第55号 取材者を取材する① 毎日新聞・藤沢美由紀記者

 

性的マイノリティやLGBTを見出しにした記事を、メディア上によく見るようになりました。『毎日新聞』で性的マイノリティ関連の記事を見かけると、決まってそこには藤沢美由紀記者の署名があります。毎日に、熱心に追いかけている記者がいるようだ……。
記者として、どんな思いで性的マイノリティの記事を発信しているのだろう。取材のなかでどんな気づきがあった? そもそもこの記者さん、どんな人なんだろう……。

いま、さまざまなメディアで性的マイノリティ報道に取り組む記者がいます。そんな記者さんへのインタビューを短期シリーズですがお届けしたいと思います。題して「取材者を取材する」。
第1回は、毎日新聞記者、藤沢美由紀さん(31歳、現在横浜支局所属)です。

 ●つぎつぎやってたら終わりがなくて……

 ーー毎日新聞でセクマイ記事といえば、いつも藤沢さんのお名前を見かけて気になっていました。この問題との出会いは?

おととし、たまたまチェンジ・ドット・オーグという電子署名を呼びかけるサイトで、あるレズビアンのかたが行政に性的少数者のための相談窓口を作ってほしいと呼びかけているのを目にして取材、都内版に書いたのが最初でした(当時は本社社会部所属)。

その後、社会部の教育取材担当として大学生の就活を取材していたとき、「LGBT就活」を知って興味がわき、それに取り組んでいるNPO法人Re:Bitを取材、本当にいろんな問題があるんだなと気づいたのです。

代表のかたが言うには、面接で言うべきかどうかを悩む人は多いし、トランスジェンダーの場合、就活時に男女どちらのスーツを着るか、就職したあとでもトイレや更衣室をどうするかなどさまざまな問題に直面します。
Re:Bitは教育や若者問題に取り組む団体なので教育現場の話もうかがったことから、教育班の記者として去年の秋に「ありのままで 性的マイノリティーと学校」という3回連載の記事を書きました。制服やいじめの話などから、当事者で教師のかたの話、最近はだんだん取り組みも広がっているといった動きをまとめました。

 ーー取材をしてみての感想はいかがですか。

本当にいろんな問題があって、つぎつぎ取材していたら終わりがないと気づきました。就活、学校・教育問題から、結婚、同性カップル、職場での対応、医療での対応。ほかにも「ゲイジャパンニュース」が調査された、女性とセクシュアルマイノリティという二重のスティグマのなかで暴力を受ける危険の問題であるとか、もちろんいじめ、自殺……。そうこうしているうちに今春には渋谷区で同性カップルを対象としたパートナーシップ証明の話が持ち上がったのです。

 ーーそれまでそういう問題を聞いたことはなかったのでしょうか?

性的マイノリティが意識に上ったのはおととしぐらいからで、生まれて30年、これだけの大きな問題に気づかずに生きてきたんだというのも衝撃でした。学生時代に偶然トランスジェンダーの人の本を読んだり、タイに旅行したとき、当時はトランスジェンダーという言葉も知らなかったのですが、なにか性別を超越したような人がいるなあと思ったとか、そのツアーでレズビアンのカップルと出会った記憶はあるんです。そうしたことに抵抗やこだわりはなかったのですが、よくも悪くも意識がなかった。その後もそれが強い記憶に残ることはありませんでした。

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ふじさわ・みゆき記者 2007年入社、山口、熊谷、八王子の各支局、東京本社社会部を経て横浜支局へ。社会の役に立つ仕事がしたい、書くのも好き、と新聞社へ。

 ●記者の目に映った性的マイノリティの現実

 ーーそんな藤沢さんが、去年あたりからドドドと性的マイノリティ関連の記事を出すようになる。取材のなかで印象に残ったご経験はありますか?

