第52号 渋谷区パートナーシップ証明、いよいよ始動~中川重徳 推進会議委員に聞く!~

この春、日本中(?)を沸かせた、渋谷区の男女平等多様性推進条例。同性カップルへ渋谷区がパートナーシップ証明を発行することを盛り込み、スポーツ紙は「同性婚条例」「渋谷婚」と書き立てました。
3月末に成立し、4月1日付で施行された条例ですが、じつはこのパートナーシップ証明を定めた10条だけは、具体的な運用規則をこれから定めるという理由で、未施行でした。

新聞報道によれば、運用規則の内容がまとまり、10月2日、区議会総務委員会に提示されたそう。この運用規則、どのような内容となるのでしょう。
渋谷区男女平等・多様性社会推進会議の委員のひとりで弁護士の中川重徳さんにお話をうかがいました。

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渋谷区で運用規則の方向がまとまったことを伝える朝日新聞(10月3日、朝刊・都内版)

 ●原則は公正証書2種類が必要。例外で1種類でOKの場合も……

中川弁護士は90年代以来、性的マイノリティの人権推進にも大きな力を尽くしてきた法律家のお一人です。現在もLGBT支援法律家ネットワークのメンバーとして、同ネットが日弁連に行なった同性婚人権救済申立ての弁護団にも参加。そのロングインタビューは、2CHOPOでもお届けしました。

この渋谷区男女平等・多様性社会推進会議(以下、推進会議)は、条例の14条に規定があり、12名以内の有識者を区長が任期2年で委嘱します。中川弁護士ら3人の弁護士のほか、トランスジェンダーの活動家である杉山文野さんも委員に加わりました。そのほか男女平等関係の研究者なども参加しています。
推進会議へは、まずはパートナーシップ証明の運用規則をどう作るかについて区長から4月に諮問があり、現在まで5回の会議で検討を重ねてきました。10月中旬の推進会議で答申が区長に伝達され、下旬から答申にもとづき作成される運用規則により申請受付、11月初旬に証明第1号が発行される運びです。

中川さん、運用規則は結局、どのようなものになるのですか?
「規則で決める重要点は2つあって、一つは誰に証明を出すのかという対象者の要件。それから証明は2種類の公正証書の作成が条例で要件とされていますが、同時に条例では「区長が特に理由があると認めるとき」は特例扱いができるとしています。それはどういう場合か、などについて検討しました」

渋谷のパートナーシップ証明では、共同生活にかんする合意契約と、おたがいを後見人とする任意後見契約について公正証書を作っていることで、そのパートナーの関係が確かであることを担保し、区が証明を出す仕組みになっています。ただ、2つも公正証書を作るのは手続き的にも費用的にもハードルが高すぎる、と条例制定時から問題視されていました。
ちなみに永易試算では、任意後見契約は相互でもろもろあわせて5万円、合意契約は計算方法により1万5千円から3万円前後。これは公証役場へ自分で出かけていって作成した場合で、行政書士や弁護士など法律家に依頼すれば、その報酬も別途必要です。

「公正証書が2種類必要という原則は条例で決まっており、この原則自体は推進会議でどうこうできる話ではありません。それで、つぎのような人(カップル)には、お互い一方が身体能力や判断能力が低下したときに生活・療養看護・財産管理などで可能な限り援助することや、将来必要が生じたときは任意後見契約を作ることを、共同生活の合意契約公正証書に一筆入れておいてもらうことで、任意後見のほうは無くともよしとすることになりました。これなら公証役場の手数料も合意契約書だけの1万5千円前後でなんとかなるでしょう」

どのような場合が合意契約1本でOKになるのでしょう。中川さんが説明してくれたところを私なりにまとめると、

 ①パートナー以外の人をすでに後見人に指定して契約をしている(しようとしている)場合。
②トランスの人で性別変更して男女カップルとして婚姻するつもりであり、現在まだ戸籍上は同性カップルが証明を得たいと思う場合。
③生活または財産の形成途上で、将来の後見人といっても委託する代理権の範囲が決めにくい場合。

とくに重要なのは③で、年齢や交際期間を問わず,また本人の申し出で認めてゆく運用ですので、広く例外扱いする途が開かれたといえます。
もう一つの、証明の対象者の要件は、

