第79回 ゲイバー発祥前夜の上野の森のオカマと、ポン引きの因縁。 エロと下半身を仕事にしたエロ事師たちの世界を伝える、吉村平吉著『実録 エロ事師たち』。

 

ありがとうございます! 私の永年に渡るLGBTシーンへの活動と貢献(ハッテンバに通う、活動家の悪口を言う……)に対して、「グッドデザイン賞」が与えられることとなりました。次は、「モンドセレクション」受賞を目指します!

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私のツイッターの、10月4日のつぶやき。

……というのは、真っ赤な嘘だ。冗談である。ところが、これをツイッターでつぶやいたところ、真に受けてお祝いのリプが来た。騙すつもりはなかった。本当に申し訳ないことをした(笑)。このつぶやきは勿論、例の「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例(以下、同性パートナー条例)」が「グッドデザイン賞」を受賞し、その受賞者が任意団体の「カラフルステーション」であったことが批判を受けた事件への皮肉のつもりだったのだ。

この事件は、「同性パートナー条例」という公的な条例、つまり、公共物に対して与えられた「グッドデザイン賞」を、一般の民間企業である「カラフルステーション」が受賞したのは、いかがなものか? という議論である。しかも、この条例のプロデューサーとして、渋谷区長の長谷部健氏の名前が挙げられていた。まぁ、それはいいとして、ディレクターとして、東小雪氏、増原裕子氏、松中権氏、杉山文野氏。デザイナーとして、廣橋正氏の名が列挙されていたものだから、条例の私物化だと批判の声が上がったのである。すかさず火消しに奔走したようだが、それがまた、てんで的外れだったものだから、ますます不信感を高めている……というのが現状。2CHOPOでも活躍している女性ライターの方の名前も挙がっている。彼女から、何らかの説明はあるのだろうか……(笑)。

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大喜びの“受賞者”たち(笑)。

ここ数年、過熱するLGBTブームである。このブームにはずみをつけたのが、2012年に実施された「電通ダイバーシティ・ラボ」による、LGBT人口とLGBT市場の調査結果である。引き続き、2015年4月にも同様の調査が行われ、結果、LGBTの人口は、人口全体の7.6%。LGBT市場は、5.94兆円と推計された。天下の電通が発表した数字である。この数字が流布するにつれ、LGBTビジネスへの関心が盛り上がった。かの経済誌の最大手である『日経ビジネス』も、2015年8月24日号で『究極のダイバーシティー LGBT あなたの会社も無視できない』という特集を組んだほどだ。この特集の中で『寄り添えば新市場が広がる』という記事がある。そのページのリード文には次の様に書かれていた。

人材、消費者としてLGBTを取り込むために、企業にも行動が求められている。
いきなり市場を狙うのではなく、自ら理解し、支援者となることが近道だ。

つまり、金になるからLGBTを相手にしよう!、ということだ。この一文が象徴しているように、LGBTブームは人権運動ではなく、経済活動であったわけだ。特集全体も、同様の論調である。ひっくり返せば、金にならなければ、LGBTなどどうでもいいのである。まったく、世知辛い(笑)。

つまり、“LGBT”という言葉は、商品名であったのだ。商品であるから、金になるLGBT(=商品価値が高い)と、金にならないLGBT(=商品価値がない)とに分けられる。このブームがターゲットにしているのは、勿論、金になるLGBTだ。なので、渋谷区に住もうにも家賃が高かったり、「同性パートナー条例」の制度を利用するのに多額の費用がかかったりすることなど(世田谷区では無料)、問題にはならないのだ。そう考えると、私が、渋谷系のLGBTブームに馴染めず、違和感を感じてきたのも、合点がいく。そもそも、私のような老い先短い年寄り貧困ホモ(=商品価値、皆無)など、最初っから相手にされていなかったからである(笑)。

