ボーダーライン 第2話

女同士のSEXなんてAVでなんとなく観た位のアタシにとって
ソレはあくまで曖昧で現実味のないものでしかなかった。

2日後、アタシは契約している画廊へ行った足で彼女のオフィスを探した。
会話の中で聞いた会社の所在地。会社の名前は解らなかったけど、
彼女の会社だってことは、もしかして会社名に名字がついてるかもしれない…。
この十字路の先に…あ…「矢井田建設」。きっとここだ。

ドキドキしながら携帯を鳴らす。
ガラス張りのオフィスには一目で解る高そうな家具が並んでいる。
10コール以内に切ろう、1、2、3、4、…あきらめかけた瞬間に電話がつながった。
「もしもし? 香です。覚えてますか?」
「覚えてるわよ。 元気?」
会えるかな… 会いたいな… いきなり過ぎたかな…そんな気分が交錯する。
「実は今、たぶんマユさんの会社の目の前に居るんです」
「え? 本当に?」驚く彼女。答え合わせは正解だった。

「あと少しで仕事が片付くから、よかったら食事でもしない?」
オフィスのはす向かいにあるイタリア料理屋で彼女と落ち合うことになった。
ウェイターに赤ワインを注文して、携帯を見る。
ナミから着信があったのでかけ直した。
「用事があって香の家の近くに来たんだけどさ、お茶しようよ。」とナミ。
「ごめん、今日は予定があるんだ。」
「ふーん、デート??」
「まあね。」
「あのさ、香。マユさんには気を付けた方がいいよ?」ドキっとした。
「え、なんで?」
「まあ、なんでも、だよ…」ヤキモチな空気。
「大丈夫だよ、アタシ、ノンケだから。」
何となく気まずいナミとの電話をやり過ごした後、ワインを煽ってメイクを直した。

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アタシは彼女に気に入られたいと思ってる。
それは寝たいと想った男の子に感じる感覚に近いようで遠い感覚。

3本目のタバコを吸い終わった頃、店のドアが開いた。
「ごめんね、待たせて。」果たして彼女は爽やかに現れた。
この凛とした瞳が好きなのかもなあ、とぼんやりしてしまう。

これって恋?

アタシの絵に彼女を描いてみたいと想った。
一見冷たそうなのに笑うと子供のように無邪気に動く切れ長の瞳。
理想的に美しい顎から首のライン。
運ばれてきたピザやパスタをものすごくおいしそうに食べる唇。
ワインを2本空け、気づけば閉店までおしゃべり。
アタシが好きな画家フリーダ・カーロを、彼女も好きだと言う。
他にも共通点がいくつもあった。
海が好きなこと、行きたい国はパリで、
どんなに好きでも恋人には束縛されたくないタイプとか。

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まだ一緒に居たかった。でも彼女には大切な人が待つ場所があるのだ。
「女の子相手にさんざんバカなこともしてきたけど私、
レイ子さんに出会って変わったの。」ほろ酔いの彼女は続ける。
「昔はけっこう荒れてたんだよ?私も若かったし、男しかいない業界だからガチでケンカもしたしね。その頃は手当たりしだい女の子に手を出して、修羅場とかね。(笑)」
レイ子さんて言うのか…ジョーク交じりの会話さえ危うく乗れなくなりそうだった。
アタシの中がキシキシひび割れてく。
そんな気分に蓋をするように
「マユさんはモテるってわかりますよ。
でもいいな、今はレイ子さんが居て。今度紹介して下さいねー。」と、無理に笑ってみるしかなかった。

会計を済ませて店を出る。
「そうだ、明日からダリの展示が始まるんです。よかったら一緒に行きませんか?」
財布に入れていた招待券を取り出す。
「ダリか、最近観てないなあ。ありがとう。香ちゃんから誘ってもらえるなんて嬉しい。」
にっこりした彼女の顔に、ドキっとしてしまう。

タクシーで送ると言われたけれど断った。好きです、と告白しそうな自分が居たから。

アタシは酔ってるんだろうか。
第一、告白して次にすることは?
不意打ちのキス?したとして、その先は…?
…ダメだ。
好きとSEXが直結でしかないアタシは想像しただけで、深みにはまるのだった。

歩きだした先はJの部屋だった。
レイ子さんか… 会いたいわけがない。
きっと会っても仲良くはなれない。
たぶん彼女はアタシが嫌いで、アタシは彼女が嫌いだから。

SEXがしたい。うんとイヤらしいこと。真面目に淫乱なこと。
彼女のせいで揺れるこの衝動ごと晴らしたい。

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