 ・区内に居住して住民登録をしていること(国籍は関係ありません)
・年齢が20歳以上
・ほかに配偶者(異性)がいないことや、他の人とパートナー証明を受けていないこと(いわば重婚禁止)
・婚姻をすることができない近親者間でないこと(養子縁組を解消したカップルは証明をうけられます)

共同生活の公正証書には、二人が同居して生活をともにする約束が記載されている必要がありますので、その限りでは、「同居」も要件と言えます。ただし、申請の時点で同居している必要はありません。また、転勤などで一時的に別々に生活したとしても「同居」でなくなるわけではありません(推進会議の議論で確認)。
また、推進会議では、申請時の手続きのほか、内容に変更が生じたとき、そしてパートナーシップを解消したときの手続きなどについても検討しました。

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推進会議での議論を熱っぽくふり返る中川弁護士。

●二人が契約することで中身を作る「契約モデル」〜制度設計の基本理念

いくつか軽減措置的な場合もありますが、基本的に2種の公正証書が必要な仕組み。どう感じていますか?

「任意後見も共同生活の契約も、それ自体は同性カップルにとって意味のあることです。ただ、パートナーシップ証明の条件として二つを求めるのが適切かどうかは別問題です。世田谷も同じですが、区の書類に婚姻のような法的効果は、無い。だから、ハードルだけを高くするのはバランスを欠くし当事者の不満も大きい。制度設計上の混乱があるということです。
原因は、議会への提案までクローズドで行なわれ、当事者や法律などの専門家とのかかわりが不十分になったことだと思います。パブリックコメントとか、そこまで行かずとももう少しヒアリングとかやってれば、諸外国との比較でどのようなモデルを採用するかとか費用の問題など多面的な検討ができたでしょう。この条例づくりに携わった人たちは基本的に善意であり、私もあと出しの批判かもしれませんが、条例案づくりのプロセスにそういう限界があったのは事実なのです」

この半年あまりの推進会議の経過を、可能な範囲でお話しください。

「推進会議では、議論のスタートにあたって、早くからアメリカのドメスティック・パートナー制度を調査・研究されてきた早稲田大学の棚村政行教授にレクチャーをお願いしました。
棚村教授の話は、パートナーシップ制度には、理念型として、婚姻に近い効果を与える「婚姻モデル」と、そのような法的効果は追求しない(当事者が個別の遺言や合意書で組み立てる)「契約モデル」がある。婚姻モデルがいいように思えるが、実際には、財政的措置や国レベルとの調整を要し、反対派の反発も強くなって相応の条件が無いと実現しない。他方「契約モデル」でもカップルが社会的に認知・承認され社会の偏見を無くすという大きな意味がある。渋谷の制度も直接の効果からみれば「契約モデル」であり、これに引きつけて具体化するのがよい、というものでした。
これで私たちは、羅針盤を与えられた思いでした。同時に私をふくむ3人の弁護士メンバーで規則制定のためのワーキングチームもできました」

国の制度を待つだけじゃなくて、二人で契約しあうことも、婚姻の中身づくりそのものなんですよね。

「二人の関係や生活を二人で決める。どのカップルにもそれをしてほしいと思います。では、渋谷も本来ライトなモデルだとして、条例の高いハードルをどう引き下げ、どう利用者の範囲を広げられるか。
最初は、カップル両人が公証役場に行って公証人の面前で「共同生活の宣言書」に署名押印し、公証人から「間違いなく両名が作成した」というハンコをもらう、これを「私署証書の認証」といいますが、これなら公証役場の手数料も5,500円ですみ、わざわざ公証役場に行ってつくるのだからそれで証明を出すことができるのではないか、という提案をしてみましたが、他の弁護士委員や区の事務局から「それでは公正証書じゃない、条例が骨抜きになる」「とても区民や区議会が納得しない」と相手にされず(苦笑)、私も法律家としてもっともと思ってこの案は撤回したなんてこともありました」

「その後、みんなでウンウンうなって議論するなかで、共同生活の公正証書に、将来必要が生じたときには任意後見契約も作成すると一筆入れてもらうことで、共同生活1本でいけるのではという案が出て、それが今回の答申の基本方向になりました」

「一方、当事者の声を形にしようということで、杉山文野委員がネットで当事者アンケートを呼びかけ、全国から5〜600の回答がありました。読者のなかにも協力してくださったかたもいるでしょう。8月20日の推進会議では、このアンケートの声を報告し、区内在住の当事者として東小雪さん・増原裕子さんカップルにスピーチをしてもらい、2つの方法で当事者の生の声を委員らに聞いてもらいました」