どのかたも印象的で、一つ二つあげるのは難しいですね。

団体などで活動されているかたのお話をうかがうことが多いのですが、お話を聞いていると、親しい仲間を亡くされた経験を持っているかたが多いということが私にとっては心に刻まれています。みなさん、団体のリーダーで優秀で、明るく積極的だったり、話も上手だったりと、人間的にも魅力のあるかたばかりなのですが、そうした一方で、これまでに失われた命も背負い、また今も厳しい状況にいる人から相談を受けていたりする。

一見明るく、前向きに取り組んでいるように見えるけれど、その背後にいろいろなものを抱えて、あの若さで戦っているんだなというのが見えて、なんていったらいいんでしょうね、本当にすごいなと思うのもあるし、何人ものかたにお会いするなかで、ああ、みなさんそうなんだ……と思うと、なんとも言えない気持ちになりました。

顔や名前を出し、セクシュアリティをオープンにして発言するって怖いことだろうに——それでも社会を変えるために発言していくことを選んだ。その勇気や覚悟をとても尊敬しています。

 ーー性的マイノリティの周囲には死の話が少なくありませんし、死んだ友人と死ななかった自分は紙一重という思いで、活動家は命ぎりぎりのところを歩いている人が多いと思います。取材のなかで、よくその事実に気づいてくださいましたね。

ほかには、同性カップルが結婚できないという問題は、いきどおりを覚えましたね。もちろん結婚に興味がないかたもいると思いますが、結婚は二人の意思に基づけばいいはずなのに、相手が同性だとできないというのは国家による明確な差別だと、取材してはじめて気づきました。

取材した女性カップルはパートナーシップも長く、結婚を希望しているのにできない。合理的理由もないにもかかわらず、国はなぜこんな状態を放置しているのか。自分の住んでいる国でそんな差別が堂々とまかり通っていることにあらためてショックを覚えます。

同性婚の実現が法律婚の強制などにつながってはいけませんが、選択肢の保障は必要です。同性カップルを目のまえにインタビューし、心からそう思いました。

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横浜市内のカフェで。

 ●二つのテーマを追いかけたい

 ーーまだ1年余の取材歴なのに、重要な課題にどんどん気づいてくださってますね。いまは横浜ですが、もちろん横浜からも全国版に載るような記事も出せるのだと思います。藤沢さんは性的マイノリティについて、今後どういう取材をしてみたいですか?

大きくいえば二つあります。

一つは性同一性障害特例法について。日本では戸籍の性別変更には手術を受けることが必要ですが、戸籍を変えるのに手術が必要かどうか疑問に思います。身体的に違和感があって受けたいという人が安全に受けられることは必要ですが、人によっては費用や他の持病の問題で受けられない人や、そもそも手術を求めない人もいます。後遺症が残る場合もある大きな手術を強いて、国が人間の性器まで管理することに気持ち悪さもあるし、身体的に「完璧」な男女にならなければ性別変更を認めないというのは人権侵害だと感じます。それに、セクシュアリティは揺れ動くという点からいえば、また性別を戻したいと思った時に、二度と引き返せない手術を強いてもいいものか……。

当事者たちが戸籍変更を運動で勝ち取ったことの意義は非常に大きいと思いますが、そのうえで特例法や性別変更の今後について、私なりに取材してみたいと思っています。

もう一つは同性婚ですね。カミングアウトの問題も含めて当事者間にも微妙な問題かもしれませんが、やはり婚姻したい人は婚姻できるようにすべきではないか、と思います。まずは法制度はどうしても必要だし、偏見はすぐにはなくならないかもしれないけれど、それを作ることで社会は変わっていくでしょう。少なくとも「婚姻機会は平等に」という法整備はすべきだと思います。

 ーー最近はLGBTブームなのか、メディアの取り上げも多い。新聞でもA紙やT紙はよく記事を出します(逆にY紙やS紙は無視やときに批判で好対照も面白いですが)。その中間で毎日新聞はいかがですか?

弊社では以前から性同一性障害などをテーマに取材していた記者がいますし、最近は私以外にも各地に関心もって追いかけている記者がいます。今年の新入社員で性的マイノリティの記事を書きたくて記者になりました、と言う人もいましたよ。地方のかたも、性的マイノリティに関する情報があれば支局に送ってほしいですね。新聞に載ればまだよく知らない人たちも見るでしょうし、ネットで流れれば若い当事者にも情報が伝わります。

どんなきっかけでもいいからちょっとでも知って、関心をもってもらうことが必要じゃないかな、と思っています。

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