第51号 国勢調査と同性カップル、疑問に声をあげた人びと

 ●同性カップル世帯は国勢調査でどう扱われる?

今週10月1日は、5年に一度行なわれる日本列島全住民アンケート、「国勢調査」の基準日ですね。今回はインターネット回答の導入が話題で、各地でなにかと混乱も生じているようですが、国勢調査とわれわれ性的マイノリティをめぐっては、いろいろ問題点が指摘されるようになりました。

 ・性別回答には、自分の自認性で答えていいのか。それで問い合わせがきたり怒られたりしないのか。
・同性カップル世帯ではどうするのか。

などなど……。

それらのご心配についてはさっそく、2CHOPOでもまきむぅ姐さんが記事にして、逐一ていねいにご指南くださっています。ぜひご参照のうえ、すでにネット回答したかたは訂正するとか、これから紙回答する人もご自身の思うところを回答し、少しでも私たちの存在が国勢調査にも反映されるようにしてみてはいかがでしょうか。守秘義務その他の心配についても、牧村さんが解説してくれています。

ということで、国勢調査の答え方については、すでに書かれてしまったので(苦笑)、古いことを覚えていてよくしゃべる「ゲイコミュニティの稗田阿礼(ひえだのあれ)」の私としては、国勢調査をめぐる昔話を申し上げたいと思います。

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国勢調査の調査票、届いてますか?(ネット回答しなかった場合)
 ●国勢調査の問題点に気づいた2人の政治家

国勢調査は、住民票などの届け出に関係なく、10月1日現在、その世帯に、すでに3か月以上住んでいる人(まだ3か月にならないが、3か月以上にわたって住むことになっている人も)を調べます。
まず世帯員数とその性別、住居の種類を答え、ついで名前とその人ごとの性別を答えます(この性別は、自認性でもOKと、牧村情報)。

つづいて世帯員のうち一人を「世帯主又は代表者」とし、他の世帯員について、その世帯主からみた続き柄を記入します。
そのとき同性カップルで暮らす場合、世帯員全員の性別がおなじで、一方を世帯主、もう一方を世帯主の配偶者と回答した場合、どうなるのか?

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2010年の国勢調査のときに、そのことに気づいたのは、世田谷区議会議員の上川あやさんでした。
区の担当課を通じて所轄省庁(総務省統計局)へ問い合わせたところ、同性による「世帯主の配偶者」という回答は「誤記」とされ、集計時はその人は「その他」として処理されるとの回答が来た、と上川さんはツイッターで明らかにしました。
つまり、同性カップルの当事者にとって、自分たちは男女の配偶者(この配偶者は届出の有無に関係なく、「事実婚」も含まれます)となんら変わらないという意識であっても、統計処理の段階でその回答は「誤記」とされ、「その他」すなわちタダの同居人の扱いにされるわけです。
総務省のコンピュータまでたどり着けばまだいいけど、回収した調査票を調査員が勝手に点検し、電話をかけて問い合わせてきたり訂正したりすることがある、と私も耳にしたことがあります。

上川さんは続けてツイッターで、前回(2005年)の実施後からいろいろ検討もあっただろうが、その過程で同性カップルの存在が統計に反映されるよう、だれも働きかけてこなかった。自分が役所にいても、実際ゲイ、レズビアンを名乗る区民から区役所に手紙もハガキも電話もファックスも、まず来ない。タナボタでなにかが変わることを期待してもダメだ、当事者が声をあげなければなにも変わらないーーという、議員を志して以来の一貫した思いを吐露しています。
これらは現在も、当時のまとめサイトが残っていて読むことができます。

もう一人、政治家でこの問題に気づいた人がいました。
当時、民主党の参議院議員であった松浦大悟さんが、国勢調査を所管する総務省の担当課長にこの件についてヒアリングしたときの模様をツイートし、これもまた、おなじまとめサイトに残されています。それによると、

  • 海外の同性婚が認められている国で結婚したカップル(日本人どうしであれ外国人どうしであれ)は、「世帯主」と「世帯主の配偶者」となるのか。担当課長に聞いたところ、その場合は「世帯主」と「その他」で集計し、それぞれが別世帯となるとのこと。
  • なぜそうなのか?「国勢調査は将来の人口がどうなるかを見るもので、男女の間が大前提。この精神は譲れない」と。
  • 同性カップル世帯の調査については、これまでも国勢調査はプライバシーに踏み込み過ぎとの批判が強く、冒険的なことはできない。同性カップルはすぐくっついたり離れたりするので「瞬間的な調査には意味がない」とも言われた。
  • さらに課長氏曰く、「私も秋田県出身で両親はまだ秋田に住んでるんですがね、松浦先生について私の両親も言ってましたよ。あの人、何の活動してるのか見えないって。こんなこと(性的マイノリティ問題)に興味を持つより、地元活動したほうがよいのではないですか?」。
  • あとで課長の上役が来て、この発言は謝ってくれた。上役氏とは今後に向けていろいろ意見交換できて、それは有益だった。

ということがあったそうです。
さらに松浦さんは、このヒアリングやいきさつを踏まえ、2010年10月18日の参議院決算委員会でつぎのようなやりとりをしています。興味深いので、少々長いですが、国会議事録を引用します。