「同時に、私からは、2000年の民法改正で成年後見の制度ができたとき、同時に、『後見人にはかならず配偶者がなる』というそれまでの条文が廃止された。後見を妻(夫)に押し付けるのではなく、社会全体でその人(認知症など)を支えることに民法は転換した。渋谷が証明書を出すかどうかの条件として、すべての場合にパートナー相互の任意後見を要求するのは民法の趣旨にも反する。さらに、男性女性の夫婦だって任意後見はまだまだ普及していない。だからこそ、条例は但書きで例外をつくってキメの細かい制度づくりを予定したはずだ、と言って、共同生活契約1本でもよい場合を広く認めるのが最良の途と主張しました。
この日の会議でも結論は出なかったのですが、委員それぞれが悩みながら自分の意見を述べ、真剣な議論だったと思います」

そんな議論がされていたんですね!
拙著や過去記事で私は、「同性婚もなにもないなか、パートナー間で任意後見は万一に備える必要条件だが、任意後見したことがパートナーを証明する十分条件ではない」と言ってきました。任意後見契約が逆に高いハードルになってパートナーシップ証明が得られないのは本末転倒です。こうした特例措置も用意されたことは、まずはよかったと思います。

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棚村先生のご本から。同性のカップルについても触れ、さまざまな視点が学べます(有斐閣選書)。

 ●証明を生かせる社会づくりへ、区は責任もって啓発を

いよいよパートナーシップ証明がスタートできそうな段階を迎えて、いまどういうことを思われますか?

「渋谷は(原則の2本であれ、特例の1本であれ)ともかく公正証書が必要です。お金をかけて証書を作るからには、なんのために作るのか二人でよく話し合う機会にしてほしい。二人でのライフプランを公証人に話し、証書にしてもらうことをお勧めしたい。ともかく証明書のためだけに手軽に公正証書を作る方法はないか、というのはもったいないことです」

「同時期に、世田谷区でも宣誓書とその受領証で同性パートナーシップを証明する制度が始まります。どちらの区も当事者といっしょに、生保会社やいろいろな事業団体、医療機関や行政機関に証明、ひいては二人の関係の尊重を広めていくことが大事です。一部の企業には対応を表明したところがあるのも嬉しいですね。直接の効果は限られたものだけど、使いでのいいものにできる可能性はある」

「あと、証明作成はカミングアウトの問題もあって爆発的に数が伸びることはないだろうが、着実に一歩を踏み出していける人を増やすためにも、学校教育なども含め社会への啓発が大事ですね。まさに条例がそれを求めています。それをしないと登録者も伸びない」

この制度には、同性カップルを婚姻のカタチに押し込める屈服だ、主流社会へ擦り寄る保守化だ、という一部の当事者からの“ラジカル”な批判もくり返されてきました。

「正直、当事者からそれを言われるのが一番つらく悩ましい。重要な問題提起なのですが、私は、同性婚やパートナーシップ制度を求める私たちの議論を豊かなものにすることで、それに答えたいと思っています。
同性婚人権救済では、360名もの当事者が切実な現実を陳述書にしたためています。この同性婚を求める動きが、同時に、現行の家族制度を変えていく契機にもなる、そんな議論を組み立てたい」

「同性カップルは生殖ができないとか、すぐ別れるとか、婚姻は一生そいとげるものでなければその名に値しない、と保守派は叫ぶけど、男女の結婚年数もいまや現実には短いし、離婚や再婚の回数も多い(もちろん同性/異性で長い人もいるけれど)。男女の夫婦も、長い人生のその時その時、夫婦ごとにさまざまな意味・目的を見出して結婚し、結婚を続けている、それが現実であり、それでいいのです。そう考えれば同性カップルを排除する理由などない」

「同性間のパートナーシップを求める議論のなかで、逆に異性間も含めた多様な現実が可視化され、婚姻を一人ひとりが幸せになるための制度と捉え直すきっかけになる。あるいは、婚姻か非婚かという二つの道しかないところに、婚姻ほどヘビーではない宣誓制度やパートナーシップ証明が男女間にもあっていいわけ。それはいろいろな人の関係性を多彩で生きやすいものにすると思います」

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熱い議論をしのばせる資料のファイル。

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