LGBTビジネスは、あらゆる分野に広がっている。さまざまな企業が、LGBT消費者を取り込もうと躍起になっている。当事者の中からも、ブライダル、旅行、ファッション/アパレル、ファイナンシャル・プランニング系、はては、企業に向けてのLGBT研修、就職支援……などなど。LGBT市場を狙うビジネスは、百花繚乱。花ざかりである。

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『日経ビジネス』2015年8月24日号(日経BP社/2015年 発行/定価690円)

時代を遡る。LGBTなどという言葉の無かった時代。同性愛とビジネスの関わりは、限られていた。体を売るか、水商売か。それだけだった。そして、1970年代に入り、ホモ雑誌が生まれると、これが大きなビジネスとなった。ホモの出版社、編集者やライター(作家)、漫画家、イラストレーター、カメラマンといった職業が現れた。続いて、1980年代は、ホモビデオである。同性愛メディア・ビジネスの時代が訪れたのである。今世紀、LGBTビジネスと呼ばれる動きが起こるまで、ホモ・ビジネスは、あくまでも下半身中心であった。エロ主体であったのである。

ノンケの世界では、人間の下半身まわりの仕事をする人を“エロ事師”と呼んだ。エロの仕事師のことである。具体的には、ポン引き(売春の客引き、斡旋)、ブルーフィルムやエロ写真を作ったり売ったり、乱交パーティの主催や様々なショウの興業を仕事にする人のことだ

この呼称の発案者は、作家の野坂昭如だと言われている。野坂といえば、♪マリリン・モンロ~、ノ~リタ~~~~~~ンの歌手としても有名だが、若い人には馴染みがなかろう。アニメ『火垂るの墓』の原作者といった方が、分かりやすいかもしれない。1963年、彼が、自らの経験をもとに、エロ事、エロ界隈の仕事と、それを生業にする人々を描いた小説『エロ事師たち』を発表し、高い評価を得た。三島由紀夫が絶賛したというのが、興味深い。この作品のおかげで、“エロ事師”という言葉は、流行語ともなったのである。

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野坂昭如のレコード『黒の舟唄/マリン・モンロー・ノーリターン』(日本コロムビア LK-55-A/1977年 発売)

さて、今回紹介する本は、吉村平吉著『実録 エロ事師たち』。「実録」と銘打たれているように、著者の吉村平吉は、敗戦間もない1950年から売春防止法施行の1958年までの間、ポン引きをしていたという。

 当時はまだ、敗戦後の開放的で自由な風潮が影響していて、今日のように暴力団的な売春組織や強制的な売春形態はほとんど見られず、それでいて、売春婦と業者や仲介者との間には、それなりの秩序なりルールがあって、ヤクザやテキヤとはまったく違った形態の特異な非合法社会を形づくっていた。

 そこは最低の生き方をしている人間同士の、文字通り赤裸々な人間関係、あけっぴろげで情味たっぷりのなごやかな世界であった。

(略)

都会の裏側のこの社会も不思議な活気に溢れ、和気藹々たるうちにも盛況を呈していた。いわば売春社会の“ベル・エポック”だったわけで、あたし自身にとっても、忘れ得ぬ懐かしい時代になっている。それは、源氏屋物語絵巻とシャレのめすほどには優雅でもキラビヤカでもないが、金銭と人情をタテ、ヨコの糸にして織りなされた奇妙な男と女の人間模様であった。

こう述懐しているように、その中にいた人間だからこそ描ける世界を見せてくれる。たとえば、ポン引きには3つの系統があったことだ。戦前から“高等淫売”を手がけていた、正統派のポン引きの残党。それと、旧遊郭で客引き兼番頭をしていた“牛太郎”の流れ。そして、戦後、仕事の無くなった男達が輪タク屋を始め、次第に、売春の斡旋を始めるようになった一派である。ひとくちにポン引きといっても、これだけ奥が深く、興味深い。他にも、ポン引きのテクニックや、有名なポン引き達の肖像。ブルーフィルム上映会や、花電車など実演ショウの実際なんてのが、語られている。