 ○松浦大悟君
ところで、最近、性的マイノリティーに対する理解がまだまだ進んでいないなと感じる出来事がございました。
国勢調査について性的マイノリティーの方々から回答しにくいという御意見をいただきまして、総務省の担当課長にお尋ねしたところ、先生も御地元抱えていらっしゃるんでしょう、こんな問題に興味を示すより地元活動をされたらどうですかと言われました。大変残念な思いがいたしました。
国勢調査では同性カップルをどう扱うのかという質問をしたんですけれども、母国で正式に同性結婚をしている外国人で現在日本に住んでいる方でも別世帯として扱うんだそうです。たとえ配偶者の欄に記入しても、それは誤記、誤って記されたものと処理をされるということでした。
統計調査として同性カップルを項目に入れている国も多いわけですから、現実をしっかり把握するためには私は必要ではないかと思っているんですが、総理はどうお考えになっているでしょうか。
 ○国務大臣(片山善博君)
国勢調査の記入内容につきましては、今委員のおっしゃったようなことであります。これは、言わば記入の正確さを追求するなどの観点から、統計委員会に諮った上で決定して今回の実施に至ったものであります。
今後のことにつきましては、これは委員が今おっしゃったようなことも含めて、性的マイノリティーの問題も含めて、今後の国勢調査の在り方をどうするかは、有識者の意見、それから統計委員会にまた諮ったりしながら今後検討していきたいと思っております。
 ○松浦大悟君 
性的マイノリティーであってもひとしく国民であることに違いはないわけで、あなたは想定外だと言われればだれだって悲しむわけでございます。来年、次は五年後ですけれども、次の国勢調査の在り方についての審議会も立ち上がるということでございますので、こうした声があることをしっかりと踏まえた対応がなされるものと期待をしたいと思います。

(参議院議事録より)

総務省担当課長の“一言多い”対応を国会の場で晒しあげているのも面白いですが(苦笑。相当腹にすえかねたのでしょう)、こうして国会という公の場へ出していくことが、事態を一つひとつ前進させるのではないかと私は思います。
なお、「性的マイノリティーであってもひとしく国民」という発言は、これまた「性的マイノリティの皇民化政策だ」「“国民”というイデオロギーに無頓着すぎる」と左派の人からネットで突っ込まれていましたが、もう「あなたがた、一生言ってなさい」という感じ(苦笑)。

 ●当事者からの要望書。集計の方針はまだ不明だが

その後ですが、当事者のあいだでは国勢調査問題への関心が広がり、性的マイノリティーにかかわるさまざまな課題(いじめ、同性婚、生きづらさ支援など)で議員への陳情などロビーイングに取り組む当事者6団体が連合して、昨年12月に、「平成27年(2015年)国勢調査に関する要望書」を総務省統計局長宛に提出しました。(なお、この6団体が、今年に入って「LGBT法連合会」を結成していったことは、こちらでご報告のとおりです)

この要望書では、現実の多様な家族形態を統計的に正しく把握できる調査となるよう要望するとともに、懸案の同居する同性カップルの回答においては、「配偶者」とした記入を誤記扱いせず、当人たちの意向を尊重して集計するよう求めています(また後日に再集計できるようにデータ保管も要望)。
また、こうした「誤記」的な記入にたいしては、調査票に記入した電話番号へ問い合わせがあることも言われていましたが、プライバシー侵害や困惑を与えることなく、円滑に調査がなされることも要望されました。

こうした動きに対して今回の国勢調査では、同性カップル世帯が実際どう扱われるか、総務省側は方針などを明らかにはしていません。
ただ、すでに締め切られたインターネット回答においては、同性世帯で一方を「世帯主の配偶者」と回答することは、入力不可などにはならず、可能だったとの報告があります。そのことを知らず、すでに意に沿わない回答をした人へは、登録したパスワードを使って訂正ができることは、牧村さんの記事でも紹介されているとおりです。
ただ、入力・回答まではできるものの、これが実際にどう集計されるかは、前記のとおり不明です。

もし、国勢調査で本人の記入にしたがって集計が行なわれた場合、どうでしょう? 日本でパートナーシップの意思をもって同居世帯を営む同性カップルの数がわかることになります。この秋、渋谷区や世田谷区などで行政による同性カップル公認制度が始まると報道されていますが、カミングアウトとの兼ね合いもあり、実際の利用者数は蓋をあけてみないとわかりません。
しかし、法律で守秘義務の保証された、全国民というか、国籍関係ないので、全住民対象の国勢調査で全国的な同性カップル世帯数がわかれば、これは大変興味深いデータになるといわねばならないでしょう(実際には、同居に倍する「通い婚」カップルもいます)。
さらに、世帯員中の「子」の有無を合わせてみることで、すでに子育てしている同性カップルの有無や数もわかることになります。日本の多様な家族の姿が、そこから浮かび上がるのではないでしょうか。それは今後の日本の政治や行政施策を立案し、実施するうえで、さまざまな力をもつことになるでしょう。

多大な国費を使って行なう全数調査。こうしたことにもぜひ、役立ててほしいと思うものです。
そのためにも同性カップル世帯で暮らすみなさん、国勢調査に、レッツ・アンサー!

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