さいころ父と母が離婚しちゃって、母や姉に育てられ、まわりが女ばかりだったせいかしら。
Q前は、何をしていたの?
A中学を卒業してから1年間、銀座でゴーゴーボーイをしてたの。お化粧しはじめたのは、今のゲイバーに移った5か月前からよ。
(略)
Q下着は、どんなのつけてるの?
Aガードルと女もののビキニのパンティー。みんな白よ。
Q初めてキスしたのは?
A12歳のとき。級長の男の子と。その人が、きっと初恋のひとね。
Q恋人はいるの?
Aいま募集中。もちろん女じゃなくステキな男性。私、面食いなの。
Q初体験は?
Aまだバージン(注/「バージン」に傍点)よ、16だもの。これからも大切にしたいわ。
Q結婚はするつもり?
A5年位したら普通に女の子としたいわ。世間体だけのことで、夫婦間のセックスは全然なしが理想。だからお互いに浮気は自由、私は男の子とよ。それでもいいという女の子いるかしら。
世間体のために結婚したいって、こんなとこで言っちゃ、バレバレじゃんね。何のための世間体なんだか(笑)。それでも、自身のセクシュアリティが男性に向かっていることを、明確に口にしている点が、素晴らしい。さらに、化粧し始める前に、つまり、男の姿でゴーゴーボーイをしていたという発言も注目に値する。男の格好で、男のままで、商品価値が認められていたということだからだ。それは、そのまま同性愛の世界の存在を肯定することだからだ。
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現在のピーター/池畑慎之介。オフィシャルブログ『ViVA プラチナ人生!』より。
ピーターには、もうひとつ、名前がある。池畑慎之介、である。男の格好をしていようが、女の格好をしていようが、役者として活動するときは、池畑慎之介なのだそうだ。分かりやすくいえば、女装のときはピーターで、それ以外なら池畑慎之介ということか。非常に分かりやすい! テレビ界を中心に活動を続けてきたピーターは、その鮮烈な“中性”的な印象が人気を獲得するのに役立ってきたのだろうが、逆にそのイメージを求められすぎて、役者などの活動が制限される不自由さもあったのかもしれない。普段、女装している人間には、男のキャラクターの配役は回ってこないだろうから。’85年頃から、名前を使い分けるようにしたという。浮き沈み。流行廃りの激しい業界で、彼はいまも活躍を続けている。一度挙げた看板は、なかなか下ろせないからだ。ピーターは、名前を変えることで、それをうまく使い分けた。セルフブランディングの成功例といえるだろう。
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「お化粧には1時間かけ、ポイントは目に。1日でいちばん心はずむとき。」(『女性セブン』1969年4月23日号より)
さて、話は飛ぶが、「勝手にオネエと決めつけられた」と抗議の声を上げたタレントがいる。最近、ちょっとした話題になった。彼女の主張を読むに、正しい! 正論だ! と思う……のだが、どこか腑に落ちない点もあった。なんか、最初っから喧嘩腰なんだよね。事前確認を怠ったテレビ局の不手際を責めるのなら、それもいい。それでも、かつては、自ら「オカマ」を名のって著書をものし、しかも、東大出。テレビ、食いつくはずじゃん。そうした経緯でタレント活動を始めたはずだ。それを今さら、なんで? という疑問がある。彼女ほどの頭のいい人なら、テレビがどんなところか分かっていただろうに。
そもそも、ミッツ・マングローブが言うように「オネエ」とは、テレビ業界用語だ。性別や、容姿(男装か女装か)、チンコの有無などに関係なく、“そこら辺界隈”のタレントをひとまとめにした呼称だと考えるのが、最も合理的だ。視聴者に誤解を与えるといったって、視聴者だってバカじゃない。クリス松村とはるな愛が、まったく同じ属性の人間だと考える人もいないだろう。かたやオッサン、かたや美女だ(笑)。「いろんな人がいるなぁ。“そこら辺界隈”の人をなんて呼べば良いんだろう」と薄ぼんやり思っていたに違いない。そこに、テレビらしいキャッチーな呼称として登場したのが「オネエ」だ。ゲイだの、ニューハーフだの、トランスジェンダーだの、トランセクシャルだの、オカマだの……そういった個々の属性を包括する上位概念であったと考えた方がいい。テレビで活動する(お金を稼ぐ)ということは、そうしたからくりとうまく付き合うことだと思う。私には出来なかったが(笑)。
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「ホステス?をつとめる店、六本木のドンファンで。」(『女性セブン』1969年4月23日号より)
もちろん、すでに“女”である彼女が、勝手にそこに入れられてしまう不快感は、当然だと思う。でもなぁ、一度、看板を挙げてしまうと、そのイメージはつきまとう。看板を下ろしたって、世間はそうそう考えを変えてくれない。ピーターも、一度挙げた看板に悩まされてきたはずだ。池畑慎之介名義を併用するようになるまでに、15年近くかかっているのだ。そもそも、アンタがチンコを取ろうが取るまいが、世間はそんなにアンタのことに関心があるわけではないのだ。自意識過剰すぎないか?(笑) 異議を申し立てるなとは言わない。でも、喧嘩腰は、大人げないぞ、と思う。いや、まさか、炎上商法でも仕掛けたのか? と、ゲスな勘ぐりもしてしまう。頭の良い彼女のことだから、勝ち札を握って、打って出た喧嘩なのかもな(笑)。
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『女性セブン』1969年4月23日号(小学館/1969年 発行/定価80円)
脱線してしまった。恐縮。おかげで、この『女性セブン』に載っていた、もうひとつの興味深い記事について紹介することが出来なくなってしまった。それは、『人間ドラマ 混血、前科10犯、詩人、上野の森の“マリ”倒錯の青春』という記事である。勘の良い人なら、「上野の森」とあるだけで、オカマ絡みだと察してもらえたことと思う。さらに、混血、前科10犯、詩人とくれば、興味が湧くだろう。マリとは、はたして何者か? それは、次回のお楽しみ!
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あの日見たマーガレットという花を僕達はまだ知らない。(略して、あのはな)』 日時/2015年9月30日(月)19:00〜24:00、会場/新宿二丁目「ArcH」、料金/2000円/1ドリンク付き。詳細は、http://aliving.net/schedule_detail.php?date=2015-09-30で。
おかげさまで大好評のトークイベント『あの日見たマーガレットという花を僕達はまだ知らない(略して、あのはな)』だが、次回は、9月30日(水)開催。ゲストには、サムソン高橋氏と熊田プウ助氏をお招きする。テレビ『クレージージャーニーハッテンバ特集で物議を醸したサムソン高橋氏なので、渦中の人を吊し上げようと企んでいた……のだが、ネット上では「意外とちゃんとしていた」「思いの外、ブスじゃない」という評価があふれた。いかん! これでは、集客に影響が出る。なんとか炎上商法でも仕掛け、お客さんを呼び込みたいところだ。北丸U二氏と殴り合いをさせるか、アタシと公開セックスをするとツイッターにつぶやこうかな(笑)。ということで、お出でをお待ちしている。

 

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