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温泉街などで売られている「四十八手カード」らしきものをあしらってみた。なかなか味わい深い(笑)。

ホモ本的には、『エロ事師 ── 8 そのゲイ道』という章が面白い。

上野の森のオカマが花盛りだった頃である。上野駅界隈でポン引きをしていた著者の吉村も、おのずとオカマ業界のことに詳しくなったようだ。当時の大スターであった「人形のおとき」こと、ときよ姐さん。上野の森を視察中だった警視総監をオカマ達が殴った有名な事件で、その首謀者の一人とも目された、おきよ姐さん。ガラッパチなお玉さん。外専のお福さん……。ゲイバー発祥前夜のオカマ達の生態が語られている。

 でも、あたしたちと立ちん坊のパン嬢やカマ嬢たちとは、いわば街頭での隣組みたいなもので、なにかと交渉があり、いろいろと因縁ができてしまうのも、これまた当然の仕儀かもしれなかった。

と、吉村は書いている。ポン引きとオカマの間の因縁について、こんなエピソードが紹介されている。

 タネ(客)をもとめて街に立っていると、意外に多くの男色趣味の客にぶつかるのであるが、カマ嬢たちが近くにいくらでもいるのを知ってか知らずか、あたしどもを飲み屋に誘ってから「実は……」と、おずおず切りだしたりするのだ。

 だが古いポン引き仲間にはジンクスがあって、オカマさんで稼ぐのを、不浄というか、邪道というか、原則的に忌みきらうことになっていた。

 それまでの行きがかりからや、うんとお礼をするからなんていわれたりして、ついつい世話をやいてしまったようなときには、その儲けをぜんぶ仲間などにおごって、ゲン直しをするしきたりもあった。

こんな慣習があったとは、初耳である。やはり、その世界に生きていなければ知り得ないことがあるのだと、感心した。ただ、上野で、オカマがたくさんいるのにわざわざポン引きに声をかけるのは、きっと女装のオカマではなく、男のポン引きと遊びたかったからではないかと、思うぞ(笑)。それが証拠に、とあるポン引きが、次の様な証言をしている。

大さん 京都の客だとかいったけどね、上野でね、御飯食べようというから、料理屋へ行って差し向かいになったんだ。そしたら俺のモモをつねったりしてるんだ。そしてだんだんこっちへ来て、ホッペタをなめたりするんだよ(笑)。「女はいやだからおじさんとどっかへ行こう」ッていうから「こんな年寄りではなく、オカマのいいのがいるから」ッていったら「いや、おじさんがいい」(笑)。人を馬鹿にしてやがるなと思ったけれど、オレも経験のため好奇心にかられて行ったんだ。結局、千円もらって逃げ出してきたよ。

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著者の吉村平吉のポートレート(『実録 エロ事師たち』のカバーより)。

近くて遠い、オカマとポン引き。両者の因縁が、面白い。他にも、ジャン・マレーが“クロクロ・ショウ”つまり男同士の実演ショウが見たいと言った話や、エヴァ・ガードナーがゲイバーにパンティを忘れていった話など、その世界の人ならではの興味深いエピソードが語られている。さすが、「実録」である(笑)。

著者の吉村は、軽演劇団の文芸部員だったこともあり、娯楽雑誌のライターもやっていたという。そのせいか、軽妙でありながら、しみじみと人情味に溢れる文章である。ゲイバー前史の貴重な資料としても、面白い本だ。

LGBTを単なる商品と考えて、金が儲かるかだけが価値になるLGBTブーム。そんな世知辛い中にあって、この本に描かれている世界は、はるかに人間味があり、ほっこりとした気持ちにさせてくれるのである。

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吉村平吉『実録 エロ事師たち』(立風書房/1973年 発行/定価650円)

 

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